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07-勝利(からかい)

 「おかえりなさいませ、ご主人様♪」


 部屋へと戻ると、地面に膝をつけてお出迎えしてくれた、ボロボロマントを羽織った可愛らしいメイド服の美少女がいた。

 が、俺はそれを華麗にスルーし、横を通ってベッドへと倒れる。


「あぁ〜……いい宿だ」


 設備も良し、内装もよし、おぉ、ベッドも予想通りのふかふかでよし、ネロットさんもよし。

 仮釈放期間が終わるまでは、ずっとここの宿屋で泊まっていこうか……。


 ふかふかのベッドと、柔らかい枕へと身も心も委ねていると、不意に横から声がかかる。


「あ、あの〜、ご主人様ぁ。よろしければ、マッサージでもなさいましょうか?」


 情けない声で提案するメイド。

 それに俺はベッドの上で横に転がり、メイドに背を向ける。


「いや、いいよ。もうすぐ晩御飯らしいしな。……で、どうしたんだよエンリ? ご主人様だなんて、俺の呼び方を変えたのか?」


「どうしたんだって、こっちの台詞だよ! あの主が、顔色一つ変えないで、アタシが化けてるのも無視できて、会話もできるなんて!」


 元の姿へと戻り、ぎゃーぎゃーと騒ぐエンリ。


「いや、水浴びもできて気分もスッキリしててな。……ほらどうだ? 『におい』も全然しないだろ?」


「うっ……」


 におい、という単語を聞いた途端、ビクリと身体を震わせ、黙り込む。

 メイドに化けたのも、先ほどの醜態を晒したのを誤魔化すか、俺にも恥をかかせるためのものだろう。


 身体を転がせ、壁にかけてある時計へと目をやると、針はちょうど七時をさしていた。

 俺はベッドから身体を起こして立ち上がり、エンリの前へと立つと、抱きしめてやる。


「ほら、もう臭くないよな? 飯の時間だから俺は行くが、エンリもついてくるか?」


 腹も減っているし、ネロットさんが言う自慢の料理というものをすぐにでも堪能したい。

 エンリはあまり食事に関して興味を全く持ってはいないが、美味しい料理、食べることを共有したいということもあり、誘ってみた。


 これからは蜥蜴等の小さなものに化ける必要もないし、消化(魔力化)までの時間も十分にとれるだろう。


 しかしエンリは、


「あ……うぅ…………」


 などと、俺の胸に顔を埋めたまま呻くだけである。

 ……ちょっとからかいすぎたか。自分から抱きついてきたり、化けて演技をしてる時には平然としているのに、こういう場合は照れてしまうのがイマイチわからない。


 ドッペルゲンガーとは不思議だなぁと思いつつ、抱きしめたまま返事を待っていると、「……いく」と小さく頷いた。


 我ながら、可愛い相棒を持ったものだ。

 しかしエンリは俺の首へと腕を回すと、そのまま木で出来た剣のペンダントへと化ける。


 慌てて舞ったボロマントを回収し、俺のマントと一緒にベッドへと畳んで置く。


「エンリ、ペンダントじゃなくて、妹の姿に化けて、ちょっと一口くらいは料理を食べてみないか?」


「いや、大丈夫。やっぱり、食べると色々面倒だし」


 ペンダントを手のひらに持ち、提案してみるがあっさりと断られてしまった。

 まあ、強制したくもないし、エンリの意思を尊重したいのだが……やはり、食事は揃って会話でもしながら、楽しく食べたいものだ。


「そうか……エンリと一緒に食事を楽しんでみたかったんだが、残念だ」


 そんな思いもあり、ペンダントを手から離し垂らして、つい漏らしてしまった。

 すると、ペンダントから


「ん……じゃあ、考えてみる」


 と返事がかえってきた。

 ちょっとズルい言い方になって、エンリに気をつかわせてしまったかもしれないが、エンリと一緒に食事を楽しみたいのは本当だし、折角味覚もあるのだから、美味しいという喜びを味わってほしい。


 なので、良い返事がもらえて、俺はますます気分が良くなる。


「それにしてもエンリ、そこだと俺のにおいはどんな感じなんだ?」


「っ、主のバカ!」


 今日は完全に俺の勝利である。エンリの反応も良いので、ついついからかいたくなってしまうのだ。


 俺はエンリの言葉を笑い飛ばしながら、鍵を持って部屋を出て鍵を締め、食堂へと向かうのであった。


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