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7-少女のために

 死にたかった?


 死にたかったとは、あれか? 消えて、消滅したい。今の苦しみから開放されたい。生きている意味なんてないから。


 そういうことか?


 俺は固まってしまった。


 少女は死にたかった。

 ということはつまり、先ほどの質問のなぜ助けたかは、非難ということになる。


 何故死にたかったのに助けたか。


 そりゃ当然死にかけてる人がいれば助けるのが人間だ。

 死ぬなら目につかないところでひっそりと死ぬしかない。俺に見つかったのが運のつきだ、ははは。


 などとは言えない。


 黙っていると、代わりに少女が口を開いた。


「アタシの核は傷ついてる。もう、魔力も少ない。もう時期死ぬから、放っておいて」


 精霊は魔力の塊であるが、核と呼ばれる魔石を持っている。

 それは人間の心臓のようなもので……いや、この世界の生き物は皆魔石を持っているのだが、それが傷つけられればその時点で他の生き物は死ぬ。


 しかし精霊は、魔石が傷ついても、魔力が漏れ始め、魔力が完全になくなるまでは死にはしない。


 少女のもう時期とは、魔力が完全になくなるまでということだ。


 だが、俺は少女を死なせるつもりはない。


「なあ、なんで死にたいんだ?」


 死にたい理由なんて人それぞれだ。

 俺はカウンセラーでもないが、理由は聞きたいと思った。


 ……気付いてしまったんだ。

 あの少女の顔は。俺の前世、俺が死のうとしていた時の鏡に映った顔だったということに。


 少女は虚ろな目で俺を見据えると、それだけで何も言わない。

 言っても何も少女には利はないからな、仕方ない。


「世の中、楽しいことはたくさんあるぞ? 俺だって今はお世辞にも良い暮らしとは言えないが、毎日が充実してる。君も生きていれば――」


 違う。

 違うんだ、俺。


 少女は黙ったまま。


 違うだろう俺。

 俺はなんで死にたいと思った?


 そして今、なんで生きたいと思っている?


 これから楽しいことがあるかもしれない。

 今が辛いだけだ。


 違うんだ。

 少なくとも、俺の経験した生きたいって気持ちは、そういうことから生まれるものじゃなかった。


 俺は母親の方へと振り返る。

 呆然と眺めていた母はぴくりと体を揺らすと、正座して向き直った。


「母さん、この子の魔力がなくなるまで、どれくらいかわからない?」


「……そうね。もともとドッペルゲンガーは精霊の中でも異常な程に魔力を持っていた種族。今の様子だと……二週間はまだ持つでしょうね」


 それだけあれば十分だ。


 俺は決意して立ち上がり、少女を見下ろした。

 少女はゆっくりと俺を見上げる。

 そして俺は、洞穴に響くほどの大きな声で宣言をした。


「今日から俺が、お前を生きたいと思わせる!」


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