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4-街壁修復

 看守の招集により、牢屋に入れられている全ての者が外へと連れ出され並ばされた。

 ザッと見たところ二十人程度であった。


 その胸には俺と同じくバッジをつけているが、黄色や緑など色が違う。

 そして一人だけ、首にリングを付けられていた男がいた。

 憶測だが、あれが魔法使い用の拘束具か何かだろう。


 他の男や俺には特に拘束具や手錠などはされてはいない。

 代わりに外へ出た時には七人ほどの騎士がお出迎えをしてくれたのだが。


 看守が号令を取り、人数を数え終わると、俺達約二十人は固められ、それを囲むように騎士が立ち移動を始めた。


 途中、全くと言っていいほど囚人たちの間で会話が交わされることはなかった。前世ではこういった牢獄ではある程度の団結力のようなものが生まれるものと聞いていたのだが、あの牢獄の作りの影響か皆下を向いて歩くのみである。


 ただ、一人を除いて。


「さーて、今日も頑張るぞー!」


 その男は明るい声で言いながら拳を上げるが、それを咎める騎士はいなかった。

 俺は何事かと振り返る。


 金髪の短髪に人懐っこそうな顔。

 年はまだ若い方であり、その表情は活力に満ち溢れている。男のつけているバッジの色は赤であった。


「あの人、頭おかしくなったのかな」


 気に入ったのか知らないが蜥蜴に化け俺に引っ付いているエンリが毒舌を放ち、俺が歩きながらもマジマジと見ていると、相手も気付いたようで他の囚人の間をくぐってこちらへと声をかけてきた。


「やあ、見ない顔だね! 新入りかな?」


「お、おう……」


 なんだ、やたら元気だな。

 活発そうな雰囲気にちょっと俺がおされてしまっている。コミュニティ障害などではないが、囚人同士の初対面でこれはさすがの俺も動揺する。


「そうかー、何をしたか知らないけどお互い頑張ろうな! 因みにオレの名はリベル! 何年かわからないけどよろしく!」


 だが金髪は俺の態度を気にした様子もなく、笑顔で手を差し出してくる。

 全くわからぬ相手に俺は警戒したが、山賊育ちで強面であった俺は、初めてのこういった接し方をされて気分が良くなり歩きながらも握手を返した。


 グッと握られるが特に何もなく、そのまま手を離される。本当にただの握手だったようだ。

 挨拶をされたならこちらも返さねばならない。


「俺の名前はライクだ。よろしく」


 少々ぶっきらぼうになってしまった。ここ五年の生活のせいか、やっぱりコミュ障かもしれません。

 しかし金髪……リベルは俺の返しに笑顔を浮かべ、俺の手を取りぶんぶんと振った。


「挨拶を返してくれたのは君が初めてだよ! ここに入れられる奴っていうか、犯罪奴隷になった奴って妙に諦めて絶望って感じだから、こうやって会話しようとしても誰も返してくれないんだよねー」


 そりゃあそうだろう。俺はエンリもいるし、前世や今世の生活から慣れて覚悟もしているが他は違う。

 リベルの方が異常なんだ。

 どうしてそこまで元気でいられるのか。


「お前ら五月蝿いぞ! 静かにしろ!」


 そう質問を返そうと思ったら、さすがに騎士に咎められてしまった。やはりコミュニティを作られると困るのか、ただ単に本当にうるさかったのか。


「すみませーん。じゃ、またな、ライク!」


 リベルはニッと笑うと元の場所へと戻っていった。

 うーむ、よくわからん繋がりができてしまったような気がする。しかし気持ち的には悪くない。


 第一印象はアレだったが話してみても特に悪い気はしなかった。できれば良き仲でいたい、相手が何も企んでいないことを祈るばかりである。


 その後は何の会話もなく、目的地まで歩くだけであった。




 〜〜〜




 ついたのは崩れた街壁のある場所であった。

 着いた途端に看守が再び号令をかけると、他の囚人たちは各々の作業に入る。


 初めての俺はただ一人取り残されるが、看守が俺の目の前まで歩いてきて説明をしてくれた。


 何でも二年前の大地震により、家屋や街壁などが崩れ落ち、その傷跡が未だに残っているらしい。

 街の中や家などは復興は完了したようだが、街壁だけは未だに復興が終わっていない。


 ここの領主も報酬を払うと人々へ呼びかけているらしいが、大した金額でもなく、更には街壁が崩れているので外から魔物などが襲ってくるかもしれないと、協力者は少ない。

 そんな可能性は本当に極わずかで、騎士も見張っていてくれるので安全に心配はないのだが、そこは人間というものだ。


 そこで俺たち犯罪奴隷などがこの復興に当てられている。この一日の復興の賃金代わりのあの食事である。餓死で労働力を失わない意味もあるみたいだ。


 なるほど、悪い話ではないし筋は通っている。

 街壁の修復によりここの住民の安全を守れるのなら、人の役に立つということに繋がる。


 俺は自分の中で勝手にそう納得し、同じく作業に取り掛かった。


 台車に積んである均等に切り分けられた石材を運び、煉瓦のように積み重ねる。

 これが結構な重労働のようで、他の囚人たちは悲鳴を上げながらも、二人一組などになって運んでいる。

 積み上げられた石は、騎士の一人がどうやら土の魔法の使い手のようで、すぐに固められていった。


 大きさは高さが俺の膝ほど、長さがその倍で縦は高さと同じくくらいか。

 試しに持ち上げてみると意外にも簡単に持ち上がった。


 そのまま両手で抱えるように持っていき、積み上げられていた石材の上へと置く。

 これを一日か。

 なるほど、確かに疲れそうではある。


 俺が汗もかいてないのに額を拭うと、何やら多くの視線を感じた。

 周りを見れば騎士や他の囚人が目を丸くして俺のことを見ている。


 ……なんだ、石材をおかしなところにでも置いたのか?

 俺が不安になってきていると、ぽつりと声が上がる。


「あれを一人で運ぶか……」


「凄まじい怪力だな……」


 ……そういうことか。

 つまり、この石材を俺が一人で運んだことに対して驚いているらしい。確かにこの石材は重いが、山でもよく狩った後の猪などを持たされていたのだ、自分の力にはある程度自信はあるし持てないことはない。

 前世のピラミッドに使われていたブロック石ほどであれば当然無理だろうが、この石材はそんなに重くも感じとれない。


 そして何故だろうか。

 周りの驚く様子、俺に向けられる視線が気持ちよく感じた。


 しばらくして看守が気を取り直し、手を叩くと囚人たちは再び作業に戻る。


 だが気を良くしてしまった俺は張り切ってしまい、次々と石材を一人で運んでいった。

 どうだ、凄いだろう? と言わんばかりに。


 心配してくれたのか騎士からもう少しペースを落としても良いとの指示があったが、俺は大丈夫だと答え、何度かの一斉休憩を挟みながらもその一日は石材を運び続けた。


 翌日、俺の身体全身を筋肉痛が襲ったのは言うまでもない。


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