表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/110

2-目標と決意

 まず、そうだ。

 この世界で先ずの、生きる目標を決めよう。

 目標とは大切である、目標があれば行動が意味を持ち、物事を決めやすくなる。


 といっても、もう決まっている。

 それは母、エイリーネへの恩返しだ。


 ライクの中にある母の記憶、それはどれも温かく、愛情に溢れていた。

 こんな俺を見捨てずに、今まで庇い、育ててくれた。


 自分のために出された食事をわけてくれたり、この山の外について教えてくれたり、本気で俺のことを心配してくれた。


 母親なら当たり前のことかもしれないが、俺にとっては当たり前のことではなかったのだ。


 すっかり外も暗くなり、横で足を鎖で繋がれたまま眠るエイリーネ。

 こんな状況だというのに、眠っている表情はとても穏やかであった。


 俺の決意も強くなる。

 絶対に恩返しをしよう。 

 絶対にここから出してあげよう。


 しかし俺はまだ十歳だ。

 目標を達成するには、準備が必要である。

 幸い母親に危害はない、時間は十分ある。


 明日からの予定を考えながら、いつの間にか眠りに落ちていた。



 ーーー




「山賊に入りたいだぁ?」


 朝。

 洞穴の中にまで聞こえる鳥の声、硬い地面に目を覚ました俺は、朝の食事を与えに来た山賊の一人に申し出た。


 この世界も、食事は基本二食か三食である。母の回復魔法は山賊にとってとても重要であり、術者自体を弱らせてはならないと朝食まで出しているのだ。


 それほどまでに、ここの山賊は余裕がある。

 貴族であり、回復魔法の使い手である母を攫ってくるくらいには規模も大きいのだ。


「お前、本気かぁ?」


 一味の中では下っ端に位置する男が、俺を睨みつける。

 当然の反応だろう。

 一昨日までのライクは、洞穴でうずくまっているだけの貧弱な少年であったのだから。


 カランッ。


 俺が男の睨みに耐えられず目をそらしていると、背後から物が落ちるような音が聞こえた。


 睨みから逃げるように振り返ると、木製のスプーンを落とした母が固まっていた。


 すまない母さん。

 俺も昨日、必死に考えたのだ。

 その結果がこれなのだ。


 まずは力をつける。

 山賊に信頼される。

 母の安全を確保する。


 この三つ全てが満たされる完璧の案。

 それが、山賊に入ろう大作戦だ。


 力をつければ抵抗もでき、信頼されれば母を逃がす隙も増える。

 母も息子が力をつけ、成長することは喜ばしいことだろう。


 俺は完璧だと思ったのだ。

 しかし、世の中そう甘くはない。


 母はそのまま気を失って倒れた。

 男は俺と母を見て大笑いした。


「お前みてぇな弱虫がか? はっ、笑わせてくれるぜぇ」


 本気で笑っているのだろう、腹を抱えている。


 しかし俺も本気だ、そらした目をまた戻し、男を真っ直ぐと見る。

 目を合わせるのは基本中の基本だ。これを面接でできなければ大抵が悪い印象になる。

 これまで見せなかった俺の態度に、男は

 目を丸くして笑うのをやめた。


「……本気か?」


 今度の問いは、男のほうも真剣を帯びていた。


「本気です」


「…………」


 男はしばらく黙り込み、顎に手を当てなにやら考えていた。

 まあ当然だろう、いきなりあの弱虫泣き虫ライクが山賊に入りたいなどというのだから。

 気が狂ったとしか考えられない。


 普通ならすぐに突っぱねられて殴られて終わりなのだろうが、この男は違った。


 俺もそう確信していたから言ったのだ。


 まずこの男は下っ端中の下っ端だ。

 雑用ばかりを押し付けられ、飯の配当も少ない。そんな環境の奴が思うことは何か。


 それは当然もっと良い待遇になりたい。自分の雑用を押し付けられるさらに下の者がほしい。


 改めて俺は言った。


「俺を、山賊に入れてください」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ