16-大切な人のために
「難しいわね……」
洞穴へとつき、母と向かい合って座り、エンリは俺の背中に背をもたれさせている。
母へ相談すると返ってきたのは予想通りの反応だ。
いくら何でも一週間で五十万を稼ぐなんてことは無理だ。それこそ危ない仕事やギャンブルで一発、というのもあるがそもそも俺がいるのは山の中、そんなものは転がっていない。
街などへ歩いていくとしても七日以内に帰ってこれるはずもなく、例え行けたとしても稼げるという確証はどこにもない。
やはり、村を襲うしか……。
俺が諦めかけていた時、エイリーネはハッと気がついたように顔を上げた。
「ライク、あるわよ方法が!」
母の提案は至って簡単なことだ。
エイリーネは貴族であり、ここらをおさめている領主の娘。
そこでエイリーネの言葉で、村の人たちから何とか大金貨10枚を借りる。
領主は近々山賊討伐の準備を着実に進めている。
エイリーネが救出された後ならば、いくらでも領主の娘として借りたものは返せる、といったところだ。
だが……。
「信じてもらえないだろうなぁ」
エイリーネは幼い頃から山賊に捕らえられ、村人たちがその姿を知っていることは少ないだろう。
例えエンリにエイリーネに化けさせ説得しても無理そうだ。
いや、まず高身長のエイリーネの姿は魔力の少ない今では無理に違いない。
さらに言えば、大金貨10枚なんて指定された程度の村では、村の財産全てを費やしてやっと用意できるほどだ。
返してもらえる時期もわからない間に待っているのは飢饉。
……覚悟を決めるしかないだろう。
「母さん、俺は何とか良い方向に持っていってみせる。……でもダメかもしれない。もしかしたら、俺が村人達に反撃されて死――」
言いかけた時、母はギュッと俺のことを抱きしめた。
俺の緊張が一瞬にしてほぐれる。
ただただ、温かい。
一分ほど抱き合った後、エイリーネは俺を離し微笑んだ。
「大丈夫。ライクなら、大丈夫だから。何をしても、何をやってもライクは私のライク。大丈夫だから……無事に帰ってきてね。それだけ」
信頼。心配。何をしても、「俺を」受け入れてくる。
初めての経験に、俺はまたしても空を見上げた。
ぼやけた視界には、茶色い空がうつっていた。
大丈夫だ。
俺も、もう迷わない。
目から出た汗を手で拭うと、決意した。
期限は明日から七日間。
移動の時間を差し引けば五日間だ。
なら迷っている暇などない。
「母さん、俺頑張るよ!」
勢い良く立ち上がり、母の目を見て大きな声で宣言する。
母は笑顔で頷いて返した。
となればさっさと準備だ。
襲うとしても方法はいくつか考えてある。
さあ、今世での俺の人生最大の山場だ。
どうにか乗り切ってみせる!
「主、いきなりどうしたの……」
背をもたれていたエンリは眠っていたのだろう、俺が立ち上がったことでそのまま倒れるように頭をうち目を覚ました。
その証拠にまだ目が眠気眼だ。
「エンリ、俺はやるぞ! でもそれにはお前の力が必要だ。やってくれるか?」
「ん……当然! ヘヘ、何だか面白くなってきた!」
何度かしたやり取り。
エンリは俺がどんな願いをしたとしても文句なくするだろう。契約など関係なく。
返ってくる答えがわかっていても、肯定や賛同、付いてきてくれるという言葉が俺にはどうしても心地よく感じてしまうのだ。
心配してくれる家族。
頼れる相棒。
どちらも手に入れられた今の人生は。
こんな状況でも、前世と比べられないほどに良いものであった。




