幕間 したいこと
活動報告の方にお知らせを載せました。よろしくお願い致します!
さてさて、二人してどでかい扉を開き外へ出ると、空が少し夕焼け色に染まっていた。
けれどもまあ、今日は特に用事もないので時間はある。
エンリのしたい事。
もう長い付き合いだが、全く思い付かない。
大体何も言わずに悪戯を仕掛けてくるくらいで、やりたい事などは聞いたことも無い。
して欲しいことならば、キスのおねだりがあったが……今回は雰囲気が違う。
なので手を引かれる間、ずっと考えていたのだが、結局何も思い付かず。聞いても「ないしょー」といたずらっ子の様な笑顔を見せて教えてくれないので諦めることにした。
そえしてついたのは、でかでかと剣が描かれた看板が主張を示す木造の店だった。これまでの店の傾向から、一目で武器屋と理解ができた。
大きさは俺達が行った防具屋よりも少し大きめくらいか。あちらより儲かっているのだろう。
はて、したいこととは武器が欲しいってことだったのか? 言ってくれればいつでも買いには行ったのだが、エンリも遠慮していたのだろうか。
そのまま少し汚れた扉を開け、店内へと入る。
カウンターに若い兄ちゃんが一人、肘をつきながらやる気のなさそうにしていた。
俺が入店するとびくりと体を跳ねさせるも、次にエンリを見ればすぐに先ほどと同じ体勢に戻る。
やはり、幼い子とは偉大である……社会的信用その他諸々が段違いだ。
内装は外から見た印象よりも広く、様々な武器が並べられていた。人がすれ違えるくらいのスペースもあるので、防具屋よりも広い。
床や壁も汚れており、武器の金属特有の匂いが充満しているが、俺的には居心地の良いくらいだ。
「エンリ、何が欲しいんだ?」
さてさて、武器屋に連れて来られたという事は武器が欲しいという事。瞬時に理解した俺は、未だ手を繋いだままの妹に言われる前に、微笑みながら声を掛ける。
あんまり欲を言わないので、俺としては嬉しいのだ。まあこの武器を買うお金もエンリの稼いだものなのだが……今は気にしなくて良いだろう。
早く、俺も自分の稼いだ金で、エンリにプレゼントを渡したいな。
「えっと、武器ならナイフが新しく欲しいんだけど……したい事は、そうじゃなくて」
?
エンリの様子に頭に?を浮かべる俺。武器が欲しい以外に、武器屋でしたい事ってなんだ? 武器屋については初心者なので、何か俺の知らないことがあるのかもしれない。
黙っていると手を下へと引かれたので、店の隅でしゃがむと、エンリが耳打ちしてきた。
何だか吐息が触れて擽ったく、少しビクリとしてしまったが、エンリが気付いた様子もなく主の威厳は保たれたままだ。
「……ほほう」
明かされた内容に、思わず声を漏らす。
周りの客は細身の男が一人のみ。特に内容を聞かれた様子もない。何だか微笑ましいものを見る目で眺められている気もするが気の所為だ。
で、エンリのしたい事とは……ずばり、値引きである。
俺がすると恫喝になるあれだ。
しかし、この世界では値引き交渉は割と一般的な部類らしいので、特別なことではない。
だがその方法は、道具屋の様にお得意様に化けて割引してもらう訳でもなく、防具屋の様に指摘して値引くのでもなく───何と、方法は色仕掛けである!
「あの人間、ここの武具屋の店主の子供らしいんだけど、女好きなんだよね。だからちょっと誘惑すれば安く武器が手に入ると思う」
と、何気なく表情も変えずに言うエンリ。
……にしても色仕掛けかぁ。確かに店番の男は20代後半くらい、だらしなさそうな印象も受けるし十分に効きそうだ。
元々値引き交渉だって、店主の匙加減。
客の態度とか愛想の良さとか、容姿等の判断だろうし、色仕掛けも方法としたら間違いではないと思う。
しかし主としては何だか複雑な気分ではある。俺だけにそういう事はして欲しいという欲と、エンリの模倣がどれ程通用するかを見てみたいという欲。まあエンリも悪戯好きなので、こうして発散するのも悪くないだろう。
でも何だか、娘をグラビアアイドルに出すような、なんかそんな気分である。
「わかった、でも危険な事はするなよ?」
「もちろん! 主以外の人間に変なこととか絶対にされたくないし。……それに、本当は……」
強く言い切るエンリに、安心を覚える。だが逆にそれは俺なら変なことをしていいのか……?
最後らへんの言葉は、ごにょごにょと小さく聞こえなかったが、前の言葉に悶々としてしまい気にする余裕もない。そうしてる間にも、エンリの手は離れる。
「じゃあ、最初は主が行ってみて?」
「お、おう」
声に気を取り戻す。
まずは俺がナイフをカウンターへ持っていく事に。
俺で値引きしてくれるような聖人のような男なら、誰にだって値引きするだろう。なのであの店番が誰にも彼にも値引きをしないという、ちょっとした確認である。
他の武器に比べてナイフの種類はさほど多くはなく、魔物の素材を剥ぎ取る用のものを除けば数はもっと少ない。
二人でナイフが並べられている一角に向かい、大して悩むこともなく手頃な値段のものにエンリと一緒に決めた。
値段は55000G。既に持っている二本と入れ替える形にするので、二本購入する。
ナイフを手に持ち、俺はカウンターへ。
エンリは準備をする為、俺にボロマントを預けると店を出ていった。
前世のナイフの値段からして高いと感じるのだが、エンリに聞いたところこれが普通らしい。
まあ質の良いナイフなら、前世でも高いしね。
このナイフも、今のナイフと比べて大きさは特に変わらないが、刃の素材も違い質が良いのと、握りやすい様に特殊な素材で加工がされている。
カウンターへ向かう途中、ナイフを持った事により色々増した俺の姿を、すれ違った細身の男にビクビクと震えられながら、二つのナイフをカウンターに置く。
店番の男は座ったまま、一拍置いて視線を俺へと向けた。
「コルドナイフが二本ね、110000Gだよ」
「……………………」
店番へ見下ろす様な視線を向けたまま、暫く無言でいる。しかし特に何も反応はなく、言われた金額もそのまんまだ。
そもそもいきなり値引きしてくれますか? など日本人として生きてきた俺には難易度が高かった。
俺の容姿なら黙っていれば相手から値引きの話が切り出されると思ったのだが……どうやら特に値引きするつもりも、話をするつもりもないらしい。当たり前か。
盛大に自虐の混じった方法を取ったので……何だかちょっぴり嬉しい。
普段の俺なら、「あ、はい」と素直に金を払っているところだが……迷惑かけるね、店番の人。ちょっとだけエンリに付き合って欲しい。
俺も意を決して、いつもより三倍増しの鋭い目付きで口を開く。
「値引きなどはしてくれないのか?」
「お、おいおい兄ちゃん、勘弁してくれよ。これでもうちは安い方なんだぜ?」
「二本買うんだ、切りよく100000Gではダメか?」
「……い、いやダメだ、それじゃ売れないよ」
少しドスのきいた声、敬語もやめて脅すように言ってみたのだが、店番は声が上擦るだけで値引きまでは至らなかった。
心が痛むも、俺はこの店番の男には感動していた。この俺に、こんな態度をされたのに、ちゃんと店番を全うするとは……多分宿屋の金髪ちゃんに同じ事したら、無料で飯が出てきそうではある。ニーナも多分同じだ。その後ネロットさんに怒られるだろうが。
「そうか、すまなかった」
俺はこれまでの態度を、そしてこれからの事を含め小さく謝罪を入れると、ナイフを持って元にあった場所へと戻す。
これでよし。
店番は一応真面目に会計はしている。
値引く様子もない。
あとはエンリの色仕掛け次第だ。
少し俺の店番へ対する印象はよくなったため、本当に色仕掛けなんて成功するのか? とも思うが、まあエンリの好きにやらせてあげよう。
他の人への迷惑も、付き合う事も、決めたばかりだからな。
別れ際、カウンターの近くにいてほしい、とエンリに事前に言われていた為、すぐ横へと控える。
店番に訝しげな視線を送られるも、そこは無視だ無視。
そうして暫くすると、武具屋の扉が開く。
入店してきたのは、先程水の教会にいた俺の事も恐れない、親切な神官さんであった。




