26-ポイズンビー
お陰様で、人精も100話目に入ることが出来ました! これも感想やブックマーク、評価を入れてくださった方、そして読者様のおかげです!
これからもどうぞよろしくお願いします!
記念にまた何か書きたいですね。
「ちっ、泥濘にはまったか」
ガタンっ!
大きな音を立て、馬車が揺れると、ゴードンさんが悪態をつく。レオンが直ぐに馬に進むよう手綱で指示するが、一向に動く気配もなく、仕方なく手綱を引き続けて馬をとめた。
「あー、面倒臭いことになったわね」
ルクアも頭をかき、馬車よりも前方を歩いていたトワも戻ってくる。
俺たちが歩いているのは、一応街と町を繋ぐ道なのだが、ろくに整備もされていないのでさっきまでもがたがたと馬車は揺れていた。
一回ルクアと馬を引く係は交代していて、その時も何だか乗り心地がとても悪そうで、特に尻とかが痛そうだった。
そんな馬車だが、どうやらぬかるみにはまり、動かなくなってしまった。
前方を歩いていたいたトワが注意してくれたが、道を逸れても草が生い茂り、逸らすのも元の道に戻るのも馬を引かすのに苦労するので、大丈夫だろうと行った結果がこれである。
まあ仕方ない、馬車ではこういうことは多々あるらしいからな。ルクアがはぁ、と溜息をつき、ゴードンさんやレオンが馬車を降りてこようとするが、
「これくらいなら俺一人で大丈夫だよ」
馬車の後ろに立ち、手を添える。地面の凹に足を引っかけて踏ん張れるようにし、ぐっと馬車を押し上げる。
「ふっ……ぬ……!」
結構重いが、行けそうだ。一旦背負っていた荷物を置き、声を漏らしながら全力を出す。剣のペンダントから、「頑張れー」と声援を聞きながら押し続けると、何とか馬車が押し上がり、小さなぬかるみから脱出した。
よし。額を拭いながら、ちらりと反応を伺う。
「……すごい」
眠たげな顔のままぱちぱちと拍手をしてくれるトワ。面を食らうも、遅れて拍手を送ってくれたゴードンさん。
「……やはり、ライクさんはすごいですね」
苦笑しつつも、素直に褒めてくれたレオン。呆然と立ち尽くしたままのルクア。
「石材運びや荷物運びで鍛えて来たからな。これくらいの単純な力が必要な時は役に立てる筈だ。その時は呼んでくれ」
謙遜はしない。荷物を背負い直しながら堂々と答える。この力は俺がコツコツと積み上げてきたものだ。そして命を預ける仲。出来ることは出来ると、「俺」の手の内は惜しげも無くさらけ出す。
役に立てるなら俺だって嬉しい。それに、他の皆は魔物や盗賊に襲われた時の護衛なのだ。こんな所で無駄な体力は消費すべきではないだろう。
それに、俺には力くらいしか取り柄がないのだ。ポーター以外にも、役に立てることはアピールしていっても良いだろう。
彼らとの居心地はだいぶいい。今度また、ポーターとしてでも何でも、指名してくれれば有難いと少しの下心が混じった行動だった。
気を取り直し、足音なく前方へと駆けていくトワ、降りかけだった体を再び馬車へと戻すゴードンさん、それを確認し馬を操り馬車を進ませるレオン。
「あ、ちょっと、待ちなさいよー!」
遅れて気が付き、慌てて走るルクア。
〜〜〜
あれから特に問題もなく、日が沈み岩の影に馬車を止め、野営の準備を始める俺たち。
一応、はぐれのポイズンビーが馬車前方に通りかかったのだが、トワの報告により気付かれる前にこちらが存在を認め、ルクアの不意をつく火の魔法で一瞬で無力化させた。
十秒くらいの詠唱の後、バランスボール程の大きな炎弾。そこそこのスピードで飛んでいった魔法は、空中で油断していたポイズンビーに着弾すると炎がポイズンビーを包み、一瞬にして絶命し地へと落ちた。
ポイズンビーと、蜂だと思っていたのだが、そいつはとてもでかかった。多分2mはあったと思う。色は日本のスズメバチのそれで、頭と体の間にふさふさの白い毛が生えていたのが特徴的であった。全身から危険だという信号を送っていたのだが、炎弾の前には呆気なくその命を落とした。
位2と言っても、はぐれの一匹である。それにこちらに気付いていなかった不意打ち、そして弱点である火魔法。
「どう?」
ポイズンビーを軽々と仕留めたルクアが、ドヤ顔で此方を振り向き俺の反応に期待したが、俺は「すごい」と燃え続けていたポイズンビーの死体に釘付けになりながら答えるのみ。
それでも気をよくしたルクアは、「よしよし♪」と次はレオンの元に向かい同じく胸を張っていた。
俺はルクアも凄いと思うと同時に、こんなでかい魔物でも一瞬にして命を落とすんだということを胸に刻んでおいた。
どれだけ俺の体が頑丈であっても、不意をつかれたり油断したり、弱点を攻められれば呆気なく死ぬ。
それは俺が殺したセインも、同じであった。
改めて学べただけでも、この依頼には意味があっただろう。
「(でも、思ってたよりは位2の冒険者も、大したことなさそうでしょ?)」
ぼそりと辛辣な事を言い放つ剣のペンダント。
酷い言い方だが、俺も頷く。
1度、同じ火の魔法を操る我が母、エイリーネの魔法を見た事がある。
野球の球程の炎弾だが、スピードも威力も桁違い。何より、詠唱がファイアという一言のみの素早いものだった。あれを見たあとであれば、見劣りするのも無理はない。
しかし俺がルクアと戦ったところで勝てるとは思えない程の威力であったし、ルクアだってあれが全力ではないだろう。
ギルドの位を決める基準だって分かっていない。今度ミィルに化けてもらって聞いてみよう。
色々と考えつつも、ポイズンビーの後処理をする。ルクアが未だに少し燃えているポイズンビーの死骸を剣でつつき、割いて探り、魔石を取り出した以外は、燃え尽きて素材にもならなかった。なので、次に俺やレオンが一緒に持ってきたスコップで死体を火を消すのも含めて土を掛けて埋めた。
ルクアも女の子なのだろうが、流石冒険者だ。肝が座っている。虫、死骸、火、全てを恐れずにああして行けたのは最早一つの才能だろう。
俺もこの世界に来てからは慣れたが、ダメな人はずっとダメだからな。かく言う俺も、一匹だけどうしてもダメな虫がいるし。
何故旅にスコップと、あちらのパーティが用意してきたのを疑問に思ったが、荒れた道を気持ち程度直したり、死骸の処理、排泄物の処理等色々役に立つ。
俺も今度、一つ買ってこようと決めたものだ。
魔物を見掛けたら報告するのも冒険者の義務であるが、ポイズンビーは行動範囲も広く、こういった街を離れた場所では見かけるらしいので気に止める必要はない。と、レオンがイケメンスマイルで教えてくれた。
成程、やはりこの依頼は為になる。報酬以上の成果が期待出来るだろう。
俺は、仲良く野宿の準備をしている他のメンバーを見ながら、そう思った。




