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異世界駅舎の喫茶店  作者: Swind/神凪唐州


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39 再会した旧友と意趣を込めた贈り物(1/3パート)

 本日も当駅をご利用いただきまして誠にありがとうございます。この列車は当駅が終点となります。改札口にて乗車券を拝見いたします。

 到着いたしました列車は車庫に入ります。お手荷物などお忘れ物がございませんよう、ご注意をお願いいたします。

 ―― なお、お手回り品はお客様ご自身で管理いただけますようお願い申し上げます。

「長時間のご乗車、お疲れ様でしたー。どうぞこちらにお並びくださーい」


 二番列車が到着したハーパータウン駅 その出札口にテオの姿があった。

 列車から降りてきたお客様の労をねぎらいつつ、順番に切符を回収していく。

 いつも通りの業務をいつも通りこなしていると、一人の男が大きな声で呼びかけてきた。


「おお、テオ! テオじゃないか!」


 切符を確認するために手元を見ていたテオが、その声に反応してふっと顔を上げる。

 そこにいたのは、テオがよく知る旧友であった。


「エリアスじゃねえか! またこんなところまでどうしたんだ?」


「ちょっとヤボ用でな。 お前こそこんなところで駅員か? 前は本部のエリートコースとかって言ってなかったか?」


「いや、実は去年の秋からこっちに異動になったんだよ……って、悪い、先にお客さんの案内済ませていいか?」


 その言葉にエリアスは驚き、はっと後ろを振り向く。

 後ろには、改札を待つお客様がまだまだ列を作っていた。


「っと、わりぃわりぃ。邪魔だったな。ほい、切符な」


「はい確かに。これが終わったら休憩入れるから、もし時間があるなら待っててくれな」

 受け取った切符にぱっと目を通しながら声をかけるテオ。

 エリアスもその言葉にコクリと首を縦に振り、出札口を通過していった。


 やがてすべてのお客様の出札業務を終えると、テオはすぐ近くで待っていたエリアスに向けてそっと拳を差し出す。


「じゃ、改めて。しっかし久しぶりだなぁ」


「そっちこそ、こんなところで会うなんて思ってもいなかったよ」


 テオと同じように拳を差し出すエリアス。

 そして、その拳を互いにコツンとぶつけ合った。

 学生時代から変わらぬ二人の挨拶だ。


「しかし、お前がめんどくさがらず真面目に働いているとはなぁ」


「よせやい、俺はいつだってまじめだぜ?」


「真面目ってのは隙あらばサボろうとしてるやつのことをいうのか?」


「うっせぇ! こっちにきてちょっと心を入れ替えてみたんだよ! って、立ち話もなんだな。お前、メシは食ったんか?」


「いや、実は列車に乗る前に食べようと思ってたんだけど、時間が無くなっちまってな。どっかこの辺で旨い店ないか?」


 エリアスの言葉に、テオがにやりと口角を持ち上げる。

 この辺りで一番の店といえば、むろん“あそこ”以外には考えられない。


「それならいい店があるぜ。久しぶりに一緒にメシ食おうぜ」


 テオはそういうと、出札口のすぐ横にある待合室を兼ねた一軒の喫茶店へと向かっていった。




―――――




「ふぉー、かっれぇー! でも、こいつめっちゃ旨いな!」


 カレーアロース(ライス)を口いっぱいに頬張りながらエリアスが歓声を上げる。

 その言葉を聞いたテオが、どこか自慢げな表情を見せた。


「この店、俺の上司がやってるんだぜ?」


「え? 上司ってことは駅長かなんかだろ?」


「正確には駅長代理だな。タクミさんっていうんだけど、この人がまたすごいんだ。駅長代理をしながらこの店のマスターもやってて、次々とあっと驚くような料理は生み出すわ、駅で何かあってもだいたい何とかしちゃうわ、まぁ、とにかくすごいんだよ。今いちばん憧れている相手だな」


 エリアスと同じ昼食を取りながら、テオがにやりと口角を持ち上げる。

 その様子に旧友がさらに驚きの表情を見せた。


「へー、お前がそこまで言うなんて、よっぽどすごいんだな。まぁ、こんな田舎に来ても腐らずにやってるようで何よりだよ」


 ややケンのある言葉をかけられ、テオは少しむっとした表情を見せる。

 とはいえ、傍から見れば“都落ち”に見られなくもないことはテオも承知するところだ。

 むしろテオ自身も最初はそう考えていたこともあったのだから、あまり強くは否定できない。

 ということで、テオは自分に向いた矛先を相手に向けた。


「ところで、お前のほうはどうなんだよ? ローゼスシティに行って一旗揚げるって息巻いてたじゃないか」


 その言葉に、今度はエリアスが不敵に微笑んだ。


「ふっふっふ。実はな、今の勤め先の方でちょっと大きな仕事を頼まれてな。こっちのお客さんのところに挨拶に出向くところなのさ」


 エリアスはそう前置きをしてから自慢げに語り始めた。


 夢を抱いてこの国屈指の大都市であるローゼスシティへと向かったエリアスは、縁あってとある美術商で働き始めることとなった。

 最初のうちは主人のかばん持ちとして走り回る日々。

 しかし、“見習い”としての日々を続けるうちに徐々に才覚が身に着き、やがて少しずつ仕事を任されるようになってきた。

 そして長く続けた修行の末、先日、エリアスは“独り立ち”としての許しを主人から得ることができた。


 今回ハーパータウンを訪れたのも、主人から任された用件に応じつつ、“将来のお得意様候補”にご挨拶にお伺いするためとのことであった。


「なるほど、お前も頑張ってたんだなぁ。って待て、こんなところで油売ってていいのか?」


「ああ、先方に出向くのは夕方の約束だからな。まだ時間は十分余裕あるさ」


「ああ、なら良かったけどよ……」


「さて、そういうテオさんはいつまで油売ってるんでしょうね?」


 背後からポンと肩を叩かれ、びくっとなるテオ。

 恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはタクミの姿があった。

 いつも通り微笑みをたたえた上司の姿に、テオは思わず薄ら笑いを浮かべる。

 タクミの動かす視線に釣られて時計を見やれば、第三便の改札準備を始める時間に差し掛かろうとしていた。


「うわやっべっ! 仕事に戻りますっ! っと、もしよかったらこっちでの泊まり先でもメモ書いといてくれな。時間が合いそうなら夜にでも呑みに行こうぜ!」


「あいよ! じゃあ、後でメモを書いてそっちに持っていくわー」


 慌てて制帽をつかんで立ち去ろうとするテオの背中に、エリアスが声を投げかける。

 一方のタクミは、まだまだ目が離せない部下の様子に苦い笑みを浮かべるのであった。



―――――




 翌日、テオが普段通りに窓口業務についていると再びエリアスがやってきた。


「おう、どうやら真面目に働いてるみてえだな」


「何で上から目線なんだよ、で、何か用件か?」


「ああ、小荷物便だっけ? そいつを頼みたくてな」


「了解、じゃあお手続きをこちらへお願いしてもいいか?」


 接客モードの丁寧語と友人同士としての飾らない調子が混ざってしまうテオ。

 その奇妙な言葉遣いにエリアスが思わず吹き出した。


「なんだよその言い方、仕事かプライベートかはっきりしろよー」


「うっせぇな、何かお前としゃべってると調子が出ねえんだよ。っと、じゃあ預かり荷物を見せてもらえる?」


「ほいよ、こいつなんだけど……」


 エリアスがカウンターの上に置いたのは、しっかりとした革製のケースであった。

 ケースの周囲には平らな革製のバンドが巻かれている。

 留め具の部分は麻紐でしっかりと固定され、 さらにその麻紐の結び目を蝋封するという念の入れようだ。


 これぞとばかりに厳重に封がされたケースを見て、テオが顔をしかめる。


「なんだかずいぶんとものものしいけど……中身に危険物とか入ってないよな?」


「ああ、それは大丈夫。お客さんからの預かり物で、特におかしなものは入ってないはずだ。普段なら馬車便を仕立てるんだけど、今回はちょっと急ぎになったから、こっちの小荷物便を使うことにしたってわけさ」


「なるほど、了解。じゃあ、こっちの紙に必要事項記入してな」


 テオはそういうと、エリアスに小荷物便の伝票を手渡した。

 備え付けてある羽ペンにインクを浸しながら、伝票を埋めていくエリアス。

 その様子を眺めながら、テオが手元の内容を確認していく。


「送り先はローゼスシティ駅、受取人は店の人でいいのかな?」


「ああ、で、荷物の到着連絡もお願いしたいね」


「そういえば、ローゼスシティだとそんなサービスもあるんだっけ。さすが都会は違うなぁ」


「なんだ、こっちではそういったサービスやってないのか?」


 エリアスの言葉に、テオが首を横に振る。


「いやー、こっちだと正直難しいなぁ。駅のスタッフというと実質的には自分とタクミさん(駅長代理)の二人だけだし、この窓口の取次だけならまだしも、一軒ずつ連絡するとなると正直人手が足りんのよ」


「なるほどなぁ。仕方ないんだろうけど、ちょっと不便だよな。っと、ほい、これでいいか?」


 エリアスはそう話しながら、必要事項を書き終えた申込書をテオへと渡す。

 そこに書かれた内容をさっと確認し、一つ頷いた。


「うん、問題ないね。じゃあ、料金はこれだけなんで、よろしく」


「はいよ。じゃあ、コイツでよろしく」


「確かに承りましたっと。 じゃあ、ちょっと片付けてくるわ」


 テオはそういうと、駅務室の奥にある小荷物置き場の棚へと箱を運んでいった。

 

 この駅舎で働き始めた頃の“失敗”の経験から、小荷物を預かった時には箱がつぶれたり汚れたりしていないかどうか確認する癖がついている。

 いつも通り箱を運びながらそれとなく確認をしていくと、ふと何か“中身”の手ごたえに違和感を覚えた。

 籐籠の中身はそれなりに詰まっているようにも感じるものの、その割には中で何かモノがぶつかり合う音が聞こえてくるような気がする。


 そのことが気になったテオは、いったん箱を肩に担ぎ、側面に耳を当ててから、中から発せられる音を確認するかのようにポンと軽く叩いた。


 カシャンという音が耳に響く。

 

 その音を聞いた瞬間、テオは大きく目を見開いた。

 やや慌てながら、受け取った伝票を確認する

 そこには、内容物として『美術品』と、そして内容物の数量には『一点』と記されていた。


 つまり、この記載が正確であれば、中で何かがぶつかり合って音を立てるということは考えづらいということになる。

 

 聞き間違いであってほしいと祈りつつ、もう一度箱をポンと叩くテオ。

 すると、やはり先ほど同じようにカシャンという音が中から響いてきた。


 テオの背中に冷や汗が流れる。

 荷物を肩に担いだままカウンターに戻ると、テオの様子をいぶかしむようにエリアスが首をかしげていた。


「どうした? 何かマズイことでもあったか?」


「……これの中身、もう一度詳しく話してもらってもいいか?」


「あ、ああ。中身は骨董の大皿だけど……」


「間違いなく一枚か? 他に何枚か入っているってことはないか?」


「いや、それはない。間違いなく一枚だが……ちょっとまて、何してるんだ!?」


 顔を真っ青にしながらナイフを持ち出したテオを、エリアスが慌てて制止する。

 しかし、テオは素早く麻紐を切り離すと、革バンドを外して蓋を開いた。

 そして箱の中を確認すると、頭を抱えながらエリアスにもそれを見せる。


「……マジかよ」


 エリアスは、呆然となった。

 箱の中にあったのは、きれいな模様が描かれた美しい大皿。

 エリアスが預けられたその皿は中央から真っ二つとなり、きれいな半円状の組み物へとその姿を変えていたのであった。


※第2パートへと続きます

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