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異世界駅舎の喫茶店  作者: Swind/神凪唐州


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Recipe Note 〜 パトの定番ソース

 本日も当駅をご利用いただきまして誠にありがとうございます。ウッドフォード行き最終列車は、16時の出発予定です。改札は、出発の10分前を予定しておりますので、ご乗車のお客様は、改札口横にございます待合室にてお待ちください。

—— なお、お待ち合わせの際には併設の喫茶店『ツバメ』もどうぞご利用ください。


※料理のレシピ紹介を兼ねた番外編です。

「ただいま帰りましたーっ!」


 ある日の午後下がり、『ツバメ』の裏口から元気な声が聞こえてきた。

 キッチンにいたロランドが、今日も無事に帰宅してきたルナへと声をかける


「ルナちゃん、おかえりーっす! 何か飲むっすか?」


「あ、そうしたら……ミルクをもらってもいいですかっ?」


「了解っす! あったかいのがいい? それとも冷たいの?」


「うーん、今日は暖かかったから、冷たいのがいいですっ!」


「んじゃ、手を洗ってそっちで待っててっす!」


「はーいっ」


 水汲み場へ向かうルナを横目に、食料庫へと向かうロランド。

 氷を入れた木箱(冷蔵箱)からミルクの入った瓶を取り出し、運んできたグラスへと注いでキッチンへと戻った。


 その時、棚に置いてあったあるものが目に入った。

 それは、ブリキで出来た小さな箱。

 ロランドは、小首をかしげて少し考えてから、うんと一つ頷く。

 そして、ミルクのグラスとともに、その箱の中身も数枚取り出してからキッチンへと戻っていった。


「おまたせーっす。ご注文の冷たいミルクと、オマケでこれもどうぞっ!」


「わぁ! すごーーいっ!」


 ロランドから差し出された“おまけ”を見て、ルナが歓喜の声を上げる。

 それは、上にアルマンドラ(アーモンド)がたっぷりと載せられたクッキーだった。

 


「フィデルに頼まれて試作したやつっす。師匠は“フロランタン”って呼んでたっすね。何はともあれ、ミルクと一緒に召し上がれっす!」


「ロランドお兄ちゃん、ありがとーっ!」


「どうってことないっすよ!」


 口ではそう言いつつも、鼻の下をこすりながら返事をするロランドの表情はなんとも自慢げだ。

 ルナは小さく祈りを捧げると、早速フロランタンを一つつまんだ。

 甘い蜜が絡められた薄切りのアルマンドラから、パリパリとした香ばしさが口いっぱいに広がる。

 土台のクッキーはサックリとした歯触りで、控えめの甘さがアルマンドラの香ばしい甘さをしっかりと受け止めている。

 もちろんミルクとの相性も抜群だ。

 味わいはもちろん、ルナにはロランドの心遣いが何よりも嬉しく感じられた。


 ミルクとフロランタンの取り合わせをゆっくりと堪能するルナ。

 すると、ホールに続く出入り口からタクミが戻ってきた。


「あ、ルナちゃん帰ってきてたんですね。おかえりなさい」


「ただいまですっ! これ食べ終わったらお手伝いしますっ!」


 慌ててフロランタンをミルクで流し込もうとするルナに、タクミが優しく声をかける。

「急がなくても大丈夫ですよ。そうですね、これから明日のランチ用にソースの仕込をする予定だったのですが、ロランドと二人でやってみますか?」


「えっ! 良いんですかっ?」


 目を輝かせるルナに、タクミが微笑みを浮かべてうん、と頷いた。

 そして今度はきりっとした表情でロランドに声をかける。


「ということで、お願いしたいと思うのですが、いかがでしょうか? 一緒に何度も作っているソースですし、大丈夫ですよね?」


「う……たぶん大丈夫だと思うっすけど……」


 答えるロランドの表情はどこか不安げだ。

 しかし、タクミは諭すように言葉を重ねる。


「レシピはノートにまとめていますので、分からないところは確認しながらやってみてください。何事も経験ですしね。いつも通りやれば大丈夫です」


「……うっす! 師匠がそう言ってくれるのなら、頑張ってやってみるっす! ルナちゃん、サポートよろしくっす!」


「はいっ! ロランドお兄ちゃん、よろしくお願いしまーすっ!」


 熱い眼差しを見せるロランドの気持ちに応えるかのように、ルナの透き通る声がキッチンに響き渡るのであった。




―――――




「さて、そうしたら最初にレシピを確認しておくっす。えーっと、どれどれ……」


 作業場所となるキッチンテーブルの前に並んだロランドとルナは、一冊のノートを覗きこん。

 今日作るのはタクミが開発したパト(パスタ)用のソースの一つ“定番のミートソース”だ。


================================

■定番のミートソース(20人前)


<用意するもの>

・牛肉  500g

・豚肉 1000g

セボーリャ(玉ねぎ) 中5個

サナオリア(にんじん) 中8本

・トマト(完熟) 10個 

セータ(マッシュルーム) 5~6個

・鶏のスープストック 1リットル

ミエール(はちみつ) 300g

・トマトケチャップ 200g

アッホ(にんにく)(すりおろし)3欠片分

ヘンヒブレ(しょうが)(すりおろし) にんにくと同量程度

ピメンタ(オールスパイス) 適量

・塩、こしょう  適量


<作り方>

1. 牛肉と豚肉をそれぞれ出来るだけ細かく刻んだ後、すり鉢で荒く挽いてからミエールと混ぜ合わせる

2. セボーリャは四つ分すりおろして、一つ分はみじん切りにする。サナオリアは皮を剥いて、全てすりおろす。

3. トマトは皮を湯剥きした上で、半分はすりおろし、半分は角切りにする。セータはみじん切り。ここまでで仕込は完了。

4.スープストックに、すり下ろした野菜と角切りトマトを全部入れ、温めておく。

5. フライパンを弱火で温め、1.でミエールと混ぜ合わせた挽き肉を何度かに分けながらじっくりと“あめ色”になるまで根気よく炒める。

6. あめ色になったひき肉にみじん切りにしたセボーリャとセータを入れ、軽く炒める。

7. 出来上がったあめ色になったひき肉を順番に寸胴鍋に入れていく。

8. あめ色ひき肉を炒め終わったフライパンに4.のスープを注いで、旨みを溶かしこむようにしてから寸胴鍋に移していく。

9. 寸胴鍋にトマトケチャップ、アッホ、ヘンヒブレ、ピメンタを入れ、塩こしょうで味を調える。

10.このまま弱火でじっくり煮込んで完成。1時間以上煮込むこと。


<ポイント>

・あめ色ひき肉を作る時には、フライパンを決して強火にかけないこと。

 弱めの中火程度で水分を飛ばすようにして、じっくりじっくり炒めること。

・すりおろし野菜の水分は絞らない。最後の一滴まできちんとスープと合わせること

・仕上がりの水分が多い時には、最後に強火にかけて煮詰めること。

================================

 

「あめ色ひき肉づくりがちょっと大変だけど、手分けすれば何とかなると思うから、一緒にやってみるっす! お手伝いよろしくっす!」


「はいっ! 頑張りますっ」


 エプロンを身に纏ったルナがロランドの呼びかけに応える。

 二人は早速ソースの仕込み作業へと取り掛かった。

 

 まずはひき肉を作る作業。

 用意した牛肉と豚肉を二人で刻んだ後、大きなすり鉢に入れる。

 そしてルナにすり鉢を押さえさせると、ロランドはすりこぎで丁寧に肉を挽いていく。 赤身の強い牛肉と、やや白っぽさのある豚肉が徐々につぶれていき、全体がピンク色にもったりと仕上がってくる。


「あんまり潰しすぎても美味しくないんっすよね。ふぅ、これくらいで大丈夫っす」


「力がいる仕事ですねっ。途中で変わった方が良かったですかっ?」


「いや、これくらいなら大丈夫っすよ。今日はルナちゃんが支えてくれたからやりやすかったす。じゃあ、そのミエールを全部入れてくださいっす」


「はーいっ」


 ロランドの指示通りに作業を進めるルナ。

 予め測っておいたミエールを全部入れ終えたところで、木べらを手にしたロランドがミエールと合いびき肉をざっくりと混ぜ合わせた。


「さて、次は野菜のすりおろしっすね。えーっと、セボーリャのすりおろしをしなきゃいけないっすが、普通にやると目が痛くなるんっすよね」


「セボーリャは刻むだけでも目がしぱしぱしちゃいますから、すりおろすともっと大変なことになりそうですっ」


「そうそう。でもねっ、最近いい方法みつけたんっすよ! はい、これをどうぞっ」


 そう言いながらロランドが差し出したのは、小さくちぎった一切れのマイス(コーン)ブレッド、それも硬い皮の部分だ。

 ルナは素直に受け取ったものの、どうしていいか分からずきょとんとしてしまった。


「えっと……これをどうするんですっ?」


「これをね……こうするんすよっ! ルナちゃんも騙されたと思って一緒にやってみて欲しいっす」


 そういうと、ロランドは自分用にもう一切れ持っていたマイスブレッドの皮を口にくわえた。

 その不思議な行動に首をかしげつつも、ロランド(先輩)を真似て渡されたそれを口にくわえる。

 そして二人は、皮を剥いておいたセボーリャをおろし金を使ってごしごしとおろしはじめた。


 やがてセボーリャの下処理を終えたロランドは、作業中ずっとくわえていたマイスブレッドをもぐもぐと食べ、飲み下した。


「どうっすか? 目、あんまり痛く無かったっすよね?」


「はいっ。ちょっとだけしぱしぱしましたけど、涙が出るほどじゃなかったですっ!でも、どうやってこんな方法見つけたんですっ?」

 

「実はこれ、偶然発見したんすよ。前にサンドイッチを作ってる時に味見しながらセボーリャを刻んでいたら、全然痛くないってのに気づいて。で、いろいろ試して、これが一番いいって見つけたんっす」


「すっごーい! ロランドお兄ちゃん、すごいですっ!!」


 素直な賞賛に、ロランドの口元が思わず綻んだ。

 思わず頭をなでそうになるが、セボーリャまみれの手では問題があると気付き、手を引っ込める。

 それを照れ笑いで誤魔化しながら、次の作業の説明へと移っていった。


「じゃあ、残りの準備もやっちゃいましょう。自分がトマトとセータをやるんで、ルナちゃんはサナオリアをよろしくっす!」


「はーいっ!」


 作業を分担しながら作業を進めていく二人。

 その後ろでは、柱時計がポーンと時を告げるのであった。




―――――




 その後も作業は順調に進め、二人は“あめ色ひき肉”作りに取り掛かっていた。

 一台のロケットストーブの前に並ぶ二人。

 ロランドが鍋を振りながら、ルナに指示を出した。


「そろそろ次の薪をお願いっす」


「はいっ。火力は大丈夫ですかっ?」


「これくらいで問題ないっすね。また弱くなったら言うっす」


 “あめ色ひき肉”づくりでの最難関は“火加減”の調整だ。

 ミエールをまぶしたひき肉は、温度が高すぎればあっという間に焦げてしまうし、低すぎれば一向に“あめ色”にはならない。

 弱めの中火をキープしつつ、時間をかけてじっくりじっくりと炒め続けることが必要だった。


 ロランドは、タクミといっしょに仕込みをやっていた時のことを思い出しながら、細かく火加減の指示を出す。

 その言葉にすかさず反応してくれるルナのおかげで、作業をスムーズに進めることが出来ていた。


 やがて、完成させた“あめ色ひき肉”と、セボーリャとセータのみじん切りとを炒め合わせ、全て寸胴鍋に移したところで、ロランドが次の指示を出す。


「これでオッケーっすね。じゃ、このフライパンにそこのスープをお願いっす」


「これくらいでいいですかっ?」


 フライパンに野菜入りの鶏スープが注がれると、こびりついたあめ色が溶け出し、全体が茶色く色づいた。

 これこそが旨みの素。フライパンに何度もスープを注くことで、旨みの素を余すところなく溶かし込むのが隠されたポイントだ。

 

 この後、寸胴鍋に移したひき肉とスープに残りの材料を加えたロランドは、軽くかき混ぜてから味見をする。

 最後に、ロランドが塩こしょうで味を調えた後、火を熾火へと変えて一通りの仕込作業は無事終了となった。


 最後の作業として、キッチンテーブルの後片付けを進める二人。

 テーブルを拭きながら、ロランドがアシスタント役を務めてくれたルナをねぎらう。


「片付け終わったら、もう後は火の番だけっすね。ルナちゃん、お疲れさまっした!」


「こっちこそ、ご指導ありがとうございましたっ。私、お役に立ててましたかっ?」


「すっごく助かったっすよ! 一人でやること考えたらぞっとするっすからね」


「それならよかったですっ! これからも頑張ってお手伝いしますので、またご指導お願いしますっ」


「うぃっす! 任せてっす!」


 そう言いながらドンと胸を叩くロランド。

 ルナに手順を教えながらの作業は大変かとも思っていたが、やってみればスムーズに進めることが出来た。

 どうやら一つずつ手順を伝えることで、自分の段取りを整理することにも繋がっていたようだ。


(結局は師匠の読み通りってことっすね……) 


 その采配に改めて脱帽するロランドであった。

 お読みいただきましてありがとうございました。

 Recipe Note第3弾は、定番のパトのソース ―― 自家製ミートソースをご紹介させていただきました。


 今回取り上げた『ツバメ風ミートソース』は料理店向けの大量仕込み版レシピとなっております。

 家庭サイズに合わせ、かつ現代日本で手に入る材料で作りやすくした『本格風手作りミートソース』のレシピについては、活動報告にてご紹介いたしますので合わせてご堪能頂ければ幸いです。


 それでは、引き続きご愛読いただけますようよろしくお願い申し上げます。

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