31 白く包まれた駅舎と温かな振る舞い(3/3パート)
※2016.1.29 22:00更新 2/3パート
※第1パートからの続きです。まだお読みでない方は第1パート(前々話)よりお読みください。
「では、ここからは三人で続きの作業を進めましょう。使うのはこちらです」
キッチンテーブルにタクミが運んできたボウルを横から覗き込むロランドとルナ。
その中には白い粉が入っていた。
ロランドにとっては日々の仕事の中で見慣れたものだ。その正体をすぐに見抜く。
「これって、アロース粉っすよね? ということは、これで生地を作ってブレッドでも焼くんっすか?」
ロランドの推理に、タクミは首を横に振った。
「惜しいですね。生地を作るのは合っていますが、ブレッドではありません。とりあえず一緒にやってみましょう。生地は私が練りますのでお二人は見ていてくださいね」
タクミはそういうと、アロース粉に少しずつ熱湯を加えながら菜箸でぐるぐるとかき混ぜる。
すると、水分と熱が加えられたアロース粉はもったりとした糊状の塊へと徐々に変わっていった。
そして、ある程度粘り気が出てきたところを見計らい、タクミは生地を触って感触を確認する。
思っていたよりもベタベタが強く仕上がっていた。んー、とタクミは少し考え込んでから、今度は生地に冷水を注いでいく。
熱を取るようにしながら生地を混ぜ合せ、アロース粉を少し足して加減を調整してから、全体をなじませるように練っていく。
こうして出来上がったのは、やや粘り気のある真っ白の生地だ。
タクミは、出来上がった生地を三つにわけると、それぞれ小さなボウルに入れてロランドとルナに一つずつ渡す。
生地づくりの手順を覚えようと真剣な眼差しで見つめていたロランドが、生地を受け取りながらポツリとつぶやいた。
「熱湯を加えてから、冷水を入れて、また粉を入れるっすね……これは簡単には作れなさそうな生地っす!」
「簡単そうに見えますけど、きっとこのちょっとした加減が大事なんですよね?」
ロランドの言葉に続き、ルナもタクミに尋ねる。二人からの賞賛を含んだ言葉に、タクミは照れながら答えた。
「えーっと……すいません、最初の段階でちょっと塩梅を間違えてしまったようです。ぬるま湯でやった方が確実だったかもしれませんね」
「マジっすか! 師匠でも失敗することがあるんっすね!」
「何気なくやっていたので失敗してたなんて気づきませんでしたっ!」
タクミから飛び出た予想外の言葉に、二人は目を見開いて驚く。
そんな二人に照れ笑いを浮かべたタクミが、ここからの作業について説明を始めた。
「まぁ、何とか帳尻は合ったようですので、ほっとしました。さて、ここからは三人合わせての作業を進めていきましょう。では、そのボウルを持ってこちらまでお願いします。」
タクミはそういうと、二人を連れだってロケットストーブの前に立つ。
ロケットストーブの上に置かれた大きな鍋の中では、勢いよくお湯が沸騰し、ぐらぐらと泡を沸き立たせていた。
ロケットストーブの横に備え付けてある作業台の上に生地の入ったボウルを置いたタクミは、別に汲み置いておいた冷水で軽く手を濡らす。
そして、真っ白な生地を手のひらほどの大きさにちぎると、実演を交えながら二人に作業手順を説明した。
「まず手を少し濡らしたら、このアロース粉を練った生地をこれくらいの大きさにちぎって棒状に伸ばします。そして、さらに少しずつ小さくちぎって丸めてから、こんな感じで真ん中を少し潰してください」
「えーっと、これだとちょうど銅貨ぐらいの大きさっすね。で、これをどうすればいいっすか?」
「そうしたら、これをこのままこの鍋にぽいっと入れちゃってください。どんどん入れてもらって構いませんよ」
タクミは生地を少しずつちぎっては丸め、鍋の中へと放り込んでいく。白い団子状にされた生地が、次々と鍋の底へと沈んでいった。
それを見ていたロランドとルナも、タクミのやり方に倣って生地を丸め、鍋の中へと入れていく。
「わぁ、思った以上にくにゅくにゅしてますっ」
「粘土遊びでもしているような感覚っすね。面白いっす!」
二人の言葉に、タクミはうんうんと頷いてから言葉を続けた。
「さて、このまま生地を茹で上げていきます。ちょっと見ていてもらっていいですか?」
その言葉に素直に従い、二人は鍋の中を覗き込む。
するとぐらぐらと沸かされたお湯の中で、先ほど丸めた白い生地が徐々に弾み始めたと思うと、やがて浮かび上がってきた。
「不思議ですっ! さっきまで沈んでたのに、浮かんできましたっ!」
「これは火が通ると浮かんでくるってことっすかね?」
「ええ、その通りです。こうして生地がしっかり茹であがったら、この網ですくってこちらのボウルの冷水にとってください。このまましばらく冷やして粗熱をとれば完成です」
タクミはそういうと、浮かび上がってきた生地をしばらく泳がせてから網で掬い取り、新しく用意した冷水に移していく。
茹であがった生地の表面は、とても艶やかだ。
真珠のように美しいそれを見て、ルナがくりくりっとした目を輝かせた。
「すっごいきれいですっ! これは何って言うんですか?」
「これは、白玉と言います。見て頂いた通り、アロース粉と水があれば簡単に作ることができるものですね。このまま一つ食べてみますか?」
「もちろんっす!」
美しさより食い気に勝るロランドが元気よく返事をする。その横でルナもコクコクと頷いた。
素直に言葉に従う弟子たちを可愛く想いながら、タクミは冷水に浸していた白玉を一つずつ、二人の手のひらの上に載せる。
二人はひんやりした白玉の感触を楽しんでから、口の中に放り込んだ。
しばらくもぐもぐと咀嚼していた二人だが、やがてそろって首を傾ける。
「うーん、モチモチした食感は面白いと思うんですけど……」
「なんだろう? このままだとアロースそのままの味って感じっすね……」
二人の疑問は当然のものであった。
白玉に使った食材はアロース粉と水分のみで、塩も砂糖も入っていない。
茹で上げに使ったのもただのお湯となれば、出来上がった白玉は“アロースのシンプルな味わい”となるのは当然のことであった。
どうしていいものかと悩ましい表情を見せる二人に、タクミはもう一つの小皿を差し出しながら声をかける。
「では、こうするとどうでしょうか?」
タクミが差し出した小皿に入っていたのは、新聞紙で巻いて保温する前に取り分けておいたフディーアの汁がソースのようにかけられた白玉だった。
フディーア汁の茜色と、艶やかな白玉のコントラストが美しい。
二人は、タクミに促されるまま小皿の白玉を口に含む。
すると、その味わいに、ようやく二人は納得の表情を見せた。
「あーっ!やっとわかったっす!」
「甘いフディーアの汁と、シンプルな味わいのシラタマで、ちょうどいいバランスになるんですねっ!」
二人の言葉にタクミはうんうんと頷き、このデザートについての説明を始める。
「これで完成形ですね。このデザートは“白玉ぜんざい”というものです。 実際には白玉をぜんざい……フディーアの汁の中に入れ、軽く炊き合わせてからスープのようにして頂きます。」
「シラタマゼンザイっすか! こんな組み合わせは生まれて初めてっす!」
「優しい甘さですし、温めてお出しすればとっても暖まると思いますっ。タクミさん、やっぱりすごいですっ!」
「いえいえ、何とかお二人の口に合ったようで良かったです」
豆を甘くしたデザートが受け入れられるかどうか若干の不安を抱えていたタクミであったが、二人の満足げな様子にほっと一息をついた。
気づけば時計の針は一時を回ろうとしていた。ランチの注文がほとんど無かったところを見ると、今日はやはりお客様の出足は鈍いようだ。
とはいえ、遅れに遅れている列車もそろそろ到着するであろう。|ハヤシライス《ブラウンシチューのアロース添え》と白玉ぜんざいは用意出来たが、飲み物の用意はまだこれからだ。
もう一度気を引き締め直したタクミは、改めて二人に指示を出す。
「では、白玉ぜんざいはホールのカウンターで仕上げることにします。ハヤシライスの方はロランドに任せますのでお願いしますね。ルナちゃんはニャーチと一緒にホールのお手伝いをよろしくお願いします」
「了解っす!」「はいっ!」
二人からのひときわ元気が良い声がキッチンに響き渡った。
―――――
「皆様、どうぞこちらへお入りくださいませなのなっ! 温かいお食事やデザート、お飲み物をご用意させていただきますなのなっ!」
定刻より三時間遅れでハーパータウン駅へ到着した列車からは、普段よりも多くのお客様が降りて来ていた。
どうやら減便や運休になる可能性を見越し、前倒しで乗車されてきたお客様が多くいたようだ。
列車内には蒸気機関の熱を利用した暖房が備わっているとはいえ、この寒さでは十分に効いていたとは言い難かったようだ。
お客様の疲労の色は濃く、足取りは重い。底冷えする寒さに身を震わせながら長時間の乗車で参ってしまっているのは明らかであった。
ニャーチとテオの二人は、そんなお客様の荷物運びを手伝いながら待機所へとその役割を変えた『ツバメ』へと案内していく。
地下の暖房窯を普段よりも強く炊き、また、二階へと通じる通気管のバルブを閉じることで、暖房の熱を出来る限り『ツバメ』のホールに集中させていた。
『ツバメ』に入ってきたお客様たちの口から、ほーっと息をつく音がきこえてくる。
タクミとルナは、お客様たちを席へと案内しながら、体調を崩されている人がいないか確認していく。
顔色はさえないものの、酷く体調を崩されているお客様はいないようだ。
タクミは、お客様の間を一回りした後、カウンターの前で一礼をしてから声をかけた。
「本日は天候の影響により列車の運行が大幅に遅れまして大変申し訳ございませんでした。ご覧のとおり、このハーパータウン周辺でも積雪をしており、ここから先の駅馬車の運行にも遅れがでております。各方面へと向かう駅馬車が到着次第ご案内させて頂きますので、それまでの間、どうぞこちらにてお休み頂ければと存じます。ささやかではございますが、お疲れの皆様に温まるお食事や甘味をご用意させて頂きます。お手数をおかけいたしますが、ご希望の皆様は店員までお申し付けください」
タクミの呼びかけに、お腹を空かせたお客様たちから次々と手が上がった。
タクミは、ニャーチとルナ、ロランドを呼び寄せると、4人がかりで注文を聞き、ハヤシライスや白玉ぜんざいを配っていく。
お客様の人数の割には静けさに包まれていたホールだったが、温かい食事や飲み物が配られると徐々にざわめきが広がっていく。
―― んー旨い!正直腹が減って辛抱たまらんかったのだ! ―― ああ、このアツアツのシチューが身体をポカポカ温めてくれる。 ―― それに、シチューを吸ったアロースがまたいい味をしている。お腹もしっかり満たされるし、これはいいな! ―― あら? こちらの甘いスープもとっても美味しいですわよ ―― これ、フディーアですわよね? 甘いフディーアなんて初めてですわ。 ―― 中に入っているこれがシラタマなのかな? モチモチしていてとってもおいしいの! ―― あらよかったわね、貴方も一口食べてみます? ―― ふん、甘いスープなんて軟弱な…… ―― あら、ではこちらは私一人でいただきますわね。 ―― ……別に一口位味見させてくれてもいいじゃないか。 ――- じゃあ、私はそちらの大きなお肉を味見さていただきますわ ―― ちょ!それ俺が大事にとっておいたやつ!
老若男女問わず、温かな料理に舌鼓を打っていた。表情を綻ばせていくお客様の姿を見て、タクミはほっと一息つく。
やがて、少しお腹が落ち着いて元気が出たのか、子供たちが客先の間を縫うように動き回るようになってきた。
そしてカウンターにいた店員を見つけると、一目散に近寄って声をかける。
「ボク、喉がかわいちゃった。何か飲み物はなーい?」
「こらっ! おねだりしてはいけませんっ! すいません、不躾で……」
慌てて駆け寄ってきた母親が、子供を叱ろうとする。
しかし、ニャーチはいつもの明るい笑顔で、二人に話しかけた。
「んにゃっ! 大丈夫なのなっ!ちゃんと用意してあるから、ちょっとだけまっててなのなっ。他の子たちも温かくておいしい飲み物出してあげるから、順番に並んでなのにゃーっ!」
ニャーチがホールの子供たちに呼びかけると、皆一斉に振り返る。
そして、子供たちは歓声を上げながら、カウンターの前に並び始めた。
行儀のよいお子様たちに笑顔を見せながら、ニャーチは鍋の中で温めていた特製のドリンクを渡していく。
「どうぞ、ミエール入りのホットナランハジュースなのなっ! 熱いからよくふーふーして飲むといいのにゃっ!」
大きな持ちてのついたマグカップに橙色の温かなジュースを注いでは、次々に渡していくニャーチ。
それを受け取った子供たちは、ニャーチに言われたとおりにふーふーと息を吹きかけてから、すするようにして飲んでいった。
ナランハの酸味がミエールの甘みでまろやかに包まれ、甘酸っぱい味わいが口中に広がる。
その美味しい宝物を大切そうに抱えた子供たちは、互いに笑顔を交わし合っていた。
そんな子供たちを横目にしながら、今度はシルクハットをかぶった老紳士がタクミに声をかけてきた。
「もしよければ、私も何か飲み物を頂けないだろうか? できればジュースではなくてコーヒーか何かが良いのだが……」
「かしこまりました。ええと、アルコールは大丈夫でしょうか? もしアルコールが苦手でなければ、どうぞこちらをお召し上がりください。身体をしっかりと温めて頂けるかと存じます」
そういってタクミが差し出したのは、ふんわりと泡立てられた白いクリームが表面を覆っていた。
老紳士は、ありがとう、と頭を下げ、カップを受け取る。
席に戻った老紳士が添えてあったスプーンでそっとクリームをなでると、その下からは琥珀色の温かな液体 ―― コーヒーが注がれていた。
ふむ、と一つ頷いた老紳士は、カップを口元へと運びそっと傾ける。
クリームのコクとコーヒーの苦味、そして予めコーヒーに合わせられていたであろう砂糖の僅かな甘みが口の中へと広がった。
クリームが使われているせいか、普段嗜んでいるシナモン・コーヒーよりもまろやかで、そしてより身体を温めてくれるようだ。
そして、このコーヒーからは、独特の特徴的な風味がもう一つ感じられた。
まろやかさの中にカーッと焼けるような風味が舌の上を転がっていく。喉を通していけば、その熱さが胃へと伝わり、お腹の中からポカポカと温まってきた。
その独特の風味は、老紳士にとって馴染み深い物であった。正体を探り当てた老紳士が、思わずつぶやく。
「なるほど、この風味の正体はロンか。これは有り難いな。身体が芯から温まるようだ。しかし……」
老紳士は、一口、また一口とカップを傾ける。アルコールが入っているせいか、ついついペースが上がってしまうようだ。
「これは、お代わりはほどほどにしなければならぬな」
一人苦笑いをして再び呟く老紳士。そして、カウンターにいるタクミの方を見やると、視線を合わせてからそっと頭を傾けた。
老紳士の仕草に気づいたタクミも、ありがとうございますと小声で応えながら頭を下げる。そして再びお客様への対応へと戻っていった。
―――――
ハーパータウン駅周辺ではその後も断続的に雪が降り続いていた。
第二便以降の列車は、運行の安全確保の見通しが立たないとして本部より運休とするように指令が下された。
本日乗車予定だったお客様がちらほらと駅舎を訪れていたものの、タクミとテオから丁寧に説明をすると天候には勝てないと皆様納得いただけたようだ。
喫茶店『ツバメ』で駅馬車を待機していたお客様たちは、本来の予定よりは大幅に遅れてしまったものの順次目的の方向へと向かうことができていた。
そして夕方に差し掛かったころには、天候もようやく回復の兆しを見せていた。
灰色の雪雲の切れ間から、赤い夕陽が差し込んでくる。
この調子でいけば、明日には“駅舎”も“喫茶店”も通常通りの営業に戻ることができるであろう。
お客様を送りだし、早めに店じまいをした喫茶店『ツバメ』では、タクミとニャーチ、ルナ、ロランド、そしてテオの五人が揃って食卓を囲んでいた。
タクミは少し残った白玉ぜんざいを全員に配ると、四人に労いの言葉をかける。
「お疲れ様でした。皆さんのおかげで、今日一日を無事終えることができました。それでは、頂きましょう」
「はーいっ! いっただっきますなのなーっ!」
ニャーチはそういうと、早速白玉ぜんざいを掻き込んでいった。その懐かしい甘味を久々に味わい、ふにゃぁと鳴き声のような声を上げて顔をほころばせる。
他の三人も、満面の笑顔を浮かべながら白玉ぜんざいをすすっていた。
「本当に美味しいですっ! さっきも少し味見させてもらいましたが、こうやって完成品を食べるとまた別物に感じますっ!」
「最初は吃驚しましたが、フディーアの味わいがいいっすね。甘さの中にもしっかりフディーアの風味が感じられて食が進むっす!」
「えーっと、たしかシラタマでしたっけ? これがまたいいですねー。プニプニでモチモチで病み付きになりそうです。ん…??……むぐぐっ!」
喋りながら食べ進めていたテオが、ケホケホッとむせ返した。どうやら一度に白玉を頬張りすぎたせいで、喉に詰まらせかけてしまったようだ。
テオが胸をドンドンとたたいて、慌てて水で飲み下す。幸い大事には至らなかったようだ。
苦しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたテオに、ニャーチがあきれた表情で声をかける。
「もー、慌てすぎなのなよっ!そんな風に急いで食べなくてもシラタマは逃げないのなっ!」
珍しく正論で諭すニャーチにくすっと微笑みながら、タクミも言葉を続けた。
「本当に気を付けてくださいね。ところで、この白玉はスープに入れてもおいしいんですよ。少し固めに仕上げてスープに直接入れるのですけど、しっかりと炊くと味が染みてまた美味しいんです」
タクミの話に、四人がふむふむと相づちを打つ。
そして一瞬の間の後、ニャーチは何かを思い出したように大きな声を上げた。
「えーっと、それって……そうそう、スイトンの術なのなっ!」
「惜しい、“術”はいらないです。スイトンという料理ですね」
「そう、それなのなっ!」
微妙に間違えても気にしないニャーチに、タクミは思わず苦笑いする。
一方のロランドは、新しい料理に興味津々のようだ。
「スイトンっすか! それも何か旨そうっすね! 今度是非教えて欲しいっす!」
「あ、私もお願いしますっ!」
ロランドに続けて、ルナも身を乗り出すようにして声を上げた。
もちろんいいですよ、と二人に応えるタクミ。
すると、料理が苦手なテオが珍しく三人の話に首を突っ込んできた。
「じゃあ、私は試食係ということで……」
テオの言葉に、ニャーチの表情が一変する。
そして、キシャーっと威嚇するようにテオに言葉を返した。
「喉にシラタマを詰まらせるような人に試食係は任せていられないのなっ! ここは私の出番なのなっ!」
その言葉をふーむと受け止めたタクミは、くすっと一つ笑ってからテオに宣告を施す。
「確かに、ここはテオじゃなくてニャーチに試食を任せた方がよさそうですねぇ」
「そんなぁ。 タクミさんまで……酷いです~」
タクミの非情な宣告に、テオは情けない声を上げて机に突っ伏す。
その姿を見た四人は、思わず吹き出してしまった。
そんなに笑わなくても~、と再び情けない声を上げるテオ。
笑いをこらえきれなくなった四人がお腹を抱えると、いっそう大きな笑い声がホールへと響き渡るのであった。




