30 老獪な御婦人と初めて作るスープ(2/4パート)
※2016.1.19 22:00更新 2/4パート
※第1パートからの続きです。まだお読みでない方は第1パート(前話)よりお読みください。
「タクミさん、先ほどは取り乱して失礼いたしました。こちら、私の祖母、イメルダですわ」
「イメルダと申します。改めてよろしくお願いしますわね」
まだ若干顔をひきつらせているソフィアに対し、老婦人イメルダは楽しそうな笑みを浮かべていた。
確かにこうして並んでみるとどこか面影が感じられる。タクミはそんなことを想いながら、一礼をして挨拶した。
「ソフィア様にはハーパータウンにお越しになるたびに当店にお立ち寄り頂いておりまして、本当に有り難く存じます」
「ええ、存じておりますわ。それに会合とかでも随分使わせていただいているようですわね。でも、先ほどの料理を頂いて、ソフィアがこちらの店を選んだことを得心いたしましたわ」
「タクミさんには、氷の件とか、パトの件とかでもとってもお世話になっているのよ」
「左様ですか。それはますます感謝しなければなりませんね。いつも大変ありがとうございます」
「いえいえ、過分なお言葉で恐縮でございます。こちらこそ、ソフィアさんのおかげで手に入るようになったものも多く、大変感謝しております」
タクミが再び頭を下げると、イメルダがうんうんと二度頷いた。
そしてイメルダは、改めて孫娘に向き直し、声をかける。
「さて、ソフィア。 明日は確か午前中でお仕事は終わりだったわね? 特に予定がなければ早めに家に戻りますわよ。 “今後のこと”についてしっかりとお話しましょうね」
祖母の口から発せられた言葉に、ソフィアは両眉を持ち上げて目を見開いた。
祖母が語る“今後のこと”が意味するところはソフィアにも十分わかっていた。あえて口にしたということは、いよいよ本気で動くつもりなのであろう。
しかし、祖母の望む相手と結ばれるということは必ずしもソフィアの意に沿うものではなかった。
もちろん生家のことを考えれば、いつまでも身を固めないというのは拙い話であるということは理解している。
しかし、今はまだもう少し自由でありたいとソフィアは感じていた。
それに、そもそも明日は二ヶ月に一度の“約束の日”だ。ソフィアにとってこのスケジュールだけは譲ることができないものであった。
とはいえ、例え祖母とはいえ二人だけの約束をつまびらかにすることは望むものではない。ソフィアは言葉を選びながら、祖母に話しかけた。
「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ。明日は、お昼からも人と会う約束をしておりますの。こちらで食事をご一緒することになっていまして、料理の手配もお願いしておりますわ。ですよね、タクミさん?」
「ええ。確かに承っております」
ソフィアの言葉に、タクミも頷いて同意を示す。
細かいことは伝えていないがさすがに人と会う約束を反故にしろとまでは言わないだろう。それに、タクミも上手くフォローしてくれたしこれなら祖母も納得してくれるはずだ ―― そういう計算の上で、ソフィアは“明かせしても良い部分”だけを選んで説明したつもりだった。
しかし、イメルダが次に発した言葉は、ソフィアの計算をはるかに超えるものであった。
「リベルト・デ・ラウレンティス、確かテネシー共和国から来ている大使閣下。どう? 違った?」
「おばあ様! どうしてそれを!!」
誰にも話していないはずの“約束”の相手の名を祖母に言い当てられ、ソフィアは思わず机をバンと叩いて立ち上がる。
しかし、ソフィアが驚くのは祖母にとっては織り込み済みだったようだ。イメルダは、いたって冷静に、慌てるソフィアをたしなめながら話を続けた。
「机をドンだなんて、はしたないわねぇ。 そもそも、アナタは私を誰だと思って? その気になれば、これくらいのことすぐに調べられるのは、ソフィアもよーく知っていることじゃないかい?」
自信満々なイメルダの言葉に、ソフィアは額を手に抑えながらへたり込むようにして椅子の背へともたれ掛かった。
確かにイメルダは、興隆期にあったマリメイド家において亡き祖父とともに名を馳せた人物だ。特に何事も逃さない情報収集力と、僅かな情報から正しい結論を導き出す洞察力は、商売のライバルたちから恐れられるほどであり、マリメイド家の興隆の礎になったとも言われている。
もっとも、そのおかげで祖父が外で羽を伸ばしすぎてしまった時などは何かと大変だったようであるが、それはまた別のお話である。
しかし、いくら情報収集力に一日の長があるイメルダとはいえ明日リベルトと会うことまでつきとめられるのだろうか、ソフィアの心に疑問符が浮かび上がった。
なぜなら、リベルトとこの場で会っていることを知っているのは信頼のおけるごく僅かな人間に限られるからだ。
明日の約束について知っているとすれば、リベルト本人とタクミをはじめとした『ツバメ』の関係者、それとシルバ商会のサバスに、しいて言えばタクミを通じて“駅長”に伝わっているかどうかというところであろう。
いずれにせよ、この中の誰ひとりとして外部に情報を漏らすとは思えなかった。
では、なぜ突き止められたのか……答えが思い浮かばず、ソフィアは不思議そうに首をかしげる。
その様子を見ていたイメルダが、微笑みながらタネを明かした。
「どうしてわかったか不思議そうね。でも、ちょっと調べたら簡単だったわ。ここ最近のあなたのスケジュールを見たら、随分頻繁にハーパータウンを訪れているようじゃない。で、その前後に合わせるようにリベルト閣下もハーパータウンでいろんな活動をされているのが新聞記事で紹介されていたわ。そうそう予定が重なる偶然なんて起こらないわよね? あとは、女の直感といったところかしら?」
ぐうの音も出ない回答にソフィアはため息をつき、もろ手を上げて降参の姿勢を見せる。
「参りました。“百耳”のイメルダおばあ様はまだまだ健在ということですわね。でも、リベルト殿とお会いするのは深い意味はございませんわよ。確かに全てが仕事ってわけではないですが、あくまでも友人として親睦を深めるというのが目的ですわ」
何とか気持ちを落ち着けながら、ソフィアは二人の“約束”に変な意味を持たせないようごまかそうとする。
嘘は言っていないつもりだ。確かに尊敬できる相手ではあるし、仕事の時に見せる真剣な姿は素敵な方だと感じる。
しかし、今はまだ“友人”としての関係にすぎない。そう、だからあくまでも“友人”との会食なのだ……ソフィアは自分に言い聞かせるように心の中でつぶやく。
一方のイメルダからすれば、そんな孫娘の心の内など手に取るように感じられた。
イメルダは、祖母として、そして人生の先輩として優しく諭すようにソフィアに語りかける。
「それも今のところは、じゃないのかい? それに先方さんは、憎からず思ってるんじゃないんかねぇ?」
「そ、それは……」
祖母から投げかけられたストレートど真ん中の言葉に、ソフィアは言葉を詰まらせた。
少なくともこうして二人で会う時間を作ってくれるのだから、憎からずは思ってくれているであろう。
しかし、彼の気持ちが果たしてどこまでのものであるのか、今はまだ測りかねていた。
もし自分だけが一方的に想いを募らせて今の関係が壊れてしまうようなことがあったらとても悲しい想いをしてしまう……そう思うと、ソフィアはつい二の足を踏んでしまうのだった。
そんな揺れ動くソフィアを様子を見ていたイメルダが、ケラケラと笑いながら発破をかける。
「なんだい、仕事ではあんなにバリバリやっているのに、こっち方面になると全く奥手だねぇ。まぁいいさ。とりあえず、明日は私もご一緒させていただこうかね。ソフィアが気にしているのがどんな男か、ちょっと見てやろうじゃないか」
「ええ! そ、そんな……!」
「なんだい、何か文句でもあるんかい? ということでタクミさん、明日の料理を一人前追加で。あと、会計は私の方に回すようにお願いね」
あっという間に明日の段取りを決めてしまったイメルダが、二人の横で静かに話を聞いていたタクミに人数の追加を依頼した。
タクミはその注文を承っても良い物かどうか、ソフィアに視線を送る。
「……こうなると、もう止まらないわ。タクミさん、明日1名追加お願いできるかしら?」
「ええ、準備はこれからでしたので問題ございません。何か苦手なものはございますか?」
「いや、特に大丈夫さね。今日は軽めの料理だったから、明日はタクミさんの気合のこもった料理を食べさせてもらえるとうれしいねぇ」
「かしこまりました。それでは明日、改めてお待ちしております」
「今日の料理があれだけの出来だったんだ。明日も期待してるさね。じゃあ行くわよ、ソフィア。タクミさん、美味しい料理をごちそうさま」
イメルダは満足げな表情で席を立つと、釣りは明日の前払いだ、と言い残しつつタクミに先ほどの銀貨を渡す。
代金を頂き過ぎであることに気づいたタクミが慌てて追いかけるが、イメルダはさっさと扉の外へと出て行ってしまった。
その後を追いかけて言うソフィアが、タクミに詫びを入れる。
「ごめんなさい、おばあ様は一度決めたら頑固なの。今日はいったん預かっておいてもらって、明日改めて精算させていただいてもいいかしら?」
「かしこまりました。ではそのようにさせて頂きます」
祖母に振り回されるソフィアの顔を立てて、タクミは申し出を受け入れる。
明日は波乱の一日になりそうだ。タクミは改めて気合を入れ直すと、一人前追加となったメニューの組み立てを考えはじめるのであった。
―――――
翌日、喫茶店『ツバメ』の二階に設えられた個室席にリベルトとソフィア、そしてイメルダの姿があった。
予定より一名追加となった昼餐会の席は、和やかな雰囲気ながらもどこかに妙な緊張感が漂っている。
その張り詰めた空気を打ち破るように、リベルトが席を立って先に挨拶の言葉を述べた。
「はじめまして。リベルト・デ・ラウレンティスと申します」
「イメルダ・マリメイドよ。今日は突然押しかけてしまってごめんなさいね」
「いえいえ、イメルダ様のような素敵な方と同席できる機会を頂きまして、大変光栄に存じます。いつもソフィア殿には大変お世話になっております」
「こちらこそ、孫娘が大変お世話になっているとお伺いしておりますわ。パトの件では、随分ご迷惑をおかけしたのではないかしら?」
「とんでもない。パトの交易を始めることができたのも、ソフィア殿に大変なご尽力を頂いたおかげです。本当に感謝しております」
「マリメイド家としても、リベルト殿にお力添え頂いたおかげで大きな成果を上げられましたわ。改めて御礼申し上げます」
リベルトとイメルダがお互いにビジネストークを繰り広げる。二人ともにこやかな表情に見えるものの、目元だけは笑っていない。丁寧な言葉遣いではあるが、まずは互いに腹の探り合いというところであろう。
そうなると、辛いのがソフィアだ。リベルトの正面、イメルダの隣に座ってはいるものの、気分としてはがっしり二人の間に挟まれているように感じていた。
普段よりも小さく身を縮めているソフィアに、イメルダが声をかける。
「どうしたんだい? 私がいるからって遠慮する必要はないんだよ? ほら、リベルト様に挨拶をしなさい」
「え、ええ……。リベルト様、お、お久しぶりでございますわ。今年もよろしくお願いいたしますわ」
努めて普通に振る舞おうとするあまり、かえってぎこちなくなってしまうソフィア。
普段とは違う態度に新鮮さを感じたのか、リベルトがニヤッと笑いながら声をかける。
「おや、今日は随分大人しいですな。昨年の秋頃などは、私を突き飛ばすほどの元気があったというのに」
「おやまぁ、アンタというのはそんな失礼なことを……」
リベルトの発言に、驚きの声を上げるイメルダ。
その横で慌てふためいたのはソフィアだ。 昔の証文を持ち出され、顔を真っ赤にしながら早口でまくしたてる。
「ちょ、ちょっと待って! アレは単なる事故でしょ!? それは突き飛ばしたのは悪かったと思ってるけど、リベルトさんが急に私を抱き寄せるから……ってそれも階段から転んで落ちそうになった私を助けてくれたからんだけど……あーっ、もうっ!」
言葉がまとまらず、頬を膨らませて誤魔化そうとするソフィア。
そんな様子を、リベルトは楽しげに見つめて、イメルダも口角を持ち上げながら孫娘に視線を送る。
二人の視線に気づいたソフィアは、さらに顔を赤く染めながら二人に抗議の声を上げた。
「ちょっと、なによ二人とも! まるで私一人が焦ってるみたいじゃない!」
「まぁ、その通りだから仕方がないだろう? しかし、ようやくいつもの調子が出てきたようだな……」
リベルトはそう言うと、もう堪えきれないとばかりにクスクスと笑い出した。
続いてイメルダもクックックと何とか噛み殺しつつも笑みを漏らす。
ここでようやく二人にからかわれたと気付いたソフィアは、もー、二人とも酷いんだからーといいつつ頬を膨らませた。
三人がようやく和やかな雰囲気となったところで、部屋の扉がコンコンとノックされた。
リベルトがどうぞと声をかけると、部屋に入ってきたのはタクミであった。
運んできた一皿目の品をテーブルに並べながら、タクミがソフィアに声をかける。
「廊下まで賑やかな声が響いてましたよ。ソフィアさんが大声を上げられるのは珍しいですね。新鮮な経験でした」
「もーっ、タクミさんまでひどいですわ! ええっと、これが今日の前菜ね。どれも美味しそうですわ」
三人の前に供された長細い角皿の上には、三種類の料理が載せられていた。色彩豊かな料理の数々に、ソフィアは目を奪われる。
正面に座るリベルトもまた料理に興味津々といった様子だ。料理を見つめながら、タクミに質問を投げかける。
「何やら今日も手が込んでいそうだな。説明してもらえるか?」
「今日の一皿目は、三種の前菜の盛り合わせです。左から順に、サナオリアとアーピオの甘酢漬け、ローストポーク、パタータとエスピナーカ を合わせた玉子焼きです。ローストポークには干したカマロンと辛みの強い赤いピミエント、それにアッホ等を使って作りました特製のラー油……香味油を添えております」
「前菜が三種類も出て来るとは何ともすごいね。驚いたよ」
「ありがとうございます。品数はございますが、どれも量は控えめにしておりますので、お腹への負担は少ないかと存じます。どうぞご堪能くださいませ」
タクミはそう述べると、次の料理の準備へと向かうため扉の前で一礼をして部屋を辞した。
「では、早速頂こうかね」
イメルダは胸の前で両手を組むと、小声で食前の祈りを捧げる。リベルトとソフィアの二人もそれに合わせて胸の前で両手を組み、黙想した。
短い祈りの後、イメルダはお皿全体を見渡してから、右端にある玉子焼きへとフォークを伸ばした。一口大に切り分けられている玉子焼きは、鮮やかな黄色のところどころにエスピナーカの緑が映え、美しい仕上がりとなっている。
口の中にほおり込むと、スライスされたパタータのホクホク感と、シャキシャキ感の残るエスピナーカの食感の対比が何とも楽しく感じられた。
そして塩コショウで少し強めに味付けされた具材を、玉子がまろやかに包み込んでおり、調和のとれた味わいとなっている。
パタータと玉子、エスピナーカと玉子をそれぞれに合わせた料理はこれまでに何度も頂いたことがある。しかし、その両方を一度にとなると、これまで様々な料理を嗜んできたイメルダにとっても初めての経験だった。
シンプルながらも新鮮な玉子焼きの味わいに、イメルダが思わず喉を唸らせる。
「ほう、材料は素朴なのに随分面白い味わいじゃないか。昨日も思ったけど、タクミ殿というのは本当に大した腕前だねぇ」
「でしょ? だから私もリベルトさんも、タクミさんの料理が目当てでこうしてここに集まっているのよ」
イメルダの言葉に、ソフィアはまるで自分のことを褒められたように喜びを見せた。
その様子に、リベルトもうんうんと頷きながら言葉を重ねる。
「ハーパータウンまでは何か理由が無ければなかなか来られませんからな。しかし、タクミ殿の料理はここでしか味わうことができません。そこで、私からソフィア殿にご無理を申しまして、定期的にこちらでの“会合”を行わせて頂いているのです」
「なるほど、良く考えたねぇ。そうすれば、うちの孫娘と二人きりの時間を持てるというわけだね?」
イメルダがニヤッと笑いかけながら、言葉で探りを入れてくる。
しかし、若き辣腕大使も負けてはいない。リベルトも、口角を持ち上げながらしれっと言葉を返す。
「ええ、おかげさまで楽しい時間を過ごさせて頂いております」
さりげない言葉の応酬の中で、二人は微笑みを交わし合う。
その時、話がおかしな方向に流れそうになったのを察したソフィアが、必死になって二人へ話しかけてきた。
「ちょっと、そんな話より料理を楽しみませんか? このローストポーク、ソースがピリッと辛くて、食が進みますわよ」
「へぇ、どれどれ、こちらも頂いてみようかね」
孫娘の慌てる様子を楽しみながら、イメルダはローストポークを口へと運ぶ。
じっくりと熱を通されたローストポークを頬張ると、脂の旨みが口の中へジュワーと広がった。そしてもぐもぐと噛み締めるたびに、今度は肉本来が持つ旨味がじわじわと押し寄せてくる。
そしてこの味わいを引き締めているのがソースとして添えられた香味油だ。何とも刺激的なその味わいに、イメルダは驚きを隠せない
「ほう、これはまた……確かに辛いけど、イヤな辛さじゃないねぇ。香味と旨味がしっかりしているよ」
「確かにこのソースは初めて食べる味わいですな。いやはや、タクミ殿はどれだけ引出しをもっていることやら……」
イメルダに続けてローストポークを食したリベルトからも、感嘆の声が上がった。
ピミエントの強い辛さとアッホやヘンヒブレの香味、それにカマロンから染み出た特有の旨味が混然一体となっている香味油。確かにかなり辛いのだが、その内側からは不思議と甘みも感じられる。
そしてこの香味油の辛さと香り、そして旨味が、ややあっさり味に仕上げられたローストポークの美味しさを最大限に引き出していた。
そして今度は三つ目の品である甘酢漬けを食していたソフィアから声が漏れる。
「んー、こちらは甘酸っぱくって、口の中がさっぱりしますわ。それに、この歯ごたえも楽しいですわね」
薄くスライスしたアーピオと千切りにされたサナオリアは、どちらもシャキシャキと心地よい歯ごたえを感じさせる。
それらの2つの野菜に甘酢が程よく絡んで、爽やかな逸品に仕立てられていた。
ソフィアに続いて甘酢漬けを食していたイメルダが、ふと気づいたように声を上げる。
「なるほどねぇ。五味をしっかり揃えたってところかね」
しみじみと語るイメルダに、リベルトがふむ、と一つ相づちを打ってその言葉を咀嚼する。
「五味ですか……なるほど、確かに玉子焼きは塩味ですし、ローストポークのソースは辛味が、そして甘酢漬けが甘みと酸味が主になっていますな。さてそうなると、もうひと味は……」
「このアーピオですわね。生のアーピオ特有の癖のある苦味が、全体の味わいのバランスを整える役割を果たしていますわ」
リベルトの言葉に、ソフィアが続いて考えを述べる。
二人の掛け合いに、イメルダはうんうんと頷きながら言葉を続けた。
「また、この控えめな量も憎い演出だねぇ。少し足りないかなという量にされちまっているから、美味しい料理を食べているというのにかえってお腹がすいちまうよ。さぁ、そうなると次の品が俄然楽しみになるねぇ」
「タクミさんのことですから、きっと素晴らしい料理を運んできてくれますわよ」
これだから喫茶店『ツバメ』には何度も足を運びたくなるのだ。次はどんなに好奇心を刺激される料理を運んできてくれるのだろう……、想像をますます膨らませるソフィアであった。
※第3パートに続きます。




