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異世界駅舎の喫茶店  作者: Swind/神凪唐州


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26 重ねられる試作と再現したい味(3/3パート)

※2015.11.30 20:00更新 3/3パート

※第1パートからの続きです。まだお読みでない方は第1パート(2話前)よりお読みください。

 数日後、パンの配達のために喫茶店『ツバメ』を訪れたサルバドールは、タクミから一つの要件を頼まれる。その要件とは、グスタフと共に再び『ツバメ』へと来てほしいということ。先日話をしていた“アレ”がようやく完成したので、試食をお願いしたいとの話であった。


 言伝を受け取ったグスタフは、“アレ”が完成したとの報を自分のことのように喜び、早速サルバドールと連れ立って喫茶店『ツバメ』を訪れる。

 いつものようにニャーチに案内された席に座っていた二人の下へ、タクミが挨拶にやって来た。

 タクミは、二人の再訪に丁寧なお辞儀にて感謝の気持ちを示す。


「お忙しい中お越しいただきましてありがとうございます」

 

「おう、例の“アレ”が出来たんだって?」


 そう尋ねるグスタフの声は弾んでいた。タクミの新作を“試食”できることに、すっかり心を躍らせていたのだ。

 嬉しそうに顔を綻ばせるグスタフに、タクミも笑顔で応える。


「ええ、ようやく形にすることができました。そこで、正式にメニューに加える前に、ぜひお二人のご意見をお伺いしたいと思い、お呼び立てさせていただいた次第です。ご無理を申し上げまして恐縮です」


 いつものように謙遜しつつ丁寧に話すタクミ。しかし、サルバドールは、その瞳の奥にある鋭い光を見逃さなかった。いつものように少し溜めを作ってから、タクミへと話しかける。


「……その顔を見る限り、ずいぶん自信がありそうだな」


「恐縮でございます。自分としては満足がいく出来にはなりましたが、皆様の好みに合うかどうかはまた別のお話でございます。忌憚なくご意見を頂ければ幸いでございます」


 タクミの言葉に、サルバドールは口角を持ち上げる。タクミから発せられた『満足のいく出来』という言葉に、今日の料理に対する自信が感じられた。

 であれば、あとは料理でその思いを受け取ろう。 ―― そう考えたサルバドールは、これ以上のやりとりは無用とばかりに、タクミに注文を告げた。


「……では、早速二人前頂きたい。よろしく頼む」


「かしこまりました。それでは少々お待ちください」


 注文を承ったタクミは、いつものように丁寧に頭を下げてからキッチンへと戻っていった。




―――――




 キッチンに戻ると、オーブンストーブの上に置かれた平鍋から湯気が立ち上っていた。鍋の中に入っているのは事前に仕込んでおいた“特製ソース”。先日の試作を通じて完成させたレシピ通りに作られたそのソースは、天板を伝わる熱により鍋の中で保温されながら出番を待っていた。


 キッチンへと戻ってきたタクミに、ランチの後片付け作業をしていたロランド声がをかける。


「を、いよいよアレを作るんっすね!作り方見せてもらっていいっすか?」


「もちろんです。とはいっても、ソースさえあれば調理手順そのものは比較的シンプルです。正式にメニューに加えた後はロランドにも調理を任せたいと思っていますので、よく見ていてくださいね」


 タクミからの“任せたい”という言葉に、俄然やる気が出てきたロランド。ひときわ大きな声でタクミへと応える。


「了解っす!しっかり見ているっす!」


「じゃあ、後片付けは私に任せてくださいっ!あと一息なので私がやっちゃいますっ!」


 ロランドの張り切る様子に、私学校から帰ってきた後、一緒にランチの後片づけ作業を行っていたルナが宣言した。

 ロランドが何か口を挟もうとしたが、ルナはその言葉を待つことなく水の中に沈めていたお皿を全部自分の手元の方へと引き寄せる。ルナの視線には、自分の出来ることは任せてほしいという強い意志が込められていた。

 ルナの想いを受け止めたロランドは、その気遣いをありがたく受け止める。

  

「ルナちゃん、ありがとうっす!このお礼はまたちゃんとさせてもらうっす!」


「お礼なんていいですよーっ。その代り、今度機会があったら、ロランドお兄ちゃんの作ったパトを食べさせてくださいねっ」


「そんなのお茶の子さいさいっす!師匠、いいっすよね?」

 

「ええ、構いませんよ。ルナちゃんに食べてもらうのですから、しっかりと見て覚えて下さいね」


「もちろんっす!」

 

 タクミの言葉に元気よく応えたロランドは、手を拭きながらタクミが調理する様子を見渡せる場所へと移動する。その様子をじっと見守っていたタクミは、ロランドの準備が整ったことを確認すると、一つ頷いてから調理へととりかかった。


 最初に、用意しておいたセボーリャ(玉ねぎ)ピミエント(ピーマン)がタクミの手によって千切りにされ、トマトも小さ目の四角にカットされる。オンゴは薄くスライスされ、ヴルストも細かく刻まれた。

 続いて、瓶詰の蓋をパカッと開いたタクミは、中からマイス(とうもろこし)の粒を取り出して小皿へと取り分ける。

 これとは別に、本日のランチ用に用意されていた唐揚げ用の鶏もも肉 ―― 白ワインや野菜の摩り下ろしなどを混ぜ合わせた特製のタレに漬け込み下味をつけたもの ―― も大きめにカットし、アロース(コメ)粉とマイス粉を混ぜた衣用の粉をまぶした。


 ここから作業は一気に進められる。タクミは、中火よりやや弱めの火力に調整したロケットストーブの上で適温に温めた揚げ油の中に、先ほど衣をつけた鶏肉を投入する。この唐揚げが一つ目の具材だ。


 唐揚げが揚がるまでの間を利用してもう一つの具材も準備された。

 もう一台のロケットストーブを強火に調整したタクミは、その上にフライパンを置きコルザ(菜種)油を回し入れる。熱された油から少し煙が立ってきたところで、ヴルスト、ピミエント、セボーリャ、オンゴの順で食材を投入し、フライパンをよく振りながら炒め合わせた。

 セボーリャが軽く透き通ってきたところで、塩、コショウを軽く振って味付けをする。ヴルストが塩分を含んでいるため、塩の量は控えめだ。

 強い火力であっという間に仕上げられたヴルスト入りの野菜炒めは、フライパンに入れられたままオーブンストーブの天板の上で保温された。


 続けてパトの用意だ。今日のパトも“茹で置き”のものを使っている。

 タクミは、新しく用意したフライパンにやや多めのコルザ油を入れると、再び強火に調整したロケットストーブの上で油を温める。そして、手をかざして十分に熱が回ったことを確認した後、茹で置きにしておいた太めのパトを投入した。


 時間をかけて揚げられる大ぶりの唐揚げの状態に注意しながら、タクミはパトを炒めていく。並行して進められる作業を見逃さないようにと、ロランドは目を皿のようにして一つ一つの作業を注視していた。


「うーん、あのフライパン捌き、いつみてもすごいっすね……」


 ロランドが思わず言葉をこぼす。二人分のパトはそれなりの重量となるはずなのだが、タクミがフライパンを振るうそのさまは、何とも軽やかに感じられるのだ。


「本当にすごいですっ。かっこいいですっ!」


 独り言として呟いたつもりのロランドだったが、後片付けを終えていつのまにかロランドの横へ移動していたルナに聞かれていたようだ。

 突然隣から声をかけられたロランドは少々驚いたものの、ルナの方を一瞬だけ振り向いて一つ頷くと、すぐさま作業を続けるタクミの手元へ視線を戻した。


 揚げ油の中では、鶏肉にまぶされた衣がこんがりと狐色に色づいていた。揚げ物特有のシュワーっという音の中に、パチパチと弾けるような高い音が徐々に増えてくる。この色と音が揚げ上がりのタイミングだ。

 タクミはいったん揚げもの用の鍋の前に場所を移動すると、網を引いたバットの上へ大ぶりの唐揚げを引き上げた。

 

 唐揚げを油の中から取り出したタクミは、再びパトを炒めているフライパンの前へと戻る。ほどなくしてパトも炒め上がった。いよいよ最後の仕上げだ。

 タクミは、キッチンテーブルの上へ並べて置いた2枚の皿の上に先ほど炒めたばかりのパトを均等に盛り付ける。パトの上には先ほどのヴルスト入り野菜炒めが載せられ、さらにその上からマイスの粒と角切りトマトが散らされた。

 そしてタクミは、パトを盛り付けた皿を一つ手に取り、オーブンストーブの前へと運ぶ。今日のパトの“要”となる特製ソースを、パトの周囲に輪を描くようにしながらがたっぷりとかけた。白い具材の周りに赤みがかったソースが流れていき、皿の上から湯気がたっぷりと沸き上がる。


 もう一皿にも同じようにソースをかけた後、最後の最後に先ほど揚げたばかりのから揚げを載せて、“例のアレ”こと新作パトが完成となった。

 作業を終えたタクミの口から、ふぅ、とため息がこぼれる。そして、額の汗を軽く拭うと、作業の様子を見ていたロランドに声をかけた。


「こんなところです。手順は覚えられましたか?」


 タクミからの問いかけに、ロランドはうーん、と唸ってから片手を頭の後ろに回しながら答える。


「だいたいは分かったっす。ですけど、から揚げと炒めもの並行が大変そうっすね」


「おっと、そういえば今日はから揚げ付きにしていましたね。失礼しました。手順としては“ヴルストや野菜を炒める”部分と“パトを炒める”部分だけ理解してもらえば大丈夫です。ランチで出すときであれば、から揚げは役割分担することになりますので、こちらは並行作業で考える必要はありません」


 ロランドの悩みの原因を察したタクミから入ったフォローの言葉に、ロランドはほっとする。


「それならなんとかなりそうっす!そうなると、あとは一つ一つの作業をどれだけ手早く出来るかってことっすね。後で早速練習させて頂いていいっすか?」


 やる気みなぎるロランドの視線に、タクミも二つ返事で応える。


「ええ、ソースは残してありますし、材料も使ってもらって構いません。ただ、今日のところはとりあえず一人前にしておきましょうか。まずは一人前できちんと作れるようになってから、徐々に量を増やしていきましょう」


「りょーかいっす!そしたらルナちゃんも後で試食をお願いできるかい?この時間でも半分半分にすれば、夕食が入らなくなる心配は大丈夫だと思うっす!」


「分かりましたっ!ぜひ試食させてくださいっ!」


 ロランドの呼びかけに、試食が待ち遠しいとばかりに満面の笑みで応えるルナであった。




―――――




「お待たせしました。こちらが先日お話していた”アレ”こと、“あんかけパトのミラカン、から揚げトッピング”でございます。どうぞお召し上がりください」


 出来上がった新作料理をグスタフとサルバドールの前に並べながら、料理名を告げるタクミ。

 プレート皿の中央には油で炒められたのであろう艶やかな表情を見せるパトが盛り付けられおり、その上にはヴルストと野菜を炒め合わせたものがたっぷりと載せられていた。

 その周囲にはたっぷりとかけられているのは赤みがかったソース。その中には、ところどころに小さな黒い粒が入っているようだ。

 さらに、パトやソースの上には、大ぶりのから揚げも載せられている。見るからにボリューム満点のメニューであった。


 おいしそうな香りを漂わせるプレート皿の上の料理を前に、グスタフの喉がゴクリと鳴る。


「うむ。では早速頂くとしようかの」


「……ああ。温かい物は温かいうちに、だな」


 サルバドールも同意し、フォークを手に取った。

 今までに食したどのパトとも異なるソース、恐らくはこれが“新作”の部分なのであろう。そう考えたサルバドールは、まずはソースだけが絡むようにしながら手にしたフォークでパトを一口大に巻きつけ、口へと運ぶ。


「なんと、これは見た目に寄らず、なかなか刺激的な味じゃな!」


 サルバドールが味わいについての言葉を選び終わる前に、グスタフが叫んだ。

 確かにグスタフの言う通りだ。ソースにはしっかりとスパイス類が使われているようで、見た目の印象とは裏腹にパンチの効いた味に仕上げられていた。

 

 しかし、ただ辛いだけではない。ベースとなる味わいも相当しっかり仕上げられているようだ。

 全体としては“ミートソース”にも似た味わいの印象を受ける。しかし、肉や野菜といった具材は見当たらない。

 推測するに、恐らくは様々な具材を煮込んだ後、丁寧に濾すことによって旨みの成分だけを絞り出したということであろう。

 そして赤く色づいたソースの中にたっぷりと入れられた黒こしょうが、全体の味を引き締めるとともにソースを強くパンチの効いた味わいへと変化させているようだ。

 食べ進めていくと身体がポカポカしてくるが、恐らくはヘンヒブレやアッホといった香味野菜もふんだんに使われていると推察された。

 

「……なるほど、これは確かに今までにない味だな」


 サルバドールは一人つぶやき、ゆっくりと咀嚼しながらありそうでなかった新しい味わいを堪能する。

 続いては具材と合わせた時の味わいだ。サルバドールは、ヴルスト入りの野菜炒めを口へと運ぶ。

 シャキシャキの野菜とプリッとしたヴルストの食感の対比が何とも楽しい。オンゴの味わいも良いアクセントだ。

 しかし、特製ソースのパンチの効いた味わいの後では、味わいが薄く感じられてしまう。野菜炒めそのものは、ほとんど塩コショウだけのシンプルな味わいだ。

 ヴルストの旨みが野菜へと染みているとはいえ、スパイシーで強烈さを持ったソースの味わいの後では、少々物足りなく感じられてしまっていた。


 ソースと具材を別々に味わった後は、一体としたときの味わいを試す。サルバドールは、具材に特製ソースをたっぷりと絡めた後、パトを一緒に巻き取って口の中へ放り込んだ。


「……そうか、これはこうするべきか」


 サルバドールは気づかされた。そう、この具材は単体で食べることを想定したものではなかったのだ。

 強い味わいのソースをあっさり目に味付けされた具材がしっかりと受け止め、そこにヴルストやオンゴの旨みが加わっている。

 シャキシャキとした野菜は、重くなりがちな口の中をさっぱりとさせてくれる。単体では素っ気ない味わいであるパトとの相性も抜群だ。

 この料理はパトと炒めた具材、それにソースを一体として食べるのが正解なのだ ―― そう確信させるほどの美味しさがサルバドールの心を捉えていた。


「おおう、この唐揚げも旨いぞ!ソースが染みたところが、またいいな」


 フォークでぶすりと突き刺した唐揚げを頬張りながら、グスタフが感嘆の声を上げた。その表情からだけでも、随分と美味しそうなイメージが伝わってくる。その様子を見たサルバドールも、半ば無意識に唐揚げへと手を伸ばした。


 唐揚げそのものはここ『ツバメ』にて何度か食べさせていただいたことがあるものと同じ味付けであり、いつも通りの美味しさだった

 しかし、この唐揚げにパトのソースが加わると、味わいが一変する。トマトや野菜の旨みがふんだんに閉じ込められたスパイシーなソースが、から揚げの美味しさを別の角度から引き立てていた。

 胡椒でパンチがきいていることもあり、口の中が重くなりすぎずに食べ進められるのも良い。こちらも何とも後を引く味わいだ。


 やがてサルバドールの前に出されていたプレート皿はきれいに空となった。ボリューム感あふれる食事だったにも関わらず、一気に食べきってしまったのだ。

 遅めのランチになったとはいえ、このボリューム感あふれる料理を食べ切らせてしまうのは、それだけこのパトの味わいに“力”があるということだ。くちくなった腹をさすりながらタクミの腕前にすっかり感服するサルバドールであった。




―――――




「いかがでしたでしょうか?」


 食後のシナモン・コーヒーを運んできたタクミが、感想を尋ねてくる。先に言葉を発したのはグスタフだ。


「いや、旨かった。かなりのボリュームだったが、年甲斐もなくあっという間に食べきってしまったよ。お前はどう思った?」


 正面に座るサルバドールに呼びかけるグスタフ。しかし、呼びかけられた方は、黙って腕組みをしたまま思案顔を見せていた。

 グスタフが、おい、どうした?と再び呼びかけたところで、サルバドールはようやく重い口を開いた。


「……このソースはアンカケなのか?それともミラカンがソースの名なのか?」


 思わぬ角度からの質問に、タクミは一瞬目を開く。しかし、すぐに普段通りの笑顔へと戻り、質問へと答えた。


「ソースの名は“あんかけ”です。より正確に言えばあんかけの”あん”がソースという意味で、“あんをかける”のであんかけと呼んでいます。ミラカンというのはこのヴルストと野菜を炒め合わせた具材のことです」


「……なるほど。つまり、具材が変われば、また別のアンカケになるということか」


「仰る通りです。私の故郷の呼び方に習えば、ヴルストだけの場合はミラネーゼ、野菜炒めだけならカントリーとなります。ちなみにミラカンとはミラネーゼ・カントリーの略、つまり、両方入りということですね。他にも魚のフライを乗せたバイキングとか、エスピナーカ(ほうれん草)を使ったポパイとか、様々なバリエーションがございます」


「ほほう、アンカケというのはそんなにも種類があるのか。これはますます楽しみじゃないか」


 二人のやりとりを聞いていたグスタフが声を上げる。どうやらあんかけパトのバリエーションの広さに興味を持ったようだ。

 一方のサルバドールは、しばらく逡巡した後タクミをきっと見据えながらこう告げた。


「……困ったな。これほど旨く、しかもバリエーションが豊富となると、ブレッドやトルティーヤの出番が無くなってしまうではないか」


 そう話すサルバドールの口角はニヤリと持ち上がっていた。あんかけパトに対するサルバドール流の評価と受け止めたタクミは、改めて頭を下げる。


「過分なお言葉ありがとうございます。これからも一層精進してまいります」


「……うちのブレッドやトルティーヤにもこのアンカケソースを組み合わせてみたい。時間があるときで構わないので、一度考えてみてもらえないだろうか?」


 サルバドールのリクエストに、タクミはハッと気づかされた。

 確かに、故郷ではあんかけソース=パスタのイメージだったが、別にパスタ専用のソースにする必要はない。

 今日の唐揚げのように、あんかけソースを何かに絡めてからブレッドやトルティーヤに挟んでもいい。確かオムレツっぽいものが載ったものもあったはずだ。玉子サンドのバリエーションで試すところからやってみてもいいかもしれない。


 そもそも苦心して作りだしたソースだ。他にもいろいろ使い道があるのであれば、ぜひ積極的に活用していきたい。チャレンジ精神を刺激されたタクミは、サルバドールの求めに首を縦に振った。


「料理人冥利に尽きます。ぜひ挑戦させて頂ければと思います」


「よしわかった! そっちの試作でも必要なものがあればじゃんじゃん用意するぞ。いつでも遠慮なく言ってくれな!」


 二人のやりとりに、再びグスタフが割り込んできた。

 サルバドールとグスタフ、二人の職人からかけられた言葉にタクミは胸を熱くしていた。あんかけパトを気に入っていただけたことはもちろんだが、新たなチャレンジへの道筋を開き、そして惜しみない支援を申し出てくれる職人としての心意気が何よりもうれしかったのだ。


「ありがとうございます。その際は、是非にお願いいたします」


 深々と頭を下げながら、穏やかな笑みをたたえて感謝の言葉を述べるタクミであった。


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