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異世界駅舎の喫茶店  作者: Swind/神凪唐州


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17 頂いたお土産と難しい注文(3/3)

※2015.8.28 22:00更新 3/3パート

※第2パートからの続きです。最初から読まれる方は第1パート(前々話)よりお読みください。

「さて、今日はどういったものがいただけるのかしら?楽しみですわ」


 約束の日の午後、お昼の到着便でハーパータウン駅を訪れたソフィアが、ランチ営業の忙しさが落ちついた喫茶店『ツバメ』の片隅に着席し、“依頼品”が運ばれるのを今や遅しと待ち構えていた。その向かい側に同席しているサバスが、ソフィアに話しかける。


「今朝モーニングに伺ったときの話では、何でも何種類かの品を用意しているとのことでしたよ。」


 サバスの言葉を聞いたソフィアは、うらやましそうな表情を見せながら頬を膨らませる。


「サバスさんはいいわねぇ、ここが近いからいつでも来れるんですもの。こうなったら、店舗資金を出資して、うちの近くの駅にも支店を出してもらおうかしら……?」


「支店を出したとしても、タクミ殿はこちらの駅からは離れられないと思いますよ。タクミ殿はここハーパータウンの“駅長代理”なわけですしね。」


 サバスは、白い髭を弄りながら、ソフィアのささやかなる願望につれなく答える。ソフィアは、いっそう頬を膨らませるも、意地悪を言うのなら後で怖いですわよ、と精一杯の意地を張った。二人でそんなやりとりをしていると、タクミとニャーチがテーブルへとやってくる。二人が持ってきたお盆の上には、おそらく今日の目的の品と思われるものがそれぞれに載せられていた。


「お待たせしました。こちらが本日の試作の品、テーをアレンジした飲み物と、テーを使ったデザートです」


「いっぱい試作したのなっ! いつも自信あるけど、今日はとびっきりの自信作なのにゃっ!」


 タクミは丁寧な仕草で、ニャーチはいつも通りの元気いっぱいの様子で二人の前に品物を並べていく。目の前に並べられたのは薄手のコーヒーカップと、プルプルとした弾力のある橙色をしたサイコロ状のものの上に緑色の小さな葉のようなものが置かれたグラスだ。

 テーブルへのサーブを終えたタクミは、ニャーチから陶器のポットを受け取り、二人に説明をしながらカップにテーを注いでいく。わずかに赤みがかった明るいオレンジ色の液体でカップが満たされて、少し甘みを含んだ爽やかな香りが辺り一面に広がっていった。


「最初にご用意させていただいたのは、テーの爽やかな香りを楽しんで頂くことを主眼に置いたものです。頂いた茶葉のうち、こちらの花模様の容器に入ったものを使っております。本来であれば、テーを楽しむには薄手のカップが良いのですが、さすがに準備が間に合いませんでしたので、本日のところは当店にあるカップの中から代用させて頂いております。」


「なるほど、テーの場合にはこうした薄手のカップがいいわけね」


 ソフィアの言葉に、タクミは頷き、言葉を続ける。


「もう少し薄手で、上に向かって広がっているものがベストなのですが、またこちらは本格的に扱うようになった際は手配しようと考えております。では、これ以上は口での説明は野暮でしょうから、早速お楽しみください。」


 ソフィアは一つ頷くと、早速カップを手に取り、まずは香りを堪能する。博覧会の時にも感じた、とても爽やかで魅力的な香りが鼻をくすぐる。しかし、博覧会の時と比べると、ずいぶんと甘い香りが含まれているようにも感じられた。

 これは何の香りかしら……、ソフィアは期待に胸を膨らませながらカップを傾ける。すると、口の中に入れた瞬間、テー特有の爽やかな味わいとともに、テーとは異なる甘酸っぱさが舌の上を転がっていた。テーにつけられたフルーティーな風味が、テーの渋みを打消し、さっぱりとした甘さを引き立たせていた。


「これは……、何か果物と合わせていらっしゃいまして?」


「ええ、こちらは果物とテーを合わせたものです。今日は、ピーニャ(パイナップル)とナランハをテーの中に合わせてあります。」


 タクミはソフィアの質問に応えつつ、ポットの蓋を開いて中を覗かせる。ポットの中には、皮が剥かれたピーニャのスライスと、皮つきのナランハのスライスがたっぷりと入れられていた。


「なるほど、テーはどうしても渋みや苦味が気になるところ、それを果物で打ち消したということですな」


 サバスが得心を得たように頷きながらつぶやくと、タクミが静かに首を縦に振る。二人の会話に同意するかのようにソフィアも頷いてから、今度はグラスの方を手に取った。


「そうすると、こちらも仕掛けあるってことね。いただきますわ」


 グラスの中に入れられた明るい橙色のサイコロにスプーンをいれ、一掬い。スプーンの上のそれはプルプルと揺れながら運ばれていき、ソフィアの口の中へ納まった。わずかにひんやりとした感触をもったそれは、舌でつぶせるほど柔らかく、それでいてクニュックニュッとした弾力が舌先や口の中を刺激する。テー特有の爽やかさとやや抑えた甘みを伴った官能的な感触がソフィアの口内を優しく愛撫していった。

 ソフィアは目を瞑ってしばらくその感触と味わいを堪能した後、口元を軽く拭いて、タクミに質問する。


「こちらは、果物だけではございませんわね?」


「はい、砂糖とミエール、それとナランハの果汁を加えたテーをアガールで固めたものです。確か、こちらではヘラティーナと呼ばれるのでしたでしょうか?」


「そうね。ただ、ヘラティーナはナランハのような果物の果汁で作るものだと思っていたわ。テーで作ってもなかなか美味しいじゃない…」


 タクミの質問に答えるソフィア、その手にはしっかりとスプーンが握られ、次々とテーのヘラティーナを頬張っている。


「お気に召していただけたようで何よりです。サバスさんはいかがでしょうか?」


 タクミの質問に、サバスは難しい顔を見せる。


「いや、どちらも確かに旨い、旨いのですが……うーむ……」

 

「どうされまして?飲み物の方も、デザートの方も共に素晴らしいものではございませんこと?」


 サバスの思わぬ態度に、ソフィアが怪訝な表情で見つめる。


「いや、確かに旨いのだ。しかし、やはり私にはこのどこかスーッとする香りが若干気になってしまうのじゃよ。正直に言えば、珈琲とこのテーであれば、私は珈琲の方を選ぶかな」


 サバスの率直な意見に、ソフィアが眉間にしわを寄せて考え込む。自分の感性では、若い女性であればこの果物のテーやテー・ヘラティーナは好まれると判断していた。しかし、確かにサバスのような年配の方や、あるいは逆に子供たちが喜ぶかといえば、必ずしもそうとは限らないとも思えた。ビジネスとして考えると、一部の層にしか受けないものというのはリスクを伴う。すなわち、あまり大きな投資は難しいという判断をせざるを得ないと考えざるを得なかった。


 そんなソフィアの様子とは裏腹に、タクミは笑顔で声を掛けてくる。


「ソフィアさん、そんなに眉間にしわを寄せては、素敵なお顔が台無しですよ。では、次のものをお出ししますね。」


 タクミはそういうと、先にカウンターへと戻っていたニャーチに手を上げて合図をする。すると、ニャーチが何かをお盆に載せてテーブルまで運んできた。


「どうぞなのなっ! こっちはさっきのとはまた別のものなのにゃっ!」


 二人の前に並べられたのは、ベージュ色をした温かい飲み物が入ったカップと、同じように艶やかなベージュ色をした柔らかそうなものが入れられた厚手のカップだ。それぞれにサーブされたところで、タクミが説明を始める。

 

「こちらはミルクとテーを合わせたミルクテー、そして、厚手のカップの方はミルクテーをベースとしたフラン(プリン)です。先にフランの方からお召し上がり頂ければと思います。どうぞ、お召し上がりくださいませ」


 二人は、タクミの説明に頷き、新しく並べられた小さなスプーンを手に取る。そして、ミルクテーのフランにスプーンを差し入れると、何の抵抗もなく刺さっていった。掬い上げたフランは今にもゆっくりと流れ出しそうなほどの柔らかさだ。


 ソフィアは、ゴクリと喉を鳴らし、クリームを思わせるような柔らかいフランを口の中へと運び入れる。想像していた以上に滑らかなそのフランは、あっという間に口の中で蕩けていく。ミルクと卵が織りなすコクのある味わいに、ふんだんに使われたと思われる砂糖やミエールの甘さが広がっていく。

 それらを受け止めているのがテーの渋みを伴った風味だ。テーの力強い風味が一本の芯となり、ともすれば甘ったるくなりがちなフランの味わいをより深いものとしていた。


 ソフィアは、驚きの表情を隠さないままに、もう一匙、もう一匙と食べ進める。すると、向かい側に座るサバスがほーっとため息をついた。その息の音で我に返ったソフィアの目に入ったのは、わずかに湯気の立つカップを持ち、天井を見上げて呆然としているサバスの姿だった。


「サバス…さん……?」


 ソフィアがおずおずと声を掛けると、サバスもふと我に返ったように視線をソフィアへと送る。


「っと、失礼しました。あまりにもこのミルクテーが美味しくて、心地よくて、つい、ぼーっとしてしまいました」


 サバスが照れを隠すように苦笑いを見せる。その手はカップを離していない。フランでもあれだけの味わいだったのだが、ミルクテーはそれほどのものなのか……ソフィアも自分の前に置かれたほのかに湯気の立つカップを手に取り、一口飲む。


「……………はふーーぅ……」


 思わずため息が声にこぼれ、全身が脱力する。なんという落ち着く味わいなのだろう。テーの強い風味をミルクのコクと砂糖の甘みがまろやかに包み込んでおり、テーの良い部分だけを穏やかに味わうことができる。始めて飲むのにどこか懐かしさを覚える味わいだ。ソフィアは、優しいミクルテーの味わいにこのままずーっと浸っていたいようにさえ思えた。


「……そうか、これはこういうことなのね」


 ソフィアが突然何かを閃いたかのように、再びスプーンを手に取る。そしてフランを一口掬い取り、ゆっくりと咀嚼しながら味わう。目を閉じ、こくりと喉を通した後、今度は温かいミルクテーを一口口に含み、そのまま黙想。しばしの沈黙が場を支配する。


「……うん、これ、これなのよね!」


 ソフィアが一人納得したように声を上げた。タクミはその言葉に黙ってうなずく。サバスが二人の言葉を代弁するように語り始めた。


「まったりとした甘さのフランと、少し甘さとコクを抑えたミルクテーの味わいのバランスが素晴らしいですな。これは何とも落ち着きます。もしやこちらが本命でしたかな?」


「いえ、どちらも本命ですね。人の好みはさまざまですから、バリエーションを持たせようと思いました。その方がテーを知ってもらうきっかけになるかと考えました。どうやらこのあたりの皆様が一番抵抗を示すのは“渋み”だと思われましたので、そこを解決する2通りの道筋をつけたつもりです」


 タクミの言葉に、ソフィアは少し間をおいてから言葉を返す。


「そうね、別に一つに決める必要もないし、あとは好みや気分に応じて選んでもらえばいいんじゃないかしら?間口は広い方がより親しんでいただける機会も増えるでしょうしね」


 ソフィアの答えに同意するように、サバスも頷く。しかし、老獪な商売人であるサバスには、一つだけ気になることがあった。サバスは、タクミにその疑問を投げかける。


「しかし、今日の品はどれも変化球ばかりですな。確かに最初のきっかけには良いかもしれませぬが、テーそのものにもっと親しんでいただく方法はございませんかな?」


 タクミは、その言葉を待っていたかのように動き始める。


「ええ、ですので、もう一つだけ用意しております。ニャーチ、運んできてくれるかい?」


「あいあいさーなのなっ!少しだけおまちくださいなのなっ!」


 タクミの指示を受けたニャーチは一目散にキッチンに向かい、しばらく後に2つのグラスを運んできた。二人の目はそのグラスの中身にくぎ付けになった。二人の前に置かれたそのグラスには、明るいオレンジ色のテーが透明な塊 ―― 氷とともに入れられていたのだ。


「最後の一品、アイステーです。ソフィアさんから頂いている氷を少し使わせていただきました。どうぞお試しください」


 タクミの言葉を合図に、二人はグラスに口をつける。温かい紅茶よりも全体的に淡い印象であり、渋みはほとんど感じられない。テーの爽やかさと甘さのみが引き立った雑味の無い澄んだ味わいだ。喉を通り過ぎる時のひんやりとした感覚が、まだ暑さの残る今の時期にぴったりだ。


「これは、とても飲みやすいですが……はて、何かと合わせているのですかな?」


 サバスが不思議そうに尋ねてくる。ソフィアもタクミを見つめてじっと答えを待つ構えだ。そんな二人に対し、タクミは種明かしを始めた。


「実はこれ、紅茶の茶葉以外は何も加えておりません。『水出し』という方法で立てたテーです」


「『水出し』…ですとな…?お湯で煮出していないのですか?」


 聞き慣れない言葉に、サバスが聞き返す。


「はい。お湯ではなく、文字通り“水”で出した紅茶です。熱を加えずに茶葉からテーの成分を出していくことで、雑味や渋みといったものが抑えられ、テーが持つ本来の甘さとコク、それに香りのよいところだけを抽出することができます。ただ、熱を加えませんので、時間は相当かかってしまいます。今日の分は、茶葉をガーゼに包んで、一度煮沸した水に一晩つけて置いたものです」


「さらに、それを氷で冷やすことでさらにクセを抑え、一層飲みやすくしている……つまりは前に出してもらった『水出し珈琲』と同じ原理ということね?」


 言葉を奪うようにソフィアから投げかけられた質問に、タクミは黙って頷く。

 すると、三人のやりとりを横で静かに聞いていたニャーチが、我慢できないような口調で抗議の声を上げた。


「うーん、難しいことはよくわかんにゃいけど、おいしい物はおいしいでいいのにゃっ! 今日のはどうでしたかにゃ?」


 軽い言葉で感想を聞くニャーチをタクミがたしなめようとするが、ソフィアもサバスも笑って答える。


「ええ、今日もとっても美味しかったですわ」「うむ、満足させていただきました」


 二人の言葉に、ニャーチは満足そうに笑顔を見せる。ったく……、とニャーチの頭をポンポンと叩くタクミもまた、顔が綻んでいた。



―――――



「じゃあ、このレシピは、お金を取らない限り本当に自由に使わせてもらってもいいのね。」


 ニャーチに皿やカップの片づけをさせたタクミは、ソフィアとサバスの三人で話をしていた。今日の試作品は“ソフィアの依頼”に基づいて作られたもの。その取扱いについて協議をしていたのだ。


「本当にいいのですかな?我々としてはテーの商売に繋がりますのでとても助かりますが、独占すれば相応の利益が生まれましょうに……」


 サバスは、改めてタクミに確認をする。タクミは、今回の飲み物やデザートのレシピを『テーを買ってくれた人たちに無償で配る』ことを条件に、一切の金銭的な謝礼を固辞していたのだ。


「ええ、それで構いません。そもそもこのレシピ自体も私が生み出したものではなく、以前にいた場所では本当に普通にありふれたものでした。ですので、私がそこから個人的な利益を得ることはできません。それに……」


「それに?」


 ソフィアが、珍しく熱く自己主張をするタクミを見つめながら、合いの手を打つ。その視線に気づいたのか、タクミがじゃっかんはにかみながら言葉を続けた。


「実は、私、紅茶……テー派なのですよね。だから、こちらの方々にもテーに親しんでもらって、テー派の仲間を増やしたいのです。あ、もちろん珈琲も好きですよ?」


 最後は少し慌て調子で言葉を紡ぐタクミ。珍しく見せたかわいらしい仕草に、ソフィアはぷっと噴き出してしまった。


「そういう事情なら了解したわ。そうしたら、お金以外のことで、何かお役に立たせてもらえないかしら? 貰いっぱなしって私のポリシーに合わないのよねー」


 ソフィアはそういうと、矢継ぎ早に案を出していく。茶葉の供給はもちろんのこと、茶器やテーに向いたカップの調達、はたまたカップデザート用の器の手配に至るまで、ソフィアとサバスが協力して全面的に支援することが決まった。


「あと、氷はどうですかな?少し先の話になりますが……」


 話を進めていく中、サバスが口を開く。それもあったわね、とソフィアもすぐに応じ返すが、その二人のやりとりにタクミが口を挟んだ。


「でも、氷はとても貴重なものですので、既に今も十分なことをしていただいておりますが……」


「それはそれよ。というより、ちょっと状況が変わっていきそうなのよね」


 ソフィアが意味深な言葉で返答する。それを追いかけるように、サバスが口を開いた。


「いや、実は、新しい製氷工場をポートサイドに建設することになりましてな。もちろん、ソフィア殿のご助力を頂いてということになりますが……」


 サバスの説明によれば、今回の博覧会で、氷が生鮮品 ―― 特に傷みやすい魚介類の保存に高い効果を発揮することを目の当たりにし、早速ポートサイドでも取り入れようという動きとなったそうだ。その中心となるのがシルバ商会であり、製氷の技術と資金について銀行家(バンカー)であるソフィアがバックアップするという話になったとのことだ。実は、今回ソフィアがこの地を訪れたのも、一つはこの件での現地視察をするためとのことだった。


「新しい製氷工場は、ポートサイドはもちろん、ハーパータウン全体の氷の需要を賄えるぐらいの大きなものを考えているわ。だから、そっちの工場が出来れば、タクミさんが必要とする分ぐらいの氷ならちゃんと用意できることになるのよ。もちろん、販路作りや工場の建設とか、まだやらなきゃいけないことはたくさんあるけど、大きなビジネスにしていくつもりよ」


 ソフィアの力強い言葉に、タクミは思わず拍手を送る。


「素晴らしい取り組みです。ぜひ、その際にはそちらの氷を使わせてください。あ、その時はちゃんと“購入”させてくださいね」


「タクミさんがそういうのなら、そうさせていただくわ。その代り、直販売の最恵待遇は取らせてもらうわよ」


 ありがとうございます、とタクミは感謝を込め、頭を下げる。しかし、ソフィアにとってはどうやら“お礼”をまだ返し切っていないと感じているようだ。他に何かなかったかとブツブツとつぶやきながら考えるソフィア。そして、何かを思い出したかのように急にタクミの方を振り向いた。


「そうそう、サバスさんから聞いたんだけど、タクミさん、“メンルイ”というものを探してるの?」


「え、ええ。博覧会の会場で、そういった類のものがあれば探してほしいとお願いしておりました。」


 ソフィアの勢いに押され、若干どもり気味に答えるタクミ。その様子を全く意に介することなく、ソフィアは早口でまくしたてるように話を続けた。


「実は、博覧会の会場でそれっぽいのを見つけたのよ。確か、えーっと……そうそう、パーツとかパトとか言ってたわ。今、サンプルを分けてもらえないか交渉中だから、もし手に入ったらタクミさんにもプレゼントさせてもらうわね」


「そうですか! 麺が手に入るのならこれほど心強いことはございません。うまく安定的に入ってくるなら店のメニューのバリエーションも増やせそうです。ぜひお願いいたします」


 パーツ、もしくはパト……タクミには聞き馴染みのないものではあるが、“こちらの世界”で独自に発展した麺類なのかもしれない……とタクミは一人納得した。それに、きっとソフィアの目利きなら何かしら面白いものに違いないという、一種の信頼のようなものがタクミの心に芽生えていた。


「私も微力ながらお手伝いさせていただきますぞ。あ、もちろんお邪魔でなければですがな」


 サバスの言葉に、真っ赤になるソフィア。一方のタクミは苦笑いをするしかなかった。あんまりからかわないでくださいね、とタクミはサバスに釘をさしつつ、近い将来再び訪れるであろう再開の日を心待ちにするのであった。


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