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61 失われた食材と新たな名物料理(第2パート)

※前パートからの続きです。

※お待たせしました、ようやくの更新です。

※後書きにてお知らせがございます。

「そうですか、やはり難しいですか……」


 タクミはそういうと、すっと目を閉じて小さく頷く。

 普段通りの穏やかな笑顔ではあるが、その眉間にはかすかにしわがよっていた。


 サバスはふーっと一つ息をつくと、深く頭を下げる。


「申し訳ない、これだけ世話になっておりながら力になれなんで」


「いえいえ。むしろお世話になっているのはこちらの方です。それに、サバスさんのところで扱えないとなれば、どうやっても無理なのかと」


 こと輸入食材に関してはサバスが営むシルバ商会がこの国の最大手。

 蒸気船が広まりつつあるとはいえ、海をまたぐことはまだまだ大きな困難を伴うことを考えると、他に残されたルートはないことを意味していた。


 すると今度は、ソフィアが口を開く。


「うちの人にも探らせたんだけど、元通りの状態になるには正直まだまだ時間がかかりそうね」


「ほっほー、『うちの人』と来ましたか」


「もう、おじさまったら!」


 からかい混じりのサバスの一言に、ソフィアがほほを染めて抗議する。

 表向きにはされていないが、ソフィアの新たなパートナーについてはサバスにも知らされていた。

 二人の行く末を暖かく見守ろうと思いつつも、「氷のソフィア」の口から二人の仲を見せつけるような言葉がでてきたとなると、からからいの一つも投げ掛けたくなるのは無理がないだろう。

 

 一方、自分が無意識にのろけていたとも気づいていないソフィアは、照れ隠しにシナモン・コーヒーを流し込む。


「と、とにかく、今はパト(パスタ)をどう確保するかが問題よ。市中でもかなり普及してきていますし、何よりこの『ツバメ』のメイン商品なんですから!」


「まぁまぁ、ソフィアさん落ち着いてください。確かにパトはお客様にも喜んで頂いていますが、無ければないで他のメニューでやりくりすればいいだけのことですし」


「とはいうものの、すでに皆がパトの美味しさを知ってしまっておるからのぉ。細長い形状から生まれるあの独特の食感はなかなか他の料理では置き換わらないのではないかね?」


 サバスの指摘に、タクミがうーんと唸り声を上げる。

 確かに”こちらの世界”ではパスタ(パト)以外に麺料理を見かけることがない。どうやら小麦が絶滅寸前となったことで、麺料理もまた失われたようだ。

 パトがなければうどんやラーメンを食べればいいじゃない、とはいかないのである。


 三人は腕組みをしたまま一様に渋い表情を見せる。

 するとそこにひょっこりとニャーチが顔をだした。


「コーヒーのおかわりいかがですかなのな? って、ごしゅじん、どったのな?」


「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしててね」


「忙しい時間にタクミさんを引き留めちゃってごめんなさいね。あ、ニャーチさん、私にコーヒーおかわりいただけるかしら」


「そしたらワシにもいただけるかの」


「かしこまりなのな! すぐに持ってくるのにゃ!」


 いつもと変わらぬ明るい雰囲気をまといながら、ニャーチがパタパタとカウンターに向かっていく。

 それを横目で見送ると、ソフィアがふぅと一つ息をついてから再び話を切り出した。


「ねぇタクミさん、やっぱりアリーナ(小麦粉)が無かったらパトを作るのはできないのかしら?」


「うーん、正直私の腕では太刀打ちできないですね。何度かチャレンジしたことはあるのですが、残念ながら光明が見えるというところまでも届いたことがありません」


 こちらの世界にきてから、タクミはマイス(とうもろこし)粉やアロース()粉での麺作りに何度か挑戦していた。

 とはいえ、元の世界でも自分で麺を打った経験はほとんどない。小麦粉があったとしても何度も失敗を重ねることになったであろう。まして、小麦粉なしの麺打ちともなれば困難を極めるのも必定であった。


 自分の力が至らず歯噛みするタクミ。しかし、百戦錬磨の老獪な商人は、タクミの一言を聞き逃さなかった。


「その口ぶりだと、アリーナを使わないパトを作るのは不可能ではない……いや、タクミ殿は存在を知っているということかね?」


 白い髭を撫でながら、笑みを浮かべるサバス。しかし、その目は真剣さを帯びている。

 ソフィアもまた、銀行家としての眼差しをタクミに送りながら次の言葉を待っていた。

 

 二人からの圧力をひしひしと感じつつも、タクミはなおも悩む。

 果たして、タクミの知る元の世界の知識をどこまで伝えてしまってよいものかと。


 しかし、そのタクミの悩みはいとも簡単に打ち崩されることになった。


「おまたせなのなっ! コーヒーのおかわりお持ちしましたなのにゃー」


「おー、ありがとうありがとう」


「ねぇニャーチさん、ニャーチさんはアリーナを使わないパトみたいな料理があったらどんなのが食べてみたいかしら?」


 ソフィアの言葉に、タクミがあっと声をあげる。すかさず割り込もうとするが、間に合わない。


「んーと……おそば! おそばたべたいのな! ごっしゅじーん、海老天おろしそばつくってー。それかけんちんそば!」


「ほほー、エビテンオロシソバにケンチンソバですか……」


 ニャーチの言葉を反復しながら、サバスがにっと目を細める。


「はじめて聞く料理ですが、ニャーチさんがこれだけ良い笑顔なのですからきっと素晴らしく美味しいのでしょうね。


 ソフィアもゆっくりとタクミに視線を送り、にっこりと微笑んだ。


「タクミさん、もしできるのなら作ってみてもらうことはできませんかしら?」


「アリーナやパト以外だったら、何でも探してくるぞい。遠慮なくリクエストしてくれたまえ」


「ごっしゅじーん、楽しみにしてるのにゃー!」

 

 二人からのプレッシャーに、屈託のないニャーチの笑顔。

 こうなればもうタクミは白旗を上げるしかない。


「わかりました。そうしたら時を改めて打ち合わせさせていただけませんか? まず必要な食材があるかどうか探してもらうところから始めなければなりませんので……」


「ワシは全く構わんよ。ソフィア殿もよいかね?」


「もちろんですわ。ではまた時を改めて」


「おっそば~、おっそば~、おいしいおっそば~♪」


 二人の言葉に苦笑いを浮かべるタクミだったが、ニャーチ能天気な歌声に思わず頬が緩んでいた。


長らく止まっておりましたが、ようやく更新することができました。

これからもゆっくりペースにはなりますが少しずつ話を重ねていきたいと存じます。

何卒よろしくお願い申し上げます。


さて、本日3/1は「異世界駅舎の喫茶店」コミカライズ版も最新話が公開となっております。コミカライズ版はロランド&フィデルのでこぼこコンビによる冬にあったかなテイクアウトメニューのお話。ぜひ合わせてご覧いただけましたら大変幸いです。

詳しくは活動報告をご覧くださいませ。


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