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46 離岸する客船とそれぞれへのお土産(2/3パート)

※第1パートからの続きです

「さて、準備は出来ましたか?」


 いつものカフェエプロンをまとったタクミが声をかけると、周りに集まっていたロランド、フィデル、ルナ、テオの四人がコクリと頷く。

 珍しくエプロン姿をしたフィデルに対し、ロランドが口元を押さえながら声をかける。


「しっかし……、似あわねぇなぁ」


「うっせぇ! 言われなくても自分が一番分かってるよっ!」


「まぁ、足だけは引っ張んなよー」


「分かってるってっ! お前こそ、いい加減なことするんじゃねぇぞ!」


 じゃれ合い始める少年たちを、タクミがやれやれと言った表情で嗜める。


「はいはい、二人とも集中しましょうね。さて、それでは始めましょうか。まずは一通りやり方を見せていきますので、よく見て覚えるなりメモをとるなりしてくださいね」


「ニャーチはここでみんなの頑張りを見守っているのなっ! ごっしゅじーん、おいしく作ってなのなーっ!」


 キッチンの隅に置いてある小テーブルに陣取ったニャーチは、珈琲を飲みながらのんびりと静観する構えを見せていた。

 そんなニャーチの言葉に苦笑いを見せながら、タクミは先に用意しておいた材料に手を伸ばす。

 

「基本の材料はこのアロース(コメ)粉とビカルボナート(重曹)の2つ、あとは水分ですね。今日は牛乳を使って、さらに卵と砂糖も加えます」


 説明をしながら作業を進めていくタクミ。

 ボウルの中にアロース粉と砂糖、ビカルボナートを入れ、全体をよくかき混ぜると、そこに卵と牛乳も加えて捏ね合わせていく。


「生地の硬さはこれくらい。よく耳たぶぐらいの硬さといいますけど、こうして軽く持ち上げたら自重で少し垂れ下がるぐらいの硬さが目安ですね。水分が多いと生地がべたべたしますので、その時には粉を何度かに分けながら加えて下さい」


「ここまでだとガレータ(サブレ)の生地に良く似てるっすね」


 作業を見ていたロランドが呟くと、タクミがこくりと頷いた。


「そうですね。ただ、ガレータの生地よりは柔らかめになります。さて、これくらいまとまれば生地は出来上がり。少し休ませている間に次の作業に移りましょう。では、今度はコンロの方へお願いします」


 タクミはそう言うと、砂糖と水、それとリモン(レモン)のしぼり汁を持ってガスコンロが設置してある壁側へと移動した。

 作業の様子を見ていた四人も、またタクミについていく。

 長マッチに火をともして二口のガスコンロに点火すると、その片方にはフライパンを、もう片方には油の入った鍋を載せた。


「こちらのフライパンでは、周りにまぶす飴を作ります。作り方は簡単、水と砂糖、それにリモン汁を加えて煮詰めるだけです」


「あ、これってもしかしてカラメロ(べっこう飴)の作り方と同じってことですか?」


 歌姫シレーナのために作った時を思い出したテオが質問を投げかける。

 それに対し、タクミはうんうんと二度と頷いた。


「そういえば一緒に作りましたね。まさにカラメロの作り方と同じです。ただ、一つ違うのはカラメロの時ほど煮詰めすぎないこと。中ぐらいの火の強さで泡がブクブクとたつぐらいがちょうどいい頃合いでしょう。まぁ、実際にやってみた方がわかりやすいですね」


 説明をしながらもタクミの手はとまらない。

 中火にかけたフライパンを木べらでゆっくりとかき混ぜながら、砂糖をしっかりと溶かし込んでいった。

 やがて、砂糖が完全に溶けてトロトロの液状になったところで、火加減をやや弱めに調整する。

 そして、油の入った鍋に手をかざして温度を確かめると、再び四人を伴ってキッチンテーブルのところまで戻った。


「さて、ここからですね。この生地を油で揚げていくのですが、塊のままでは揚げられませんので小さく切ってからになります。こうしてまな板に打粉をして……」


 まな板にアロース粉をまぶしたタクミは、その上に生地を載せ、生地の上にもアロース粉をまぶしてから麺棒で押し広げていく。

 ほどほどの厚みにまで伸ばすと、今度はその生地に包丁を入れていった。


 指の長さほどのやや平たい麺状に切りそろえられた生地は、まな板ごとガスコンロの前まで運ばれ、横に備え付けてある作業台に置かれる。


「さて、この生地を低めの温度でじっくりと揚げていくわけですが、一つだけポイントがあります。平たいままではなく、生地をこうしてやると……」


 平たく延ばされた生地は、タクミの手で軽く捩じられてから油の中に入れられる。

 すると、十分に温まった油からシュワーという心地の良い音が聞こえてきた。

 

 揚がるのを待っている間に質問をしてきたのは、興味津々といった様子で作業の段取りをメモしていたルナだ。


「これって、なんでひねってから揚げるんですっ?」


「平たいままでも上がるのですが、生地の中の水分の逃げ場がなくなって、膨らんでしまうことがあるんですよね。こうして予め捩じっておくことで生地の表面に傷ができて、中の水分に逃げ場ができるのです。見栄えも面白くなりますしね」


「なるほど、一つ一つ理由があるんですねぇ。でも、俺がやったら生地をちぎっちゃいそうです」


 話しを聞いていたフィデルが、頭を掻きながら悩ましげな顔を見せる。

 しかし、それを安心させるようにタクミが微笑みかけた。


「ちぎれてしまっても大丈夫ですよ。あと、見栄えさえ気にしないならこうしてねじってから軽くまとめてしまっても大丈夫です」


 タクミはそういうと、ねじった生地を手のひらでコロコロと軽く丸めて見せる。

 確かにこの方法なら失敗は少なそうだ。

 そうフィデルが考えていると、横からロランドが茶々を入れてきた。


「これなら不器用なチビギツネだってできるんじゃね?」


「デカウサギうっせぇぞっ! 売店で売る分はテメェが作ることになるんだから、しっかり覚えておけよ?」


「なんだ、似合わねぇエプロンまでしてるからお前が作る気マンマンかと思ってたぜ」


「バカいうな。一応はお前の腕は認めてるんだから、俺様の専属料理人としてしっかり美味しい物を作りやがれってんだ!」


「んだとぉ、誰がオマエ専属だ! 俺はあくまでも師匠の弟子、『ツバメ』のスタッフと一員として、テメェの面倒をみてやってるんだよーっ!」


「はいはい、それくらいにしないと二人ともタクミさんに怒られますよっ? 揚げ物をしている時はじゃれちゃいけないって分かってますよねっ?」


「「あ、は、はいっ」」


 最年少のルナにたしなめられ、少年二人が揃って耳をペタンと倒す。

 ここ(駅舎)で迎え入れた時のことを思うと、ルナは随分と明るくなりしっかりしてきたとタクミは感じていた。

 私学校に行かせていることも、良い影響を与えているのかもしれない。

 タクミはすくすくと成長するルナのことを心の中で嬉しく感じながら、真剣に生地を揚げ続けていった。


「さて、最後の仕上げです。しっかりと泡が少なくなるまで生地を揚げたら、先ほど作っておいたこの飴がけに絡めていきます。で、全体にしっかりと飴がけをまぶして……」


 こんがりと狐色に上がった生地を菜箸で器用につまみあげると、ブクブクと泡立っている飴がけが入ったフライパンに次々と入れる。

 そしてざっとかき回す形でしっかりと飴がけをまぶすと、一つずつ丁寧にお皿の上に並べていった。


「くんかくんかっ! いい匂いがするのなっ! おひとつ頂きなの……にゃっ!! とっても熱いのにゃーっ!!」


 いつのまにか近寄ってきていたニャーチが、出来上がったものを一つつまみ食いしようとしたが、思いのほか熱い生地に驚き、指にフーフーと息を吹きかけている。

 それを見ていたタクミは、やれやれと言った様子で、周りにいる四人に声をかけた。


「はい、出来上がりはこの通りとても熱いので、ニャーチみたいにならないように注意してくださいね」


「にゃっ!? ニャーチの心配はどこいっちゃったなのなっ?」


「自業自得でしょ? でも、まぁ、火傷が心配だからしっかり冷やしておいで」


「あいあいさーなのなっ!」


 急いで水場へと向かって、指を冷やし始めるニャーチ。

 ほっと息をついたのか、目を細めてふしゃーと息をついていた。


「ということで、これで『かりんとう』の完成です。しっかり揚げているうえ、周りに砂糖もまぶしていますので日持ちも問題ないと思います。さて、あっちで指を冷ましているニャーチは置いておいて、みんなで試食しましょうか?」


「ちょっとまったなのなーっ! それはずるいのにゃーっ!」


「冗談冗談。はやくニャーチもこっちにおいで」


「んじゃ、ついでに飲み物もっていくのなっ! 冷たいコーヒーでいいのなっ?」


「あ、私手伝いますーっ!」


 元気な声を上げたルナが、ニャーチの下へパタパタと走り寄っていく。

 男性陣もまた互いに顔を見合わせて一つ頷いてから、試食という名のお茶会の準備をそれぞれに始めるのであった。


※次パートへと続きます。

※ネット小説大賞公式ラジオ『角掛みなみのビブリオンの魔法使い』のアーカイブ放送が始まりました!

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