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ジャージめん  作者: SAME
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歩みに持つは杖

「ぅっは!入部してくれるんだぁ!!」

 樋口が三波を連れて部室に入ると、三町部長の顔がいつもの3割増しで輝いた。


「昼休みに会った子だよね!いやー、本当うれしいなぁ。えーっと自分が部長、三町部長です。3年だよ。で、こっちの2年が入江。彼は副部長」

「よろしく」

「三波でーす。よろしくお願いしまーす」


(こいつも一応ですます体は使うんだな)とどうでも良いことに感心し、樋口は部長と入江の様子を窺った。部員集めの話はあったが、見学云々は自分で勝手に判断したことだからだ。


「とりあえず見学からかなと思って連れてきたんですけど、よかったですか?」


「グッジョブ樋口。

今日は体育館空いていないからアリーナで基礎練しかやらないんだけど、最後までいられるのかなぁ?」

「いたいけど…6時半の学専までなら」

「じゃあ時間まで。もしジャージあるなら筋トレ参加する?」

「いいんですかー?!参加する、しまーす!」







「……と、なんとか部員そろってな。部長なんか張り切っちゃって、早速竹刀や防具手配するってさ」

 翌日。

樋口はストレスから解放されて、のんびり雑談しながら1時間目の用意をする余裕まで生まれていた。昨日の額に皺を寄せて気難しい顔をしていた人間と同一人物とは思えないほどのほがらかっぷりだ。


「へぇ、よかったじゃないか。千鳥に頼むって聞いたときはどうなるかと思ったけど。

で?おまえ未経験は嫌じゃなかったのか?」

 井筒が皮肉交じりにからかうと、樋口はバツが悪そうに眉根を寄せた。


「悪かったって。確かにこだわり過ぎてた。結局やる気の問題だったんだよな。

ソイツ、小さいくせに意外と体力あるんだ。腹筋背筋腕立て200の3セットやっても余裕なんだよ。

それになんか変な奴でさ」

「ずいぶん評価高いじゃないか。ん…?」


 ふと視線を感じて井筒が廊下を見ると、教室の戸から小柄な男子生徒がチラチラこちらを覗いている。どう考えても自分の知り合いじゃない。

樋口をつついて廊下の方を指差してやると、見知った者らしく彼に手招きをした。


「今言ってた新入部員だよ」


(確かにすばやそうだけど…言うほど体力あるようにはみえないけどな…?)

男のくせに赤いペアピン使っているし、なんとなく一癖ありそうな印象を井筒は持った。

それにしても…?

 新入部員は手招きに応じ、遠慮がちにこちらの席へやってきた。

「おはよう三波。どうした?」


「悪い、昨日聞くの忘れてたんだけど、今日って直接部室に行けばいいのか?

あの、俺、部活ってやったことなくてさ。噂によると、フツー1年生は先に来て体育館で道具とか準備しなきゃならないって言うじゃん。何かやっとくことあんの?」


(ないだろうなぁ…見当つきそうなもんだけど。真面目か)


元より他人事な井筒は、無遠慮な感想を持ちつつも三波を観察していたが、樋口の方はどこかで「やっぱり辞める」と言われるのを覚悟していたらしく、少しほっとした表情を見せた。

「いや、なんも準備するものはないよ。部室に来るだけでいい」

「そっか。じゃー放課後なっ」

 神妙な顔から一転、一気に顔が明るくなると、三波は軽く手を振って教室を駆け出して行った。それを見送って樋口がくすくす笑う。


「な?なーんか変なやつだろ」

「まぁ。…ていうか、アイツなんかコソコソしてなかったか…?」

「そうか?とにかく今日の部活が楽しみだよ。何の心配もないんだもんな」




 一方、三波は大急ぎで自分のクラスへ走っていた。


 別に部活の事は急ぐ用事でもなかったのだが、どう考えても朝しか時間がなかった。中休みと昼休みは友人達がやってくるだろうし、彼らの目を盗んで樋口に聞きに行くのは難しい。かといって、部活初日早々、迷惑はかけたくなかったし。

 幸い、友人達とはクラスが別々なので、朝のうちなら何とか目につかずに確認しに行ける。


 かと思ったのだが…。


「よぉ三波」

「げ、砂押じゃん」


 見つかった!


 今もっとも会いたくないNo.1の友人・砂押が、教室の入り口をふさぐように立っていた。眉間に皺が寄り(いつも寄っているので、これだけでは機嫌の程はわからない)真一文に閉じられた口の右側がヒクヒク動いている(…完璧にお怒りモード!)

 なんで自分が出かけたのを知っていたのだろう。張っていたのか、いや、やりかねん!


「お前、昨日から行動不審だな。今どこ行ってた?」

「ト…トイレだよ、トイレ」


 その返事に砂押の目がギラリと光る。

「あぁ?信じるか、逆方向じゃねぇか」


「……えっと、そろそろHR始まるぞ。自分のクラス戻れよ」

 砂押はまだ何か言いたそうにしていたが、丁度鳴りはじめたチャイムの音にしぶしぶ引き下がった。

「まぁいい。次の休み時間、覚えてろよ」


 まずったな…


 部活に入ったことは秘密にしておきたいんだけれど。特に砂押は、三波が新しく何かしようとするとダメ出しをしてくるし。


 三波は、適当な言い訳を考えて今日を乗り切ることに決めた。


 後は…後から考えればいいや。


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