01
志馬冬璃は今年から入学する『白ヵ丘高等学校』に向かっていた。
桜の花びらが風に踊らされて宙をまっている。
まだ冷たさが残る春風が肌寒い。
自転車をこぎながら坂を上がってゆく。その先にあるのが白ヵ丘高校なのだ。
新入生としての緊張より、今朝見た夢が頭から離れず変に体がこわばる。
「くっそ……」
夢のことを考えているとおかしくなりそうだ。
必死にそのことを頭の中から消そうとするが、夢の中で感じた恐怖が蘇ってくる。
そうこうしているうちに学校の校門についた。
新入生らしき人が新品の制服を着て学校に入ってゆく。彼らに早く入るように言い聞かせているのか、風は背後から吹いてくる。背中を押されても彼は嬉しくもなく、これからの学校生活期待もしていない。
この街にやってきたのはつい数週間前である
友人が同じ学校にいるわけでもなし。小中学校と一緒だった級友もいないわけだ。
とはいっても、小中学校と特に仲がよかった友はいなかったのだが。
「……。」
教室に入ると黒板には入学を祝うメッセージや無駄に色とりどりのチョークで描かれたイラストなどが敷きつめられていた。
騒がしい教室の中、冬璃は自分の席につく。
誰にも話しかけられもせず、窓の外を眺める。何も考えずに外を眺めていると、一人の少女が声をかけてくるのだ……といった漫画的展開はない。
雑音にしか聴こえない周りの声を今すぐかき消したい。この境は慣れていたはずなのにやけに息苦し「なんしてんの?そんなツラしとったらみんなビビるで?」
声をかけてきたのは関西弁の少女…ではなく、小麦色に焼けた肌の少年だった。
「元からこんな顔なんだよ。」
「はは…ヤンキーくんか?」
少年は冬璃の前の席の椅子を引くと、冬璃のほうをむいて腰掛ける。
「俺の名前は尼崎龍や」
「志馬冬璃。」
「とうり…俺のことは龍でええからな。よろしゅうな冬璃!」
正直少し困惑していた。こんなふうに声をかけられたのは初めてだからだ。この学校に来て初めての友人となりそうだ
「龍は関西出身か?」
入学式も終わり、学校近くの喫茶店に二人はいた。
「そや。三年ほど前からここに来たんや。冬璃はずっとここにいたんか?」
「俺は今年からここに来たばかりだよ」
「そなんか。やから誰とも馴染んでなかったんやな!友達も居らへんからボッチやったわけやな」
グサッとなにかが冬璃の胸を刺した。何かをいいたいのを抑えて「まぁ。そんなところか」と返事を返す。
「なんでここに来たんや?やっぱ親の転勤とかか」
龍は親の転勤で引っ越してきたらしい。
「まぁ、保護者の都合」
「そっか。知っとるもんおらへんと何かと困るよなぁ」
同情するかのように言ったあと、メロンソーダを口にする。
そんなことはどうでもいい。知人がいないとしても困りはしない。今までな深く関わりもせず浅すぎずの程度に関係を築いていた。今更どういったことはない。
二人は喫茶店をでた。
しばらく街をウロウロ歩いて信号待ちをしていると、向こう側で待っている少女に目がいった。どこかで見たことある雰囲気の少女だ。
そう、どこかで見た。どこかはわからないが見たことのある少女だ。歳は自分と同じだろうか。年下にも見える姿だ。
ストレートの肩まである髪は、墨を頭から被ったような真っ黒い髪だった。
真っ白な肌にほのかにピンク色になっている頬。細身で華奢な体型。
日本人だとは思うが、外人にも見える。
「おい。信号、青やで」
龍にいわれ横断歩道を歩いていく。
そのとき、少女とすれ違った。
少女と目が合った瞬間に何かが全身を走る。
夢で見た少女と目が合った時のように恐怖の感情が湧いてくる。
「うっ…」
突然、息苦しくなりその場に倒れ込んでしまった。
「おい!冬璃!!しっかりしろや!冬璃!!!」
叫ぶ龍の声がきこえてくる。次第にはっきりと聴こえてきた。
「おまえ…悪魔とあったんかいな。しかも相手が相手やな」
起き上がるとそこは横断歩道でもなく病院でもない。
目の前に広がるのは地平線の果まで真っ白な空間。
「どこだよここ」
「みたまんまや。白の空間」
「はぁ?」
「ほら、きたで」
龍が向いた方向にはあの少女がこちらに向かって歩いてくる。
「あいつ…あの時の」
「志馬冬璃……また会えて嬉しい」
嬉しいというわりには顔は笑っていない。無表情のままだ。
「冬璃。貴方の目覚めはまだね」
「目覚め?」
「そう。目覚めは力。秘めたる貴方の力」
少女は冬璃の頬に触れるとそのまま足を伸ばした唇を重ねてきた。
驚いて少女を身体からはなす。
「直ぐに目覚めるは、貴方の力が」
気がつくと白い天井が見えた。起き上がるとどうやらそこは自分の部屋らしい。
「やっと起きたか」
部屋にいたのは龍と自分の兄の姿だった。
「なんなんだよ今の。誰だあいつ!」
「落ち着け冬璃。そう発狂するな。順を追ってはなそう」
「……まさか、お前ら知り合いか?」
「「………」
龍と兄は互いに顔を見合わせた。
「あーもう!順を追ってはなすからとりあえず聞いてくれへんか?」
「…わかった」
「この世界には人間と悪魔。二つの空間がある。その二つは決して交わってはならない。しかし交わった空間が存在するんだ。その空間は人間の世界と悪魔の世界を繋ぐ通路になっている。そこを護るのが俺たちの仕事なわけだ」
「俺たち?」
「そうや!俺たち!!この世界の守護神や!
龍はどや顔で冬璃をみた
冬璃の兄。春は冬璃の肩を叩く。
「そういうことだ」
「はぁ?結局あの女はなんなんだよ」
「あれは天からの贈物や。ゆーても意味わからんやろうけど。はっきり言わせてもらうと堕天使やな。つまりは悪魔や。俺らの組織の最高幹部でな。人間の歳でいうと百はとうに超えとる」
秘密ごとでも話すかのように耳打ちで龍が説明してきた。
「なにがなんなのかわかんねぇよ!」
「徐々にわかるさ。冬璃。付いてこいよ」
春にいわれ、家を龍とともに出た。
太陽が雲の隙間から顔を出している。
「いくぞ」
春は何やら呪文をとく。
すると次第に光に包まれ、周りの景色が見えなくなった
「!!?」
なにかに引っ張られるような感覚が身体を襲う
気持ち悪い感覚でいまにも吐き出しそうだ
この時冬璃は予感した。
自分は何かに足を踏み入れてしまった。
引き返せないと悟ったのだ






