事の始まり
空は黒く、大粒の雨が地に降り注ぐ。
赤い色の傘をさした少年が坂を降りてくる。
背中に背負ったランドセルを揺らしながら走っていく。
降りた先に見えたのは数台のパトカーと、青色がはえる制服を着た警官たち。年老いた警官の腕に抱かれているのはタオルを身体に羽織った少女の姿であった。
裸体の上にタオルを羽織った少女の眼には生命力が感じられない。
その場に立ち尽くす少年は、少女だけを見つめていた。天から堕ちた天使のような少女の姿に息を呑んでいた。
周りの雨の音さえも気にならなくなってしまう。
雨は徐々に強さをましてゆくばかりだ。
少女は少年に気づきお互い目を見つめ合う。
すると少女の口が動き何かを話しているようだがわからない。閉じた口のあとに目が赤く光る。
その光を見た瞬間に体に刺激が走った。
身動きとれない。電気でも身体に走ったように全身がビリビリと感じた。それと同時に恐怖の感情が押し寄せてきたのだ。
後ずさりするも少女の目をそらすことができない。
恐怖や嫌悪、憎悪。体中を駆け巡る。
どこからかジリジリジリジリというベルの音が聴こえてきた。少年は現実に引き戻され、ベッドから跳ね起きる。カーテンからはほのかに光が差し込み、窓の向こうからは朝を伝える小鳥の声が聞こえてくる。
時刻はすでに七時を過ぎていた。
ハンガーに掛けてあるブレザーに手を伸ばす。
寝ぼけたまま支度を済ませ、階段を下りる。
「 おはよ。学校に遅れるぞ。」
既に朝食を取っていた兄は珈琲を口に流し込みながら新聞を広げている。兄は今年で26歳という立派な社会人だ。
「うっせー。心配されなくても平気だから」
少年がそう言い返すと、兄は苦笑してパンをかじる。
行ってきます。といって何も口にせずに出かけて行った。兄はどうしようもないという顔でため息を軽くついた。