4.処刑すべき人物
女将志乃「そして、まずあたしの意見をいわせてもらうわ。
あたしが今日処刑すべきと思う人物は、二人よ。一番手が猫谷さん。そして、二番手は将校さま」
行商人猫谷「げげっ、なんでおいらが処刑候補にゃんかに?
はっ……、そういうことか! 吸血鬼は村人や天文家であるはずがないのにゃ!」
令嬢琴音「そういうことなんよ。さあ、覚悟しなさい、化け猫じじい!
うちもいわせてもらうわ。処刑候補の一番手は猫谷庄助、二番手は将校さまよ」
鬼の首を取ったかのように、令嬢がたたみかけた。
行商人猫谷「ちなみに、庄助じゃなくて庄一郎でやんすがね、正しくは……。まあいいか、そんなことは。
しかしまあ、お嬢さままでが俺さまを処刑したいだなんてね……。
いや待てよ? 処刑候補の一番手が俺さまなのは仕方がねえとして、なんで二番手はいつも将校なんだ?
そうか、考えてみりゃ、きゃつも村人側宣言はしていねえ。
よっしゃあー、脱出口発見!
ならよ、俺にもいわせてくれや。今日の処刑候補は、将校土方晃暉――、これで決まりにゃ」
高椿子爵「わたしも発言させていただきましょう。処刑候補の一番手は土方中尉。二番手が猫谷さんです」
令嬢琴音「子爵さま? にやにや顔の猫さんに同情することなんかあらへんよ。どうして、将校さまが一番手なん?」
高椿子爵「お嬢さまのおっしゃることも分かりますが、このゲームでは発言数の少ない人物は得てして鬼であることが多いのです。先ほどから、将校さまは何もご発言ありませんよね。たとえ、どんなに猫谷氏の印象が悪かろうと、こういう場合は無発言の人物から吊し上げていくのがセオリーなのですよ」
令嬢琴音「そうなんだ。子爵さま、軽率だった悪い娘の琴音をお叱りください」
女将志乃「そういうことらしいわよ。将校さま、いい加減に何かご発言お願いしたいものだわ」
土方中尉「すまぬ。なにぶん、このような余興は初めての体験なのでな。何かしゃべろうとしても、すぐに適当な言葉が浮かばぬのだ」
将校は汗を拭いながら弁解した。
令嬢琴音「下手な発言をしようものなら、即殺されちゃうもんね。うちには分かるわ。将校さまのお気持ちが」
行商人猫谷「ふん、相も変わらずお嬢さまは独身男には甘えようだな。まあ、ちなみに俺さまも独身といえば独身なんだが……」
令嬢琴音「そんなこと誰も訊いとらんやないの。将校さまだって必死なんよ」
行商人猫谷「うるせえ、しゃべらねえやつは吊るす。それが掟だ! ふははっ。
誰だって自分は吊るされたくねえ。かといって初日の議論では、こいつが鬼だなんて断言できる決定的な手掛かりも期待できねえ。だから、誰が吊るされても仕方がねえんだ!」
高椿子爵「お嬢さま、猫谷さんのおっしゃることは、残酷なようですが正論なんですよ」
令嬢琴音「そうなん? ほんなら、子爵さまがそうおっしゃるので、琴音はそのご意見に従います」
令嬢は、急にしとやかさを取り戻して、そう呟いた。
高椿子爵「将校さまに伺います。本日の処刑は誰にしたいのですか?」
土方中尉「余の意見を率直にいわせてもらう。余は村人である。したがって、余を処刑することは村人側の利益にはなりはしないということを、まずは発言させてもらう。
余の処刑第一候補は猫谷氏だ。何も正体を暴露しておらぬからな。しかし、万が一猫谷氏が恐ろしい鬼でないとすると、他に嘘を吐いている者がおるということだ。そうなった際には、余は子爵どのが一番怪しいように思える。彼はこのゲームを知り尽くしている。もし彼が鬼であったならば、真っ先に自分が白であることを主張しようとするに違いない、と推測できるからだ。
従って、処刑の第二候補は子爵どのとさせてもらう」
GM葵子「皆さん、昼の議論の時刻が間もなく終了いたします。天文家の方は今宵の観測先を、吸血鬼の方は今宵の襲撃先を、そろそろご指定くださいませ。
この指定は、夕刻の処刑結果の報告後に修正できる時間帯をわずかにご用意してはございますが、万が一にも入力のし忘れが生じると一大事です。現時点でどなたかお一人のお名前にチェックを入れておくことをお勧めいたします」
令嬢琴音「観測先の指定ってどうすればいいん?」
何気なく訊ねた令嬢の一言に、またもや参加者から驚きの視線が集まった。
女将志乃「お嬢さま。それって演技なの?」
令嬢琴音「演技? どういうこと? うちは本当に分からんから訊いたんよ」
それを聞いた志乃は、何かを深く考え込むような仕草で訊ねてきた。
女将志乃「あたしには、まるであなたがわざと自分をターゲットにさせているようにも思えちゃうわ。今晩何が起こっても知りませんよ」
高椿子爵「お嬢さま。もし、お嬢さまが本当に天文家であらせられるなら、目の前にGMから送られたブルー枠の入力画面が表示されているはずです。そこには今回の生き残っている登場人物が表示されているはずですから、好きな人にチェックを入れてくださいね」
と、子爵がやさしく説明した。
令嬢琴音「ああ、これが入力画面ね。子爵さま、ありがとう。
えっ、好きな人いうたら、子爵さまにチェックを入れればよろしいの?」
高椿子爵「ちょっと待ってください。
そのお、お嬢さまが個人的感情で好きな人ではなくて、今晩の観測で最も吸血鬼であることを確かめたい人物にチェックを入れなさい、という意味ですよ!」
いつも冷静沈着な子爵が、めずらしく当惑の表情をみせた。
令嬢琴音「そうなん。でも、うちは子爵さまにチェック入れちゃうんよ。うちが一番信頼申し上げたい人物は、子爵さまなんやからね」
と令嬢は嬉しそうに呟いた。
行商人猫谷「お嬢さま。そのような極秘事項は、口に出さない方が身のためだと思いますよ。
あっ、聞いていませんね。俺の話なんて……」
GM葵子「はい、時間となりました。それでは夕刻の投票に入らせていただきます。
間もなく皆さまがご覧になっている画面に黄色の窓枠をした入力画面が表示されます。そこには、現在生存されている方々のお名前とチェックボックスが書かれております。
これから実時間で五分の間に、どなたかのお名前をチェックして、投票をしてください。入力がない方の投票先は、乱数によってこちらが勝手に決めさせていただくこととなります。
皆さま、くれぐれもお打ち間違いなきようご注意なさいませ」