24.完全勝利宣言
頭を抱え込んだ医師が大声でわめいた。
久保川医師「話がややこしゅうなり過ぎて、とてもわしにゃついてゆけんがな」
散髪屋高遠「つまり、お嬢さまは、この俺に対抗して探偵宣言するということですか?」
令嬢琴音「そういうこと。それに、ここに来てうちが探偵宣言するんは、満を持してということなんよ」
久保川医師「満を持してじゃと?」
令嬢琴音「うふふ、まさしく、村人側の完全勝利宣言ね。
だって、うちの調査によれば、子爵さまが恐ろしい吸血鬼なんやから!」
土方中尉「子爵どのがお嬢さまの調査どおりに鬼であったとして、彼が感染吸血鬼である可能性はあるのか?」
女将志乃「それはないわね。彼が感染吸血鬼だとすると、昨晩感染させられたことになるけど、感染させられた夜には感染吸血鬼は空に飛び立つことはないのよ。だから、天文家が子爵さまの飛び立つ姿を目撃することもないわ」
令嬢琴音「そういうこと。だから、うちと猫さんの意見は一致しているということなんね。そして、散髪屋とは相反している……」
執事大河内「つまりは、お嬢さまと猫谷さまのお二人と、高遠さまのいずれかが『黒』である、ということですね」
令嬢琴音「現在生き残っているのは七人で、うちらの言い分が正しければ、吸血鬼の片割れの子爵さまが死んじゃったから、オリジナル鬼が一人と感染鬼が一人いるんよね。使徒の生存は不明だけど、いずれにしても五人は健全なる村人なんよ。
そして、散髪屋高遠は黒なんやから、今日吊るしちゃえば、村人側の勝利は間違いないわ。
高遠がオリジナル鬼ならばそれで勝負ありやし、たとえ使徒であったとしても、残りの六人の中には健全な村人が四人もいるのだから、潜んでいるもう一人のオリジナル鬼を見つけ出すのは造作もないことやわ」
女将志乃「どうして造作もないと断言できるの?」
令嬢琴音「だって、うちと猫さんは確実に白なんやから、鬼候補から除外できるんよ。そして、うちらの意見を否定的に見ている人物こそが黒ということになるんやからね」
久保川医師「ほうほう、ちゅうことは、お嬢さまのご意見に盾突いたログを残した人物を洗い出せばええっちゅうことじゃな。そいつはた易いことだぜ」
土方晃暉「だいたいは飲み込めたが、余は一つだけ疑問が残っている。先ほども申したが、猫谷が天文家というのなら、何故鬼は昨晩猫谷を殺さなかったのだ?」
久保川医師「ほうれ、出た出た。まさにお嬢さまに盾突く発言だぜ!」
令嬢琴音「さあね? きっと何か鬼さんたちの事情があったんよ。まあ、今晩の犠牲者は猫さんで決まりやと思うけど……」
行商人猫谷「そんなあ、俺さまの命が風前の灯火だとは。とほほ」
令嬢琴音「まあ、いいやないの。きっちり仕事したんやし、悔いはないでしょう?」
女将志乃「ところでお嬢さま? あなたが探偵なら西野さんの遺体も調査済みよね? 彼の正体はどうだったの?」
令嬢琴音「もちろんよ。西野ちゃんはねえ、ただの村人――」
散髪屋高遠「さっきからいいたい放題いいやがって。俺を吊し上げて、もしお嬢さまと猫谷の二人がそろって黒だったら、とんでもねえことになるんだぞ!
お前ら、分かってんのか?」
令嬢琴音「ふふふっ、まさに罠にかかったウサギね。うちらにはもう一人味方がいるんよ。
それはね、女将さん――。
昨日の子爵さまと猫さんのどちらを処刑するか迷っていたうちらを、子爵さまを吊るすように導いた発言をしたんが、ずばり女将さんなんよ」
久保川医師「おおっ、たしかにそうじゃ! ということは……、どういうことじゃ?」
令嬢琴音「つまりは女将さんもうちらの味方。
さらには、昨日の処刑投票で、子爵さまに投票したお医者さまと大河内も信頼できそうね」
行商人猫谷「ふはははは、ようやく事態が飲み込めて来たぜ。今日は散髪屋を吊るして、決着が着いていなければ、明日は将校を吊るせばいいんだ!」
土方中尉「何をいうか? 昨日、余が猫谷に票を投じたのは、単純に猫谷の方が怪しいと感じたからだ。
余は紛れもなく白である!」
女将志乃「あたしは散髪屋さんの処刑に賛成よ。別に、猫さんとお嬢さまが黒である可能性は完全否定できないけど、どちらかに着くしかないならば、お嬢さまの方が信頼できそうな気がするわ」
GM葵子「議論が白熱している最中ではございますが、皆さま、三日目の日中のお時間は終了です。
ただ今より十分以内に、処刑候補者のお名前をご入力くださいませ」




