20.死を覚悟した一大告白
GM葵子「皆さま、二日目の朝となりました。昨晩にお亡くなりになられた方はございません。さあ、これから日中の議論をお始め下さい」
高椿子爵「ちょっとゲームの前に、葵子にいっておきたいことがある」
GM葵子「はい、なんでございましょうか。ご主人さま……」
突然の主人からの呼びかけに、小間使いはきょとんとしていた。
高椿子爵「お前らしからぬ何という体たらくだ、葵子! 西野のようないい加減な人物をゲームに参加させるなんて……。
お前が犯した罪は、水準2の仕置きでは到底済まされぬことなのだぞ!」
常に冷静沈着であった小間使いの表情がにわかに蒼ざめた。
GM葵子「おおっ、ご主人さま。全てはわたくしめの不徳のいたすところ。かくなるうえは、ご主人さまのご命令はいかなるものでも従います。しかしながら、後生ですから、水準3のお仕置きだけは、どうぞご勘弁くださいませ」
高椿子爵「なにを? このわたしに歯向かうとでもいうのか?」
GM葵子「いえいえ、滅相もございません。しかし、あのような恥ずかしい姿をさらすようなことだけは……」
高椿子爵「ふふん。まあ、今日はゲームに連勝中で気分もすこぶる良いから、特別の恩赦を持って許してやらんでもない。
まあ、今後のGMの仕事でへまをやらかすなよ」
GM葵子「ああ、ご主人さま。ありがとうございます。この葵子、一心不乱でお仕事に没頭し、全身全霊を尽くさせていただきます」
子爵と小間使いのこのやり取りをじっと眺めていた令嬢と女将がひそひそ話を始めた。
令嬢琴音「なんだかとんでもない展開になっているようね。なんなのよ、氷娘の小間使いちゃんがあんなにおびえちゃうお仕置きって?」
女将志乃「恥ずかしいって言葉が妙に気になるわね。とにかくあたしたちの想像を絶するすごい拷問であることは間違いなさそうよ」
令嬢琴音「それにしても、昨日の西野さん、投票だけはちゃんとしてたんね。執事が一票得ているみたいだし」
高椿子爵「そうではありませんよ、お嬢さま。おそらく西野氏からの入力が無かったので、乱数によって大河内が選ばれてしまったというのが真相でしょうね」
令嬢琴音「そうなん?」
行商人猫谷「おいおい、昨晩の犠牲者はいねえってことかい?」
女将志乃「そのようね。あたしたちは九人が無事に生き残っているみたいだしね」
土方中尉「ということは、昨晩の鬼どもの行動は、感染狙いだったということか?」
散髪屋高遠「すなわち、九人の中の誰かが感染吸血鬼にされちまったってことだ。だから、健全な村人の残り人数は、ずばり六人ということだな」
女将志乃「そして、おそらくオリジナル吸血鬼は二人残っていると考えるべきだけど、まだ決着が着くまでには少しだけ余裕があるわね」
令嬢琴音「西野ちゃんが鬼の片割れだとラッキーなんだけどね。そうなってくれんかなあ」
高椿子爵「ところで、探偵か天文家の告白はありませんか?」
蝋燭職人菊川「おい、能力者の告白は安易にしてはならぬ。鬼たちの標的になってしまうからな」
女将志乃「かといって、黙っていても能力を発揮することはできないしねえ」
執事大河内「探偵には重要な任務がございます。それは、昨日の処刑者である西野桐人氏の正体を確認することです。
彼は鬼なのか、はたまた能力者であるのか? それは村人側の運命を左右することに直結いたします」
令嬢琴音「そやねえ。それは知っておかないといかんね」
土方中尉「そうなると、探偵は告白せねばならぬということか。
仕方がない。余は探偵ではないぞ!」
高椿子爵「そうですね、探偵は早く告白した方がよさそうですね。
ということで、わたしも探偵ではございません」
行商人猫谷「俺さまも探偵じゃあねえや。ふふふっ……」
美人女将が上目使いに猫谷を睨みつけた。
女将志乃「なによ、その意味ありげな笑いは?
まあいいわ。あたしもねえ、探偵じゃないわよ」
蝋燭職人菊川「待て、待て。探偵でないという告白もしてはならぬ! 探偵が絞り込まれてしまう」
菊川の渾身の訴えを退けるかのように、大河内が発言した。
執事大河内「しかし、そんな悠長なことでは西野氏の正体なんてとても確認できませんよね。
ということで、わたくしも探偵ではございません」
突然、散髪屋が立ち上がって、わざとらしく背伸びをした。
散髪屋高遠「やれやれ。どうやら、探偵でないとまだ告白していないのは、蝋燭屋とお嬢さま、久保川先生にそれからこの俺になっちまったな。
しかし、お前らそろいもそろって馬鹿だなあ。鬼たちのターゲットを四人にまで絞り込みやがって。いや、ひょっとしたらこの四人の中に鬼が紛れ込んでいるかもしれねえから、いずれにせよ、あと二日もしねえうちに探偵は殺されちまうだろうな。
かといって、今日、探偵が告白してしまうのは、どこぞの風来坊君の正体を判別するだけで、そのあとで待っているのは犬死だ。西野の正体は気になるものの、それを確認したからといって状況が一変するわけでもなし。
ようやく、事態が飲み込めてきたか?
探偵は、たとえ西野の調査をしても、その結果の報告はまだ出来ねえんだよ!」
蝋燭職人菊川「鬼の立場からすれば、いち早く探偵を告白させたいわけだ。だから、探偵を告白させる雰囲気を作りだして、集団自滅をうながしたのだ。
自分は感じる。すでに探偵告白を済ませた五名の中に、吸血鬼が二人含まれている可能性は極めて高いと!」
令嬢琴音「ふふん、面白くなってきたわね。子爵さま、猫さん、女将さん、将校さま、大河内の五人の中に吸血鬼がいて、うちと久保川先生、高遠に菊川さんの四人の中に探偵がいる、という推測ね」
高椿子爵「お嬢さま、ちょっと安易すぎますよ。その結論は……」
令嬢琴音「なんで? いずれにせよ、今日の処刑はそちらの五人組のどなたかにしてちょうだいね」
令嬢は素っ気なく突き放した。
久保川医師「そうじゃ、そうじゃ。お嬢さまのおっしゃる通りじゃ。わしらは探偵であるかもしれんのじゃしのう」
行商人猫谷「調子こきやがってえ……。探偵より重要な天文家の存在を無視しての議論かい?」
令嬢琴音「しゃあないやないの。天文家なんて、吸血鬼を観測しない限り、沈黙して潜伏し続けるしか策がないんやから」
令嬢の投げやりな様子を横目に、行商人猫谷がゆったりと前に出てきた。
行商人猫谷「ふっ、そろそろ潮どきか。これ以上待っても、今日じゅうには探偵は告白しそうもないからな。
じゃあ、俺さまが今、自らの死を覚悟して、一大告白をしてやるぜ!」