17.今回は吸血鬼が二人おります
GM葵子「ここは名もなき村。今、皆さんの目の前には、昨晩、吸血鬼から襲われてしまったわたくしめの無残な死体が転がっております。
そして、ここにいらっしゃいます十名の中には、恐ろしい吸血鬼が二人紛れ込んでおります。すみやかに吸血鬼たちを退治しなければ、翌日も、そのまた次の日にも憐れな犠牲者が生まれてしまうことでしょう。
幸いなことに、皆さんの中には、未来を見通す力を有する天文家と、過去を見通す力を持った探偵が、一人ずつおります。さらには、吸血鬼の王に魅せられてしまった使徒も一人紛れ込んでおります。
さあ、一刻も早く、恐ろしい吸血鬼たちを見つけ出して、退治をしてください」
高椿子爵「今回は、吸血鬼が二人いるので、その分ルールも複雑になるな。
葵子、その詳細を分かりやすく説明してやりなさい」
GM葵子「かしこまりました。
皆さま、それでは、既に送信してございますルール記載書の『吸血鬼の項』をご覧くださいませ」
吸血鬼の留意点(ルール記載書より)
吸血鬼である二人の間には上下関係がある。上位の吸血鬼を『吸血鬼の王(吸血鬼K)』、下位の吸血鬼を『吸血鬼の女王(吸血鬼Q)』と呼ぶ。
彼らは、ゲーム開始時からお互いに相方の吸血鬼が誰であるかを知っており、共に『健在(生き残っていること)』であれば、夜になるたびに『秘密の会話』を交わすことができる。
この秘密の会話とは、吸血鬼同士にだけ特別に許可された会話モードを通じてやりとりされる会話で、吸血鬼でない人物たちには、その内容はもちろん、会話している人物が誰なのか、会話が現在行われているのかどうかさえも、全く分からないようになっている。
しかし、夜間以外は、吸血鬼も通常の会話しかできない。
さらに、吸血鬼は、毎日、日中の議論の途中の好きな時に、それぞれがたったの一回だけ『目配せ』と呼ばれる行為をすることができる。
目配せとは、吸血鬼が相方の吸血鬼に向けて送る信号で、ある参加者一人をじっと見つめることで、相方はその人物を確認することができる。吸血鬼以外の人物には、その目配せが行われたことすら気づくことはできない。
目配せは、夜に襲撃したい人物の意思表示をする目的で使用される。
夜間の襲撃の手段は、二通りの選択ができる。一つは『失血死』と呼ばれる襲撃で、襲われた人物は、翌朝に死体となって発見される。もう一つは、『感染』と呼ばれる襲撃で、襲われた人物は、翌朝になっても生きていて、普通に行動することができるので、本人は襲撃されたことに気づいていない。しかし、見た目は『健全な村人(感染させられていない生存中の村人のこと)』であるが、襲われた人物はすでに『感染吸血鬼』となっている。
感染吸血鬼と区別するため、ゲームの最初から吸血鬼である二人の吸血鬼のことを『オリジナル吸血鬼』と呼ぶことにする。
吸血鬼(オリジナル吸血鬼)は夜になる前に、襲撃先と襲撃方法を決めなければならない。その手段をここに述べておこう。
『感染』の襲撃を行うためには、吸血鬼が二人とも健在であることが必要条件となる。そして、二人の吸血鬼が夜間の襲撃で別な人物を襲撃先に選択した時に『感染』が発動して、上位吸血鬼であるKが選択した人物が感染吸血鬼にされてしまう。一方、Qが選択した人物は何も被害を受けることはない。
それに対して、『失血死』の襲撃を行うためには、二人の吸血鬼が同一人物を襲撃先に選択すればよい。二人から襲撃された人物は、翌朝になって遺体で発見されることになる。
また、どちらか一方の吸血鬼が死亡している時には、残った吸血鬼による夜間の襲撃が『失血死』となるか『感染』となるかは、乱数によって決定される。
感染吸血鬼は勝利条件には寄与しない。すなわち、生き残っているオリジナル吸血鬼の数と、健全な村人(感染吸血鬼はこの中に含まれず、健全な使徒はこの中に含まれる)の総数が等しくなった時点で、吸血鬼側の勝利となる。
また、そうなる前にオリジナル吸血鬼の二人が死んでしまえば、村人側の勝利となる。
行商人猫谷「あーあ、面倒くせえ。ルールがややこしすぎらあ」
女将志乃「そんなこといっていないで、ちゃんとルールを把握しておきなさいよ」
GM葵子「この他にも、使徒と天文家に関して注意がございます。
まず使徒ですが、偶然に吸血鬼の王の姿を目撃してしまった村人が、その威厳ある姿に魅せられて生涯の忠誠を誓ってしまうという設定ですから、ゲームの始めから、使徒は吸血鬼Kの正体を知っています(吸血鬼Qの正体は知りません)。一方、吸血鬼の二人は、使徒が誰なのかを知りません。
次に、天文家ですが、毎晩一人を『観測』して、その人物が夜空に飛び立ったかどうかを確認することができます。
吸血鬼を観測した場合には、その人物が飛び立つのを目撃しますが、オリジナル吸血鬼なのか感染吸血鬼なのかまでは判別できません。
と、ここまでは従来のルールと同じですが、さらに注意を要することがございます。
天文家は自身が感染させられると、観測する能力を失います」
令嬢琴音「ふーん、能力を失うとどうなっちゃうん?」
GM葵子「感染させられた翌日以降は、夜の観測を行っても結果がGMから報告されません。さらに、感染させられた天文家は、翌日から毎晩、健全な村人一人に襲いかかって(襲撃先は乱数で決定されます)、その人物を感染吸血鬼にしてしまいます」
令嬢琴音「うわあ、なにそれ?」
高椿子爵「天文家が感染すると、村人側にとって深刻な大打撃となってしまう、ということですね」
女将志乃「探偵が感染させられたら、どうなるの?」
GM葵子「探偵は、感染させられても持っている能力を失いません。すなわち、日中の『調査』と、『(死んでから一日以上経過した死者の)遺言の確認』を行うことができます。また、夜間に村人を襲撃することもありません。
それから、第二ゲームとは若干ルールが変更されておりまして、今回のゲームでは、探偵が調査を行うお相手は、お亡くなりになられた人物のみ、となっております。さらに、調査は、二日目以降で、午前中の議論の間にいつでも行うことが可能でございます。お相手は、前日までに死亡されている方であれば、どなたでも好きな人物をお一人だけ選ぶことができます。
皆さま、くれぐれもご注意くださいませ」
女将志乃「なるほどね。大体わかったわ。
あれ、猫さん。あんた居眠りしていない?」
行商人猫谷「えっ? へいへい、ちゃんと聞いておりやすよ。やだにゃあ、もう……」
令嬢琴音「絶対、今寝てたし。よだれが垂れてるわよ」
と、令嬢は呆れ顔だ。
GM「わたくしからの説明は以上でございます。
それでは、皆さま。ゲームをお続けくださいませ」