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16.あらたに五名をお連れしました

 しばらくすると小間使いが広間に戻ってきた。ぜいぜいと派手に肩で息を切らしている。

「お待たせいたしました。どうにか、五名のお方にあらたにゲームに参加していただくご承諾が取れましたので、お連れ申し上げました」

 小間使い東野葵子の後ろには、四人の男の姿があった。

 一人目は、頬のこけた人が良さそうな黒縁眼鏡の初老男で、二人目は、印象の薄さが逆に個性であるかのような、ほとんど特徴のないもやしみたいな青年だ。

 三人目は、女子おなごのごとく前髪を伸ばした華奢な体つきの男で、ごろつきのような生意気な目つきをしていた。彼はこの村で唯一の散髪屋でもあった。

 四人目はというと、顔を包帯でぐるぐる巻きにしている、見るも憐れで不気味な背広姿の小男であった。一体、あの布きれで覆われた皮膚には、どのようなあざ、はたまた、ひどい火傷やけどの痕が残されているのだろう? 口数も少なく、とても人付き合いが良い人物には思えない。

「ご紹介申し上げます。皆さまから向かって右側のお方から――、お一人目が、皆さまもご存じの診療所のお医者さまでいらっしゃる久保川くぼかわ恒実つねみ先生、お二人目が、この村には観光でおみえになった名古屋在住の書生さん、西野さいの桐人きりひとさまでございます。

 それから、三人目が、鬼夜叉きやさ村の散髪屋のご主人、高遠たかとお安吾あんごさま。そして、最後のお方が、蝋燭作りの巨匠であらせられる、菊川きくかわ六郎ろくろうさまでございます」


 小間使いが一人ずつ順番に紹介していくのを聞いていた行商人猫谷が、我慢しきれずに、のこのことしゃしゃり出てきた。

「なんでい、なんでい。包帯野郎を除けば、個性の欠片かけらもねえ、まるで水みてえな野郎ばっかじゃねえか?

 せいぜい、光り輝く俺さまの強烈な印象インパクトに埋もれることないよう、気をつけるこったな」

「猫さん、せっかくのお客さんに失礼よ!」

 と、令嬢がたしなめたものの、猫谷はさらに調子づいて、

「お嬢さみゃあ。雑魚キャラを甘やかしちゃいけませんぜ。世の中、何事も最初が肝心っすからね。

 そもそもなんだなんだ、この包帯野郎は? 底気味わりいったら、ありゃしねえや。

 なあ、みんな。わっはっは」

「おだまりなさい!」

 突然、小間使い東野葵子が大声を張り上げた。

「このお方をどなたと心得るのですか? おそれ多くも、大日本帝国が誇る孤高の巨匠――このほどは人間国宝にまでも指定されたたぐいまれなる蝋燭職人、菊川六郎さまであらせられるのですよ。

 名人の御前ごぜんです、お控えなさい!」

「……、ははあーー」

 小間使いの剣幕に圧倒された猫谷は、とっさに床に突っ伏して土下座をしていた。その一部始終を目の当たりにした将校と令嬢が、思わず顔をしかめていた。

「しかしなんだ。さっきの威勢から一転して、このなさけない有りようは?」

「典型的に『権威』に弱いタイプなんよね、猫さんって」


「ところで、葵子。お前はさっき五人をあらたに招いたといっていたが、ここには四名しかいないぞ。どういうことなのだ?」

 高椿子爵が厳しい口調で小間使いを問い詰めた。

「はい、ご主人さま。五人目の参加者は、先ほどからすぐそこに控えております、我が高椿家執事の大河内おおこうちたけしでございます」

 すると、子爵の後ろでずっと控えていた若い青年執事が丁重にお辞儀をした。

「ご主人さま、わたくしなどでよろしければ、どうぞなんなりと」

「大河内か……。こいつは面白くなってきたぞ。さあ、葵子、さっそく始めようじゃないか」


「それでは、皆さま。ただ今より、第三回目のゲームを開始させていただきます」

 小間使い東野葵子が、白い花綱レースの手袋をはめた左手を胸に当てて、深々と一礼をした。


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