13.わたしに対抗するというのですね
令嬢琴音「いよいよ二回目のゲームが始まったわ。
うちは、前回のゲームで早々にばったり死んでしまったけれど、今回はその分までしっかり復讐しちゃうからねえ」
令嬢がいつになくハイテンションになってはしゃいでいた。
行商人猫谷「お嬢さま、落ちついて行動しなけりゃ、またまた返り討ちに合っちまうのが落ちですよ」
女将志乃「それにしても、五人の中の四人までもが特殊能力者とはねえ。さあ、どうなることやら……」
土方中尉「これだけ能力者がいると、考えることが煩雑になってしまいそうであるな」
高椿子爵「それでは、また自己紹介から始めましょう。
まずはわたしから。今回のゲームでの私の正体は、探偵です!」
行商人猫谷「おおっと、またもや先制攻撃かよ? 嫌なやつだなあ」
令嬢琴音「子爵さま、ご自分の身の上が心配ではございませんの? 探偵宣言をされてしまえば、あなたは吸血鬼の最優先目標になってしまいましてよ。ほほほっ……」
前回のゲームとはうって変わって、令嬢の子爵に対する応対は冷淡であった。
高椿子爵「ご心配なく。さあ、どうなることやら、今後の展開が楽しみですね」
子爵は少年のように目をキラキラさせて答えた。
女将志乃「それじゃあ、あたしも発言させてもらうわ。あたしは猟師よ!」
間髪を入れずに、志乃も告白をした。
行商人猫谷「けっ、能力者が早くも二人登場かい? ややこしくなってきたな。
おい、将校? あんたの自己紹介はどうなんでい?」
行商人は将校に話題を振ってきたが、それは明らかに将校の虚を突くことを狙っていた。
土方中尉「そうであるな……。うむ、余は村人である。これは偽りなき事実である」
やや落ち着きのない将校の返事を確認すると、行商人は口もとに笑みを浮かべた。
行商人猫谷「ふん、そうかい。それじゃあ、今度はお嬢さまに伺いましょうか?」
令嬢琴音「うちは、『村人側』なんよ」
行商人猫谷「お嬢さまあ、そいつはずるいですよ。村人側っていってもいろいろありますよね。ただの村人か、探偵か、猟師なのか……」
令嬢琴音「その手には乗らへんからね。うちは村人側っていうたら村人側。それだけやん」
令嬢が突っぱねると、
女将志乃「いいじゃない、猫谷さん。琴音お嬢さまのご発言は立派な自己紹介になっているわよ」
と、七竈の女将が令嬢に救いの手を差し伸べた。
行商人猫谷「仕方ねえなあ。んじゃ、俺さまもまねして、自分は村人側っす。――以上」
高椿子爵「それでは、現状をまとめてみましょうかね。
探偵宣言者がこのわたしで、猟師宣言は女将さんでしたね。村人宣言者が将校で、村人側――すなわち『白』宣言者がお嬢さまと猫谷氏ですな」
すると、土方中尉が不満そうに愚痴をこぼした。
土方中尉「このゲームで吸血鬼宣言する者などあろうはずがない。すなわち、琴音嬢と猫谷氏の『村人側宣言』など、実質、何も宣言せぬことと同じだ!」
女将志乃「そうなのよねえ。つまり、今日の投票で処刑すべきは、お嬢さまか猫谷さんってことになっちゃうのよね」
美人女将は楽しそうにいった。
行商人猫谷「ちょっと待ってくれい。どうしてそうなっちまうんだよお?
しゃあねえなあ、俺さまはただの村人でい。将校には悪いが対抗させてもらうぜ!」
女将志乃「こういう時って、あとから宣言する方がより怪しく思えるわね。猫谷さん?」
行商人猫谷「お志乃さん、村人という雑魚キャラなんてほっとけばいいんすよ。ゲームの鍵を握るのは能力者宣言をしたお方たちでしょうが?」
女将志乃「まあ、適当ね。発言もあんまり信用できないし……」
高椿子爵「おやおや、猫谷氏が正体を暴露したようですね。そうなると、あと残ってみえるのはお嬢さまだけとなりましたけど……。
お嬢さま、そろそろ正体を教えてはいただけませんか?」
子爵が追い詰めるように琴音に迫った。
令嬢琴音「しょうがないわねえ。いいわ。皆の意見はひと通り聞けたことやし。
うちの正体は探偵よ――!
ここまで告白を我慢したんは、他に探偵宣言者が出て来ないかを確認をしたかったからよ」
といって、令嬢は子爵をきっと睨み返した。
高椿子爵「こいつは面白い。このわたしに対抗するというのですね」
令嬢琴音「そういうことになるわね。でも子爵さま、うちと子爵さまのどちらが真の探偵なんかを、今日の議論で決着を付ける気は、うちにはないからね。
覚悟なさい、勝負は明日の調査報告の場よ!
そこで正々堂々、戦うことになるでしょうね」
高椿子爵「ふっ、敵を目の当たりにしてあっさり退却されるというのですね。お嬢さまも案外、意気地なしですねえ」
令嬢琴音「むかつくー。あんた、その言いぐさなんとかならんの?」
ついに令嬢がぶち切れた。
高椿子爵「はっはっは。お嬢さまって本当にからかい甲斐がありますなあ。
おおっと、時間もありませんから本題に戻りましょう。本日の処刑投票を誰に投じるかです。
わたしの意見から述べさせてもらいましょう。本日の処刑でしてはならないことは、能力者である探偵と猟師の処刑です。そして、この状況下で能力者吊りを避ける最も確率の高い手立ては、無能力宣言者から処刑する人物を選出することです。
ゆえに、わたしが掲げる処刑候補の一番手は猫谷氏、二番手は土方中尉です!」
期を逸してはならじとばかりに、慌てふためいている将校が、発言をした。
土方中尉「ならば、余もいわせてもらう。余は村人である。
たしかに、余が処刑されることになろうとも、村人側の打撃はさほど大きくはならぬであろう。能力者を助けるためなら、余は自らが犠牲になることも致し方ない、と覚悟もできておる。
しかしながら、余には猫谷氏が白であるという気が全くせぬ。やつの発言は常にいい加減であり、無責任この上ない。
そして、あとの三人に関しては、白黒の判断を現時点で下すことはできぬ。
したがって、余があげる処刑候補は、一番が猫谷氏、二番は不本意ながら余自身である。これは、あくまでも村人側の勝利を考慮した結果である」
行商人猫谷「自らの犠牲もいとわない男らしい熱弁――おいら心底から感服いたしやした、といいてえところだが、こればっかしはそうもいかねえ。
はっきりと村人宣言したんだから、将校を殺しちゃっても百パーセント村人側に致命傷は降りかからねえ。
しかーし……だ。灰色の俺さまは、今宵の鬼の襲撃をかわすために、能力者であるにもかかわらず、あえて未だ潜伏を選んでいるという可能性も、完全否定はできないのにゃ!
したがって、今日処刑すべきは、土方中尉が妥当なのにゃ。ふははっ……。
二番手は、そうだな……、お志乃さんってことになっちまうな。猟師は生き伸びても吸血鬼を見つけ出す能力はねえからな」
女将志乃「なるほどね。よくもまあ、抜け抜けしゃあしゃあと調子のいいことを並べられるものね。
たしかに将校さまは村人なのでしょう。処刑しても村人側の被害は大したことないわ。でも、あたしが思うに、猫さんはおそらく使徒だわ!
考えてもみなさいよ。意気地なしの猫さんなら、使徒になっても臆病風に吹かれて、能力者宣言すらもできずに、おろおろしていそうじゃないの。あはは。
村人を処刑するよりは使徒を処刑する方が、より村人側には有益だわよね。使徒は生かしておけば、投票権も一票持っているんだし。
だから、あたしの処刑候補一番手は、ずばり猫谷庄一郎さん。そして、二番手が将校さまよ」
令嬢琴音「うちは、猫さんの主張も少しは分からんでもないわ。だから、万全を期して、処刑一番手は将校さまで、二番が猫さん、にしておくわ」
高椿子爵「どうやら刻限が迫ってきましたね。このまま投票に入ってもかまいませんか?」
さりげなく子爵が促すと、
猫谷庄一郎「お志乃さんよお。もう一度冷静に考えておくんなましよ。
お嬢さまのおっしゃる通りですぜ。万が一にも俺さまが能力者である可能性は残されているんでやんすからあ」
と、猫谷はこの土壇場になってもまだ甘え声で嘆願していた。
GM葵子「はい、刻限となりました。夕刻の投票に移らせていただきます」
小間使いの冷たい声がして、昼の議論が終了した。