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もふもふ巨神キグルミントン  作者: 沙φ亜竜
第3章 三号だって出陣よ!
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-1-

「桔花、あんたうんちなんだから、余計なアクションなんてしようとするんじゃないわよ!」

「う……うんち言うな~!」


 のわちゃんはあのあと、電車の中でも基地に帰ってからも、あたしに対してぐちぐちぐちぐち文句を飛ばしてきた。

 まさに鬼の形相。

 顔がドアップになるほどまで近づいて凄んできていたため、ツバもたくさん飛んできて汚いことこの上ない。


 そりゃあ、顔面に蹴りを入れるなんていう、あまりにもひどい仕打ちをしてしまったのは、紛れもなくあたしなんだし、悪かったな~とは思うけど。

 それにしたって、あれだけ土下座して謝ったんだから、許してくれたっていいのに。


「そんなに言うなら、のわちゃんが避ければよかったのよ! 首をちょこっと横にずらすだけで、顔面直撃は免れたはずでしょ!?」

「なによあんた、開き直る気!?」

「べつにそういうわけじゃないもん! あたし、散々謝ってるじゃない!」

「謝ればなんでも許されるってわけじゃないでしょ!?」

「だったらどうしろっていうのよ!? あっ、もしかしてお金!? やだやだ、これだから守銭奴は!」

「誰がそんなこと言ったのよ!? 私は誠意が見えないって言ってるの!」

「あれだけ頭を地面にこすりつけて土下座したのに、それでも足りないっていうの!?」

「その後の態度が気に入らないって言ってるのよ!」

「なによなによ! のわちゃんだって、あたしを盾にしてカバの蹴りを防いだじゃない! あれについて、あたしは謝罪を受けてないよ!?」

「うっ……。あんなの、ちょっとしたアクシデントじゃない!」

「ゼッペキに悪意があったよ!」

「証拠でもあるの!?」

「そんなこと言う人は犯人だって相場が決まってるよ!」

「なんの相場!? っていうか、犯人ってなによ!?」

「サスペンスドラマの相場よ! のわちゃんはあたしを亡き者にしようとしたのよ!」

「そんなわけないでしょ!? と……友達なんだし……」

「ひゃうっ!? いきなり素直にならないでよ、恥ずかしい!」

「こっちだって恥ずかしいわよ!」


 なんだか、微妙に変な方向性に変わってきた気がしなくもないけど。

 ともかく、基地にたどり着いてからも延々と続く言い争い。

 しかもふたりとも、まだ着ぐるみを着たままだから、猫娘とバニーガールの争いといった様相だった。


 そんなあたしたちの様子を、一緒に帰ってきたシンバルさんだけじゃなく、シェリーさんまでもが生温かい目で見つめている。

 見ているのなら止めてくれてもいいと思うのだけど。

 ふたりの生温かい視線を見る限り、止める気なんてこれっぽっちもなさそうだった。それどころか、もっとやれと言わんばかり。


「キミたちは本当に仲よしだね~! よきかなよきかな!」

「これのどこが、仲よしに見えるって言うんですか!?」


 のわちゃんは、茶々を入れてきたシンバルさんにまで噛みつく。


「喧嘩するほど仲がいいっていう典型だと、僕ちんは思うよん!」

「私としては、取っ組み合いにまで発展してしまうのも、それはそれでアリかと思ってるんだけどぉ~」


 なにやら満足気に頬を上気させているシェリーさんに至っては、余計なことまで言い出す始末。


「おお、それはいいねぇ! シェリーくん、キミはさすがだ! 色気のカケラもない桔花くんはともかく、のわくんはバニーガールの格好だから、ポロリなんかもあるかもしれないねん!」

『なに言ってんですか!?』


 あたしとのわちゃんの怒声が重なる。その意味合いは、少々違っていたのだけど。

 あたしとしては、色気のカケラもないって、どういうことですか!? といった意味で。

 のわちゃんは、ポロリなんてあるはずないでしょ!? とかそんな感じかな?


 確かにあたしは、のわちゃんと違って、かなりのペチャパイだけど……。

 そう考えると、怒鳴るたびにぽよんぽよん揺れているのわちゃんの胸が、妙に恨みがましく思えてしまう。


「キグルミントンを着たり脱いだりするのって、専用の装置を使わなくちゃ無理だって言ってましたよね!? だったら、簡単に外れるわけないじゃないですか!」

「にょっほっほ、そこは僕ちんの作ったキグルミントン、抜かりはないよん。バニースーツの胸の部分だけは、指をかけるなどして下に引っ張るだけで簡単に外れるようになっているのさ!」

「ええっ!?」


 シンバルさんの言葉に、のわちゃんは驚きの声を漏らす。

 対するあたしは、少しだけ冷静になって考えていた。


 いくらなんでも、そんなことはないだろう。きっとシンバルさんの口から出まかせだ。

 もしそうじゃなかったら、インベリアンと戦っている最中にだって露出する危険性がある、ってことになってしまう。

 戦闘中にポロリなんて、マイナスにしかならないような機能を、いくらシンバルさんだってつけるはずがないじゃない!


「大丈夫だよ、のわちゃん! どう考えたって、そんな作りになってるはずないもん!」


 それを証明しようと、あたしはのわちゃんの豊満な胸に手を伸ばす。

 そしてふたつの膨らみを包むバニースーツの布地に両手の指先をかけ、思いっきり下に引っ張った。


 ぽよよん。


「…………あれ?」


 呆然とするあたしの目の前で、のわちゃんの形のいい大きなバストは、綺麗なピンク色の突起部分も含めて完全にその姿を現す。

 のわちゃん本人とあたしの視線が向けられているだけじゃなく、シェリーさんと、さらにはシンバルさんの視線までもが、その状況をバッチリ目撃していた。

 一瞬の沈黙ののち、


「きゃああああああああ~~~~っ!」


 のわちゃんは両手で胸を覆い、真っ赤になってしゃがみ込んでしまった。


「あわわわわわ、のわちゃん、ごめん!」

「桔花、あんた絶対殺す!」


 鋭い目つきで睨まれたけど、これは仕方がない。

 あたしはまたしても土下座を披露する羽目になるのだった。




 あたしとのわちゃんは着脱ルームで着ぐるみを脱ぎ、シャワーを浴びたあと、コントロールルームへと足を運んだ。


「いやぁ、いいものを見させてもらった!」


 シンバルさんは開口一番、そんなことを言ってのわちゃんのグーパンチを食らう。


「まぁまぁ、ちょっとした事故だから」

「あんたが言うな!」


 あたしがなだめるも、火に油を注ぐ結果にしかならなかった。

 とはいえ、のわちゃんの機嫌も少しは直ってきているようで、鬼みたいだった形相はかなり穏やかさを取り戻している。

 もっとも、普段から若干キツめの顔立ちをしているため、あたしとしてはどうしても萎縮してしまうのだけど。

 ……いや、全然萎縮なんてしてないか。


「それにしても、女子高生がふたりになって、随分と華やかになった気がするよん! よきかなよきかな!」


 シンバルさんは、とってもご満悦な様子。

 あたしとのわちゃんの制服姿を交互に眺め、いやらしい笑みを浮かべながらうんうんと頷いている。


「せっかくだから、もうひとりくらい女子高生が……いや、キグルミントンのパイロットがほしいところだねぇ。目の保養のため……いや、戦力増強のために!」


 うわっ、全然説得力ない!

 呆れてしまいそうになるけど、べつに今に始まったことでもないか、と納得する。

 それにしても……。


「どうしてあたしたちにキグルミントンとしての適性があるんでしょう?」


 感じていた疑問を素直にぶつけてみた。


 運動音痴なあたし。

 キグルミントンのおかげで、インベリアンと戦う場合にはある程度の運動能力を得ることができているように思うけど。

 それでも、もとから運動神経のいい人が着たほうが、より効果的に戦えるのではないか。


 あたしの疑問に、のわちゃんも頷く。

 のわちゃんにしてみれば、いきなり巻き込まれて、なにがなんだかわからないはずだ。

 諦めのいい性格ではあっても、可能であれば詳しい説明がほしいところなのだろう。


「桔花くんには以前にも話したことがあったと思うが、EE――エモーションエナジーは感情力をエネルギーに変換する。箸が転げても笑う年頃の女の子の感情というのは、それはそれは素晴らしく強いエネルギーを持っているものなんだよん!」


 シンバルさんが簡潔に解説を加えてくれた。それはなんとなくわかるのだけど。


「なるほどね。それで? どうして私の着ぐるみはバニーなの?」

「それは無論、僕ちんの趣味だよん!」

「すぐに作り直せ! このド変態!」


 のわちゃんは遠慮なくシンバルさんを怒鳴りつける。

 というか、どつき倒す。


「改造費用をキミが払ってくれるなら、作り直してもいいけどねん」


 意外とあっさり折れたな……と思ったあたしがバカだった。


「改造費用って……いったい、いくらくらいかかるの?」

「にょっほっほ、たったの数億円程度だよん!」

「くっ……! バニーのままで結構です……」


 項垂れながらも、のわちゃんの諦めのよさが遺憾なく発揮されていた。

 言うまでもなく、胸の部分が簡単に外れてしまうという不具合(丶丶丶)だけは、開発者であるシンバルさんのミスになるため、無償で直すように恐喝……いや、お願いしていたけど。


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