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もふもふ巨神キグルミントン  作者: 沙φ亜竜
第6章 新たなるキグルミントン!?
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-1-

 光り輝き、星屑を空へと巻き上げながら、空気に溶けるように消えていく。

 デリートシャイニー。戦いの終焉を告げる現象。

 ライオンの姿をしたインベリアンとの激闘を終え、あたしたちの心は緩みきっていた。


 あたしは小さく息を吐いて、消えゆくはずのインベリアンに視線を向ける。

 そこで、ふと違和感を覚えた。


「あれ? なんか……全然消えてなくならないよ……?」


 インベリアンはまばゆいきらめきを放っている。

 無数の光の粒子もその体から溢れ出し、夕焼け空へと向かって噴出している。それは間違いない。

 にもかかわらず、一向に姿を薄れさせていく気配がなかった。


「でかいからその分、消えるのにも時間がかかってる……ってことじゃない?」

「ですが、禍々しい殺気めいたものも、全然薄れていませんよぉ~? それどころか、ますます強くなってるような~……」


 嫌な予感がした。

 じとっ……と、生温かくて気持ちの悪い汗が、頬を伝う。

 次の瞬間、


「きゃっ!?」「なに!?」「いや~ん!」


 三人の悲鳴が超高層ビル群に反射して大きく響き渡る。

 あたしたちは一瞬にして、吹き飛ばされていた。

 光り輝いている、ライオン型インベリアンの残骸を中心として。


 ……いや、残骸なんかではなかった。

 ライオンはゆっくりとその身を起こし、立ち上がる。

 全身を覆う光のオーラはそのままに、星屑のような光の粒子の放出も続いている状態で、なおもこちらに鋭い殺気を帯びた視線を向けている。


 あたしたちを吹き飛ばしたのは、光の塊だった。

 放出され続けている光の粒子とは別の、巨大化したあたしたちの顔面くらいの大きさはあろうかという光の塊。

 インベリアンはそれを、いくつも飛ばしてきたのだ!


 なにこれ? なんなの!?

 叫び声を上げる間すらなく、光の塊の第二波が襲いかかってくる。


「ごはっ!」


 みぞおちの辺りに直撃を受けてしまったあたしは、あまりの苦しさにうずくまる。

 のわちゃんはかろうじて直撃だけは免れているようだったけど、愛憂ちゃんの姿が見えない。

 苦痛に顔を歪ませながらも首を回して周囲を確認してみると、愛憂ちゃんが仰向けに倒れているのが目に映った。

 ぴくりとも動かない。


 愛憂ちゃん!

 呼びかけようとするも、声すら出せない。


 あたしはうずくまったまま、視線だけで敵を見据える。

 相変わらず光に包まれているライオン型インベリアンが、ゆったりとした動作でのわちゃんのほうへとにじり寄っていく。


 のわちゃんは構えを取って臨戦態勢。

 とはいえ、今の状況は圧倒的不利以外のなにものでもない。

 自らの体を使った肉弾戦に持ち込むしかないキグルミントンに対し、インベリアンは光の塊という飛び道具を有している。


 グガァァァァァァァァァッ!


 獣の咆哮のような雄叫びを上げ、光の塊を四方八方へと飛ばしてくる。

 目標を確実に狙う正確さには欠けている。

 むやみやたらに放射状にまき散らされるだけ。花火工場の大爆発のような、そんな光景ではある。

 でも狙いが定まっていないせいで、余計に厄介で対処が難しい。


 のわちゃんはインベリアンに間合いを詰められていた。

 腕で直撃を防ごうとはしているものの、顔面と胴体を守るのが精いっぱい。

 下半身に向かって放たれた光の塊は、容赦なくのわちゃんに打撃を与える。


「ぐっ……!」


 その場に片膝をつくのわちゃん。

 続けて光の塊に襲いかかられたら、今度こそひとたまりもない。


「こら、ライオン! こっちだよ!」


 あたしは勇気を振りしぼり、インベリアンの気を引く。

 日本語を理解しているわけではないと思うけど、耳はしっかり聞こえているのだろう、敵はあたしのほうに顔を向けてくる。


 目が合っちゃった!

 真っ赤に輝く瞳をたたえた、鬼のような形相にも見える顔。

 最初に現れたときに感じた、ぬいぐるみっぽい可愛らしい印象なんて、これっぽっちも残っていなかった。


 ひぃぃ……! 怖いよぉ……!

 身の毛がよだち、すぐにでも回れ右して逃げ出したい衝動に駆られる。

 だけど少しでも気を引いて、のわちゃんを助けないと!


 あたしの頑張りは、しかし無駄に終わる。

 インベリアンがその場で、第四波となる光の塊を放出してしまったのだ!


 あたしのほうを向かせることには成功していた。

 それでも、光の塊は敵の全身から飛び出していく。

 結果、すぐそばで屈み込んでいたのわちゃんに、至近距離から光の塊が激しくぶつかることになった。


「がっ……!」


 うめき声を響かせ、のわちゃんは後方へと吹き飛ばされてしまう。

 ただ、光の塊が放射状に放たれはしたものの、インベリアンの背面側は放出される数が少ないようで、のわちゃんは致命傷を受けずに済んだらしい。

 痛みを堪えている様子ではあっても、意識は保っている。


 ともあれ、ほっとしていられる局面ではなかった。

 敵はあたしのほうを向いていた。

 前面から放たれる光の塊の数のほうが多いわけだから、当然ながらこちらに飛んでくる攻撃が激しいものとなっていたのだ。


 もちろん、距離が離れていた分、時間的な余裕はあった。

 軌道を見極めて避けることも不可能ではない。

 あたしはトロい自分の体にムチ打って、どうにかこうにか身をかわす。


 そんな中、一発だけ遅いタイミングで放たれた光の塊が、あたしとは別の方向へと飛んでいくのが見えた。

 避けるまでもなく、当たりはしない。

 危険はない……はずだった。


 そのとき、あたしは気づく。

 光の塊が飛んでいく先のビルの陰に、オペレーターとして通信機器を構えているシンバルさんの姿があるということに!


 オペレーターとしてあたしたちについてくれば、戦いの状況が見える範囲内に身を置くことになる。

 そうでなければ、指示を出すこともできないからだ。

 つまり、逃げることもできない上、巨大なインベリアンやあたしたちキグルミントンが肉弾戦を繰り広げている戦場に、生身の体ひとつで飛び込んでいる状態となってしまう。

 キグルミントンとして戦っているあたしたちなんかよりも、遥かに危険な任務を、オペレーター役の人はこなしていたのだ。


 あたしたちでさえも激しく吹き飛ばされるほどの光の塊。

 生身の人間が受けて、無事で済むはずがない。

 あたしはとっさに動いていた。

 シンバルさんの前に、両手を広げて飛び出したのだ!


「きゃうっ!」


 あたしがそのまま吹き飛ばされたら、シンバルさんを押し潰してしまう。

 それでは身を挺して守った意味がない。


 光の塊の勢いが若干弱かったせいもあるのだろう、胸の辺りに直撃を受けはしたけど、あたしは耐えきることに成功した。

 胸が、物理的に痛い。

 歯を食いしばる。


「くっ、痛たたた……。今ので胸のサイズが小さくなっちゃったかも……」

「あんたの胸は、それ以上小さくなりようがないわ!」


 のわちゃんが失礼なツッコミを入れてくる。

 一瞬ムッとしたけど、そんな軽口が言えるようなら、のわちゃんはまだ大丈夫だろう。


『ありがとう、桔花くん。助かったよ』


 そこでシンバルさんからの通信が入った。


「いえいえ、当然のことをしたまでです」


 あたしは一度言ってみたかったセリフを返す。

 失敗ばかりが目立つあたしには、こんなことを言える機会なんてそうそうないのだ。


『あとでお礼として、濃厚なキッスをしてあげよう!』

「いりません!」


 シンバルさんのほうも、こんな冗談を言えるくらいだから、どうやら平気そうだ。


『にょっほっほ、冗談ではなく本気だけどねん!』

「本気だったらあとでぶち殺します♪」


 ちょっとだけブラック桔花を出しつつ、あたしはライオンインベリアンに向き直る。

 今のところ耐え忍んではいるけど、不利な状況に変わりはない。

 そして事態はさらに悪い方向へと流れていく。


 それも当然といえば当然だ。

 のわちゃんは必死に頑張って、光の塊の打撃を受けながらも敵のそばまで近寄り、少しずつではあるけどダメージを与えている。

 対して、あたしのほうはといえば、ただひたすら避けるだけ。それ以上の動きなんて、まったく取れはしなかったのだから。


 これじゃあ、一緒に戦ってるなんて言えない……。

 そうは思っても、体が全然ついていかない。

 何度か避けきれずにかすった光の塊による傷だけで、あたしの足はもうガタガタになってしまっていた。


 やがて、善戦していたのわちゃんも動きが鈍り始める。彼女も疲れてきているのだ。


「きゃあっ!」

「のわちゃん!」


 ここまでずっと腕で弾いて、光の塊の直撃を防いでいたのわちゃんだったけど。

 一瞬の気の緩みがあったのか、それとも疲労によって対応が遅れたのか、ひときわ大きく輝きを放つ塊の一撃をおなかの辺りに食らってしまった。

 すでに腕には、うっ血による青アザが無数に浮かび上がっている。

 のわちゃんの身を包むバニースーツも、ところどころ破けてボロボロのビリビリだ。


 キグルミントンの素材って、すごく耐久性が高いはずなのに。

 破れたバニースーツの切れ目からは、のわちゃんの白い綺麗な素肌がのぞいている。

 大事な部分は、おっぱいポロリ事件のあとの改造で補強されているからか、今のところ被害を受けていないようだけど。

 さっきの一撃が効いたのだろう、おなか付近はざっくりと破け、のわちゃんの可愛らしいおへそが完全に見えてしまっていた。


(あたしと違って、綺麗なおへそだな~。あたしなんて、ちょっと変な形のでべそなのに……)


 ついつい余計な考えまでもが頭をよぎる。


(バニースーツ部分は見た目どおり素材が薄いから、打撃には弱いのかも?

 それに腕とか足とかなんて、考えてみたら素肌がそのまま出てる状態だよね?

 あんなの、キグルミントンとしては、完全に設計ミスなんじゃない!?)


 余計な思考は、あたしの頭の中で、さらなるワープを繰り返していた。

 もっとも、そんな場違いな思考ワープも、そのすぐあとには止められることとなる。

 いまだに光り輝き続けているライオンのインベリアンが、標的を変え、あたしへと向かって迫ってきていたからだ。


(あいつ、どうして消えないの!? デリートシャイニー状態になってるのに!)


 といった考えに一瞬だけスライドしたのち、あたしの心は恐怖一色に染められる。

 インベリアンがあたしのほうに両手を突き出した。

 その両手が光り始めたかと思うと、みるみるうちに膨張し、超絶巨大な光の塊が形成されていく。


(力を溜めて、一気に解き放つつもり!?)


 これまでに飛ばされてきたものの数倍はあろうかという直径を持つ、激しい輝きを伴った光の塊。

 そこに凝縮されたエネルギー量たるや、はたしていくばくか。

 計算の苦手なあたしには、正確な数学的解答は導き出せないけど。

 いくらおバカなあたしでも、これはヤバい、ということだけはわかった。


(避けないと……!)


 直撃を食らえば、おそらくは即死。

 瞬時に蒸発し、この世から消えてなくなってしまうに違いない。


(でも、動けない……。もうダメ……!)


 諦めの念だけが、小さな胸をいっぱいに満たす。

 足がまったく反応しないあたしに、成すすべなどあるはずもなかった。


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