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もふもふ巨神キグルミントン  作者: 沙φ亜竜
第4章 キグルミントン、大ピンチ!
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-2-

 基地で着ぐるみに着替え、愛憂ちゃんとも合流し、あたしたちはインベリアンが襲撃してくる現場へと向かった。

 インベリアンが空から降りてくる前に到着、オペレーターとして来てくれたシェリーさんにつむじのスイッチを押してもらい、巨大化した三人のキグルミントンが待ち構えるという現状。

 プールでのわちゃんと語り合ったように、しっかり頑張らなくてはならない。


 決意も新たに臨んだはずだったのだけど、それもインベリアンの姿を見た途端、一変してしまう。

 敵はうねうね動く長い胴体を持ち、その胴体から伸びた数十本の足がシャカシャカとうごめく、気色の悪い物体――ムカデの姿をしていたのだ!


 微かに黄色がかった淡い色のたくさんの足。黒光りする胴体。触角らしき突起の見える褐色の頭部。


 どこを見ても、おぞましい。

 前回はカエルだったし、どうして虫とか両生類とか、可愛げのない姿で現れるのか。

 あたしがキグルミントンになってすぐの頃は、戦うのがかわいそうなくらいの愛らしい姿で、逆の意味で二の足を踏んでしまうことが多かったのに。

 ムカデの姿に怯えているのを感じ取ったのだろう、シェリーさんから通信の声が飛ぶ。


『みんな、嫌悪感はあるだろうが、戸惑いは見せるな! 相手の思うツボだ!』


 ……確かにそうかもしれない。

 インベリアンは地球上に生息する生物と同じ姿をしている。

 でもおそらく、もともとそういった形状で生活している宇宙生物、というわけではない。

 地球の風景に自然と溶け込むため、動物なんかの姿を模して現れるのだ。


 だったらあんな巨体で現れなければいいのに、と思わなくもないけど。

 大好物のビルや建造物を食べる目的で来ているのだから、あのサイズでなければダメなのも頷ける。


 とはいっても……。

 じいっと、ムカデを凝視する。


 微かに黄色がかった淡い色のたくさんの足。黒光りする胴体。触角らしき突起の見える褐色の頭部。


 無理無理無理無理!

 あんな足で体をこちょこちょされたら、笑いながらショック死しちゃう!

 あんな胴体に巻きつかれたら、泣きわめきながら圧死しちゃう!

 あんな頭部で頭突きされたら、ゲロを吐いて即死しちゃう!


「桔花、あんたゴキブリ触角がお揃いなんだから、仲間みたいなもんでしょ!? 今日はあんたが戦いなさいよ!」

「嫌だよ~! っていうか、ゴキブリ触角じゃない~! だいたい今は、猫の着ぐるみで隠れてるもん! それを言ったら、のわちゃんのウサギの耳のほうが触角に近いから、よっぽど仲間っぽいよ~!」

「耳と触角を一緒にしないでよ! それなら桔花の猫耳だって触角の仲間になるわよ!?」

「猫耳はもっと神聖なものだもん!」

「だったらウサ耳だって神聖よ!」


 なんだか妙な方向にズレていっている気がしなくもないけど、あたしとのわちゃんのあいだで口論が始まってしまう。

 いつもどおりといえば、いつもどおりなのだけど。

 そのやり取りで、のわちゃんもムカデは苦手だというのが伝わってきた。


「そうだ、愛憂ちゃん! あなたなら大丈夫だよね? カエルもぶにゅっと握り潰したくらいだもん、ムカデだって平気よね!?」


 ナイスアイディアとばかりに、無意識のちょっと失礼な言葉を添えて愛憂ちゃんに尋ねる。

 だけど返された答えは、あたしを安心させてくれるものではなかった。


「握り潰したりなんてしてませんけど~……。でも、ごめんなさい、わたしも虫とかは大の苦手で~……」


 最後の砦も崩された!

 どうすればいいの!?

 三人でムカデ型インベリアンを取り囲むも、近寄ることさえできないあたしたち。

 そこへ叱責の声が響く。


『なにを怖気づいてる! 被害が拡大するだけじゃないか! 早くあんなインベリアンなんて、消し去ってしまいなさい!』


 シェリーさんは見てるだけだから、そんなふうに言えるんだ!

 なんて反発心まで芽生えてしまう。

 いや、そうも言っていられない。ここは覚悟を決めるしか……。


『実際の虫とは違うんだから、ぐちゅっと潰したって緑色の体液がべちゃっと飛び散ってくるわけじゃない!』


 決めるしか……。


『だが、もしかしたら足がもげた瞬間、緑色のドロドログログロの液体が噴出するかもしれないが!』


 覚悟を……。


『しかももげた足だけ、うねうね動いてたりして……』


 覚悟……できるか~~~~~っ!

 シェリーさん、余計なことばっかり言いすぎ!


『ああもう、虫ってどうしてああなのか! 考えただけで鳥肌が立ってくる! 早く目の前から消し去ってくれ! お願いだ!』


 ……なるほど、シェリーさんも苦手なんだ。

 だったら、あたしたちが戦えなくても、文句は言えないよね!

 つまり……。


「このままインベリアンが食事を終えて満足して帰っていくのを待っていれば、問題なく乗りきれるよね!」

「そんなわけないでしょ!」


 思わず口に出していた心の叫びに、のわちゃんがすかさずツッコミを入れてきた。


「あ、やっぱり?」


 それはそうだよね~。いくらあたしでも、わかってはいたよ。

 とはいえ、じゃあ心機一転、頑張って戦いましょうか、なんて気になれるはずもなく。


「う~、どうして可愛い動物の姿とかじゃないの~?」

「そりゃあ、哺乳類だけに限るとか、そんな法則があるわけじゃないもの。仕方がないじゃない!」

「あたし、触りたくないよぉ!」

「わがまま言ってないで、戦いなさい!」

「のわちゃんこそ~!」

「くっ……ここはあいだを取って、愛憂!」

「どこのあいだですかぁ~? わたしだって、嫌ですよ~」


 愛憂ちゃんまで巻き込んで、あたしたちはなすりつけ合いをスタートしてしまう。

 当然ながらシェリーさんの怒鳴り声が爆発することになる。


『お前たち、いい加減にしろ! 口から塩酸とか硫酸とかを飛ばしてくるわけでもないんだから、さっさと退治してしまえばいいだろ!?』


 そんな言葉が耳に痛いくらいに響いた、その瞬間……。

 美味しそうにムシャムシャとビルにかじりついていたムカデが不意に頭を持ち上げ、パカッと横長の口を開けたかと思うと、あたしのほうに向かって大量の液体を吹き出した。


「うわっ!? ばっちぃ!」


 あたしにしては珍しく俊敏に避ける。

 目標を失った液体は、そのまま勢いに任せて高層ビルの下層階付近にぶっかかる。

 と同時に液体のかかった部分が溶け始め、バランスを崩したビルは完全に倒壊してしまった。


 ………………。


「シェリーさんがあんなこと言うから~!」

『そ……そんなわけないだろ!? 偶然だ、偶然! もともと、そういう能力のあるインベリアンだったんだ!』


 スピーカーからは、焦りまくった様子のシェリーさんの声が聞こえた。

 それにしても……。


「あれってやっぱり、シェリーさんが言っていたように塩酸とか硫酸とかそういうの!? もしかして、あの液体がかかったりしたら着ぐるみが溶けて、最終的にはすっぽんぽんになっちゃうとか!? そんなの、イヤぁ~~~~~!」


 半狂乱になるあたし。


「バニーガールで羞恥心をどこかに捨ててきたのわちゃんならともかく、あたしはすっぽんぽんになんてなりたくない~~~~!」

「わ……私だって嫌よ! っていうか、羞恥心も捨ててない!」

「え~~っ? シンバルさんにだって、おっぱい見せたくせに~~~!」

「あれは桔花のせいでしょうが!」

「ちょ……ちょっと、その話、詳しく聞かせてください!」


 あたしとのわちゃんの言い争いに、なぜだか愛憂ちゃんまでもが絡んでくる。


「やっぱり愛憂ちゃんって、シェリーさん側の人だったんだ」

『私側って、どういう意味だ!?』

「百合的な意味です!」

『なにバカなことを言っている! 私はそういうのじゃない! 女の子()好きなだけだ!』

「…………」


 キグルミントン三人衆は、沈黙するしかなかった。

 と、そんなあたしたちに再びムカデの吐き出した液体が迫る。


「うわわっ! 危なかった、今度こそすっぽんぽんになっちゃうところだった! のわちゃんだったらいくらでも裸になってくれるのに!」


 そんなあたしの言葉にツッコミを入れてくるのは、もちろん当ののわちゃんで。


「私だって嫌に決まってるでしょ! 何度言わせるのよ! だいたいね、そこまで強力な酸だったら、着ぐるみだけじゃなくて人間の体だって溶けちゃうわよ!」

「そ……そんなの、もっとイヤぁ~~~~~~!」


 すっぽんぽんになるのも死んじゃうくらい恥ずかしくて嫌だけど、体まで溶かされたらそれこそ本当に死んじゃう!

 ムカデは騒ぎまくっているあたしたちの声を鬱陶しく思ったのか、矢継ぎ早に液体を吐き出し始めた。

 どうにか避けてはいるものの、あたしたちは防戦一方。


「数の上では三対一ですけど~、精神的にも追い込まれていますし、相手には飛び道具もありますし~。これはちょっと不利ですねぇ~」


 この状況でしっかり分析しているのはさすがだと言えるけど、愛憂ちゃんはなんだかやけにのんびりとした口調だった。

 ともかく、もはや頼りになるのは、愛憂ちゃんだけかもしれない。

 ここは愛憂ちゃんに頑張ってもらうしか……。

 と思ったのも束の間、事態はさらに悪いほうへと急転してしまう。


「あっ、なにあれ!?」


 あたしが指差す先、上空に黒い点のようなものが見えた。

 点は丸となり、徐々に半径を広げると、その姿を完全にさらしながら、あたしたちのもとへと降り立ってくる。


 ビルよりも背丈の高い、超巨大サイズのクモ――。

 新たなインベリアンの襲来だった。


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