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もふもふ巨神キグルミントン  作者: 沙φ亜竜
第4章 キグルミントン、大ピンチ!
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-1-

 抜けるような青空をも突き刺す、鋭い日差し。

 じりじりと容赦なく肌を焼く灼熱地獄も、ここでは極楽天国へと昇華する。


 今はプールの時間。もちろん授業中ではあるのだけど。

 なんたって、体育を受け持つのは、適当で有名な諸見里先生だから。

 授業が始まった途端に、「よ~し、それじゃあ自由時間だ! 各自好きなだけ泳いでおくように!」と言って自分は日陰に入り、壁にもたれて座り込んでしまった。


 サングラスをかけているのでよくはわからないけど、生徒たちが溺れたりしないように監視していると見せかけて、実際には眠っているに違いない。

 まぁ、今さら文句を言う生徒なんて誰もいない。

 あたしたちは夏の太陽のもと、思う存分、水と戯れていた。


「あの愛憂って子……悪い子ではないんだけど、なんかちょっと引っかかるのよね」

「あはは、確かにのわちゃんに対してばっかり、意地悪なことを言ったりするよね~」

「しかも笑顔のまま! 絶対、腹の中は真っ黒に違いないわ!」

「普段からあたしに意地悪なことを言ってるのわちゃんだって、真っ黒だと思うけど」

「私の心は純白よ!」

「うわ……純白なんて表現、久しぶりに聞いたかも。逆に恥ずかしい……」

「な……なによ、いいじゃないの! だいたい桔花みたいなおバカに恥ずかしいなんて言われたくないわよ!」

「おバカじゃないもん!」

「スクール水着を前後逆に着るなんて、おバカ以外のなにものでもないじゃない!」

「うぐっ……でも、すぐに気づいたもん!」

「気づかなかったら、おバカどころの話じゃなくなるわよ!」


 なんというか、あたしとのわちゃんは相変わらず。

 私服だろうと制服だろうと体操着だろうと水着だろうと、仲よくじゃれ合うのがデフォなのだ。

 からかわれることなんかも多いけど、あたしにとって大切なお友達。というか大親友と言っていい。

 小学校からずっと一緒で、いつでも近くにぴったりとくっついていたっけ。


「のわちゃん、大好き!」

「うわっ!? いきなりなによあんた、また思考ワープしたわね!?」


 突然抱きついたあたしに驚くのわちゃん。恥ずかしがっちゃって、可愛い♪

 だけど……抱きつくとよくわかる、のわちゃんの柔らかさ。

 のわちゃんの大きな胸の弾力によって、あたしの真っ平らな胸がぷにょんと押し返される。


「……のわちゃん、胸大きくて羨ましいな~……」


 思わず本音が漏れる。

 のわちゃんといい愛憂ちゃんといい、どうしてそんなに大きいのか。

 少しでいいから分けてもらいたい。


「え~? こんなの邪魔なだけよ?」

「うわぁ……そんなこと、言ってみたい!」

「いいじゃない、桔花。じろじろ見られて恥ずかしいなんて経験、ないでしょ?」

「そりゃ、ないけど……絶壁だし……」

「だいたい、キグルミントンだって、どうして私だけバニーガールなんだか……。あのシンバルさんって人、絶対に変態よね!」

「うん、それには激しく同意!」


 否定のしようがない。


「制服とか下着とかのニオイを嗅がれたこともあるし」

「ちょ……っ!? それって、完全に犯罪じゃないのよ!」

「あ……いや、あの、そうかもって思っただけで、確証があるわけじゃないし……」

「あんたは無頓着すぎるのよ! 縦笛とかジャージとかも学校に置きっ放しにしてるし、下手すりゃ水着まで置いて帰ってりするでしょ!」

「水着はさすがに持って帰るよ~。カビちゃったら困るし~。……持って帰るのを忘れたことがあるのは事実だけど~」


 あのときはちょっと大変だった。一日放置しただけなのに、カビが生えてきちゃって……。

 洗濯してもなかなか落ちてくれなくて、お母さんに怒られたんだったな~。

 もし二日連続で水泳の授業だったら、カビ水着を着る羽目になっていたかもしれない。


 そしたらゼッペキに、怪人カビ女とかって呼ばれちゃってたよ。

 最初に言い出すのは、きっとのわちゃんだろうな。きっと、っていうか、確実に。

 考えていたら、腹が立ってきた。


「あたしは怪人じゃないよ!」


 のわちゃんの頭をぽこんと殴る。


「痛っ! なに言ってんのよあんた、わけわからないわよ!?」

「あ……ごめん、つい……」

「つい、で殴られてたら、たまったもんじゃないわ。まったく……」


 そう言いながらも、いつものことだとでも思っているのか、のわちゃんはそれ以上文句の言葉を続けたりはしなかった。

 諦めのいいのわちゃんらしい、と言いたいところだけど。

 このときばかりは実はそういうわけでもなく、心の中に別の思いがくすぶっていただけだったようで。

 のわちゃんはこんなことをつぶやいた。


「……愛憂がキグルミントン三号になったのって……やっぱり、私たちだけじゃ力不足だからよね……」

「のわちゃん……」


 思考がワープ気味で忘れかけたりしてはいたけど、それはあたしもずっと考えていたことだった。

 同じ思いを、のわちゃんも抱いていたのだ。


「力不足なのは、あたしだけだよ。のわちゃんは頑張ってるもん」

「だけど、私だってカエルのインベリアンには怯えて手も足も出なかった。桔花となにも変わらないわ……」


 重苦しい空気。

 空は抜けるように青く、日差しがじりじりと照りつけているのに。

 あたしとのわちゃんの周りだけ、超局地的なドシャ降りに見舞われたような、そんな気さえした。


「もっとしっかりしないとダメよね、私たち」

「そうだよね……。でも、どうすればしっかりできるの?」

「それは……一生懸命頑張るしかない、ってところかしら」

「今までだって、必死にやってきたつもりだよ?」

「そう……よね。あんたはともかく、私は……」

「あたしだって必死だったよ……あれでも……」


 ブルーを通り越してディープブルー、いや、むしろ今はブラックだ。

 出口の見えない闇の中で、むやみやたらに手を繰り出すも、なにもつかむことができない。

 ひと筋のクモの糸すら存在しない、真の暗黒世界。ブラックホールに飲み込まれ、そのまま消えていくしかないのだろうか。


 水と戯れることも忘れ、ぼんやり立ち尽くしていると、不意打ちの衝撃が襲いかかってきた。


「きゃうんっ!」


 全身に電気が流れた。いや、そう感じるくらいに驚いただけだけど。

 ポケットがついていなかったため、今回は水着の中――お尻の内側部分に通信端末を入れて、落ちないようにクリップで布地に留めてあったのだ。


「のわちゃん、大変! 緊急呼び出しだよ!」

「ええ。私にも通信が入ったわ」

「あれ? のわちゃんも持ってきてたんだ、通信端末」

「当たり前でしょ? いつ呼び出されるかわからないんだから。水着にクリップで留めて、胸の谷間に挟んであったのよ」


 あたしのように絶壁じゃあ、胸の辺りにクリップで留めていたら目立ってしまってしょうがない。

 一応、キグルミントンだというのは秘密にしているから、他の人に「なにそれ?」と質問されても困る。

 そんなわけで、苦肉の策としてお尻の辺りに留めておいたのだけど。

 のわちゃんは、あたしにはできない方法を使っていたのか。くそぉ、恨めしい……!


「あれ? だけど、のわちゃん、振動で変な声を出したりしなかったよね?」

「いや、あんな声を出すのは、あんただけだと思うけど。それに、肌に密着してれば気づかないはずないから、振動レベルを最小に設定しておいたのよ」

「あっ! あたし、最大の設定だった!」


 謎はすべて解けた!

 ……大した謎ではないけども。


「とにかく、すぐ基地に行かないと」

「そうだね! あたし、諸見里先生に早退の連絡を入れてくる!」


 慌てて水から上がり、プールサイドに飛び出すあたし。

 プールサイドというものは、えてして滑りやすいのが常なわけで。

 お約束どおりというかなんというか、あたしは見事に足を取られ、思いっきり尻もちをついてしまった。


「きゃうんっ!」


 今度の悲鳴は、通信端末の振動によるものではなく。

 お尻の部分に留め直しておいた通信端末を押し潰し、激痛が走ったことに起因していた。

 っていうか、凄まじく痛かったよぉ……。

 ただ、通信端末は無事で、ほっと胸を撫で下ろす。


「あんたのでっかい尻で潰されたのに壊れないなんて、耐久性も抜群ね、この通信端末」


 のわちゃんからは、そんなツッコミが飛んできたけど。


「でっかい尻言うな~! のわちゃんだって似たようなもんじゃない!」

「そうね、あんたの胸と違って」

「はうっ!」


 果敢に反撃を試みるも、さらに追い討ち攻撃でトドメを刺されてしまった。




 諸見里先生に早退の連絡を入れたあと、あたしとのわちゃんは素早く制服に着替え、教室に戻ってカバンを手に取って基地へと向かった。

 キグルミントンとしてしっかり頑張らないと、という意識が働いたのかもしれないけど、ものすごく急いでいた。

 そのせいで、あたしだけじゃなくのわちゃんまでもが失態を犯してしまう。

 水着とタオルをしまい込んだバッグを、そのまま女子更衣室に忘れてしまったのだ。


 諸見里先生が見つけて保管しておいてくれたから、なくなったりはしなかったけど、運の悪いことに翌日にも体育の授業があって、なおかつ授業内容はやっぱり水泳で。

 その上、購買で新しい水着を買おうにも、在庫が切れていて……。

 結果、怪人カビ女が二体も誕生するという最悪の事態へと発展してしまうことなど、今のあたしたちには知るよしもないのだった。


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