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もふもふ巨神キグルミントン  作者: 沙φ亜竜
第3章 三号だって出陣よ!
11/25

-3-

 任務の失敗から何日か経過したある日、昼近くまでベッドの中でだらだらしていたあたしに緊急呼び出しがかかった。


 学校が休みの日に呼び出しだなんて、インベリアン、もうちょっと空気を読みなさい!

 なんて思いながらも、しぶしぶと着替えて基地へと向かったのだけど。

 どうやら今日は、インベリアンの襲来によって召集されたわけではなかったようだ。


 コントロールルームに入ると、すでにのわちゃんの姿もあった。

 一番遅れての登場となってしまったあたしは、後ろ頭をぽりぽりと掻いて照れ笑いを浮かべつつ、主要メンバーの集まっている場所へと歩を進める。


 シンバルさんの他に、シェリーさん、ソルトさん、のわちゃん、といったいつもの顔ぶれが並んでいる。

 その中にひとりだけ、シンバルさんの隣に、誰だろう、あたしやのわちゃんとあまり変わらない年齢だと思われる女の子が立っていた。


「おい、桔花ちゃん、随分と遅かったじゃないか!」

「ご……ごめんなさい、シェリーさん! やむにやまれぬ事情で……」


 やむにやまれぬ事情――といっても、髪の毛が寝ぐせでピンピンと跳ねてとんでもないことになっていたのを、必死になって直していたってだけだったりする。


 普段からクセっ毛で、触角みたいにピンと跳ねたままのあたしではあっても、今日のはあまりにもひどすぎた。

 ソルトさんに会えるかもしれないのに、あんな爆発頭なんて見せられないよ。

 ……もしインベリアンが襲撃してきていたら、そのせいでビルが何棟も食べられちゃったかもしれないけど……。


「にょっほっほ! まぁ、いいではないか、シェリーくん。桔花くんも来たことだし、これよりミーティングを始めるよん!」


 いつもながらの不真面目な口調で、シンバルさんは宣言した。


 ミーティングかぁ……。

 自分から積極的に意見を述べる、なんてことがあたしにできるはずもないし、基本的に話を聞くだけになって激しく眠くなるのよね……。

 そんなふうに思っていたのだけど、そうも言っていられない精神状態に陥ってしまうことになる。


「まずは、自己紹介してくれたまえ」

「あっ、はい~」


 シンバルさんに促され、横に並んでいた見知らぬ女の子が、やけにのんびりとした甘ったるい声を響かせながら一歩前に出た。


「えっと、わたしぃ~、桂愛憂(かつらあいうい)っていいます~。よろしくお願いしますねぇ~!」


 にっこりと笑顔を振りまく女の子、愛憂ちゃん。

 あたしは改めて、彼女をじっくりと観察してみる。


 ふわっとした白いワンピースが、おしとやかで清楚な雰囲気をかもし出している。

 体型は全体的に、ちょっとぽっちゃり気味。

 あたしはともかくとして、細身ののわちゃんを見慣れているせいで、余計にそう思えるのかもしれない。


 加えて、のわちゃんと同じくらい、いや、ぽっちゃりしているからか、のわちゃん以上に大きくてふかふかそうな胸には、女性であるあたしでもついつい目が行ってしまう。

 くっ……。断崖絶壁胸のあたしとしては、最強の敵が現れた気分だ。


 ソルトさんだって男の人だから、やっぱりのわちゃんや愛憂ちゃんみたいな大きな胸には弱いに違いない。

 恋のライバルになんてなったら、ゼッペキに勝ち目がないわ!


 しかも……。

 あたしは視線を上げていく。ロックオンしたのは愛憂ちゃんの顔。


 つやめくサラサラのボリューミーな髪の毛を、リボンで左右に束ねていて、とっても可愛らしく思える。

 きらきら輝く瞳は大きくて、若干厚めの唇もなんだかすごくつやつやしていてキュートさを助長している。

 ほっぺたがぷくっとしているのも、ふんわり温かい印象を与える役割を存分に果たしているようだ。


 つまり、その、なんというか……。

 ありていに言って超可愛いのだ。正直悔しいくらいに。


 自己紹介しているのだから当たり前だけど、ソルトさんをちらっと盗み見てみると、愛憂ちゃんのことをまじまじと見つめているのがわかった。

 胸をじろじろ見たりしていなかったのは、ちょっとだけ安堵できる状況だったと言えるけど、それでもソルトさんは愛憂ちゃんの顔にじっと視線を向けていた。


 ああ、そんなに見ないで! 可愛いな~、恋人にしたいな~、なんて考えちゃってるのかも!

 シンバルさんじゃあるまいし、真面目なソルトさんだから、そんなことはないと思いたいけど……。


 もともと、ソルトさんは会話するとき、相手の目をしっかりと見つめる人だ。

 だからこそ、あたしはその綺麗な瞳に吸い込まれ、爽やかな声に心を弾ませる。

 そうやって、ソルトさんに惹かれていったのだと思う。


 べつに愛憂ちゃんが可愛いから見惚れてしまっている、というわけではない。はず……。たぶん……。きっと……。

 どちらにしても、愛憂ちゃんのあの胸は、やっぱり反則的だよね……。

 あたしは無意識に沈んでしまっていた。


「ちょっと、桔花、どうしたのよ?」


 横に並んでいたのわちゃんが心配の声をかけてくる。

 がっくりと項垂れている状態だったあたしの視線は、自然と落ちていた。

 声に反応して、のわちゃんのほうに意識を向ければ、そこに見えるのは彼女の大きな胸で……。


「のわちゃんも敵だ~~~~!」


 あたしは思わず叫んでいた。




「あんたはまた……。この天上天下唯我独走の思考ワープ娘……」


 もともとの天上天下唯我独尊の意味的に考えたらプラスのイメージになると思うけど、のわちゃんはもちろん悪口として使っている。

 つまりは、あたしが独りで突っ走っているって意味を込めて『独走』に変え、世の中すべてひっくるめた中で最上級の思考ワープ娘だと言いたいのだ。

 同時に、思考ワープのレベルが上がっていることも表現した、とか言われてしまいそうな気がする。


 そんなのわちゃんからの苦言を受けるだけじゃなく、当然ながらシンバルさんやシェリーさんからも怒られ、あたしは素直にごめんなさいの声を響かせる。


 ああ、もう……。あたしってばホント、全然ダメだな……。

 ソルトさんも、さぞや呆れているに違いない。

 今このタイミングで、ソルトさんに視線を向ける勇気なんてなかったけど。


 自己紹介を中断された愛憂ちゃんは、とくに気にする素振りもなく、何事もなかったかのように笑顔をこぼしている。


「愛憂くんは、僕ちんの姪っ子でね。スカウトしてきたんだよん! 待望の三人目の女子高生だ! ムフー!」

「変な息を吐くな! (私が自重しているというのに)」


 愛憂ちゃんに関する説明を加え、さらには余計な言葉まで加え、シェリーさんからツッコミを受けるシンバルさんだった。

 ぼそっと付与されたシェリーさんのつぶやきは、聞かなかったことにしておこう。


 それにしても、三人目の女子高生、ということは……。

 あたしとしては、ある結論に達していたわけだけど。


「あのぉ~、それで、わたしはなにをすればいいんですかぁ~?」


 笑顔を崩さないまま、愛憂ちゃんがそんな言葉を吐き出す。


 うわっ、なにも知らされずに連れてこられちゃったんだ!

 シンバルさんならやりそうだと妙に頷けるけど……。


 愛憂ちゃんの質問に、シンバルさんからの答えは、たったひと言だけだった。


「ハトになれ!」


 きょとん。ぱちくり。目を丸くする愛憂ちゃん。

 そりゃあそうだよね。

 だけどシンバルさんは、狙いどおりと言わんばかりにニヤリと微笑む。


「いいぞ! ハトが豆鉄砲を食らったような顔だ!」

「ありがとうございますぅ~!」

「なに納得してんのよ!」


 なぜか嬉しそうにお礼を述べている愛憂ちゃんに、のわちゃんの鋭いツッコミの声がぶつけられた。




 そのとき。

 突然、基地内にサイレンの音が響き渡った。


「インベリアン警報だ! よし、三人とも、脱ぎたまえ!」

「言葉が足りないわよ!」


 再びきょとんとする愛憂ちゃんの前で、シンバルさんを殴り飛ばしたのは、やっぱりのわちゃんだった。

 ツッコミ体質ってやつだろうか。


「説明は向かう途中でするから、今は急いで着ぐるみを着てきて! ……愛憂さんも!」

「あっ、はい……?」


 ともかく、シェリーさんの指示を受け、困惑する愛憂ちゃんを引き連れたあたしたちは、急いでキグルミントンの着脱ルームへと向かった。

 初めてキグルミントンに着替える愛憂ちゃんには、シェリーさんがついて簡単な説明をしているようだった。


 あたしは急いで猫の着ぐるみに着替え、着脱ルームを出る。

 すでにのわちゃんも、バニーガール姿に変身済みだった。


 やがて三つ目の着脱ルームから、シェリーさんに伴われて愛憂ちゃんが出てくる。


「ハトの着ぐるみなんだね~! 愛憂ちゃん、可愛い!」

「うふふ、ありがとうございますぅ~!」


 真っ白でもふもふとした、ハトの着ぐるみ。

 頭部はあたしの猫やのわちゃんのウサギ同様、愛憂ちゃんの顔がしっかりと出るタイプ。

 くちばしの下に顔がある形状のため、少々不自然な気がしなくもないけど、その違和感を差し引いたとしてもすごく可愛らしい。

 それは愛憂ちゃん自身から発せられる、ほんわかオーラの影響による部分もあるのかもしれない。


 少しだけ不満があるとすれば、胴体の辺り。というか胸の辺り。

 のわちゃんと違って、顔以外も全身すべてがハトの着ぐるみになっているにもかかわらず、着ぐるみを着た上からでもはっきりと胸の大きさが感じられる。


 凄まじいくらいのハト胸……。

 反射的に、自分の切り立った崖のような胸板をさすってしまう。


「あら、どうかしたんですかぁ~?」


 あたしの内心なんて知るよしもなく、愛憂ちゃんは首をかしげる。

 そしておもむろにリップクリームを取り出し、唇に塗り始めた。

 ハトの着ぐるみだから、手の部分は羽になっているというのに、なんとも器用なものだ。


 ……って、着ぐるみを着てるのに、いったいどこから出したの……?

 あたしの視線から疑問には気づいたようで、愛憂ちゃんは補足説明をしてくれた。


「わたしぃ~、唇が敏感だからぁ~、リップが手放せないんです~。だから着ぐるみにも入れられるように、ポケットをつけてもらってあったんですよ~」


 なんというか、用意周到だ。なにをするのかすら、知らされていなかったくせに。

 まぁ、シンバルさんがその辺りも考慮してくれていた、ということか。


「唇、乾燥してかさかさになるの? あかぎれになっちゃうとか?」

「そうじゃなくってぇ~、いつでも湿らせておきたいっていうかぁ~。そうじゃないと落ち着かない感じなんですよね~」

「そっかぁ」


 最初に見たときにも思ったけど、確かに愛憂ちゃんって、すごくつやつやぷるぷるで綺麗な唇をしている。

 女のあたしでも目を引かれるくらいに潤っているのは、普段からケアに余念がないからなのだろう。

 そんなことを考えていたあたしは、愛憂ちゃんの唇をもの欲しそな瞳で見つめてしまっていたらしい。


「ふふっ、ちゅーしてみますぅ~?」


 微かに首をかしげながら、愛憂ちゃんがそんなことをのたまう。


「し……しないよ!」

「あら~、残念~」


 もしかしてあなたも、シェリーさん側の人間なの!?

 といった考えは、当然ながら間違っていたみたいで、愛憂ちゃんは「なんちゃって~」と、イタズラっぽい笑みを向けていた。

 愛憂ちゃんはとってもほんわかな雰囲気で、のんびりした感じの女の子のようだ。


 ここで業を煮やしたのか、今までずっと黙っていたのわちゃんが文句の声をぶつけてくる。


「なにやってんのよ、あんたたち。ふざけてないでよね、まったく!」

「あらぁ~? のわさんこそ、ふざけてません~? バニーガールの格好だなんて~」

「ちょ……っ!? これはシンバルさんが勝手にデザインしたからこうなってるだけよ! 私だってこんなの、恥ずかしくて嫌なんだからね!?」

「そうなんですか~? それにしては、着こなしてるっていうか、着慣れてる感じじゃないですか~。あっ、お色気要員ってやつです~?」


 どういうわけか、愛憂ちゃんはのわちゃんに対して意地悪な発言を始める。


「な……なんでそうなるのよ!? お色気って……お子様体型な桔花と違って、それなりに出るとこは出てるけど!」

「ウエストの細さなんか、とっても羨ましいですし~」

「確かに、桔花と比べても細いけどさ!」

「髪の毛もすごくサラサラのストレートで、いい香りもして素敵ですし~」

「そりゃあ、ボサボサ頭の桔花と比べたら自分でも手触りはいいと思うし、香りだって汗臭い桔花と違って爽やかな花の香水とかも使って気を遣ってはいるけど!」


 ふたりの言い合いは、勢いこそどんどんと激しくなっていったけど、愛憂ちゃんの言葉はのわちゃんを褒めるような方向へと変わっていた。

 しかも言葉の刃による精神的ダメージは、部外者であるはずのあたしのほうへと確実に飛んできていて……。


「ちょ……ちょっと、ふたりとも、もうやめて……。あたしの心に、グサグサと突き刺さってくる……」


 平らな胸を押さえながら、堪えきれずにしゃがみ込んでしまったあたしは、必死に制止の声を上げる。

 そんなあたしを、ふたりの悪魔はニヤニヤ顔で見下ろしていた。


 もしかして、ターゲットって最初からあたしだったの!?

 くっ……、このふたり、ゼッペキにあたしの敵だぁ~~~~!


「こらこら、雑談はもういいから! さっさと出撃しなさい!」


 見かねたシェリーさんからの叱責を受け、あたしたちは素早く基地を出る。

 ただ、精神的ダメージを受けているあたしの足もとは、若干ふらつき気味だった。


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