忍城攻防戦2
秀吉の本陣、そこに何人かの将が集まっていた。
「小田原も終わりですな」
発言した男は、座っている椅子だけでなく、杖にもたれ掛かっている。
黒田官兵衛。長く秀吉を補佐してきた名軍師である。
彼は小田原に使いを出し、その反応を探ったばかりである。酒や肴を送った返答に届いたのは、弾薬であった。これを見た官兵衛は、小田原は長くないと判断した。虚栄を張っているだけだと。
「自分達はまだまだ戦意盛んにして、降伏など考えてもいないと言いたいのでしょうが、ちと必死さが滲み出てしまっております。実際は毎日のように評定を開いては解散する事を繰り返しているのみ。そろそろ城内でも一悶着ありそうな雰囲気です。まあ、その前に降伏を受け入れてくれれば良いのですが」
はてさてどうでしょうかねぇ、と官兵衛は薄く笑った。さすがに長く戦国の世を生き抜いてきた軍師である。凄味があった。
「黒田殿も黒田殿です。酒と肴を送ったそうですが、ついでのように秀次様が手に入れられた、小田原城の見取り図を送り付けたとか……北条が少し可愛そうになってきますな」
そう答えたのは蒲生氏郷。黒田官兵衛と同じく豊臣本隊を構成する武将である。
ちなみに話に出てきた秀次はと言うと。
(そんな事に使ってたのか、あの風魔から貰った図面……酒と肴を差し入れておいて、開いてみたら小田原城の見取り図が出て来るってどんだけ……さすがに後世に聞こえた軍師、黒田官兵衛。やる事がえげつねぇ)
ドン引きしていた。
「ま、そろそろ頃合いという事かの、官兵衛?」
秀吉がそういうと、黒田官兵衛は秀吉に向き合って答えた。
「左様ですな。ここまでの戦いで残っているのは小田原城と忍城のみ。どちらも大軍に囲まれております。完勝と言ってよろしいかと。北条氏直、氏邦の両者と主だった重臣を切腹、代わりに兵の命は全て助ける、と言ったところでありましょう。忍城は小城、城を明け渡せばそれだけ構わぬかと」
(むっちゃ簡単に北条当主の切腹が決まったな。史実より余裕があるせいか、北条を助免する事はないか。つくづく戦国時代だな)
そこでふと秀次は気がついた。北条が敗れ去った後、関東に入るのは自分だと言う事に。
(聞いたほうがいいのかな。関東で北条残党とか雇ったほうがいいですか、とか……い、いや、後にしよう、うん。兵庫や宗茂に相談すればいいや)
「では、小田原城に降伏の使者を送りましょう。北条氏直、氏邦の両者が責を負えば他の者は許す、と。残りは忍城ですが、これは小田原開城後と言う事でよろしいですかな?」
徳川家康が穏やかに軍議を纏めに入った。
「……ま、しょうがないの。三成がしくじったのが唯一の負け戦か。何事も全てがうまくはいかんてことよ。仕方あるまい。官兵衛、使者は誰か適当な者を遣わしておけ。城の引き渡しはお主が立ち会えい」
「御意。早速に取り掛かりましょう」
こうして小田原城へと降伏の使者が入る事になった。小田原城が開城するまであと僅か。最早、戦は終わった。皆がそう思った。
家康は来るべき秀次の関東移封に関して、尾張や美濃に誰が配されるかを思案し、秀次は関東に尾張から皆ついてきてくれるかなぁ、やっぱ江戸を中心に街を造るとこからだよなぁと未来に思いを馳せ、黒田官兵衛は息子の長政はどうしているのかとふと気になったり、秀吉は……秀吉は、関東に秀次を移封した後、奥州仕置を行い、その後は……と重大な事を考えていた。
話すべき事もなくなり、各々が自軍へと引き上げる際、秀次はふと思いついた事を秀吉に言った。
「そういえば、関白殿下。風魔がもたらした情報によりますと、忍城には何やら姫武将がおるらしいですぞ」
「ほぉー、それは初耳じゃな。ふむ、城主の娘か何かかの?」
「甲斐姫、と呼ばれておる姫のようです。成田氏長の娘のようです。なかなかの女傑らしく、彼女に率いられた忍城の戦意は大いに高まっておるようです」
「……やれやれ、三成め、このままでは女にやられたという悪評までがついてしまうのぅ。何か考えるか……」
秀次がこんな話をしたのは、甲斐姫が歴史上では秀吉の妾になっていたからである。
(ひょっとしたら甲斐姫が秀吉のお気に入りになれば、秀頼が生まれない可能性があるかも……無理かも知れないが、一応耳には入れておこう。たぶん、興味を持つはずだ)
この秀次の読みは半分は当たっていた。秀吉は確かに甲斐姫に興味を持った。
(ふむ、その甲斐姫とやら、少し調べてみるか。成田一族の姫なら関東の名家。秀次の側室に置けば、後々、関東を纏めやすくなろう。三成を非難しようとする者も、敗れた相手が秀次の側室では何も言えまい。うむ、一考の価値はあるな)
秀次と秀吉、微妙にずれた考えを持ちつつ、彼らは各々の陣に戻って行った。この時点では、北条が根を上げるのがいつかという事にしか興味はない。
だが、戦は終わっていない。
正確に言えば、忍城を囲んでいる石田三成の戦はまだ終わっていなかった。
石田三成は一つの策を考え付いた。
この策を完成させるために、関白秀吉から書状が届いて以来、彼は寝ていない。
そして、ついに策は完成した。
(必要な物資はかき集めた。兵は二万ほど、私が率いる部隊と大谷吉継が率いる部隊が最終陣となる。それ以外の将が率いる兵には道を造らせる)
三成の本陣には大量の物資が集められていた。近隣の村から挑発した戸板や藁、いくつもの民家を買収し、それらを崩して持ってきた。それ以外にも乾いた土、周辺の木を切り倒して造った丸太が何十本と並んでいる。
これらを差配したのは三成である。配下の兵を総動員し、見事な采配で効率的かつ短期間で膨大なこれらの資材を集める事に成功した。
無論、このような動きをしている事は忍城に知られている。三成はそう思っている。地元でこれだけ動けば、忍城に情報が入らないはずはない。
(だが、これらの物を集めているという情報が忍城に入ったとしても、奴らは動けない。堤防が壊れた夜に、襲撃を受けたが、もはや堤防に頼るのはやめた。我らが囲んでいる限り、忍城は何も動きようがない。出て来ても戦力差がありすぎる。問題はない。それよりも……)
三成には気がかりな事があった。
(小田原城が落ちるのはいつになるだろうか? おそらく近いうちに関白様は小田原城を開城させる。北条が降伏すれば、忍城と戦っている我らは……忍城に開城させ、城を明け渡させ、受け取るだけの事になる。それは避けたい。なんとしても、この城は私の手で落とす! 私が落とせば、関白様の此度の関東出兵は完全な勝利となる。関白様の威は全国に知れ渡る。天下は関白様の下で治まる。そして、豊臣家がこの日本を動かしていく。それには私の力が役に立つはず。この城を落とせば、私の戦下手という評価も覆ろう。やるしかないのだ。時間がない)
秀吉達が小田原へ降伏の使者を送る事を決めた日、三成は諸将を自らの本陣に集めた。大谷吉継、浅野長政、長束正家、榊原康政など全ての将が三成の本陣で軍議に参加する。
諸将は困惑していた。つい先日、関白殿下からの書状で忍城は囲むだけ、と決まったのではないか。いきなり本陣に集まり軍議を開くとは何か起こったのか……。
(あいつ、何か馬鹿な事を考えておらんだろうな……)
三成の親友、大谷吉継は不安を感じていた。
(常の三成なら関白殿下からの命令があれば、それを忠実に確実に実行するだろうが、何やら三成配下の兵がしきりと動き回っていたとも聞く。何か策でも思いついたか……どんな策であれ、今は忍城を囲んで置くことが最善だと思うが……)
「急にどうしたのか、治部少輔は……」
長束正家が訝しそうに隣の浅野長政に尋ねた。
「さて、何も聞いておりません。囲みに問題が出たとは思いませんが」
そんな会話を聞きながら、榊原康政はじっと眼を閉じていた。その雰囲気に誰も榊原には話しかけられない。
(石田三成、何かやるな)
榊原はそう思った。三成配下の者が様々な物を周辺から集めているとは彼も聞いている。そしてこの軍議、三成は何か策を思いついたという事だろう。
(ここで石田三成という男の器量、計れるな)
榊原康政は徳川家の武将である。自らの主君である徳川家康は未だに天下人への執着を捨てていない。今はおとなしく豊臣家の下についているが、今後どうなるかはわからない。榊原康政は豊臣家の子飼い武将達の能力や器量を自分なりに見極めようとしていた。いつか来るかも知れない、豊臣との決戦のために。
(豊臣家の構造は単純だ。絶対的な権力者として君臨する関白秀吉。それを補佐する中納言秀長、そして羽柴秀次……この三人が豊臣の頂点にいる。が、どうやら中納言秀長は長くないとも聞こえてくる。となれば、今後ますます羽柴秀次は家中で重きを成す。問題はそれ以外だ。福島正則、加藤清正などは秀次公と仲が良いらしい。元が尾張出身だからなのか、寧々様とも繋がりが深い。尾張から出てきた者達は、ある程度分かっている。武勇はあっても天下の趨勢を見て動けるほどの器量はないと見た。分からぬのは、秀次公と余り繋がりのない、石田三成や長束正家だが……天下を治めていくに必要な人材足り得ているのか? 福島や加藤は前線で戦う武勇の者、それを支える者が石田や長束だと思っていたが、さて、かつて我が徳川軍を撤退に追い込んだ秀次公のような、天才的な軍事の才があるか?)
もしそうなら、非常に面倒な存在だと榊原康政は思っている。前線に猛将を、後方に策士がいるとなれば、豊臣家はいよいよ盤石に見えてくる。しかも、彼らは全員若い。
(若き世代に有能な者が揃っておれば、徳川家のみでは抗しえない……いや、判断を急ぐ事はない。下の者達がどれほどの力量を持っているか、じっくりと見極めてやろう)
ほどなくして、三成が軍議の場に入ってきた。
彼の姿を見て、諸将は驚いた。眼の下に黒い隅を作り、少しやつれている。
「各々、お呼び立てして申し訳ない。此度、忍城を陥落せしめんため、各々に協力頂きたい」
声ははっきりと、強烈な意志を持った瞳で諸将を睨みつけるように三成は言った。
「……関白殿下からの書状には、忍城は囲むに留めよとあったのではないのか?」
大谷吉継が三成を見ながらそう言った。
「確かに。確かに、関白殿下からの書状にはそうありました。しかし、あの程度の小城、これだけの軍勢で囲んで落とせないという事があって良いものか。我らはこの地に物見遊山に来たのではない。堤を築いて水攻めにする策は敗れました。しかし、我々は敗けてはおらん」
三成は言い切った。諸将は落ち着きなく周囲の者と眼を見合わせた。
(三成、焦っておる……)
(焦っておるな)
大谷吉継と榊原康政はそう思った。前者は心配そうに三成を見て、後者は興味深そうに見ていた。
「私はここ数日であの城を落とす策を考えた。あの城の周囲は沼と湿地、流れ込んだ水によりぬかるみはさらに深くなっている。堤防は既に一部を壊し、水は抜いているが、人馬が進軍するにはそのぬかるみが最大の障害となる。私はこのぬかるみを克服するため、忍城まで続く道を造る事を考えている」
「道?」
「道を造るだと?」
長束正家と浅野長政が同時に声を挙げた。
「三成、道を造るとはどういう事だ」
大谷吉継が不安を押さえながら聞いた。
(こいつ、何かとんでもない事を考えたのではあるまいか。武勲を得る事を第一に考えすぎて、いや、関白殿下から任されたこの戦の重責から、おかしな事を考えたのでは)
大谷吉継の不安は的中する。
三成が語ったのは、正に「道を造る」事であった。
ぬかるんだ地面に対して、人海戦術で道を造る。無論、石畳のような道を造るのではない。
忍城に最も近い堤防から、三成が集めた藁や砂、砕いた石や木を投げ入れていく。その上に戸板や丸太を並べて行き、強引に人馬が通れる道を造るという物であった。
「もちろん、作業は日が落ちてから始める。今日の日が落ちてから始めれば、明日の日の出には、ある程度道は進んでいる。そこからは盾と竹束を並べつつ、さらに進める。一つではなく、複数の道を忍城へと至らせる。後はその道を進み、城に取り着いて落とす」
「無謀にもほどがあるぞ、三成! 敵がそれを黙って見ているはずはあるまい! 日が出てからの作業は大きな損害を伴うぞ! それにそんな道を人馬の集団が渡れるかどうか、わからぬではないか!」
大谷吉継が悲鳴のような抗議の声を挙げるが、三成は冷たい眼で言った。
「渡れる。既に敵から見えぬ場所でやってみた。十分に人馬が渡れるわ。城に取り着いてしまえば、この大軍だ。一日で落とせる」
「馬鹿な……」
「吉継、お主と私の軍は先鋒だ。道が完成次第、我らが城に取り着く。木下殿と長束殿、浅野殿の兵は道造りをお願いしたい。榊原様の軍は後詰をお願いします」
「三成!」
大谷吉継は今度こそ悲鳴を上げた。
「無茶だ、うまくいくとは思えぬ。このまま囲んでいれば……」
「吉継、この戦の指揮官は私だ」
「……」
「私の指示に従ってくれ。必ずあの城を落とす。私を信じてくれ」
(無理だな)
榊原康政はそう断じた。無論、口には出さなかったが。
(これが策と言えるのか。石田三成、功名に気を取られ、この程度の策にすがるか。まあいい。私は後詰に回された。後方で高みの見物をさせて貰おう。撤退の援護くらいはやってやろうか)
榊原が何も喋らない間、大谷吉継や長束正家、浅野長政らが三成を説得しようと試みたが、三成の意志は固く、ここの指揮官は自分だという三成に、ついに他の将も折れた。
「責任は私が取る」
そう断言する三成に、長束正家や浅野長政らは引き下がった。大谷吉継はなおも食い下がったが、
「吉継、頼む、今回は私に従ってくれ。私に力を貸してくれ」
そう頭を下げられ、ついには吉継も折れた。
深夜、命令を受けた兵士達が一斉に藁や砂を詰めた米俵、その他様々な物を投げ込んで行く。ぬかるみは深く、それらはゆっくりと沈んで行くが、かまわず次々と物が投げ込まれ、その上に筏のように組まれた丸太が置かれる。
その作業は夜を徹して行われた。丸太の上に身軽な恰好をした兵達が乗り、その先へとまた物を投げ込んで行く。さらにその上に丸太を置く。これをひたすらに繰り返した。
(具足を脱いだ兵達は乗れるだろうよ。だが、わかっているのか? これを使って攻めるとなると具足を纏った兵に馬に乗った者、攻城のための道具まで運ぶ事になる。たかだか二間ほどしかないこの筏の列で城に取りつけると思っているのか?)
堤防の上から作業を見ていた榊原はそう思いながらも、何も口には出さなかった。
(……確かに、かつての戦では似たような事をしたことがある。山城を攻めるにあたって、敵の正面、大手門から攻めつつ、城の裏に回る。大抵、城の裏手は川や高く切り立った壁のような山があるが、稀に裏手は湿地だった城もある。その場合、藁や土をかき集めて湿地に叩き込み、なんとか馬が通れるようにして、我らが城の裏手から少人数で奇襲するというやり方はあった。だが、ここは山城ではない。平城だぞ。いくら夜から作業を始めるといえど、日が昇れば忍城から丸見えよ。当然、彼らは妨害してくる。沼にはまり込めば動けぬ兵など、いい的だ。仮に、その道が忍城まで届いたとして、それからどうする気だ? たった二間ほどの道が敵の城まで届いただけで、そこから多くの兵を突撃させるわけにもいかぬ……これは、後詰めとして敗残兵の収容に当たったほうが良さそうだな)
榊原は冷めた目でその場を去った。配下の兵に十分に休息を取らせ、弓と鉄砲の用意を怠るなと厳命して。
日が昇ると、忍城からも敵が何をやっているのか、すぐに分かった。
すぐには攻撃が届くような距離ではなかったため、忍城の兵達はありったけの弓を用意し、徐々に迫ってくる道を待ち受けた。
射程に入ると、大量の弓矢が三成の兵に降り注ぐ。木の盾を上方にかざしながら、兵達は砂や藁を投げ入れ続けた。
忍城の城壁の周囲はさすがに深い湿地ではない。そこまで辿りつけば攻略の足掛かりに出来る。三成はそう信じていた。
もう少しで城壁まで道が届こうかという箇所まで道が進んだのは、日が真上を通過して西に少し傾いた頃であった。この時点で幾人もの死傷者が出ている。
作業中に弓矢で射ぬかれた者、足を踏み外して沼に落ち、動けぬ所を狙い撃ちされた者、城壁に迫ってからは大きめの石などが飛んでくるようになった。
(あと少し、あと少しなのだ)
三成も既に馬上の人となり、自らの策によって造られた道の上に立っている。彼にしてみれば、城壁に道が届いたその時、配下の兵を一斉に押し渡らせる。その機を待っていた。
突如、忍城の城壁から瓶が投げ落とされた。
いくつかの瓶が落とされ、盾を構えてた者はその衝撃に倒れ込む。だが、身を守るために倒れながらも盾を構えると、その盾にびっしょりと油が着いている事に気がついた。
兵は城壁の上を見る。そこには火矢とたいまつを構えた兵が並んでいた。
「て、撤退だっ!」
思わず兵は叫ぶが、まるでその声が合図だったように、城壁から火の洗礼が降り注いだ。
身を守る為に持っていた盾が焼けるだけではない。足元の丸太や藁に降り注いだ油は、一斉に燃え上がった。
燃える足元から逃げるため、兵達は沼に飛び込む。そこは具足をつけた者が動けるような場所ではなかった。次々と矢に射掛けられて倒れていく。
混乱した兵は我先に元来た道を戻って行く。
「ひるむなっ! ひるむなぁ!」
三成の絶叫も意味をなさない。造った道の先端は燃えている。転げ落ちた兵達は、足を沼に取られて身動きが取れなくなっている。
「お、おのれ……」
三成は馬に鞭を入れて駆け出そうとした。この策まで失敗すれば自分はどうなるのか。二度と浮かび上がれないのではないか。焦りが彼に無謀な突撃を決断させようとしていた。
だが、馬に入れようとした鞭は、側にいた足軽に軽く止められた。
「お退き下さい。総大将が退かねば、兵はいたずらに混乱するだけです」
足軽はそう言うと、三成の乗る馬をぐるりと回転させ、戦場と反対側に向け、三成から奪った鞭で軽く馬の尻を叩く。
「ま、まてっ!」
三成が抗議の声を挙げるが、すぐに他の足軽が二人、三成の馬を引いて無理やり連れて行った。
それを確認すると、最初に三成を止めた足軽は具足を全て外すと沼地に降りて、その姿を消した。
三人の足軽は、秀次が心配してつけた風魔の者である。彼らは三成が危険な場合、それを守れと命じられている。
あのまま突撃でもされたら守りきれなくなるため、彼らは三成を退かせたのであった。
その後、策が失敗し失意の三成の下に秀吉本陣からの書状が届く。
「小田原城、開城せり」




