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面倒事

小田原城の天守閣からは物が良く見える。

周囲の山々も美しい海もなだらかな尾根が海へと続く伊豆の景色も。

普段なら海には漁師の船が浮かび、周辺の山には静寂な新緑がある。

そして小田原城の周辺は民の賑わいが遠望できた。

そう、普段なら。



北条家当主、北条氏直は天守閣からの景色を見て溜息をついた。

「……もはや長くはないか」

氏直の眼前には海に浮かぶ大量の戦船と巨大なガレオン船が浮かんでいた。

「これほどとはな……」

見通しが甘かった、そうとしか思えない。

氏直の中には後悔があった。

「いや、まだだ。まだ伊達も動いておらぬ……」

口にしてから苦笑する。

いまさら伊達が来たからなんだというのか。

北から伊達が攻めかかって来たとして、この重厚な陣を抜けるわけがない。

「伊達はそもそも我らの味方ではないか……」

伊達と北条がこの戦前に何らかの盟約を結んでいるわけではない。

天下の舞台に躍り出たいと思っているであろう伊達が北条と組んで太閤と戦うというのは、北条の勝手な希望でしかない。

「しかし最早引くに引けん。最後まで意地を張るしかないか」

氏直は天守閣からゆっくりと小田原城の周囲を見渡す。

その顔には疲労の色が浮かんでいた。



氏直が天守閣で思案していた頃。

秀次は風魔から報告を受け取っていた。

「ふ~ん、北条の兵は今だ戦意旺盛か。伊達を当てにしてるのか? 伊達は上様に臣従すると思うがな」

「御意。伊達政宗殿ですが、どうやら小田原へと出陣した模様。いずれは上様に拝謁なさるかと」

答えているのは風魔小太郎。巨漢の忍びである。

「まあ、伊達政宗はこちらでも歓待するから問題ないよ。で、忍城だけど……なんだ、総囲い? 堤を造って包囲? おいおい……」

史実通りじゃねーか、とこめかみを抑える秀次。気を取り直して小太郎に聞く。

「どんな様子だ?」

「ご報告の通り、長大な堤を作り、そこへ利根川の水を流し込み巨大な湖の中に忍城を沈めようとしているようで」

「……一応聞くけど、うまくいきそうか?」

「利根川のこの時期の水量は少のうございます。また雨季ではありませぬので、湖のようにはなりませぬかと。それに……」

一度口を閉じた小太郎に秀次は続きを促す。

「堤を造るために集められた人夫の中に、かなりの数の忍城の手の者がおります。まともに堤ができておるとは思いませぬ」

それを聞いた秀次は頭を抱える。

「絶対無理だろ、それ。水が溜まったら溜まったで、決壊するぞ。あいつ大丈夫か?」

「石田殿ですか。堤が完成すれば忍城が降伏すると思っておられるようですが」

うーん、と秀次は思案する。

「その報告、関白様にも届けておいてくれ」

「御意」

小太郎は音もなく退出していく。

(史実通りの忍城攻略になってるな。堤を造るのは秀吉が指図したとの説もあったが、三成がやったのか。

 なんかあいつ、手柄を欲しがってるみたいだから、秀吉のやった高松城の水攻めを再現して自分の力を示そうとしてんのか?)

秀次はなんとなく三成に危うさを感じていたが、史実でも忍城は小田原城が落ちるまで持ちこたえたので、史実通りになっているんだろうと気にしない事にした。

それよりも秀次には考えなければならない事があったからである。



(関東八州か……なんでそうなるのか……)

そう、先の小田原会談で決まった秀次の関東移封である。

(関東の……二百五十万石か。えーと、やっぱり江戸を開発するべきなんだろうな。この小田原もそのまま残せばいいか。わざわざ崩すのはもったいないし。

 てか、なんで俺が関東……なんか茶の席の後で秀吉は「わかっておる」みたいな顔してたけど、意味不明だっつーの。家康もにこにこしてたから二人にとって問題ないのか?

 大坂に秀吉、三河や駿河、遠江に家康、一番遠くに俺か……あ、まだ来てないけど奥州の伊達がいたか。

 あれ、俺の役目って奥州の伊達への押さえと徳川への牽制か? 徳川への牽制と考えれば、家康から見た場合、義理の息子だからまだ安心できるって事なのか?

 ……わかんねぇや。まあ、大坂からさらに離れたってことは、切腹時に逃げやすくなったとも考えられるな。それはめでたいと思っておこう……

 あ、ついでに中央にいないから俺が関白にならないかも!)

自分が関東に移封された理由はいまいち秀次にはわからなかったが、とりあえずこの北条征伐後は忙しくなる事は確実であった。

尾張、美濃、伊賀、伊勢は召し上げとなるのだから、そこから関東へと引っ越す必要がある。

配下の将は全て連れて行くとしても、石高が増えたのでまた部下を増やす必要があった。

(風魔は関東のどっかで一万五千石……面倒だな、三万石くらいは経営してもらおう。後は、正直北条の遺臣を取り込むしかないか)

さらには津島で育成していた職人達をどうするか、江戸に再度ガレオン船の建造場所を造るかどうかなど、悩みはつきない。

「やれやれ、面倒事が増えるな、まったく」

面倒事が増えたのは秀次が家族での茶会などを提案したからなのだが、彼はそこまで考えていなかった。



そして小田原会談からおよそ半月後。

奥州の伊達政宗が小田原へと着陣した。

史実通り、白装束で秀吉に謁見し、会津領没収だけで許される。

秀吉との謁見後、政宗は秀次に招かれる事になる。



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