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美濃返しの章



史実通り、秀吉本隊のが美濃攻略に出発した後、佐久間盛政が大岩山砦に出現した。

中入りである。

中川清秀は猛将として知れている男であり、その名に恥じぬ奮戦ぶりを見せたが、陥落。

清秀は自刃した。

その後、大岩山砦の側に布陣していた高山右近も劣勢により退却。

本陣で秀長さん率いる留守部隊と合流し、敵の攻撃に備えた。

このまま戦況が推移すれば、本陣でも戦闘が起こっていただろう。


しかし、丹羽長秀が琵琶湖を越えて2千の兵と共に近江に上陸。

賤ヶ岳砦から撤退しようとしていた桑山重晴の軍勢と合流。

賤ヶ岳砦は死守された。

この間、佐久間盛政は柴田勝家から再三の撤退命令が届いているはずである。

ここまでの戦果を挙げたのだ、勝家は一度兵を退き、陣を完全なものに戻してから総攻撃に出るつもりだったのだろう。

が、佐久間盛政は戦果を拡大しようとした。この混乱に乗じて、一気に本陣まで迫れると思ったのかも知れない。


そして、秀吉が戻ってくる。

大垣城から木ノ本まで、たった5時間で軍を戻したのだ。

まさに、美濃大返しと呼べる秀吉の魔術的な戦略行動であろう。


本陣に戻った秀吉は全軍に新たな武具をまとい、すぐさま追撃に移る命令を発する。

武具は俺が秀長さんの指示で大量に用意していたものだ。強行軍のため具足や槍などを置いてきたので、一度本陣で装備

を整えてから、一気に佐久間盛政の軍に襲い掛かった。


佐久間盛政はその場で踏みとどまり、激戦を展開。そこに柴田勝政の手勢が救援に駆けつけた。

秀吉本隊は佐久間が奮戦して手強かったので救援に来た柴田勝政に攻撃目標を変更。

これに苛烈な攻撃を加えるも、圧力の弱まった佐久間盛政の部隊がこれをさらに救援。

秀吉本陣から高山右近隊や秀長さんの部隊、秀吉の与騎部隊などが戦場に投入されていく。

攻防は一進一退。悪くすれば佐久間盛政と柴田勝政は退却に成功できるやも、と思われた。


ここで思わぬことが起きる。

前田利家の軍の戦場離脱である。


この突如として敵の一角が消えるという事態に、前田隊と対陣していた部隊が一斉に秀吉本隊の救援に動いた。

それでもまだ佐久間盛政の軍は耐えていた。今にも総崩れになりそうな状態から鬼神のごとく奮戦していたのだ。


これを見た秀吉はさらに新しい部隊を投入することによって、戦局を決定づけようと動く。

手元に予備隊のなかった秀吉は自分の側周りに声をかけた。


「お主ら」


七本槍や俺、その他の側にいる者達をぐるりと見回した。


「行けぃ!!」


その声を聞くや、周囲の荒くれどもは躍り上がって槍を取り、吼えながら全力で駆け出していった。




俺も一応飛び出していった。

一族衆として、この状況では行くしかあるまい!

福島や加藤の背後に着いていったらきっと安全だ!




そもそも追いつけませんでした。

槍と具足完全装備で舗装もされてない坂道を全力で走るとか、無理な話ですよ・・・。


肩で息をしながら、ふらふらになって坂を登りきった頃、夜が明けて空が白んできた。

上から見ると、柴田勝家の本陣に秀吉の部隊が届こうとしているところだった。




ふっ、七本槍の活躍も先駆衆の活躍も俺には遠い世界の出来事だったぜ・・・。



その後、手ぶらで帰るのも何なのでそこらに落ちてた槍とか兜とか拾ってから秀吉に追いついた。

これ誰のだろう・・・高そうな物もなかったけど、こんなもん持って帰って意味あるんだろうか?

良いか、別に俺に武功を期待してないだろ、たぶん。



「やあ、孫七郎。そちもよう働いた」

うむ、さすが秀吉! 少ない血族を大事にしないといけないから見てないくせに断定だ!

七本槍も秀吉が子飼いの武将を喧伝するために作り出したものって言われているしな。

譜代が少ないってのは、大変だな。

一応、俺が羽柴家で一番跡継ぎに近い。今の所はだが・・・。

だから秀吉も山すら登れぬ俺を無下にはできんのだ! 情けない限りだが!



「勝家を追うぞ。ついてまいれ」

ああ、そうか。すぐに追撃か。当たり前だが。


「途中、前田様に挨拶していきましょう、父上」

前田は戦場からほとんど敵前逃亡のように撤退している。

つまり、軍は無傷なわけだ。ひょっとしたら一戦交える可能性がある・・・と他の者は考えている。

だが俺は違う! だって結果知ってるからな!

前田利家は秀吉につくから挨拶していくほうが良いのだ。


「よう気づいた。又左に顔を見せてから行くかい」

稀代の人心掌握の天才、秀吉もことさら大きな声で言ってくる。

周囲の人間に「前田のことはまったく疑っていない。友人である」と宣伝しているわけだ。


そして、後越前・府中城へと軍は進む。前田利家の居城である。

秀吉は一人で逢いに行く、と言って周囲を驚かせている。危険です、降伏の使者なら拙者が、とか周囲が言ってる。

ここは点数稼ぎだ! 前田が秀吉をどうこうすることはないからな! 身の危険がないなら点数の稼ぎ時だぜ!

「私も共に行きましょう。織田家にその人ありと呼ばれた槍の又座殿にお会いしとうございます」

「おお、孫七郎。そちも共に行くか。さあ又左に会いにゆこうぞ」


うむ、周囲も驚いてるな。なかなかに豪胆な・・・とか、大丈夫なのか・・・とか聞こえてくる。

少しは賤ヶ岳で何もしてないのがごまかせたかな・・・。



前田利家は、なんというかイメージ通りの人だった。

豪快な武人で、いかにも実直で義理堅い人に見える。

義理堅いけど、柴田勝家は見捨てて兵を退いたけどな。

まあ、それが最善の選択であったことは自明の理だ。


あ、でも戦国時代でも有名な松さんが奥さんなんだよな。

ひと目みたいなーとか思っていたら勝家攻めの先鋒が前田利家に決まってた。息子も従軍するらしい。


くそ、まつさんに逢いたかったがよく考えたらもう年増だな。どうでもいいや。



さて、前田利家軍を新たに加えて目指すは柴田勝家の居城、北の庄だ。

勝家軍にはもうまともに抵抗する力は残ってない。

史実通り、天守閣を派手に爆砕して終わりか。


お市の方も勝家に殉じて自害か・・・戦国時代とは言え悲しいもんだな。



・・・・。

・・・・・・・。


お市。信長の妹で戦国史上最も有名な女性だろう。

傾国の美女と呼ぶ人もいる美人だ。

その娘も波乱万丈の人生を送ることにな・・・る・・・!?


しまった! このままでは茶々が秀吉のとこに来てしまう!

そうなれば茶々が後継ぎ、つまり秀頼を産んでしまう!

切腹の最大の理由が、この秀頼が生まれたことなのは多分間違いない!


まずい、まずいぞ!

なんとかしないと!


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