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思惑と思いつき

小田原を囲む陣には当然徳川家康もいる。


自分の屋敷で家康は物思いにふけっていた。

服部半蔵からもたらされた情報、風魔小太郎の調略。半蔵は秀次から小太郎に繋ぎをつける事を命じられた時、家康に報告しそのままこの仕事を続けていいか伺いを立てていた。

家康はそれを即座に実行せよ、と命じている。忍をその頭領ごと丸抱えに調略してしまうという発想にも驚いたが、その役目を半蔵が果たせなければ、今後秀次の不興を買う可能性がある。あくまでも秀次のために働いてこそ、重要な情報に触れる機会も増える。

今回の調略は別に徳川家を害するものではない。半蔵よりも使える忍が手元に加われば半蔵が無用になるわけでもない。むしろ、徳川家との連絡役に今後は仕事が変わっていくだろう。

(あの婿殿の事だ。伊賀者を使えばこちらに筒抜けである事くらい分かっておろう。むしろ、関白様と繋がりの強い甲賀者を使わなかったと言う事は、半蔵は信頼されておるな。つまり、徳川をあからさまに警戒してはいない。少なくとも、敵意や害意は持っておらぬ。それが分かった事が此度の一番の収穫よな)

家康はさらに考えを進める。

(徳川が天下にその力を揮えるようになるには、関白様の下でまずは力を蓄える。もはや関白様に戦で勝つ事は不可能。ならば耐える事だ。わしのほうが長生きする事、それしかない。世継ぎの鶴松はそのころ何歳になっているだろうか? おそらく、まだ元服しておるまい。いや、たとえ元服していたとしても、自分に勝てるほどの才覚はあるまい。ならば隙はある。

今はひっそりとその隙を探る事だ……。

秀吉が執心している茶々。亡き信長公の姪だが、あれは富と権力が欲しいだけの女……秀吉が死去すれば必ず自らが子を使って権力を握ろうとする……。

そして、自分に従っていない者……譜代の家臣や尾張者を遠ざけるはず……そうすれば、北政所はどう動くか。

北政所は聡明な女性だが、情に厚い。自分が育ててきた、例えば加藤清正らを見捨てる事はしないはず。豊臣の生母として実権を握ろうとする女に対抗するには、北政所はただ一人に囁けばよい。茶々をどうにかしろ、と。

そう、羽柴秀次。あの若者を動かせばほとんどの大名は動くだろう。

やはり、あの若者が鍵……あの若者を徳川寄りに取り込むためには、北政所にも接近しておく必要がある。小松姫とは仲睦まじくやっているそうだが、それだけで徳川に協力するほど甘い男でもあるまい。さらに秀次殿の心を得るために手を考えねば……)




家康が自らの思考に沈み、少し考えが飛躍してしまっていたころ、鍵と思われる若者、秀次は……。


ようやく到着した稲に往来で抱きついて、一緒に来た立花宗茂の妻立花誾千代に蹴り倒されていた。


「誾千代様は私が心配で一緒に来てくださったのですよ」

「わかってるって、稲。相変わらず二人は姉妹みたいだなぁ」

「ええ、頼りになる姉だと思っております」

(頼りになりすぎるけどな! 可児才蔵に「かなりの腕前ですな、誾千代様の薙刀は……」とか言われるってどんだけだよ!)

「ふふ、秀次様も元気そうで何よりです。やはり、逢えないのは寂しいですね。便りが来たときは本当にうれしかったです」

(稲~! なんて可愛いんだ! じゃあ早速その寂しさを俺が埋めてあげ……)

「失礼します。領国の田中吉政様からの報告と、風間殿からの報告を持ってまいりました」


空気を読まない家臣に稲と秀次の久しぶりの逢瀬は邪魔されていた。



一応、夜まで我慢する事にした秀次は、稲と共に来た領地からの報告を受け取る事にした。

領地からの書状以外にも風魔が集めた情報、対陣中の武将達からの書状など、結構な量がある。

ただ対陣して日々遊んでいればいいものではないのである。


(ふむ、風魔からの情報では奥羽の伊達政宗は来るのを先延ばしにしているらしいが……結局は来る事になるだろう、って書いているな。

領地から来た手紙に津島級三番艦を送り出しました、と書いてあったから予定通りに伊達政宗が来るまでには着くな。

奥羽の独眼竜……伊達政宗。俺の死亡フラグクラッシュのためにも是非とも懇意にしておかねばならん。

実力や交易以外にも、最悪奥州まで逃げるって事も考えないとね! そのためにも、あの独眼竜のハートをキャッチ大作戦だ!

それはそれとして、領地では津島級四番艦と五番艦の製造も始まったし。

小田原が終わったら造船所を拡大しよう。津島級は役に立つ。俺が逃げないと行けない時とか。国崩しの生産もなんとかなりそうだし、改造も職人達が頑張ってるらしいからどうにかなるかな?

関ヶ原があるかどうかわからんけど、戦力は増強しておかんと……淀君が小細工しても正面からは攻められない程度には! そのためにはこの長い対陣が行われる小田原でいろんな大名と親しくなっておかんといかんな。

一応、三成も失敗するよりはここに残したほうがいいと思ったけど、まさか関白様に直接嘆願してまで行くとは……。

忍城に関しては、史実通りになるのか? いや、一応風魔の者を偵察に出しておこう。何があるかわからんからな)


風魔小太郎に忍城の偵察を命じると、次の書状を手に取りながら、ふと思った。


(そういえば、この小田原に俺の家族がほとんどいるのか)


秀次の義父、秀吉。

秀次の妻、稲姫。

稲姫の義父、家康。

稲姫の実父、忠勝。


(一度、家族で一席設けるか、稲も親父さんに会いたいだろうし)


秀次は手に取っていた書状を置き、秀吉に「家族で一席囲みませんか」と書状を出すことにした。


こうして秀次の思いつきで後に「小田原会談」と呼ばれる場が設けられる事になる。


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