表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/54

九州征伐 その2

夜が明け始める頃。坂の下に布陣した島津勢が動いた。

「あれが島津の矢の陣か。まさに正面から粉砕するためだけの陣。よほどの兵の強さの自信の現われか」

家康が坂の上の本陣から見下ろしながら言った。

矢の陣。

島津が得意とした攻めの陣形である。

文字通り、矢のような陣形を組み真正面から突き破る陣形である。魚燐をさらに正面攻撃力に特化した陣形と言える。

反面、魚燐以上に側面攻撃に弱い。島津の兵の強さを前提にした陣形である。

「来るか、島津」

家康が独語したとき、矢の陣を組んだ部隊がいくつも坂を駆け上がって来る。

さながら弓から放たれた矢の如く、凄まじい勢いである。

一気に敵陣を貫かんと迫る島津軍。そこに、最前線に陣を張っていた小早川(こばやかわ)から雨のような鉄砲が発射された。

瞬く間に血に染まる根城坂。しかし、僚友の屍を超えて島津の兵は陣に迫る。

「鉄砲、弓兵、まだ次は撃つなよ! 堀まで引きつけよ!」

小早川隆景の大声が響く。その統率力によって完璧に制御された小早川隊は、鬼の形相で迫る島津に対して静かに構えていた。

ついに島津の先駆け部隊が堀に取り付く。その瞬間、短いがよく通る声で小早川隆景は叫んだ。


「撃て!」


一斉に放たれる鉄砲と弓。至近距離から受けた先駆け部隊はほぼ全滅していた。

「防げ!」

次の小早川隆景(こばやかわたかかげ)の命令で鉄砲部隊が退き、変わりに槍隊が前に出る。

隆景は先駆け部隊を討ち取っても次の射撃の前に島津軍が堀を超えて来る事を見抜いていた。あの程度の損害で留まる相手ではない。

まして、退く事などありえない。

坂の下から上って来る島津も鉄砲や弓で反撃しながらなんとか陣を崩そうと突撃して来る。

しかし、小早川隆景の熟練の指揮になかなか前進できない。

さらに榊原、石川の徳川重臣率いる部隊が前進して小早川隊の救援に回る。

家康は後方から素早く指示を飛ばし、手薄になった場所を自らの兵で埋めていく。


前線で敵を蹴散らす小早川隆景、後方から支援する徳川家康。

島津の損害は加速度的に増えていったが、いまだに最初の空堀すら突破できずにいた。

戦闘開始からおよそ一刻。

島津の側面をつく形で黒餅の紋が翻る。

黒田考高の部隊が戦場に到着したのである。

さらにその後方より細川忠興の軍勢が現れ、戦場に乱入する。

ついに崩れた島津軍に、家康は陣から出ての全面攻勢を命じる。

細川勢に島津忠隣が討ち取られ、全面壊走となった島津軍を家康と隆景は追撃し多くの戦果をあげた。


こうして、根城坂の戦いは秀次別働隊の大勝利となった。

最も、総大将の秀次は特に何もしていなかったが。

救援にきた部隊が敗走した事により、高城は降伏。開城の使者を受け入れ、豊臣に降った。

壊乱した島津義弘は事がここに至ってはしかたなし、と剃髪して秀次の下に訪れて降伏。

徹底抗戦を決めた島津義久や新納忠元を説得し、秀吉に島津全てが服する事に決まったのがそれから一月後。


秀次は事後処理を石田三成、増田長盛、山内一豊の三人に申し付けた。

実務面では有能な官吏である石田三成、増田長盛が取り仕切るが、島津はまだ敗けたばかりである。こういう場合、感情面での配慮もいる。そのために秀次は山内一豊を残した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ