八華
コンコン…
そろそろ正午になろうかというときに藤里の部屋を誰かが訪ねてきた。
「誰だい?お入りなさい」
「失礼します。おはようございます、藤里様」
訪問者は菖蒲であった。
「菖蒲か、おはよう。どうしたんだい?時間が空いているのなら遠藤さんに来ていただきなさい」
遠藤は既に自室のように使っている客室にいるだろう。
「ええ、1時からお願いしてあります。
実は藤里様にお聞きしたい事がありまして…」
「なんだい?」
藤里はこのタイミングで菖蒲が尋ねたいことなど遠藤のことだろうと予想をつける。
「遠藤様なのですが…」
そこまで言って菖蒲はためらい、言葉を詰まらせた。
(なにがあったんだ?まさか遠藤さんが菖蒲に手を出すとは思えないが…)
その様子に藤里はあらぬ邪推をしそうになる。
いくら遠藤でも商品である楼の娘に手を出されたら黙ってはいられない。
「その…お歳が44歳っていうのは本当ですか?」
………
部屋に少しの間沈黙が落ちたあと藤里が口を開いた。
「なんだ、そんなことか。そうだよ?
確かに見た目は30歳位にしか見えないけどね…」
すると菖蒲は安心と驚きの混じった表情をした。
「一瞬聞いたらいけない事かと思い緊張しましたよ。
本当にそんなお歳になるんですね。驚きました」
「いや、菖蒲があんまり真剣だったからなんの話かと思っていたんだよ。
さあ、用事はすんだかい?頑張りなさい」
そう言って菖蒲を送り出した。