五華
なぜか怖々と手を差し出してくる菖蒲に、とりあえず怖がらせないように、と俺はその白魚のような手を包み込むようにして握った。近くで見るその顔は思っていたよりずっと幼くて、昨夕に中庭を歩いていた時のしっとりと色香をにじませた彼女とは、ずいぶん印象が違う。
(…意外だな。こんなに幼い顔立ちだったのか)
「…あ、あの…」
ついつい、じっと観察していると、目があった菖蒲は、ぱっと顔を伏せてしまった。なにか言いたそうな彼女を遮って、呆れたように藤里が口を出してきた。
「遠藤さん、女性をまじまじと見るのは失礼です。それに、菖蒲が怖がっていますよ」
「え…あぁ、悪い悪い」
「さて、菖蒲。彼にあなたに洋画を教えて頂くよう頼んだのですが…よかったらどうだい?」
「えっ…ぜ、是非お願いします!!」
興奮に瞳を輝かせて菖蒲は綺麗に腰を折った。
「俺がうまく教えられればいいんだけどなぁ…」
「では毎週水曜日の午後にお願いできますか?前日が休みなので確実に客がいませんから」
俺は藤里の提案を承諾した。
将棋に負けたことがきっかけだったが菖蒲と話してみると教えるのも苦ではなさそうだった。