6-18.トリックエンジェル大暴走 (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
詩音 :「ごめんね。ごめんね。」
詩音が西棟の一番手前の病室で泣きながらベッドに寝ている美鈴に謝る。
美鈴はマスクをつけて苦しそうにしている。バイタルを示す機器が決して楽観できない数値を示している。
美鈴 :「ううん。ありがとう。詩音ちゃんの気持ちよくわかる。松井先生に無理やりお願いされたんだもん。」
松井先生が沈痛な面持ちで美鈴を見る。
詩音 :「ごめんね。ごめんね。」
美鈴 :「もう。謝らないで。私、わかってたの。もう、だめだってこと。でも一瞬信じちゃった。あのお芝居。だって、トリックエンジェルなんだもん。お芝居だってわかってたのにね。」
美鈴 :「でも、自分の病気のことは自分が一番わかってる。詩音ちゃんにも松井先生にも辛い思いさせちゃったね。」
詩音 :「ごめんね。ごめんね。」
美鈴 :「もう、謝らないで。神様がくれた病気だから。わかってたから。でも、私、すごかったでしょ。舞ちゃんには最後まで悟らせなかった。電話でも一生懸命頑張った。」
詩音 :「うん、うん」
美鈴 :「舞ちゃんには悲しい思いさせたくない。あんなに私のために頑張ってくれたんだもん。」
詩音 :「なんで美鈴ちゃんそんなに優しいのよ。」
美鈴がにっこり笑う。
美鈴 :「でも、でも、もう一度だけ舞ちゃんに会いたい。」
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ポッチ:「今回のお芝居はやりすぎじゃない? 詩音」
詩音 :「うん、そう思ってる。でも、みんな信じるくらいのお芝居をするって詩音は言った。それを松井先生も許してくれた。ひどい結末になることはわかってるけど。でも、」
ポッチ:「わかった。私は最後まで詩音の味方。ちゃんと付き合うわ。」
詩音 :「ありがとう。ポッチ。」
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1週間前。美鈴の治療がひと段落して番井先生やくるみ、和恵ママが帰って行ったあとの日のことだった。
舞 :「え? 北海道?」
冬子 :「はい。兄がまた来いとうるさいです。舞ちゃんのことすごく気に入っています。」
舞 :「でも~。美鈴がこんな時に。心配で離れられない。」
美鈴 :「大丈夫よ。番井先生ももう大丈夫っていってくれたし。体の調子もとてもいいの。」
舞 :「でも。でも。」
美鈴 :「舞ちゃんも心配症ね。わかったわ。こうしましょう。毎日、電話かける。それで、元気かどうか伝えるわ。それで、調子が悪くなったら戻ってきてね。」
舞 :「う、うん。わかった。でも、もし、調子が悪くなったらすぐに電話してね。調子が悪いのに元気って嘘ついちゃだめだよ。」
美鈴 :「大丈夫。心配しないで」
そうやって、舞は冬子と北海道に旅行に行った。
今回は、冬子だけでなくあきらも一緒について行った。冬子の兄の家に挨拶がてら1泊した後、夏の旅行を兼ねて富良野や美瑛といったまるで天国のようなきれいな風景の場所に命の洗濯に行った。
舞は、毎日、電話をかけて美鈴の病状を確認した。とても、元気そうだった。舞の心配は杞憂だった。そういうふうに思えた。舞はすっかり安心して、旅行を楽しんでいた。
帰りの電車の中で舞が冬子とあきらに楽しそうに話す。
舞 :「番井先生やっぱりすごいよね。最後の最後で助けに来てくれるんだもん。」
冬子 :「はい。」
舞 :「ポッチもポッチよね。4ヶ月もだましつづけて、美鈴のそばにいたなんて。本当小説みたい。」
冬子 :「はい。」
舞 :「草薙先生も楽しそうだった。番井先生が来た次の日なんて、もう、でれでれだったし。」
冬子 :「はい。」
舞 :「ねえ、冬ちゃん、ちゃんと聞いてる?」
冬子 :「ごめんなさい。冬子考え事してました。」
舞 :「何、考えていたの?」
冬子 :「舞ちゃん、おかしいと思いませんか、今回の騒動。」
舞 :「え?」
冬子 :「冬子、すごく違和感感じてます。」
舞 :「そう?」
冬子 :「はい、なんか中途半端なんです。特に詩音ちゃんの行動が。彼女は何をしたかったんでしょうか?」
舞 :「美鈴を治したかったんじゃない?」
冬子 :「だったら、最初からそう言えばよかったんです。でも、彼女は言いませんでした。」
舞 :「本当よね。」
あきら:「実は俺も感じている。」
冬子 :「あきらさん、珍しく意見一致しました。明日は雪が降るかもしれません。」
あきら:「夏に雪は降らない。」
冬子 :「じゃ、豹が降るかもしれません。まだら模様の豹が降るところを想像するととっても怖いです。」
あきら:「空から降るのは動物の豹じゃなくて雹だ。」
冬子 :「そうともいいます。」
あきら:「話を戻すと、今の話、きれいに完結している。」
舞 :「パパ、どういうこと?」
あきら:「お芝居は続いてるんだ。」
冬子 :「?」
あきら:「確か、詩音ちゃんは松井先生に頼まれてイヤイヤお芝居をしたんだよな。」
舞 :「うん。」
あきら:「その時、条件として徹底的にやるって言ったよな。周りの人もだまされるくらい。」
舞 :「うん、そうだよ。」
あきら:「だとしたら、全部がお芝居なんだ。番井先生が治すというのも。」
舞 :「え?」
あきら:「だから、トリックエンジェルのお芝居を徹底的にやってあたかも治す振りをしていた。」
冬子 :「冬子、難しすぎてわかりません。もっとわかりやすく説明してください。」
あきら:「つまり『トリックエンジェル』のお話しにかこつけて一芝居打ったんだ。本当にトリックエンジェルが現れたようにして演技をした。」
あきら:「当然彼女たちはトリックエンジェルの物語を知っている。そこで、彼女たちは身近な3人を仕立て上げた。最高のママは詩音のお母さんである和恵、最高の医者は番井先生、そして最高の科学者はくるみだ。でも、ここがおかしいんだ。原作だとお薬を作る最高の科学者のはずなのにくるみは薬は作らない。」
冬子 :「つまり、手近なひとを集めてお芝居したっていうんですか?」
あきらがうなづく
舞 :「でも、ポッチは美鈴でしょ。そうしたらポッチが生きている理由がないわ。」
あきら:「ポッチは丸山美鈴ちゃんじゃないよ。あくまで神崎美鈴さんだ。でも、彼女の能力を考えればいくらでも丸山美鈴の振りができる。」
舞 :「でも、声が美鈴と一緒。」
あきら:「あのときだけ、ボカロ7で変換すればいいだけだ。ず~と、ボカロ7で神崎美鈴の振りをしているより、あの時だけ変換するほうがよっぽど楽だ。」
舞 :「だって、アルバムにちゃんと写ってた。丸山美鈴がポッチだって。」
あきら:「舞、実は写真は簡単に合成できるんだ。彼女たちだったらいとも簡単に実行するだろう。」
舞 :「そんな。」
あきら:「他にもある。治療法があまりに簡単だ。ただ、和恵とポッチの血を輸血しただけだ。」
舞 :「骨髄移植ってだってそんなもの。」
あきら:「違う。骨髄を移植するためにはドナーから骨髄を取らなければらなないけど、その際、骨盤に6箇所無理やり穴をあける。」
舞 :「うん。」
あきら:「だけどポッチや和恵は骨髄を取らずに血管から血液を取っただけだ。もし、輸血で治るのならただ献血するほうがよっぽど楽だ。でも、白血病は骨髄移植でないと治らない。だから、痛い思いをさせてでもドナーを募集する。それを輸血して治すなんてありえない。」
舞 :「それは、エルベの最新技術をつかったから。」
あきら:「他にもおかしなところがいっぱいある。いくらハプロ移植でも厳しい化学療法を行う前処置と、その後の骨髄抑制による移植合併症との闘い、そして、GVHDとの闘いがある。でも、三すくみ療法にはそんなの何もないんだ。明らかに嘘っぽいんだ。」
冬子 :「そこまで徹底的演技する必要があるのでしょうか?」
あきら:「そこまでやるって言ったんだよな。詩音ちゃんは。」
舞 :「うん。」
あきら:「残酷な話かもしれないが、これが真実だ。周りの我々がだまされちゃいけないんだ。」
冬子 :「冬子、そんな悲しい話信じません。絶対信じません。」
電車が花の丘駅に着く。冬子たちは家に向かって歩き出す。
冬子 :「冬子、今の話絶対に信じません。」
そうこうしているうちに家に着くと、家の前で人が待っている。噂の詩音だ。
舞 :「あ、詩音、ただいま~。お土産買ってきたよ。さ、中に入ろう。」
しかし、詩音は首を振り、真剣な顔で話をする。
詩音 :「大変、美鈴ちゃんが倒れた。もう、危ない。舞ちゃんを呼んでいる。急いで病院に。」
舞 :「え? どういうこと? 昨日まで元気で電話に出てたじゃない。」
詩音 :「話は途中で。すぐにいくよ。」
舞 :「わかった。すぐ行く。」
冬子 :「タクシー捕まえましょう。」
詩音 :「走った方が早い。」
言うが早いか二人はかけだす。
冬子 :「そんな。」
あきら:「やはりな。そういうことさ。」
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舞 :「どういうことよ。」
詩音 :「ジーブイエイチディーだっけ? あれが急に起きたのよ。それで『だぞうきふぜん』起こしてる。」
GVHD、骨髄移植や輸血で発生することがある。拒絶反応とかの逆で、輸血した血の方が体を攻撃する反応である。それで多臓器不全を起こすことがある。だけど、今回、和恵さんの血では起きないことが確認されているし、ポッチの骨髄は遺伝子が同じだからGVHDは起きえない。
舞 :「あなたたち、何をやったの?」
詩音 :「ハプロ移植。このまま、黙って死を迎えるのならと、かけに出たのよ。美鈴ちゃんのお母さんの骨髄で。草薙先生がお母さんを説得したのよ。」
舞 :「三座不一致で骨髄移植?! ほんとにやったの?」
詩音 :「それしかなかったのよ。」
舞 :「ちょっとまってよ。美鈴はトリックエンジェルが来て助けたんでしょ。ハプロ移植なんて必要ないじゃない。」
詩音 :「何言ってるのよ。あれはお芝居でしょ。松井先生から頼まれた。自分はもう治らないんじゃないかと疑い始めた美鈴に対して安心させるための大ウソ。本当はやりたくなかったんだけど。」
舞 :「……」
舞は足を止める。
そうだった。確かにあれはお芝居。だけど、あまりに手が込みすぎて本当のことだと思い込んでしまった。
舞 :「そうだよね。そんな都合よくトリックエンジェルが現れて、新しい治療法がでて、治るなんてありえないよね。」
詩音 :「もう、舞ちゃんまでだまされてたなんて。確かにそこまで本当みたいにしないと信じてもらえなかったからしょうがないけど。」
舞 :「だけど、昨日まで電話であんなに元気な声で話してた。なのに。」
詩音 :「舞ちゃんに心配かけてくないから、無理して頑張っていたのよ。美鈴ちゃんらしい。先生も言ってたけど、相当辛かったんじゃないかって。」
舞 :「…… 私馬鹿。結局、自分だけ気付いていなかった。私だけ単純に喜んでいた。」
詩音 :「落ち込んでる暇ないわよ。美鈴ちゃんが待ってる。最後に会いたいには舞ちゃんなんだから。」
舞 :「うん。」
泣きたいのをぐっとこらえ、再び走り出す。
病院に着く。そして美鈴の病室に駆け込む。携帯電話の音のようなアラーム音がなっている。これはバイタルが低下して危ないことの警告。松井先生が私に気づき首を振りながら近づいてくる。
松井 :「お母さんと話してきます。」
松井先生が病室の外にでる
詩音 :「わたしも、看護師さん呼んでくる!」
詩音が病室から出て行った。
美鈴はベットで横になっていた。
いつものように帽子をかぶっている美鈴はいつもと違い人工呼吸器をつけている。苦しそうだ。
舞 :「美鈴!」
美鈴が目を開けた。
美鈴 :「舞ちゃん。来てくれたんだ。」
美鈴が弱弱しく返事をする。
舞 :「美鈴、しっかり。」
美鈴 :「舞ちゃん、ごめんね。心配かけちゃったよね。私だめだよね。最後まで心配かけっぱなしで。」
舞 :「美鈴! そんなことで謝らなくていいんだよ。」
舞は泣き出し、美鈴の手を握る。
美鈴 :「私嫌だったんだ。退院してこのまま夢もなく死ぬのを待つだけの生活なんて。」
美鈴 :「だから、ママに頼んで移植をお願いしたの。失敗するかもしれないけど、私は頑張りたいって。」
舞 :「美鈴・・」
美鈴 :「結局だめだったけどね。」
舞 :「美鈴!」
美鈴 :「最後に会えてよかった。もう私十分頑張ったよね。頑張ったよね。もうすこし疲れちゃった。休んでもいいよね。」
美鈴が再び目を閉じる。
舞 :「馬鹿、私を置いていかないで。トリックエンジェルが来たんだよ。あんなに待ってたトリックエンジェルが来たんじゃない。それなのに置いてかないで!」
美鈴が目を開ける
美鈴 :「もう、これ以上頑張らせないで。たかしさんとかのんが待ってる。」
美鈴 :「舞ちゃん、今まで仲良くしてくれてありがとう。最後まで仲良くして本当にくれてありがとう。ねえ、最後のお願い言っていい? 『星の子しおん』の唄のオルゴールがそこにあるの。それを聞きたい。」
舞 :「最後って言うな。今、詩音が看護師さん呼んできてる。もう少し頑張れ。」
美鈴 :「ありがとう。でもききたい。ね。最後のわがまま」
舞は枕元にある木箱を見た。ポッチがだましていたお詫びに美鈴にくれた木箱だ。治ったらあけるんだよと約束したものだ。
舞 :「やだ、あけない。これは治った時にあけるもの。やだ。」
美鈴 :「舞ちゃん…」
舞はあけた瞬間に美鈴が逝ってしまう気がした。だからあけられなかった。
いったんは止まっていたバイタルの警報音が再びなり出す。
そして、美鈴が静かに目を閉じる。私を握っている美鈴が手から力が抜けていく。
舞 :「美鈴! しっかり。 美鈴 どこにも行かないで! 私を置いていかないで! 美鈴! 美鈴!」
しかし、美鈴からはもう返事がない。
舞 :「美鈴~~~~!」
だれかが部屋の中に入ってくる。異変を察した先生か看護師さんか。
舞 :「美鈴が!」
私は部屋に入ってきた人に叫んだ。部屋に入ってきたのは女の子だった。
その姿を見て茫然と立ちすくむ。
バンダナを巻いた美鈴そっくりな女の子がなにかベッドサイドでごそごそしてる。
女の子:「はいはい舞ちゃん、そんな大声出さなくても聞こえるわよ。部屋の外からも聞こえたよ。それに、私どこも行かないわよ。」
茫然とその子を見つめる。
舞 :「美鈴?!、どうして…」
美鈴 :「引っ越し。今日から東棟の大部屋。来週退院だから、なれるために東棟に行けって。」
舞 :「じゃなくて、美鈴、なんでピンピンしてるの!?」
美鈴 :「何言ってるのよ。先週、番井先生と和恵ママがきて治療してくれたんじゃない。舞ちゃんが一番知ってるでしょう。それに、昨日も電話で話したじゃない。ひどいなあ。」
また涙が出てきた。
舞 :「じゃあ、ここでベットで寝てるのはだれ?」
美鈴 :「ポッチでしょ。それよりこんなところで何してるの?」
ベットで寝ていた女の子が上半身を起こす。そのとき帽子が取れて長い髪の毛が姿を現す。
舞 :「ポッチ?!」
ポッチ:「『星の子しおん』のお芝居。舞ちゃん、あまりに迫真の演技なんでびっくりしちゃった。」
美鈴 :「そういえば、3人でやるって言ってたもんね。」
舞 :「『星の子しおん』? たかしにいちゃんとかのんのキャンプの物語?」
美鈴 :「違うよ~。あれはシオンが病人をいれかえるいたずらをする物語。」
舞 :「病人を入れ替える!」
「星の子しおん」はシオンが病人を入れ替えてだますお話!
舞 :「きいてない。そんな、話きいてない。」
ポッチ:「え? 詩音から聞いてないの? 今日やるよって詩音から話すことになってるはず。」
舞 :「そんなはなし全然聞いてない。」
カタッ
入口で物音がした。詩音がそ~っとこっちをのぞいている。
そして、いけしゃあしゃあとうそぶく。
詩音 :「あれ? 最初に話してなかったっけ?」
詩音はにこって笑う。やっと、状況が飲み込めてきた。これは詩音のいたずら!
舞 :「し~お~ん~。」
詩音が脱兎のごとく逃げる。私は追いかける。
舞 :「待ちなさい。絶対許さないからね。あんた、やっていいいたずらといけないいたずらの区別がつかないの?」
詩音 :「だって~。私トリックエンジェルだよ~。いたずらしないと退屈で死んじゃうんだよ~。3年間練りに練ったいたずらだよ~。褒めるところだよ~。」
詩音の目的はこのいたずらだったんだ。ポッチと美鈴を入れ替えて私をだますいたずら。それを3年かけて準備してたんだ。そう思うと私は自分自身の馬鹿さ加減と詩音の馬鹿さ加減に無性に腹が立った。
舞 :「だったら、トリックエンジェルのお話どおり、いたずらやめなさい。よくもだましたわね~。」
詩音 :「ここまで院内学級の物語を忠実に再現してるんだから、『星の子しおん』が次にくることくらいわかるんじゃない?それに、美鈴ちゃんだったら『たかしさんとかのん』じゃなくて『たかしにいちゃんとかのんちゃん』っていうよ。注意していれば寝てるのはポッチだってすぐわかったのに。」
舞 :「屁理屈言ってごまかそうとしてもだめだからね!」
ロビーに出たところで詩音が転んだ。ここぞとばかりに捕まえる。馬乗りになって、詩音のほおを両手でむにって引っ張る。そして、げんこつ2発。
舞 :「この減らず口が! 松井先生、五寸釘と金づち! 物語通り打ちつけてあげるわ!」
松井 :「ほい、舞ちゃん。罪滅ぼしだ。」
詩音 :「なんで、そんなもん病院に用意されてるのよ!」
舞 :「ほ~ら、観念しなさい。」
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美鈴 :「助けなくていいの? 詩音ちゃん。舞ちゃんの怒り心頭だよ。」
ポッチ:「いいんじゃない? 今回は詩音がやりすぎ。たまにはお灸をすえないと。それに、本当に危なくなったら魔法つかって逃げるよ。常温過冷却水とかファンデルワールス粉とか。」
そとからキーンと音が聞こえる。
ポッチ:「ほら、使った。あれはファンデルワールス粉。」
舞 :「あ、逃げるな。まて~」
遠くから舞ちゃんの声が聞こえる。
ポッチ:「それより、美鈴ちゃん、身体はもう大丈夫なの? 大分よくなった?」
美鈴 :「うん、来週退院。新学期には学校間に合うかも。」
ポッチ:「よかった。おめでとう。本当におめでとう。」
ポッチは美鈴を抱きしめる。
美鈴 :「うん、ありがとう。これもポッチ達みんなのおかげだよ。」
美鈴は木箱を手に取った。
ポッチ:「その箱、舞ちゃんが開ければもう少し早く気づけてたのにね。」
美鈴 :「やっぱり。そうじゃないかなと思ってたんだ。ポッチらしいよね。」
美鈴は、木箱を遠ざけてそっと木箱の蓋を開けた。
パンパンパンパンパン...パン
中身が20連発で飛び出してきた。
美鈴の快癒を祝うように。
おしまい。
トリックエンジェル第一部完
ポッチ:「ということで『トリックエンジェル』第一部完了です。」
詩音 :「ここまで読んでくださった方ありがとうございました。」
ポッチ:「でも、まだ、回収していない伏線とかいっぱいあるよ。」
詩音 :「それは、少し間をおいて、物語をためてから第二部を再開します。」
ポッチ:「いつくらいになりそう?」
詩音 :「今、10話くらいしかたまっていなくて、30話貯めたら再開するって。」
ポッチ:「春くらいかな。」
詩音 :「次回のタイトルが『8月31日』という夏休み最後の日のいたずらだから、夏かな?」
ポッチ:「まあ、みんなに忘れられるね。」
詩音 :「まったくよね~。」
ポッチ:「しょうがない。皆さんには申し訳ないですが、またいつかお会いしましょう。」
詩音 :「それでは皆様、またその時まで~」