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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第6章 トリックエンジェル編
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6-17.天国からの贈り物 (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

美鈴の治療の始まったの夜のことだった。


番井 :「今日はみんな念のためにエルベに帰らずファンダルシアに泊っていてほしい。緊急時にすぐ集まれるようにしたい。」


冬子 :「では、みなさん家に泊って行ってください。おいしいごちそう用意します。」


ポッチ:「でも、番井先生にくるみちゃんにママに詩音に私。5人はあの狭い部屋泊まれない。」


番井 :「私は春彦のところに泊るから気にするな。野暮なことはいうな。」


くるみ:「私も自分のうちがあるの。だれも使ってないの。鍵もあるの。ポッチと泊るの。」


正確には不法侵入だ。


和恵 :「実は私も泊るところを決めています。詩音と二人でそっちに泊ります。」


舞  :「どこ?」


和恵 :「内緒です。」


------------------------------


アブラゼミの鳴くこの季節、暑い割には日暮れが早い。少しだけ秋の気配を感じる。


祐美子:「この時期はいつもお客さんきませんね。」


健一 :「ああ、お盆休みの季節はどうしてもな。」


キッチン花の丘の夜は普段から早い。昼間のにぎわいが嘘のようである。


祐美子:「今日は少し早めに店じまいしましょう。」


健一 :「ああ。」


祐美子:「そして、ご先祖様や和恵に気持ち良く帰ってきてもらうようお盆の準備もしましょう。」


そういって、のれんをしまおうとした時、お客さんがやってきた。


祐美子:「そう簡単にはいきませんでしたね。いらっしゃいませ。」


そういってお客様を迎える。二人づれの客だった。一人はこどもでよく知っていた。


詩音 :「こんばんわ~」


祐美子:「は~い。舞ちゃんいらっしゃい」


詩音 :「今日はね、お客様連れてきたの。」


祐美子:「え?」


後ろからもうひとりがあいさつをする。


和恵 :「お母さんただいま~」


もう一人を見て目を見開く祐美子。そのまま気絶する。


健一 :「祐美子、どうかしたのか?」


入口に近づき、倒れている祐美子を見つける。


健一 :「大丈夫か? 舞、何があったんだ」


和恵 :「ごめんさいです。ただいまって挨拶しただけなのに。ちょっと刺激が強すぎたです。あらためましてただいまお父さん」


健一の口をひらき茫然と見つめる。


健一 :「和恵…」


-------------------------------------------


祐美子さんを布団に寝かせたあと、ママは手際よく夕飯を作り始めた。


結局、今日は店じまいとなった。


祐美子さんの介抱はじっちゃんが行っている。


健一 :「これはどういうことだ、舞」


詩音 :「どういうことって、ママが実家に帰ってきたんじゃない。」


うそは言っていない。


健一 :「あのな、和恵は10年前に死んだんだ。」


詩音 :「じゃあ、あそこにいる人は、ゾンビ? どう見ても生身の人だよ。」


うそは言っていない。


健一 :「だれかが和恵の真似をしてるのか?」


詩音 :「だから、本人だよ。うそだと思ったらいろいろ質問してみたら?」


健一が和恵に家族しか知らないいろいろな質問をした。しかし、ことごとく返って来て和恵以外の誰でもないことがわかった。


健一 :「和恵、ここ10年どこ行ってた。」


お、じっちゃん、ナイス質問。


和恵 :「天国です。親孝行しに戻ってきたの1泊だけ。お許しがでました。」


ええ~うそつき、せっかく10次元の話してあげようとしたのに。


健一 :「本当なのか? 本当にそうなのか。神様の贈り物か。」


じっちゃんが納得顔でうなづく。ええ~簡単に信じちゃうの? 全然科学的じゃないよ。


祐美子:「うう~」


健一 :「お、目がさめたか。祐美子大丈夫か?」


祐美子:「ごめんなさい。信じられない光景を見ちゃって、和恵が帰ってきた夢を見てたの。舞を連れて料理している風景。」


健一 :「落ち着け。いいか、よく見ろ夢じゃないんだ」


祐美子:「!」


もう一回気を失いそうになる。


健一 :「しっかりしろ。天国から一泊だけお許しがでたそうだ。」


祐美子:「ああ、神様。本当にいらしたんですね。私たちにありがとう。」


健一 :「きっと俺たち夢見てるんだ。あるいはとうとう向こうに行ってしまったんだな。」


いや、向こうからきたんだって。


祐美子:「和恵、本当なの?本当だったらここに来て。顔をみせて頂戴」


和恵が近づいていき隣に座る。そして和恵の手をにぎる。


祐美子:「温かい。こんなこと信じられない。神様ありがとう。」


----------------------------------


夕飯が終わり、一息ついたときだった。家の電話が鳴った。


祐美子:「もしもし。白石です。ああ、あきらさん。え?客が来ていないかですって。ええ、舞ちゃん来てますが?」


祐美子:「え? 舞はこっちにいる? どういうことですか?」


祐美子:「今から来る? 構いませんが。え? はい、和恵もいます。」


祐美子:「詩音ちゃん? いたずら? はあ。」


電話を切り、じ~と、祐美子さんが詩音を見つめる。やば、ばれたか。


にっこりと微笑む。


祐美子:「あなた、詩音ちゃん?」


詩音 :「えへへ」


祐美子:「わかりました。天国から来たんじゃない無いわよね。詩音ちゃん?」


ええ~やっぱりばれちゃった。


祐美子:「ここにいる和恵は、詩音ちゃんのお母さんね。」


詩音 :「うう、ごめんなさい。半年前の約束を果たしに来ました。」


祐美子:「半年前の約束って。もしかして、コナの踊りの時の?」


私はうなずいた。


健一 :「和恵じゃないのか?」


祐美子:「娘の和恵です。それとあきらさんと冬子さんと舞ちゃんの3人が来るって。」


健一 :「ここにいる子は?」


祐美子:「孫です。」


健一 :「今来る三人は?」


祐美子:「あきらさん、冬子さん、孫の舞です」


健一 :「孫はふたりおらん。わけわからん。」


祐美子:「詩音ちゃんが約束を果たしてくれたんです。さあ、話してくださいね。」


しょうがない10次元の話からするか。第3定理まで理解してくれるかわからないけど。


--------------------------------


話を聞き終わって二人は呆然としていた。

まだ、天国から一泊のお許しがでたほうが信じられるという顔をしている。


健一 :「本当に対世界を移動する仕組みを考えたのか。」


詩音 :「うん、約束してから半年くらいかかっちゃったけどね。」


健一 :「一人で考えたのか?」


詩音 :「一人じゃないよ。半分はくるみちゃんが考えたの。」


健一 :「それでも、半分は自分でか。恐れ入った。冬子のいうようにいたずらっ子と天才物理学者が共存してるんだ。」


詩音 :「えへへ」


誉めてもらってるんだろうか? それともあきれられてるんだろうか。


健一 :「それで、こっちに来た理由は?」


和恵 :「詩音ちゃんの病気を草薙先生に見てもらうためです。」


健一 :「舞と同じ病気か。」


和恵 :「ええ」


健一 :「おまえは大丈夫なのか」


和恵 :「今はもうほとんど。冬になるとちょっと調子崩しちゃいます。」


健一 :「おまえも見てもらえ。もうあんな思いは二度としたくない」


和恵 :「あの、でも、もう寝込むほどではないから大丈夫です。」


詩音 :「あの~。和恵ママは厳密には死んだ和恵さんと別人だよ。」


祐美子:「ええ、でも、いいじゃないですか。」


健一 :「ああ、娘は双子だった。一人は夭逝した。一人は外国に嫁いでいった。そして、たまに孫を連れて遊びに来る。」


祐美子:「それはいい考えです。」


健一 :「おまえたち、よくもだましてくれたな。罰として、年に一度はここに来ること。それが親孝行だ。」


祐美子:「健一さん...」


健一 :「俺たちは娘を失っていない。遠くで暮らしている。年に一度会える。大進歩じゃないか。」


----------------------------------


舞とあきらと冬子が来た。


あきら:「和恵…」


和恵 :「お久しぶりです。」


にっこりと和恵が笑う。


あきらは和恵に近づこうとしたが、その前に冬子と舞が和恵の両側にとりつく。あきらは思わずにがわらいをする。


あきら:「選んだったんだっけな。」


詩音がにっこり笑う。


詩音 :「じゃあ、みんなそろったし、この約束を実行しましょう。」


和恵 :「はい。」


そういってレストランのテーブルを片づけスペースを作る。


詩音 :「それじゃ、ママ用意はいい?では、始まり始まり~。」


詩音はラジカセにCDを入れ準備をする。そして、和恵は床に座りその時を待つ。


「タン、タン、タン、タンタン」


ゆっくりと踊り始める。


あきらが息をのむ。


ゆっくりとした踊りが徐々にはげしくなっていく。


和恵は左手を胸に、右手を前に突き出し踊る。


詩音の踊りの時よりも圧倒的な妖艶さがかもし出される。


冬子と舞は呆然と見ている。


あきら:「あのときよりもうまくなっていないか?」


健一 :「ああ、さすがわが娘だ。」


健一がビデオを撮りながらつぶやく。


後で響子たちにもみせてやろう。あきらはそう思った。どんな顔をするか楽しみだ。


拍手がみんなから起きる。


健一 :「天国からの贈り物か。詩音が本当にかなえてくれたんだな。」


詩音 :「えへへ~」


健一 :「さあ~、飲みなおそう。あきら、冬子、和恵、今日はとことん付き合え。」


みんなは家に入り、去りゆく夏の夜を楽しんだ。


つづく

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