6-15.トリックエンジェル大逆転 (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
退院の当日。
詩音 :「ちゃらららら~ん」
ポッチ:「ちゃらららら~ん」
詩音とポッチが魔法使いの格好をして現れた。頭にハロウィンで使うウィザードハットをかぶり、目には仮面舞踏会でつける目がねをかけ、手に杖を持っている。
美鈴 :「何、その格好。詩音ちゃんもポッチもおかしいよ」
私はおなかを抱えて笑った。
詩音 :「ええ~なんで~。この前この格好してこいって言ったの美鈴ちゃんだよ~。」
美鈴 :「だって、本当にしてくるとは思わなかったんだもん。」
ポッチ:「ひどいよね、たまにはまじめに受け取ったのに。」
美鈴 :「はい、はい。ごめんなさい。それで、今日は何してくれるの?」
詩音 :「笛持ってきたんだけど、また入り口でつかささんに取り上げられちゃった。相変わらずユーモアが通じないのよね。」
美鈴 :「あはは。進歩ないよ~二人とも」
詩音 :「でも、本当は、退院する前に美鈴ちゃんにとっておきのお芝居をお見せしたいと考えてきたの。」
美鈴 :「ありがと~。ふたりってホント人を楽しませること上手だよね。」
ポッチ:「えへへ。美鈴ちゃんだけに見せる特別なお芝居。」
詩音 :「もう、あまりの感動の涙で一晩中ないちゃうかも知れないよ。」
ポッチ:「美鈴ちゃんにも色々質問したり、劇に参加してもらうからよろしくね。」
美鈴 :「え~」
詩音 :「参加しないと楽しくないよ。」
美鈴 :「わかったわ。」
ポッチ:「それでは早速始めましょう。」
しらじらしく退院祝いのお芝居が始まる。
もう私は治らない。治療法もないし、お医者様も見放した。だから、後は自宅でその時が来るのをゆっくり待つだけ。
お母さんも喜んでいる。なんで、あんなに喜べるの? 知ってるくせに。そうよね。こんな私なんていない方がいい人生送れるもんね。
でも、詩音とポッチに罪はないわ。せっかく私のために頑張ってるんだもん。私も楽しそうなふりをしなきゃ。
お芝居が始まる直前に舞ちゃんがはいってきた。でも、舞ちゃんは泣いていた。どうしたのって聞いても首を振るだけだった。
そう、舞ちゃんもこのお芝居の裏知ってるんだ。舞ちゃんは素直だからごまかせないよね。ごめんね、私がこんなだから。舞ちゃん悲しませてるよね。舞ちゃんのためにも私は知らないふりをし続けなきゃ。
お芝居が始る。
詩音 :「さて、私たちは願いをかなえる魔法使いです。今日は特別に美鈴ちゃんの所に来ました。」
美鈴 :「はいはい。魔法使いさん。ところで願いはどんな願いをかなえてくれるのですか?」
ポッチ:「一番大切な本当の願いを3つだけかなえることができます。」
詩音 :「自分にうそをついてはいけませんよ。本当に願っていることをいうとかなえられます。」
美鈴 :「じゃあ、バナナ食べたい。」
ポッチ:「バナナはダメです。持ち込み禁止です。第一、一番大切な願いごとではないです。」
詩音 :「もっと難しいことでも大丈夫です。」
美鈴 :「じゃあ、三条博士に逢いたい。世界で一番のノーベル賞学者。前から会いたかった。詩音ちゃんたちをここに連れてきた天才物理学者。こんなお願いしても大丈夫?」
詩音 :「わかりました。それくらいはお安いご用です。では、残りの二つは?」
美鈴 :「じゃあ、海行きたい。海で貝を拾ったり、砂の城作るの。」
ポッチ:「わかりました。ところで海には一人で行くんですか? お友達は一緒に行かなくてもいいんですか?」
美鈴 :「もちろん、お友達と行きたい!」
詩音 :「そのお友達はだれですか?」
美鈴 :「舞ちゃん、詩音ちゃん、ポッチ! それと」
ポッチ:「それと?」
美鈴 :「対世界の私。向こうの丸山美鈴ちゃん。今、舞ちゃんが一生懸命探してるけど見つからない。でも、やっぱり会ってみたい。どんな人なのか、今元気にしてるのか、笑っているのか? 何を考えてるのか。」
ポッチ:「えっと舞ちゃんや私たちと海に行くのはたいした願いじゃないわ。それは願い事にはならないわ。」
詩音 :「ポッチ~。今私たちは『いたずら好きな魔法使い』。詩音やポッチじゃないよ。」
ポッチ:「あ、ごめんごめん。では美鈴ちゃん、二つ目の願い事は向こうの丸山美鈴ちゃんに会うことですね。」
美鈴 :「うん、でもこれは難しいよね。」
ポッチ:「う~ん。ちょっと大変です。でも、頑張ってみます。」
詩音 :「では、最後のお願いは?」
それはもちろんこの病気が治ること。でも、それは無理なお願い。そんなお願いをして詩音やポッチを困らせてくない。
美鈴 :「う~ん、いいや。今はいい。将来にためにとっておきたい。」
ポッチ:「え~、せっかくなんだから何かない? 女装した松井先生を見てみたいとか?」
美鈴 :「そんなの見たくない。」
ポッチが一生懸命盛り上げてくれる。辛いお芝居だよね。最初の望みはかなえられる。もう外に三条博士が待っててくれているのを知っている。二番目はどうだろうか。もしかしたら、見つけたのかもしれない。でも、天国にいるか、病気にかかっていないかのどちらか。病気じゃないならこんなあたしを見せたくない。
そして本当のお願いはこの病気が治ること。それは絶対無理。もう、私を治す薬や治療方法なんて無い。
ポッチ:「では、その2つが願いですね。ファイナルアンサー?」
美鈴 :「そうね~。お願いしちゃおっかな~。申し訳ないけど全然期待してないけどね。」
詩音 :「少しは期待して欲しいんですが。さて、そのお願いをかなえるためには一つだけ約束して欲しいんだけど、いいかな」
美鈴 :「はいはい。付き合ってあげるわ。」
詩音 :「この話はここだけの秘密にすること。だれにも言ってはいけない。いい?」
美鈴 :「はい?」
詩音 :「約束してくれる?」
美鈴 :「よくわからないけど。約束するわ。」
ポッチ:「では、契約成立ですね。」
詩音 :「じゃあ、早速契約の履行に入りましょうか。まずは三条博士に来ていただきましょうか。」
ポッチ:「了解です。それでは召喚魔法をこれから行います。これには美鈴ちゃんの協力も必要です。一心に「願いがかないますように」と口の中で呪文唱えていてください。」
詩音 :「では行きます。」
ポッチと詩音は持っている互いに顔を見合わせ、持っているステッキを交差させた。
詩音 :「アイル、アイム、アイフ。アイル、アイム、アイフ。」
ポッチ:「美鈴ちゃん、呪文となえて。」
美鈴 :「あ、願いがかないますように。願いがかないますように。」
ポッチ:「アイレ、アイメ、アイヒ。アイレ、アイメ、アイヒ。」
詩音 :「われらの契約の下に、対世界一の科学者、アインシュタインもびっくりの天然娘、いでよ!」
ポッチ:「究極召喚!」
舞 :「三条くるみ召喚!」
ポッチ:「ど~ん」
院内学級の入り口から女の人がやってきた。詩音ちゃんや舞ちゃんによく似た人だった。
詩音 :「あれ? ママ? 失敗? はう。」
詩音が頭を抱えている。現れたのは和恵ママだった。詩音のお約束のおとぼけだった。実はこの人もさっき廊下で見かけた。
和恵 :「詩音ちゃんの母です。いつも、仲良くしてくれてありがとうね。いままで大変な思いをしてきたでしょうけどよく頑張りましたね。もう大丈夫ですよ。」
そうやって美鈴を抱きしめる。
美鈴 :「詩音ちゃんのお母さん、わざわざ来てくれてありがとうございます。でも、詩音ちゃん、召喚失敗してお母さん呼ぶのはちょっと...」
私が笑いながら突っ込む。
詩音 :「ごめんごめん、次こそはちゃんと。」
詩音 :「ではもう一回いきます。」
ポッチ:「OK」
また、詩音とぽっちが魔法の杖を交差させる。
詩音 :「美鈴ちゃんもちゃんと呪文唱えてね。願いかなえられないよ。」
詩音とポッチが呪文を唱える。あわてて私も呪文を唱える。
ポッチ:「アイレ、アイメ、アイヒ。アイレ、アイメ、アイヒ。」
詩音 :「われらの契約の下に、対世界一の科学者、アインシュタインもびっくりの天然娘、いでよ!」
ポッチ:「究極召喚!」
舞 :「三条くるみ召喚!」
ポッチ:「ど~ん」
また入口から女の人が入ってくる。今度こそさっきみかけた三条博士だった。
くるみ:「三条くるみです。美鈴ちゃん、はじめまして。いつも詩音ちゃんたちがお世話になっています。」
美鈴 :「うわ~。三条博士。来てくれたんだ。私、博士に一度会いたかったんです。それに予想したのと違って、優しそうな人。」
詩音 :「そうだよ。くるみちゃんは優しいいいひとなんだよ。」
そう詩音が自慢する。
そして、三条博士が美鈴ちゃんを抱きしめてくれた。
辛い治療がんばったね。おめでとう。博士はそう言ってくれた。
だけど…
院内学級に来てくれている看護師さんやボランティアの人もみんな拍手でお祝いしてくれる。でも、みんなどこかしらじらしい。
私はわかってる。この病気がもう治らないことを。そして、みんなはそれを隠してお祝いしてくれている。私に気づかれないように。みんな一生懸命気遣ってくれている。だから、私はその人たちの気遣いにこたえないといけない。心配掛けさせてはだめ。
でも、でも。
私はもう耐えられなかった。だからつい言ってしまった。
美鈴 :「もう、やめて。私、わかってるの。自分が治らないこと。この前聞いちゃったの。みんなに心配かけないように我慢してたけど、もうだめ。こんなのやめようよ。やだよ!」
言って後悔した。だけど、本当は言ってほしかった。「違うよ。美鈴ちゃんの勘違いだよ。ちゃんと治るんだよ。」って。
だけど、看護師さんもボランティアさんも木ノ内先生もみんなうつむいて何も言わない。私が言ったことがまるで正しいみたいに。
美鈴 :「やっぱり、そうなんだ。そうだよね。」
私は目に涙があふれてきた。そして、最後に半べそ書いている舞ちゃんを見た。舞ちゃんにはうそをついてほしくない。私はそう思って舞ちゃんを見つめた。
舞ちゃんは、何を言われたのかわからない顔をして私の方を見る。そして、私に向かって言う。
舞 :「美鈴、気付いてないの?」
美鈴 :「え?」
舞 :「違うよ。美鈴は治るよ。もう、お母さんと科学者は召喚されているよ。」
美鈴 :「え?」
周りのみんなも怪訝な顔をしている。
詩音 :「ストーップ! それ以上はだめ。後で話すチャンス上げるから、おいしいところ持っていかないで!」
美鈴 :「え?」
ポッチ:「ちょっと、心外だよね詩音。私たちってそういう風に見られてたんだ。」
詩音 :「うん。ちょっと心外。私たちがそんな応援だけするような中途半端なことすると思われてたとはね。」
美鈴 :「え?」
ポッチ:「まだ、願い事一つ残ってたね。」
詩音 :「うん、最後の三つ目のお願いは病気が治すことにしましょう。よろしいですか?美鈴ちゃん。」
美鈴 :「え? う、うん」
ポッチ:「これで3つのお願いはそろいました。願い事は受理されました。」
詩音 :「じゃあ、次最後の人~」
ポッチ:「OK~」
詩音 :「これから召喚するのは人の血を吸う悪魔です。もし、途中で呪文が途切れたら血を吸われてしまうかもしれません。でも、成功すれば素晴らしいことが起きます。では行きますよ。」
美鈴 :「え? は、はい!」
ポッチと詩音は持っている互いに顔を見合わせ、持っているステッキを交差させた。
詩音 :「アイル、アイム、アイフ。アイル、アイム、アイフ。」
ポッチ:「美鈴ちゃん、呪文となえて」
美鈴 :「あ、願いがかないますように。願いがかないますように。」
ポッチ:「アイレ、アイメ、アイヒ。アイレ、アイメ、アイヒ。」
詩音 :「時空のはざまに潜みし時と次元の精霊よ、エジソンプロジェクトとの契約にしたがい、闇より出でてわれらの願いをかなえたまえ。」
ポッチ:「トリックエンジェル、究極召喚!」
詩音 :「番井美雪召喚!」
ポッチ:「番井先生出番です~」
詩音 :「どっか~ん」
いつの間にか仕掛けてあった床の筒からドライアイスの白い煙が部屋の中に蔓延する。そして、その白い煙の中からゆっくり白衣をきた女の人が現れる。
そして、私の前にくると片方の膝をついてこう言った。
番井 :「トリックエンジェルとの契約のもとあなたを助けに参りました。美鈴ちゃんもう大丈夫。後は私に任せなさい。」
美鈴 :「ト、トリックエンジェル!?」
それは院内学級にだけに伝わる秘密の物語。
たかしにいちゃんのおとぎ話。
お医者様にも見放され、治す薬もない女の子が助かる物語。
...二人のいたずら魔法使いが別世界から現われて...
...最高の医者と最高のママと最高の科学者を召喚して不治の病気の女の子を治す...
いまここにトリックエンジェルが降臨する。
美鈴 :「うそ、うそ、これって、ト、トリックエンジェル!」
木ノ内:「そんな、なんで物語の中のお話しがここで出てくるの?」
冬子 :「冬子、夢見てます。絶対夢見てます。和恵さんが出てきてトリックエンジェルが現れるなんてありえません。」
詩音 :「ううん、本当の話。お芝居じゃないよ。」
ポッチ:「和恵ママがお母さん。くるみさんが科学者。そして、番井先生がお医者さん。」
舞 :「ふたりのいたずら天使は詩音とポッチ。」
美鈴 :「う、うそでしょ。冗談よね。まさかよね。たかしにいちゃんの言ってたことが本当に起きるなんて。」
番井 :「美鈴ちゃん、よく頑張ったね。でも、もう大丈夫。治った後、詩音たちと何して遊ぶかを考えておきなさい。」
番井先生はそう言って美鈴を抱きしめると打ち合わせがあるからといって、和恵ママと三条博士と一緒に出て行った。
美鈴 :「うそ.. 本当にトリックエンジェルが現れたの? 本当に治るの? お芝居じゃないよね。」
詩音 :「うん、治るよ。はい、舞ちゃん解説よろしく。」
舞 :「あのね、美鈴。あのね。見つかったの。」
美鈴 :「見つかった?」
舞 :「対世界の丸山美鈴ちゃん。」
美鈴 :「! 本当? それでその子元気にしてた?」
舞 :「うん。元気元気。ぴんぴんしてる。」
美鈴 :「舞ちゃん、じゃあ、向こうでその子と会ったのね?」
舞は首を振る。
舞 :「今日、向こうでは会わなかった。」
美鈴 :「でも、今、いかにもあったような言い方をしたじゃない!」
舞 :「その子に美鈴も会ってるよ。」
美鈴 :「え? いつ、どこで?」
舞 :「今、ここで。」
美鈴 :「え?」
舞 :「向こうの丸山美鈴はね、向こうの丸山美鈴はね。信じられないけど、信じたくないけどこの子なの。」
そういうと舞ちゃんはポッチに近寄り、ポッチの眼鏡を取った。
そこには鏡でよく見る自分そっくりの女の子がいた。
美鈴 :「うそ!? だって、苗字が違うじゃない!」
舞 :「お母さんが再婚して苗字が変わったの。」
美鈴 :「だって、顔が違うじゃない。」
舞 :「ポッチは眼鏡かけてるからね。」
美鈴 :「だって、スタイルが違うじゃない。」
舞 :「それは美鈴のステロカイドの副作用。」
美鈴 :「だって、声が違うじゃない。」
舞 :「それは、ポッチがボーカロボット7で声を変えてるから。」
美鈴 :「だって、だって、ポッチは元気じゃない。」
舞 :「だって、だって、だって、それは番井先生が治したからだよ!!!」
詩音 :「だから、美鈴ちゃんは治るんだよ。安心して。」
私はその場にへたり込んで泣き出した。
-----------------------------
詩音 :「ところで、舞ちゃん、番井先生に聞きに行かなくていいの? 不治の病の治療法。」
詩音がニヤニヤにながら口にグーの手を持ってきながら言う。
遠くで声が聞こえる。
草薙 :「ちょっと待て、美雪なんでおまえがいる!」
つかさ:「和恵さん!うそでしょ。」
まるで死んだ人を見たような声だ。
舞は起き上がり、その声の方向にダッシュでむかった。
つづく




