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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第6章 トリックエンジェル編
78/88

6-8.夢の女の子 (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

たかしにいちゃんの命日の次の日曜日、また、あの二人が来た。


詩音はどっから持ってきたのか縦笛を吹きだした。東棟の子供たちも集まってくる。一気にこの6階のフロアがにぎやかになる。


それを見た慌ててつかささんが飛んでくる。


つかさ:「詩音ちゃん、病院の中で笛なんかふいちゃだめ。」


詩音 :「ええ、この場の雰囲気にぴったりじゃない。」


つかさ:「なに、わけわかんないこと言ってるの。だめなものはだめです。」


舞  :「ハーメルンの笛吹き。」


つかさ:「え?」


舞  :「グリム童話です。昔、笛を吹いてネズミ退治をすることで報酬をもらっていた人がいたんだけど、街の人が渋って報酬を出さなかった。そこで、怒ったその人が次の日、笛を吹いて街じゅうから子供達を集め、子供達ともどもどこかに行ってしまうお話です。」


ポッチ:「さすが、舞ちゃんね。よく知ってる。」


つかさ:「だったら、なおさらダメじゃない。どこに病気の子供を連れてくきよ。」


詩音 :「つかささ~ん、連れてかないわよ。ただのお芝居なのに。」


つかさ:「でも、笛はダメです。帰るまで預かってます。」


詩音は笛を没収され、子供たちも帰された。


詩音 :「ちぇ~。後で返してよ。その笛『妖精の角笛』っていうの。いい音色だから吹いてみてもいいわよ。」


舞  :「つかささん、絶対吹かないほうがいいです。ポッチと詩音が持って来たものにろくなものはないです。良くてびっくり箱、悪くて知らない世界につれてかれます。」


つかさ:「そんなことはいくらなんでもないわよ。舞ちゃん、あんまり友達のこと悪く言ってはだめです。」


騒ぎに気づいて美鈴が出てきた。


舞  :「美鈴、大丈夫?」


美鈴 :「うん、まだ調子戻んないけど。」


美鈴は骨髄抑制期が終了して昨日から出てこれるようになったが、まだ、調子は戻っていない。


詩音 :「美鈴ちゃん、お久しぶり~。元気してた?病気になったりしなかった。」


舞  :「あのね。」


美鈴がケラケラ笑う。


美鈴 :「ごめん、ちょっと病気してたかも。でも、あんたたち見てたら元気出てきた。」


詩音の冗談に美鈴が答える。きわどい冗談も美鈴にとって気にならなくなってる。


美鈴 :「それで、今日は何の出し物なの?」


詩音 :「実は、笛を吹きながら子供達ぞろぞろついてこさせて、病院内練り歩こうと思ったんだ。それで、いろんなことろで、『トリック・オア・トリート』といって驚かせようと思ったの。」


美鈴 :「あはは、それ、季節が違う。今なら七夕。しかもお話が二つ混じってる。」


美鈴が大笑いする。


詩音 :「それでね。美鈴ちゃん聞いてくれる? 笛を吹いた瞬間につかささんが飛んできて、笛取り上げられたの。ひどいよね。これで、企画は中止になっちゃった。」


美鈴が笑いながら続ける。


美鈴 :「それ、ちょっと足らなかったんだよ。次ぎやるときは、ちゃんとハロウィンの魔法使いの帽子とマントもってくれば許してもらえるよ。」


詩音 :「そっか~。今度そうするね。」


美鈴 :「うん、楽しみに待ってる。」


舞  :「美鈴~。だめだよ、こいつら本当にその格好してくるぞ。」


ポッチ:「それ、なかなかいいアイデアね。」


舞  :「ほら~、その気になってる。」


ポッチ:「でね、実は詩音が失敗することを見越して他にも今日はいいもの持ってきたんだ。」


美鈴 :「なになに」


ポッチ:「ちょっと待ってね。今出すから。」


ポッチがごそごそとリュックの中から何かを取り出す。


ポッチ:「じゃん!」


ポッチは中から狼か犬のようなぬいぐるみを出す。


詩音 :「ポッチ人形!」


舞  :「ポッチ人形?」


詩音 :「まずいよ、そのお人形こっちの世界で出しちゃ。プロジェクト外秘だよ。」


美鈴 :「え? なんでまずいの? かわいいお人形さんじゃない。」


詩音 :「この人形しゃべるんだ。しかも、人の心を読んでね。それをづけづけというスンごく性格悪い人形。」


舞  :「はい? なにその詩音見たいな人形。」


詩音 :「あのね。まあ、いいけど。この人形はエルベの科学の最高傑作のひとつよ。くるみさんがアメリカから持ち込んだものなの。」


ポッチ:「こうやって使うのよ。」


ポッチがぬいぐるみの中に右手を入れる。そうすると目を閉じていた人形が目を覚まし、周りを見回す。


人形 :「おい、ポッチここはどこだ? 見慣れない場所にいるぞ。」


美鈴 :「しゃべった!」


ポッチ:「ここはファンダルシアの病院だよ。」


人形 :「ずいぶん陰気くさいとこだな。もっとぱっと明るくしねえか。ギンギンにライトつけて、音楽ガンガン鳴らそうぜ!」


舞  :「だめだよ、ここは病院なんだから。静かにしないと」


人形 :「なんだ、この田舎くさい娘。初めてみるぞ。」


舞  :「田舎くさいって!」


ポッチ:「駄目だよ、そんなこと言っちゃ。アレックス。この子は舞ちゃん。はい、ちゃんと謝りなさい。」


人形 :「やだね。」


ポッチ:「アレックス!」


アレックスと呼ばれた人形はそっぽを向く。


ポッチ:「わかった。じゃあ、今日はおしまいにして帰りましょう。そして罰として1年間倉庫の中に入ってなさい。」


人形 :「え? ポッチ、それは勘弁してくれよ~。わかったよ。謝るよ。」


そういってアレックスは舞の方を向く。


人形 :「ごめんよ。」


ぶっきらぼうに一言だけ言う。


ポッチ:「ちゃんと謝んなさい!」


人形 :「もう謝ったよ。ちゃんと言うこときいたぞ。」


舞  :「ポッチ、もういいよ。」


ポッチ:「まったく、誰に似たんだか。」


人形 :「おまえだろ。」


ポッチがアレックスをにらむ。


美鈴 :「すご~い。向こうではこういう人形があるんだ。本当にしゃべるんだね。」


人形 :「なんだこの娘は。ずいぶんとぽっちゃりしてるがうまいもの食べすぎじゃないか?」


美鈴がむっとする。


ポッチ:「アレ~ックス!」


人形 :「思ったことを素直に言っただけだ。ちゃんといわないとストレスがたまるぞ。お前だって、ぽっちゃりしてるって思ってるだろ。」


ポッチ:「思ってないわよ。アレックス。あんたね。このこは美鈴ちゃん。はい、さっきの謝りなさい。」


人形 :「ごめんよ。」


アレックスはそっぽを向く。


詩音は腹を抱えて笑ってる。


つかさ:「なんだか楽しそうね。何して遊んでるの?」


人形 :「また、何か来たぞ! 今度は年増女だ。普段から化粧が濃いと思ってたが今日は特別に濃いぞ。」


つかさが真っ赤になって怒る。


つかさ:「ポッチ~~~~~!」


つかさがポッチのほっぺをつねる。


ポッチ:「いたたた」


美鈴 :「ポッチは悪くないよ。言ったのは人形のアレックスだよ。しゃべる人形なんだって。」


舞  :「うん、ちょっと性格悪いけど。でも、それはポッチのせいじゃない。」


詩音が今度はうつ伏せになって腕を床にがんがん叩きつけて笑ってる。


つかさが額に指を置いて首を振る。


つかさ:「あなたたちまんまと騙されてるのね。」


舞  :「?」


つかさ:「この人形は腹話術の人形。しゃべってるのはポッチ!」


人形 :「見破るとはなかなかやるじゃないか。」


美鈴 :「うそ、今、ポッチ何もしゃべらなかったじゃない。」


つかさ:「そう。腹話術は口を開けないでしゃべる芸なのよ。でも、見事だわ。本当に人形がしゃべってるみたい。」


人形 :「まあね。練習したもん。」


舞  :「じゃあ、田舎娘って言ったのも。」


美鈴 :「ずいぶんとぽっちゃりって言ったのも。」


ポッチ:「てへ♪」


舞・美鈴:「笑ってごまかすな~」


詩音がヒーヒー言って苦しそうに笑いころげる。


舞  :「なにがエルベの最新技術よ。何がプロジェクト外秘よ。詩音、最初からだましたわね。」


詩音 :「だって、普通気付くよ。腹話術だって。あはは。」


舞  :「あったまきた。こうなったらみんな呼んでみんなにも同じ目に会わせないと。」


そういうと入院している子供たちのお母さん、ボランティアや看護師さんたちを集めてきた。

仕方なしに、同じようにポッチが始める。


みんな茫然と見言ってる。子供たちは本当にアレックスがしゃべってると思っている。大人たちもびっくりしている。


舞と美鈴はじ~とポッチを見ていたが、全然しゃべっている気配がない。口を結んで黙っている。


冬子にいたっては子供たちと一緒に最前列でみいってる。


冬子 :「この人形どこで売ってるんですか? 冬子欲しいです。」


ポッチ:「自分で作ったんだよ。なんなら冬子さんに貸してあげる。」


ポッチは冬子に人形を貸す。


冬子はじ~と人形を見つめる。


冬子 :「しゃべらないです。壊れてます。」


ポッチ:「そんなはずないけどな~。ちょっと貸して。」


ポッチは冬子から人形を受け取り、アレックスに話しかける。


ポッチ:「アレックス大丈夫?」


人形 :「ポッチ! 怖かった。このおばさん、俺を食おうとした。だから死んだふりしてた。」


冬子 :「冬子は熊じゃありません。人間です。おばさんでもないです。この人形とっても失礼です。もう、欲しくありません。」


そういうとプイって横を向く。


詩音が腹を抱えて笑う。舞は頭を抱える。美鈴も「あはは」と笑う。


子供たちも欲しがり貸してあげるが、全然しゃべらなかった。みんな不思議がってポッチに返す。


ポッチ:「ごめんね。アレックスは知らない人と話をするのが苦手なんだ。だからしゃべんないの。」


みんなしぶしぶ納得してくれた。でも、集まった子供たちがちょっとかわいそうだ。


ポッチ:「しょうがないわね。代わりに今日はとっておきの物語読んであげるわ。」


そういってポッチは鞄の中から、いつも読んでいる「リンとシオンの夢の国の物語」の本を取り出す。ちゃんと製本されている。


舞が前に貸してって言ったら、「プロジェクト外秘」といわれて貸してくれなかった。ポッチもすごく大切にしている大事な本のようだ。


舞  :「今日は何読むの? ビッグフロッグ? フェンリル? それともドクトルウォーナッツ?」


それらのお話はリンとシオンが魔法学校でいたずらして大暴れするおかしなお話ばかりだった。


でも、ポッチが首を振る。


ポッチ:「今日は黒猫ニャーゴの話を読んであげる。」


舞  :「え?!」


--------------------


みんな、黒猫ニャーゴの話知ってる?


ええ、知らないの? そっか~。 う~ん。どうしよっかな~。

この話は秘密にしておいてねって言われたんだけど今日はみんなに特別に教えてあげる。


黒猫ニャーゴは捨てられていたの。生まれてまだろくに乳離れしていないうちにね。


え?乳離れってわかんない? お母さんのおっぱいをまだ飲んでるってあかちゃんって言う意味だよ。みんなの中にもまだ飲んでる子がいるんじゃないかな? あはは、もうさすがにいないか。


その黒猫ニャーゴは他の兄弟と一緒にダンボールに捨てられてたの。

だけど、他の兄弟たちはみんな子供たちに拾われていったんだ。

最後に残ったのは黒猫ニャーゴだったんだ。実はニャーゴは片目がつぶれて見えなかったの。それをみんな気味悪がって最後まで残っちゃたんだ。


そのうち雨が降ってきて、そしてお腹も減ってきた。寒さとひもじさに我慢できず、「ニャーニャー」ないていたら、一人の女の子がニャーゴの前に現われたの。その女の子は背は高いけどやせていて、どこか寂しそうだった。


「おまえも一人ぼっちなの?」


「ニャーニャー」


「そうか。じゃあ一緒に帰ろう。」


そうやって黒猫ニャーゴは拾われていったんだ。


女の子は小学校1年生で入学したばかりだったんだ。それで、クラスには保育園で一緒だった子もいなくてひとりだったの。それにちょっと変わった子で、女の子からもちょっと浮いていたんだ。つまり、友達ができなかったんだ。


その女の子にはお父さんがいなかったの。お母さんひとりと女の子ひとりの家族だったんだ。つまり母子家庭ね。お母さんはだから、普段の日は仕事に行ってたんだ。


女の子は学校が終わると友達と遊ぶこともなく、誰もいない家で毎日一人ですごしてたの。本を読んで一人でお母さんを待つの。とってもさびしかったんだ。


ニャーゴをつれて家に帰った女の子は早速、雨にぬれた身体を拭いてあげ、冷蔵庫から牛乳を出したんだ。それをお皿にあけてニャーゴに上げたんだ。


「おまえの名前何にしようか?」


女の子がそういうとニャーゴは


「ニャー、ニャー」って答えたんだ。


「そうか、決めた。ニャーニャー言うからニャー子だ。でもおまえ男の子だよな。じゃあ、ニャーゴ。」


そうやってニャーゴは名前とご主人様が決まったの。


女の子は次の日からニャーゴといつも一緒だった。でも、学校には連れてけないから女の子が学校に行っている間はお留守番。それで帰ってくると一緒に遊んでたんだ。ニャーゴも女の子が大好きで、女の子が帰ってくると一目散に飛んでくる。そして、


「ニャー、ニャー」で甘えるの。


「はい、はい」そういって女の子は牛乳を冷蔵庫から出してうれしそうにニャーゴにあげるの。


そのあとは、ニャーゴを抱いてテレビを見たり、宿題をしながらお母さんの帰りを待つ。それが女の子の日課になった。


土日は家の近くの公園に二人で遊びに行くの。


「ニャーゴだって外で遊びたいよね。」


普段は家の中ばかりだったから、ニャーゴがちょっとかわいそうに思えてきたんだ。


ニャーゴを離してあげると大喜びで駆け回った。そんなニャーゴを見てるだけでも、女の子は楽しかった。


夕方になるとニャーゴを連れて帰る。そしてお母さんと一緒に晩御飯。


それが女の子とニャーゴの生活だった。一人ぼっちで寂しかったのがうそみたいに楽しい生活になった。


そんな、ある日、ちょっと遠くの公園に遊びに行ったんだ。


「ニャーゴ、今日は探検だよ。」


そうやって、新しい公園でいつものようにニャーゴを離してあげる。


ニャーゴは知らないところに来たせいか、女の子の側を最初は離れなかった。


だけど、そのうち、慣れてきて、あちこち動きまわり始めたの。


やがて、公園で遊んでいたいじわるな男の子たちが女の子に気づいたの。そして近づいてきた。



「おい、おまえ見かけないやつだな。」

「何、一人であそんでるんだ。」

「こいつ、知ってる。同じクラスの女の子だけど友達いないんだぜ。」

「すげーやせっポッチ。ちゃんと食べさせてもらってんのか?」

「こいつんちお父さんがいないからきっと貧乏なんだぜ。」

「きっと、お母さんからも嫌われてるんだぜ。こんな子産まなければ良かったって。」


女の子は我慢していたけど、とうとう我慢できなくなって泣き出してしまった。


「や~い、泣き虫、泣き虫。」


「なによ、このチビデブ! あんたなんかにお母さんのこと言われたくないわ。」


「なんだと~ このやろ~ ぶん殴ってやる。」


そうやって男の子が女の子を殴ろうとしたそのときだった。


「うわ~、なんだこの猫」


ニャーゴが殴ろうとした男の子に踊りかかって、顔を引っかいた。だけど、男の子はニャーゴを捕まえて、地面に叩きつけた。


「こら~、女の子をいぢめるな~」


今度は公園のはじのほうから別の女の子の声がした。


「うへ、シオンだ。やべー。逃げるぞ」


くもの子を散らしたように一目散に男の子は逃げていった。


「大丈夫?」


シオンと呼ばれた女の子は女の子を覗き込んだ。


「ニャーゴが。動かない。」


黒猫ニャーゴは倒れたまま動かなかった。


「大変、すぐお医者さんに連れてかなきゃ。ママ、近くに病院ない?」


「う~ん、動物病院はこの街にはないです。隣町まで行かないと。」


黒猫ニャーゴのだんだん息が小さくなっていった。


「そう、わかった。すぐ連れてこう。一緒においで」


女の子とシオンは一緒にニャーゴを抱いて駆け出した。


「どこにいくの?」


「近くに病院があるから。」


近くの病院に駆け込む。でも、その時すでにニャーゴのおなかはふくらまなくなっていた。


「先生!急患!」


先生が慌てて出てくる。が、息をしていない猫を見て


「あなたね~、ここは動物病院じゃないのよ。それにもう」


「でも、先生たちなら治せるよね。せめて見てあげて」


「まったく。こっちは忙しいのよ~。しょうがないな、ちょっと見てあげるわ。お~い。パイン先生なんとかしなさい。」


「え~、丸投げですかあ~。」




「ありがとう」


女の子はシオンに御礼を言った。


「いいえ、どういたしまして。あれ、あなた確か同じクラスの子だよね。いつも一人でいる子。ねえ、お友達になろうよ! 私もクラスに知ってる人少なくてさびしかったんだ。」


「え? うん」


「わたし、シオン。よろしくね。」


「ボク、リン。よろしく」


そうやって女の子は小学校で初めて友達ができたんだ。それから二人はずっと仲良しで一緒に遊んだりするようになったんだ。友達もいっぱいできて、さびしくなんてなくなったんだ。


おしまい。


え? 黒猫ニャーゴはどうしたって? もちろん、うちにいるよ。

いまでは、もうすっかりぶた猫になっちゃったけどね。


--------------------


子供達は大喜びだった。涙ぐんでる子もいる。


子供 :「良かったね。ニャーゴ助かったんだね。」


美鈴 :「わー、結末が違うんだ。でも、こっちのほうが面白いかも。詩音ちゃん、人間の病院と動物の病院は違うんだよ。」


子供 :「詩音ちゃん、お馬鹿。」


詩音 :「あのね~。物語と現実を一緒にしないの」


私はこの話をきいて愕然とした。美鈴、突込みどころが違うよ。


舞  :「なんで、あなたたちこの物語知ってるの?」


詩音 :「へ?」


ポッチ:「そりゃ、私が考えたんだもん。知ってて当然でしょ。」


舞  :「もしかして、この話って実話!?」


ポッチ:「そう。実話。」


舞  :「やっぱり!」


詩音 :「舞ちゃ~ん。ポッチの話だよ~。素直に受け取っちゃダメだよ」


ほんと困ったという顔で詩音が話す。


詩音 :「私が馬鹿みたいじゃない。動物病院と人間の病院の区別もつかないで 先生のところに駆け込むなんてありえないじゃない。しかも、それで治しちゃうんでしょ~。」


美鈴 :「そうだよ~。実話のわけないじゃない。」


子供 :「ねえ~ポッチ他にはないの?」


ポッチ:「じゃあ、フェンリル読んであげる。」


子供 :「わ~い」


---------------------


私は二人を残して美鈴と美鈴の病室に向かった。まだ、あまり、無理ができないからといって。


美鈴 :「でも、あの『黒猫ニャーゴ』面白かった。ハッピーエンドだし詩音ちゃんお馬鹿だし。」


舞  :「おかしいと思わない?なんで、あの本に『黒猫ニャーゴ』が書かれてるの?」


美鈴 :「それは、ポッチが考えたからでしょ。」


舞  :「そうじゃなくて、どうしてたかしにいちゃんと同じ内容なの?」


美鈴 :「舞ちゃんが教えたんじゃないの?」


舞  :「確かに教えた。でも、あらすじだけ。だけど、今日ポッチはほとんど一緒の内容だった。しかも、製本されている本を読んでいた。どういうこと?」


美鈴 :「詩音とポッチのことだから、院内学級の誰かから聞いて真似して本にしたんじゃない?」


舞  :「でも、話の筋としてはポッチのほうが通っている。真似したのはたかしにいちゃんじゃないのかな?」


美鈴 :「え? どうやって? あの二人に会う前に、たかしにいちゃん天国に行ったよ。第一私たちふたり直接あの話を聞いてる。真似するなんてありえない。」


舞  :「うん、そのとおりなんだけど、でも、冷静にあの物語を思い出すと変だよ。たかしにいちゃんがきかせてくれたあの物語の主人公だれ?」


美鈴 :「え? 考えても見なかった。モデルの子なんていないんじゃないの?」


舞  :「私も昨日までそう思っていた。たかしにいちゃんは特にモデルを決めていなかった。そう思っていた。」


美鈴 :「うん。」


舞  :「だけど、よく考えてみると、ポッチが持っている本の主人公の女の子のリンってポッチじゃない? ポッチの名前の美鈴の鈴でリン。当然シオンは詩音。」


美鈴 :「え? あ、あれ? 確かにしっくりくる。」


舞  :「しかも、詩音と出会いの物語。」


美鈴 :「う、うそ。ま、まさか。でも、たしかにポッチは男の子にいじめられたところを詩音ちゃんに助けられたのが出会いだって言ってた。」


舞  :「そうでしょう。そう考えると今の話すごく違和感ない。それにね、昨日、たかしにいちゃんのノート読み返したの。そしたらね。ほらここ。」


私はしおんとポッチの自己紹介シーンを示した。


美鈴 :「うそ! ほんとにしおんとポッチって書かれてる。あはは、まさか黒猫ニャーゴもいたりして。」


舞はポシェットから一枚の写真を出す。舞と詩音とポッチが写っている。そして、ポッチが一匹の黒いデブ猫を抱いている。


舞  :「そのまさか。これはポッチが飼っている黒猫。名前は『ニャーゴ』」


美鈴 :「じゃあ、何? 黒猫ニャーゴはポッチが実話をベースに考えた物語ってことなの? それをどうしてたかしにいちゃんが物語化するの?」


そこで私は、このまえのたかしちゃんのお母さんの話をした。


美鈴 :「つまり、その夢の女の子はポッチってこと?」


舞  :「ありえない。そんな魔法みたいなことありえない。人の夢にでて来るなんて。でも、そうとしか思えない。」


美鈴 :「でも、すんでる世界が違う。対世界なんだよね。だったら考えられるかも。」


舞  :「え?」


美鈴 :「世界が違うからできるのよ。詩音ちゃんの言っていたバランス。」


舞  :「どういうこと?」


美鈴 :「対世界にはたかしにいちゃんもいるよね。もし、そのたかしにいちゃんがポッチと何らかの知り合いで、ポッチの話から物語を書いたとする。」


舞  :「!」


私はその意味を悟った。


舞  :「そ、そっか。そうするとバランスが働いてこっちのたかしにいちゃんも物語を書き出す。」


美鈴 :「こっちの世界にはポッチにあたる物語をかく女の子はいないから夢にでてくる。そうやってバランスを保つ。」


舞  :「すごいすごい。謎がどんどん解けてる。でも、なんで、向こうのほうが物語りの数が多いの?」


美鈴 :「それは、ポッチが書き加えつづけているから。あるいは、あ、え? うそ!」


舞  :「ん?」


美鈴 :「突拍子もないこと考え付いた。」


舞  :「何を考えついたの?」


美鈴 :「もう一つ考えられる理由がある。でも、そんな、ありえない。」


舞  :「もったいぶらないで教えて。」


美鈴 :「それはたかしにいちゃんが生きてるから。」


舞  :「!」


美鈴 :「生きていれば書きつづけられる。」


舞  :「ありえない。たかしにいちゃんの病気は発病したら助からない病気だった。対世界のバランスから考えても無理。」


美鈴 :「じゃあ、確かめてきてよ。」


舞  :「え?」


美鈴 :「向こうのたかしにいちゃんの家に行くの。そうすればわかる。それに向こうの丸山さんとたかしにいちゃんは友達だったはず。」


そうか、その方法があるよね。なんで、気づかなかったんだろう。

そうすれば、丸山美鈴のこともわかる。


美鈴 :「生きていればあのあじさいの家に住んでるんじゃない? 死んでてもご家族が住んでる。そうすれば、話が聞ける。」

 

舞  :「え、でも。うん、わかった。来週末いって確かめてくる。」


私は胸が締め付けられるような妙な感覚を覚えた。



-----------------------


松井 :「ふ~」


松井先生が誰もいない診療室でため息をつく。


松井 :「ブラストがまだ残っているか。それも少なからずの量だ。」


採血の結果を見てつぶやく。


松井 :「骨髄移植すらできないってことか。まあ、マルクをしてみてからじっくり考えるか。」



つづく






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