6-6.ハクビシン (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
梅雨入りする直前のちょっと雲が多いけど雲の合間から太陽が覗いている週末の土曜日。
舞は丸山美鈴を詩音と一緒に探しに来ていた。
詩音 :「今日は別の人に聞いてみようと思うの。」
舞 :「だれ?」
詩音 :「ゴンタ達。」
舞が身を固くする。
舞 :「それはやめようよ。」
詩音 :「え?なんで?」
詩音がきょとんとして聞き返す。
舞 :「だって、怖いんだもん。あんな乱暴者で、すぐ女の子をいじめる子嫌い。それにいつもとり巻きの男の子がいて、その子たちもすぐ暴力振るう。」
詩音 :「あはは。大丈夫。それは舞ちゃんのところのゴンタだよ。こっちのゴンタも確かに口は悪いし、けんかっ早いけど、弱い者いじめとか女の子に暴力振るうとかそんなことしないよ。」
舞 :「うそ~」
詩音 :「ほんとほんと。それに頭もそこそこ良くって、学級委員なんかもやっている。」
「対世界」では、ほとんどが同じだけど、人の性格だけは違ってることがある。ほとんどの人は一緒だけどつかささんとか、私たちとかは違う。環境の微妙な差が原因らしい。
詩音 :「さあ、いくよ。あいつら花の丘公園の奥の広場でいつもサッカーやってるから。」
そう言って詩音は舞の手をつかんでずんずん歩き始めた。
花の丘公園の奥の広場に行くと男の子たちがたむろしていた。
詩音 :「ゴンタ~。」
詩音が大声で声をかける。
ゴンタ:「お、詩音じゃん。お前たちもサッカーやるか?」
詩音 :「ううん、今日はこの子と一緒に人探し。」
ゴンタは舞を見る
詩音 :「いとこの舞ちゃんだよ。」
舞がペコっと頭を下げる。
ゴンタ:「ああ、いとこか。どうりで似てると思った。」
真人 :「なんだ、今日はポッチは一緒じゃないのか。」
ちょっとつまんなそうに男の子が声をかける。
詩音 :「うん、ポッチは病院に友達のお見舞いに行ってる。あ、この人は隣の高梨小学校に通ってる真人君。サッカーがすごいうまいんだよ。」
真人 :「ほめても何もあげないぞ詩音。」
舞 :「詩音って男の子とも仲いいんだね。」
詩音 :「よく、みんなで冒険しに行くからね。シマヘビ退治とか。そうするとどうしても男の子ばっかりあつまるんだよね。」
舞 :「はあ。」
ゴンタ:「ところで、人探しって言ってったな。だれを探してるんだい?」
詩音 :「丸山美鈴って子。」
ゴンタ:「なんだ、美鈴かよく知ってるぞ。」
舞 :「本当?!」
ゴンタ:「ポッチだ。」
がっくりうなだれる。
詩音 :「ポッチは神崎美鈴。」
ゴンタ:「似たようなもんじゃん。それにポッチにその子の振りをさせればわからないって。ポッチそういうの得意だろ。」
詩音 :「やっぱり、そうだよね。それが手っ取り早いよね。」
舞 :「いやいや。それじゃダメ。」
真人 :「おれ知ってる。ポッチじゃないよ。丸山美鈴。もっとちっちゃくって髪の毛が短くっておとなしい感じの子だよ。」
舞 :「え? 本当? 教えて!」
舞の顔がパッと明るくなる。
真人 :「いいよ~」
ゴンタ:「ちょっと待った。真人、等価交換だ。ただで教えちゃだめだ。」
詩音 :「なんでよ~。けちんぼ~。」
詩音が口をとんがらせる。
ゴンタ:「詩音、実は手伝ってほしいことがあるんだ。それ手伝ったら教えてやる。おもしろいぞ~。」
詩音 :「なになに?」
ゴンタ:「ハクビシン退治だ。」
詩音 :「きゃー、やってみたかったんだ。」
今度は詩音が顔を明るくさせる。
ゴンタ:「そういうと思ったぜ。」
詩音 :「で、どこに出たの?」
ゴンタ:「公園の近くのお寺だ。その屋根裏に住みついている。そこのお坊さんが困ってるんだ。」
詩音 :「OK~。で、どうやって捕まえるの」
ゴンタが両手を広げる。
ゴンタ:「それがわかんないから詩音に手伝ってもらうんじゃん。」
詩音 :「しょうがないな~。わかった。調べてみるから。多分、大人数が必要だからゴンタ一杯友達集めて。明日またこの公園に集合~」
そういって一同は解散する。
舞 :「ハクビシンって?」
詩音 :「たぬきに似た動物。昔は日本にいなかったんだけど誰かが持ち込んで増えちゃった外国の動物。これが人里に住んで家を荒らすんだよね~。屋根裏に巣を作っちゃうのよ。」
舞 :「ふ~ん。」
詩音 :「もちろん、舞ちゃんの手伝ってね。きっと面白いよ~。」
なんか目的が違う。でも、詩音はたのしそうだ。
舞 :「しょうがない。付き合ってあげるか。一日待ったからって変わるわけじゃない。」
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次の日曜日
詩音 :「じゃあ、作戦を説明するわね。まず、大きな魚網が必要。なるべく口の大きさが大きいもの。お父さんが魚釣りが好きな人いる?」
数人の男の子が手を挙げる。
詩音 :「じゃあ、おとうさんから網を借りてきて、それで捕まえるから。そして、その人が捕まえる係。」
男の子たちがうなずく。
詩音 :「次に、キャンプ用の明かりが必要。電池で光るランタンが欲しいわ。それで屋根裏とか床下を照らすの。」
ゴンタ:「懐中電灯でいいか?」
詩音 :「う~ん、それよりも明るいのがいい。明るく照らす奴。懐中電灯なら頭につけるやつがいい。それで天井裏とかに入って追い出すの。」
ゴンタ:「じゃあ、キャンプとかよく行くやついるか?」
こんどはさっきより多くの人が手を挙げる。
詩音 :「その人は追い出し係。」
男の子たちがうなずく。
詩音 :「次に、鳥かごとかうさぎのかごとか今は使ってないけど持ってる人いる?」
男の子が顔を見合わせる。そして、隣の男の子に促されるかのように一人手を挙げる。
詩音 :「じゃあ、その籠に捕獲したらその籠に入れる係ね。」
男の子がうなずく。
詩音 :「植木いじりが好きなお父さんがいる人いる?」
数人が手をあげる。
詩音 :「じゃあ、梯子係。梯子を持って屋根に上って、ハクビシンの進入口を見つける係。」
男の子たちがうなずく。
詩音 :「日曜大工。つまり、家の修理とか家具を自分で作ったりするのが好きなお父さんがいる人いる?」
何人かの男の子が手を挙げる。
詩音 :「じゃあ、その人は釘と金づち持ってきて。進入口を網でふさぐの。網は用意してきたわ。もしよかったお父さんごと持ってきてくれたら助かる。学校のボランティアっていって連れてきて。その人たちは屋根の修理係。」
男の子たちがうなずく。
詩音 :「ねずみとかがでる古いうちに住んでいる人いる? 昔っからの大きなおうちとか。」
ゴンタ:「おれんちだ」
詩音 :「じゃあ、バルサン持ってきて。それであぶり出す。」
ゴンタ:「了解!」
詩音 :「次に保健係。ハクビシンに引っかかれたり、網で手を切ったりしたときに、消毒したり包帯巻いたりできる人いる?」
舞 :「それなら、私ができる。」
詩音 :「じゃあ、舞ちゃんは保健係。救急箱を持ってきて。和恵ママにいえば貸してくれる。」
詩音 :「これで、大体役割決まったかな?」
男子A:「あの~。質問です。」
詩音 :「なあ~に?」
男子A:「ハクビシン捕まえたあとどうするの詩音? 殺しちゃうの?」
詩音 :「学校に持っていって飼えばいいから大丈夫。これでも飼育委員。」
男子B:「えっと、確かハクビシンって捕まえちゃいけないんじゃなかったっけ?」
詩音 :「うん。法律で決まってる。」
ゴンタ:「どうするんだよ?」
詩音 :「それはポッチの仕事。法律の抜け穴は彼女が何とかするから大丈夫。」
そういって、この場にいない人間の役割を決める。
詩音 :「では、1時間後にここに集合~」
そういってみんな準備に走っていく。
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お寺に着いてさっそく準備にかかる。
詩音 :「捕獲係と保健係は本堂で待機。ハクビシンは本堂に追い込むようにするね。怪我をした人は本堂で舞ちゃんに手当てしてもらって。でも、くれぐれも怪我しないように気をつけてね。」
詩音 :「では、最初にハクビシンの進入口をふさぎます。軒下をグルって回って、穴を見つけたらお父さんに手伝ってもらって網でふさいでね。」
詩音 :「次に、はしごで屋根に上ります。必ず二人でペア組んでね。そうして、同じように穴をふさぎます。細身のお父さんは手伝ってあげてください。」
詩音 :「そうやって、ふさいだら、ハクビシンは袋のねずみ。後は、屋根裏に登って、少しづつ本堂の方に追い詰めて。大人だと重くて天井ぬけっちゃうけど、子供なら大丈夫。そのとき、持ってきたランタンの光でで徐々に追い詰めてね。」
詩音 :「あと、ゴンタ。軒下にバルサンをたいて。ハクビシンは天井裏にいると思うけど、軒下にもいるかも。それで追い出すためにバルサンをたいて。」
ゴンタ:「了解。」
詩音 :「では、早速、作戦開始~。」
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舞は捕獲係の真人達と共にともに本堂で待機する。既に追い出し係はハクビシンの出入り口を見つけて、そこから屋根裏に入リ始めている。
真人 :「捕獲係は暇だな~。最後しか出番ないからな。もっとも、保健係も同じか最後まで出番ないかもな。」
舞 :「うん、暇~。でも、出番ないほうがいい。」
真人 :「だよな~。でも、ひまだよな。そうだ、この暇を利用して丸山美鈴の話をしようか?」
舞 :「え! うん、 ぜひお願い。」
真人 :「OK。丸山と会ったのは小学校に入る直前のことだった。俺は小さな保育園に通ってたんだ。庭も無いような小さな保育園だ。冬になってからだったと思う。それまで、丸山は別の保育園に行っていたんだ。もっと大きい保育園さ。だけど、親の都合でこっちに移ってきた。」
舞 :「親の都合?」
真人 :「ああ、俺が預けられていた保育園は24時間保育なんだ。つまり、夜遅くまで預かってくれる所さ。」
舞 :「なんで? なんで? 親は迎えに来てくれないの?」
真人 :「そんなの決まってるだろう。仕事してるからだ。」
舞 :「なんで、夜遅くまで仕事してるの? それにおばあちゃんは迎えに来ないの?」
舞は自分の経験をもとに話をする。
真人 :「母親しかいないからさ。お父さんがいないんだ。俺もそうだけど、そこに預けらっれている子供たちはみんなそうだった。離婚したとか、最初からお父さんがいないとかそんな子ばっかりだった。」
舞 :「お父さんしかいない人とかはいなかったの?」
真人 :「そんな幸せな人はうちの保育園にはいなかったよ。」
舞 :「幸せ? なんでお母さんがいないのが幸せなの?」
真人 :「そりゃ、だって夕方お父さんに迎えに来てもらえるだろう? いざとなればおばあちゃんに迎えに来てもらえる。男の人なら昼間働いて、夕方帰ってくる仕事でも十分食べていける。たまに残業があればおばあちゃんに迎えに来てもらえる。だから、信じられないけど、そんな子は幼稚園にだって行けちゃうんだ。」
舞 :「!」
真人 :「だけど、女の人が子供と生きていくには普通に昼間だけ働いてるんじゃ給料が安くてやっていけないんだ。だから、夜働く。それにそういう家はおばあちゃんが助けてくれないんだ。だから夜遅くまで保育園に預けられる。」
舞 :「どうして?」
真人 :「それこそ親の事情だよ。結婚に反対されて飛び出してきて、結局離婚して今更帰れないとか。」
真人 :「それに、子供が熱を出したからっていって会社休めないだろ。女の人は。だから、熱が出ても預けられる保育園じゃないとだめなんだ。」
舞は自分の育った環境、つまり母親がいないだけの幸せな環境といわれて驚いた。美鈴と舞では苦労の仕方が違うんだ。
真人 :「丸山美鈴も母親しかいない俺たちと同じ環境だった。それに、病気がちですぐに熱を出していた。だから、前の保育園では預かってくれなくて、俺たちのところに来たんだ。」
舞 :「病気がち? どんな病気だったの?」
真人 :「う~ん、そこまでは。でも確か東京のじゅんてんどう病院とかいう病院に通ってたはずだ。」
舞 :「淳典堂病院。。。」
真人 :「丸山美鈴は最初毎日泣いていた。まあ、無理もない。いきなり保育園が変わって、しかも、お母さんが夜遅くならないと迎えに来ないからな。でも、同い年は俺と丸山美鈴だけだったからな。すぐに仲良くなった。」
舞 :「へ~、それでどんな子だった?」
真人 :「あんまり友達と遊ばない子だった。いつも本を読んでいた。それも絵本でなく文字ばっかりの本だった。頭はよかったみたいだ。」
舞 :「友達とかいなかったの?美鈴は。」
真人 :「ああ、少なかった、特に女の子の友達は前の保育園からいなかったみたいだ。友達は俺ともうひとりの男の子だけだって言っていた。」
舞 :「もうひとり?」
真人 :「ああ、さっき言った病院に入院していた子だ。」
舞 :「名前は?」
真人 :「えっと、なんだったっけな。ああ、そうだ。たしか『たかしにいちゃん』って呼んでいた。」
舞 :「!!!」
真人 :「だけど、そのあと、俺は3月に親の都合で引っ越してこの春戻ってきたんだ。そして、丸山美鈴も小学校に上がるころに引っ越すことになって、それっきりになってしまった。」
舞 :「それ以来、会っていないの?」
真人 :「ああ。いまどこでどうしているやら。」
その時外から詩音の大きな声がした。
詩音 :「本堂の天井裏に追い込んだ! 本堂に出てくるわよ!」
ゴンタ:「真人、準備しろ!」
真人 :「OK!」
真人が網を構えた瞬間天井からハクビシンが落ちてくる。それを魚網でかぶせる。
ゴンタ:「でかした真人!」
真人 :「どんなもんだい!」
詩音 :「大成功~」
みんなわらわらと本堂に入ってくる。
男の子:「これがハクビシンか。猫よりでけえ。」
詩音 :「じゃあ、かごに入れて学校に持っていくわよ。」
ゴンタ:「おお~」
詩音 :「舞ちゃんもお疲れ様。どう? 収穫あった?」
舞 :「うん。大収穫。」
とうとう、丸山美鈴の消息をつかむことができた。彼女は小学校に上がるまでこの街にいた。そして、たかしにいちゃんと出会っていた。見えなかった糸が繋がった。
つづく
その後、捕まえたハクビシンですがポッチの奮戦も空しく、飼育を許可されるはずもなく山に返されました。




