6-4.ドナー (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
ゴールデンウィークも終わった頃、私は骨髄移植の負担を軽くするため、詩音の世界の丸山美鈴探しを始めた。
まずは、詩音の家にいった。詩音と約束している。
そこにはパパと詩音がいた。和恵ママはポッチと一緒に東京の病院に行っているらしい。
早速、私は切り出した。
舞 :「ねえ、詩音パパ、丸山美鈴って子しらない? 私と同い年の女の子。」
あきら:「丸山美鈴? きいたことあるぞ。どこでだっけなあ。」
舞 :「本当?! ラッキー。」
あきら:「あ、ポッチだ。あの子も美鈴だ。」
舞 :「ポッチ?」
詩音 :「ポッチは神崎美鈴。苗字が違う。」
あきら:「いやあ、美鈴って言うとやっぱりポッチだろ。印象が強すぎる。」
がっかり。期待したのに。まあ、すぐには無理だとは思ったけど。
あきら:「う~ん、だめだ。ポッチの印象が強すぎて思いだせない。」
詩音 :「パパに期待するのが無理。学校の先生に聞いてみよう!」
そう言って詩音に小学校に無理やり連れて行かれた。
詩音 :「先生に聞けばわかるかも。」
舞 :「担任の先生?」
詩音 :「うん、そだよ。」
私は担任の顔を思い出した。あの先生あんまり好きじゃない。なんか神経質そうで怖い先生だからだ。
二人で学校に入り、職員室に行く。今日は土曜日だから先生も少ない。
詩音 :「泉先生いる? あれいないなあ。」
先生A:「泉先生なら視聴覚教室にいるよ。」
詩音 :「ありがとうございました。」
舞 :「泉先生? 先生の名前違うよ。」
詩音 :「そっちの世界と先生違うから。」
詩音はニヤッと笑う。
二人で教室に向かう。中に先生がいた。だけど、その先生を見て息が止まるかと思った。
舞 :「うそ! 泉先生って?!」
響子 :「あ、詩音ちゃん。となりは、ポッチじゃなくて、ふ~ん、舞ちゃんね。何か御用?」
舞 :「なんで、響子先生がここにいるの? 響子先生は幼稚園の先生でしょ!」
私は幼稚園の担任の響子先生がなぜここにいるのがわからなかった。
響子 :「話せば、長くなるわ~。思いっきり簡単に言うと詩音とポッチがしたずらばっかりしてるからよ。」
詩音 :「運命的でしょ。」
よくわからないけど何となくわかった。
舞 :「詩音のいとこの楠木舞です。はじめまして。」
響子 :「ああ、舞ちゃん、私に対しては大丈夫。対世界の舞ちゃんのことなら前から知ってるわ。」
舞 :「え?」
詩音 :「響子先生もプロジェクトメンバー。見習いだけど。」
なるほど響子先生まであのわけのわからないエジソンプロジェクトに巻き込んでるんだ。私は妙に納得した。
舞 :「それなら、話が早いです。こっちの世界で丸山美鈴ちゃんを探してるんです。ご存じないですか?」
響子 :「しってるわよ。もちろん。絶対一生忘れないわよ。」
舞 :「ほんとですか? どこにいるんですか?」
響子 :「ポッチでしょ。いつも詩音と一緒にいるじゃない。」
詩音 :「もう、響子先生まで。ポッチは神崎美鈴。」
響子 :「あ、そっか。いつもポッチとしか呼ばないから苗字忘れてたわ。美鈴って言うとどうしても彼女を思い出すのよね。」
詩音 :「もう」
響子 :「う~ん、でも、少なくてもこの学校には丸山美鈴ちゃんはいないわね。同じ学年でしょ。3クラスしかないから全員の顔と名前は覚えてるわ。」
がっかりだった。ここでも空振りだった。
響子 :「なんでその子を探してるの?」
私は向こうの丸山美鈴のことを話した。
響子 :「なるほどね。だったら、花の丘病院に行って見れば? あそこだったらわかるんじゃない? あそこにいとこが師長として勤めてるから聞いてみればいいわ。 今から電話してあげるから。」
詩音 :「じゃあ、パリカール借りてくね。ちょっと、歩くの大変だから。」
言うが早いか詩音は私の手をつかみダッシュで教室を出た。
響子 :「こら~。子供たちだけじゃダメでしょ!」
詩音 :「大丈夫、厳さんが付いてきてるはず~。」
詩音は教室に向かって叫ぶ。
舞 :「パリカール?」
詩音 :「うん、ロバ。学校で飼ってるの。」
私は飼育小屋の前に来て唖然とした。
舞 :「サクラ。。。 なんでここに?」
詩音 :「かわいそうなの。響子先生が小学校に来ちゃったでしょ。だから幼稚園がパリカールのこともてあましちゃって。それで、響子先生に引き取ってくれって幼稚園は言ったんだけど、響子先生の家じゃ飼えないから。それで、響子先生は保健所につれていって処分しようとしたんだけど、あわてて私とポッチが止めたの。そして、パリカールは小学校に引き取られたの。めでたしめでたし。」
舞 :「詩音、すごい! 詩音ってやっぱり優しいいい子だよね。」
詩音 :「えへへ。それほどでも。」
詩音が照れる。
私たちはさっそく花の丘病院に向かった。ちょっとロバに揺られていくのは恥ずかしかったけど。
詩音 :「師長や松井先生もプロジェクトメンバーだから素直に話して大丈夫。」
私たちは小児科のある6階のフロアに案内された。でも、そこには見慣れた風景がなかった。特別小児病棟、いわゆる西棟がなかった。クリーンフロアがごっそりなかった。
詩音 :「師長いる~?」
田中 :「師長? 今いないわよ。多分リハビリ室。もうすぐ戻ってくると思うからここで待ってな。」
詩音 :「うん、そうする。」
師長。
看護師を取りまとめる課長さんみたいな人。各科に一人いる。その上になると看護副部長、看護部長になる。看護師で一番偉いのが看護部長。師長は大体45歳くらいでなれる偉い人。
師長の下には副師長がいる。向こうの田中さんは副師長だ。30半ばくらいだからエリートといいてもいい。田中さんは向こうでもこっちでも副師長らしい。でも、向こうでは小児科には師長がいない。その疑問を田中さんにそれとなくきいてみた。
舞 :「この病院の小児科には師長さんがいるんですね。」
田中 :「いないわよ。」
舞 :「え? でも、今師長って…」
田中 :「自分で勝手に師長って言ってるのよ。師長じゃないのに。『師長って呼んでくれなきゃやだ~』って。」
舞 :「それおかしいです。ちゃんと注意しないといけないのではないでしょうか?」
田中 :「最初はそう思ったけど今はもう慣れたかしらね。舞ちゃん、代わりにガツンといってやってよ。」
田中さんはそう言ってコーヒーをのんびり飲んでいる。私たちもミルクたっぷりのココアをもらってる。
でも、なんとなくこの病院、だらけた雰囲気がある。向こうは田中さんやつかささんがみんなの先頭に立ってきびきび動いてる。とても忙しいはずなのに。そういえばつかささんはいないのかしら。
知子 :「今、師長にPHSで連絡つきました。すぐ戻ってくるそうです。」
ほどなくして、パタパタと音がした。師長が戻ってきたんだろう。
師長 :「いや~ん、すぐ来るなら先に言ってよ。詩音ちゃん。そして舞ちゃんこんにちは。」
くりっとした目が笑うとほとんど見えなくなるほど細くなる。私はそんな「師長」をみて思わず口をあけてびっくりした。
舞 :「う、うそでしょ。」
私は保育園の先生みたいにトレーナーの上にエプロンをつけてナース帽も被っていない人を見て茫然と立ち尽くした。
詩音 :「ああ、師長も田中さんもプロジェクトのこと知ってる。だから舞ちゃんのこともしってるのよ。」
舞 :「そうじゃない。それよりも他に驚くことあるでしょ。」
詩音 :「ああ、まあね。」
舞 :「つかささん…」
師長 :「はい。白石つかさです。はじめまして。」
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詩音 :「こっちの世界ではつかささんはエリート中のエリート。国立の看護学部を卒業して、アメリカに留学して、日本に帰ってきて、いきなりこの病院の師長さんになったの。」
舞 :「でも、さっき、小児科には師長がいないって。」
田中 :「ああ、あの話ね。だって師長は今は出世して看護副部長だもん。看護部長はお飾りだから実質的には事実上の看護部長。」
舞 :「はい?」
詩音 :「とまどうのも無理はないよね。非常識すぎるもんね。私は逆の意味で向こうに行ってカルチャーショック受けたもん。つかささんがまともって。」
私は保育園の先生みたいなつかささんをまじまじと見た。
舞 :「向こうのつかささんはすごく看護がうまいけど、それ以上なんですね。」
詩音 :「うんにゃ。看護師としての能力は0。」
田中 :「詩音ちゃん、それは違うわ。」
舞 :「そうよ。つかささんに失礼でしょ。」
田中 :「ううん、詩音ちゃんがかいかぶりすぎ。マイナス100よ。点滴も注射もできない。みんなに迷惑掛けまくり。」
師長 :「てへ。」
田中 :「笑ってごまかさないの。」
舞 :「じゃあ、なんで師長なんですか?」
そのとき、女の子がナースルームに入ってきた。入院している女の子のようだ。
女の子:「しちょう、哲夫君がいぢめるの。『ブス』っていうの。」
師長 :「まあ、ひどいわね。奈々ちゃんは全然ブスじゃないわよ。とってもかわいいと思うけどな。じゃあ、哲夫君にいぢめないでって言いに行きましょう。」
そういってつかささんは立ちあがって病室にいった。
詩音 :「さ、私たちも行きましょう。」
そういって詩音が私の手を引っ張ってついていく。病室にはいると哲夫君のところにつかささんはいく。哲夫君はバツが悪そうに横を向く。
そして、そのときのつかささんは次の行動に私は目を見張った。
師長は哲夫君を抱きしめて、こういった。
師長 :「哲夫君もさみしかったんだよね。昼間は一人だもんね。お母さんに会いたいよね。」
哲夫 :「しちょお~」
哲夫は泣き出して師長にしがみついた。ほどなくして、落ち着くと奈々ちゃんに謝った。
哲夫 :「ごめんよ。」
こうやって一件落着した。
舞 :「てっきり怒ると思った。」
向こうのつかささんなら両手を腰にやって怒ってたはずだ。
師長 :「怒っても解決しません。」
そう言ってナースルームに3人で戻った。
田中 :「舞ちゃん、すごいだろ。」
舞 :「びっくりした。」
知子 :「つかささんの能力はこんなもんじゃないんです。なんで、この病院ナース帽をかぶってないかわかりますか?」
舞 :「いえ」
知子 :「院内感染を防ぐためです。ナース帽の洗濯糊が細菌の繁殖場所なんです。エプロンもそうです。インフルエンザとか感染病にかかった子に接した後、サッとエプロンだけを取り換えて感染を防ぐんです。ナース服着替えるの大変ですからね。」
舞 :「!」
知子 :「これもつかささんの発案です。」
田中 :「それだけじゃないぞ。この病院、だらけてると思っただろ。」
舞 :「実は少し。」
田中 :「そう思うのも無理はない。この病院の看護の仕組みは他の病院とちがう工夫がいたるところにされている。例えば、病室に行く時はワゴンに必要なもの入れて行く。いちいちナースセンターに取りに戻らなくてもいいようにね。それによって、看護業務が効率化、標準化されて楽になってるんだ。これも師長の発案なんだ。」
舞 :「すごい!」
田中 :「さらには、各病室の患者さんの状態とか看護実施状況がこのモニターで一元管理されている。重要なことは後ろのホワイトボードに書き写している。これによって、すべての患者さんの看護を集中コントロールしている。それによって、私はここにいながらみんなに指示を出せるんだ。これも師長の発案。」
舞 :「はあ。」
詩音 :「プロジェクト最大の秘密の一つ。それが師長の存在なの。この話は向こうでは話ちゃダメ。」
話しても信じてもらえないと思う。
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つかさ:「丸山美鈴ちゃんですか? 聞いたことないです。」
松井 :「俺は知ってるぞ! 絶対忘れない。あのいたずら娘だ!」
つかさ:「ああ! ポッチですか!? あの子! 詩音ちゃん、舞ちゃん 悪いことは言いません。友達は選ぶべきです。」
詩音 :「ポッチは神崎美鈴。苗字が違う。それにポッチはいい子。まあ、気持ちはわかるけど。」
つかさ:「確かに、詩音ちゃんとお友達になっていたずらは激減しました。そういう意味で詩音ちゃんには感謝です。」
舞 :「(ポッチなにやったの?)」
詩音 :「(この病院で一人でいたずらしまくった。だから、彼女出入り禁止なの。それで、わざわざ東京の病院に行ってるの。)」
はあ。詩音と一緒になっていたずらが減るってどんだけすごかったの?
私は自分の用事を思い出した。
舞 :「それで、丸山美鈴に心当たりないですか?」
松井 :「その子はどんな病気なんだい?」
舞 :「白血病です。それで骨髄移植のドナーを探してるんです。」
松井 :「なるほど。もしかして同じ病気にかかってるかも知れないと思ったんだね。でも、それならばこの病院にはいないよ。この病院には血液小児科がないんだ。だから、白血病は治せない。」
舞 :「そうですか。」
つかさ:「ごめんなさいね。丸山美鈴ていう子が入院したっていう記憶もないわ。今、入院してる子もみんな違う名前。それに、ここに入院してる子は長くても1ヶ月くらいで退院できる軽症の子ばかりなんです。」
そうだった。東棟しかないんだ。
舞 :「あの。通院履歴見せてくださいませんか? それを見れば入院してなくてももしかして通院してたかもしれない。」
松井 :「それはだめだな。法律上できない。」
舞 :「え?」
つかさ:「ごめんなさいね。見せてあげたいのは山々だけど。プライバシーの保護といって患者さんの病気にかかわることだから見せてあげられないの。」
舞 :「何とかならないのでしょうか?」
つかさ:「ええ、こればっかりは。」
詩音 :「じゃあ、プロジェクト外秘でここだけ。」
つかさ:「いくらプロジェクト外秘を使ってもこれだけはだめです。」
舞 :「プロジェクト外秘?」
詩音 :「うん、魔法の呪文。この街の大人だけに通じる呪文なんだ。この魔法を唱えると大概の事は出来るようになるポッチと詩音が持ってる呪文なんだ。」
つかさ:「ええ、でも、だめです。法律違反になります。」
詩音 :「ちぇ~。南さんに電話して何とかしてもらうもん。」
詩音は携帯電話をかけた。
詩音 :「あ、南さん? お願いがあるいの。 あのね。」
詩音は話をする。
詩音 :「ええ~。だめなの~。そんな~。」
詩音が首を振る。
詩音 :「全く、大人ってこれだから困るわ。融通が利かないんだから。ちょっとぐらいいいじゃない。」
詩音がぷんぷん怒る。
つかさが苦笑する。
舞 :「詩音、ありがとう。私のために色々やってくれて。つかささん、松井先生もありがとうございました。ご無理を言ってすいませんでした。」
つかさ:「いえいえ。」
そういうとつかささんは私のところにつかつかと寄ってきて私を抱きしめた。
つかさ:「まだ、小学生なのにお友達のためによく頑張ってるわね。えらいわ。もし、何か困ったことがあったら私に遠慮なく相談してくださいね。私はあなたの味方よ。」
つかささんが耳元でささやく。
つかさ:「そして、詩音ちゃんには十分注意しなさい。」
舞 :「え?!」
つかささんは私を話、人差し指を手に当てて、「内緒」というジェスチャーをした。詩音はきづかなかったみたいだ。
詩音 :「困ったわね~。他に手掛かりないかなあ。」
舞 :「うん。」
詩音 :「あ、そうだ。丸山さんのアパート知ってるんでしょ? そこ行ってみようよ。手掛かりがつかめるかもしれない。」
舞 :「うん、それはいいアイデア。行ってみよう!」
私は今度こそ手掛かりがつかめるかと思い病院を出て美鈴のアパートに行ってみた。
だけど、そのアパートには丸山という表札はなかった。
詩音 :「そうだよね。よく考えたらこのアパートは学区内だもんね。もし、住んでいたら学校にいるもんね。」
舞 :「そうよね。」
私たちはサクラの背中に乗って花の丘公園に向かって行った。
舞 :「そういえば、なんで、サクラのことパリカールって呼んでるの?」
詩音 :「パリカールはギリシャ語で勇者って意味なの。ペリーヌ物語に出てくるロバの名前。ペリーヌ物語って知ってる?」
舞 :「ううん。」
詩音 :「あのね、お父さんが死んじゃって、お母さんと東ヨーロッパのボスニアからお母さんとロバのパリカールと一緒にフランスのマロクールに行くの。」
舞 :「結構遠いよね。どうして、そんな遠いフランスまで行くの?」
詩音 :「おじいさんに会いに。」
舞 :「へ~、それで会えたの」
詩音 :「それがなかなか大変だったの。お母さんが途中で死んじゃうの。ペリーヌは一人でマロクールまでは行けたんだけどね。おじいさんはマロクールで一番のお金持ちで、言いつけに逆らって出て行った息子や孫のペリーヌを許していないって噂があったの。それで、名乗れなかったのよ。でも、本当はおじいさんはペリーヌを探していたの。ただ一人の孫のペリーヌをね。」
舞 :「それでどうしたの?」
詩音 :「ペリーヌは通訳としておじいさんのそばで仕事をすることになったんだけど、おじいさんは目があまり見えなくてペリーヌが自分の孫だってことわかんなかったの。」
舞 :「かわいそう。すぐ近くに探している人がいるのに気付かないなんて。」
詩音 :「でも、最後にペリーヌを探していた弁護士が帰ってくるの。そして、『とうとう、ペリーヌお嬢さんを見つけました』っていうのよ。お爺さんは『どこにいる? 連れてきたのか?』と聞くと『いいえ、連れてくることはできませんでした。だって、隣にいる通訳のお嬢さんがペリーヌお嬢さんなんです』って言うの。」
舞 :「うわ~。いいお話。」
詩音 :「でしょ、だから、丸山美鈴ちゃんを探しに回るならパリカールがいいかなって思って連れてきたんだ。パリカールは、勇気を持って立ち向かう人。どんな困難にあっても、一歩一歩前に進むの。かっこいいじゃない。それにオスなのにサクラじゃかわいそう。」
舞 :「いい、名前ね。パリカール。」
詩音 :「でしょ、でしょ。だからさ、今日は丸山さん見つからなかったけど、勇気を持って諦めなければきっと見つかる。だから、パリカール連れてきたんだ。」
舞 :「そうだよね。今日一日で一杯わかった。学校にいないこと。病院にいないこと。この街にいないこと。少しだけど前進。」
詩音がさみしげににっこり笑う。そして、二人に近づいてくる人影に気づいた。
詩音 :「あ、ママとポッチだ! お~い、こっち!」
詩音が手を振る。
和恵 :「詩音ちゃんに舞ちゃん。サクラまで。偶然ですね。厳さんもいつもすいません。」
和恵ママが遠くで見守る厳さんにも挨拶をする。
ポッチ:「舞ちゃん、来てたんだ。ごめんね。一緒に行けなくって。今日は病院行ってたんだ。」
舞 :「ううん。少しだけど探し人のヒントもらった。あわてず頑張るから。じゃあ、そろそろ夕方だし、私帰るね。」
詩音 :「うん、気をつけて。」
私はみんなにさよならのあいさつをして元の世界に戻って行った。
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草薙 :「結局見つからなかったか。」
冬子 :「残念です。でも、詩音ちゃんの言うようにあきらめてはいけません。ガンバです。」
舞 :「うん。そんな簡単にはあきらめない。美鈴だって頑張ってるんだから。ところで美鈴は?」
つかさ:「病室で舞ちゃんの帰りを待ってますよ。」
舞 :「わかった。行って話してくる。」
舞はナースルームを出て行った。
草薙 :「病院にもいないで学校にもいない。そして、アパートにもいない。ということは。」
つかさ:「もう、天国に行ったのかも。」
冬子 :「え?!」
草薙 :「美鈴ちゃんの病気は決して軽くない。前回の時も回復が遅かった。途中で感染症にかかるリスクがそれだけ高い。そして、向こうには西棟がない。なら、治療に関して満足に受けられなかった可能性がある。詩音ちゃんの口ぶりからも何となくそう思える。」
冬子 :「引っ越したんです。」
冬子 :「冬子信じません。きっと引っ越したんです。絶対に生きています。」
草薙 :「そうだな。悪い方向にばかり考えるのはよくないな。」
草薙は舞が向かったクリーンルームの方をみてつぶやいた。
つづく