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トリックエンジェル ~院内学級の物語  作者: まーしゃ
第6章 トリックエンジェル編
73/88

6-3.骨髄移植 (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

GWに入った。早速、わたしも院内学級や入院している子供たち相手に絵本を読んだり、紙芝居をしたり、折り紙を作ってあげたりしている。世の中は休みでも病気は休みになってくれない。子供たちはGWも関係なく病気と戦っている。


美鈴 :「GWになったんだね。」


舞  :「うん、GWだね。今年のGWはできるだけ来るね。」


美鈴 :「そんな無理しなくて言いからね。お友達と遊んできなよ。」


舞  :「今年は美鈴という友達と遊ぶことに決めたの。」


美鈴 :「え~、でも~。」


舞  :「それにまた二人を連れてくる。詩音とポッチ。」


美鈴 :「あの二人来るの! うわ~にぎやかになりそう。」


舞  :「まあ、退屈しないですむのは確かね。」


次の日、詩音とポッチが来た。


舞  :「あんたたち、なにそれ?」


二人の格好を見て思わず頭を抱える。


ポッチ:「ピエロだよ? 舞ちゃん知らないの?」


詩音 :「日本語で道化師、英語ならクラウン。学名はケアンクアン。」


美鈴 :「へ~。ピエロに学名があるんだ。知らなかった。」


舞  :「あるわけないでしょ~。美鈴。」


完全に二人のペースだ。


舞  :「私が言いたいのはなんでピエロの格好して病院ウロウロしてるのって聞いてる。」


ポッチ:「ホスピタルクラウンだよ。舞ちゃん知らないの?」


今度は勝ち誇ったようにポッチが言う。


美鈴 :「ホスピタルクラウンってなに?」


ポッチ:「病院でピエロの格好して、患者さんを楽しませるんだ。特に子供相手にね。」


舞  :「人は笑うことによって免疫力を高めることができる。ストレス発散だけでなく、治療にも役立つの。」


ポッチ:「さすがに良く知ってるね。」


舞  :「だてに院内学級に2年間通ってないわよ。でもホスピタルクラウンになるにはクラウンとして一人前にならないといけないはずよね。」


詩音 :「まさか~、ただの真似事よ。でも、ちゃんと先生の許可はとったわよ。」


ポッチ:「ほら、みんなお待ちかねみたい。みんな行くわよ。」


4人で院内学級に向かう。院内学級で遊んでいた子も、病室にいた子も集まってくる。先生や看護師さんまで集まってくる。


詩音 :「さて、皆さんお待たせしました。これよりショーの始まり始まり。」


ポッチ:「みんな、この格好はなんだか知ってるかな。」


一同 :「ピエロ~」


ポッチ:「そうだね。よく知ってるね。」


詩音 :「日本語で道化師、英語ならクラウン。学名はケアンクアン。」


一同 :「へ~」


詩音、うそ教えるな!。先生まで納得してる!


ポッチ:「では、今日は二人のピエロのバルーン配りです」


そうやって、二人はなにやら始めた。詩音がポンプで細長い風船を膨らます。膨らました風船を今度はポッチがこねくり回す。そうするといつのまにか犬やリスやうさぎができてくる。それに顔のシールを貼ると完成だ。


美鈴 :「上手~」


舞  :「さすがポッチ器用ね。」


詩音 :「このお姉さん上手でしょ。でも、学校じゃこうやっていたずら道具ばっかり作っちゃ、先生に怒られてるの。」


ポッチ:「その道具を使っていたずらして怒られてるのは詩音だろ。」


あはは 笑い声が聞こえる。


詩音 :「それで、とうとう罰として病院に行って風船配ってきなさいって言われちゃったの。ひどいよね。」


男の子:「え~、それっていたずらばっかりしているお姉さんたちに方がわるいんじゃん。」


詩音 :「あそっか~」


あはは 


美鈴 :「詩音もしゃべりうまいね。」


舞  :「口だけは達者だからね。」


二人は子供たちの心をつかんでいく。少し、誇らしく思った。このお姉ちゃんたちの友達なんだよって。だけど、ポッチは本当にすごい。なんでもできる。詩音がいなければ学校では超優等生として児童会長とかになるタイプだ。


風船配りが終わったら、今度は質問コーナーになった。二人はどこに住んでるのかとか、何がすきなのかとか。そのうち質問ではなく、子供たちが一方的話し始める。それをうんうんと二人で聞いている。普段ためこんだストレスをここぞとばかりに発散している。実はこれこそがボランティアの重要な仕事である。特に年の近い子が話をきいてくれるのがポイントである。


こうやって友達のように接するのである。


そろそろ時間だ。


ポッチ:「それじゃ、またね~。また今度くるよ~」


詩音 :「さようなら~」


院内学級の外に行く。先生たちがお疲れ様っといって、あいているカンファレンスルームを貸してくれる。4人でそこに入った。


美鈴 :「おつかれさま」


ポッチ:「ふう、やっぱり疲れる。」


詩音 :「今年のGWは暑いね。」


舞  :「空調がきいてても、やっぱりあついよね。」


美鈴 :「ポッチ、どこで動物バルーン習ったの? すごい上手。」


ポッチ:「あれは、そういうセットが売ってるんだ。説明書つきでね。ちょっと練習すればすぐできる。」


ちょっとくらいじゃできないって。それなりに練習してるって。


美鈴 :「そうなんだ。私にもできる?」


ポッチ:「うん、できるよ。教えてあげる。舞ちゃんにも教えてあげる。」


そうやって4人で作り始めた。やっぱり、結構難しい。でも、何回かしているうちに一つ割らずにできた。


美鈴 :「できた! くまさん。」


詩音 :「上手、上手」


美鈴 :「記念にとっとく」


なんか病院とは思えない楽しさだ。こんなのが続けばいいと思った。病院でないところでできればいいと思った。美鈴たちと4人で。


---------------------------------


松井 :「今回の治療法ですが、再発ですので超ハイリスクとして考えていきたいと思います。骨髄移植を前提に進めていきたいと思います。骨髄バンクに申請しておきました。早ければ3ヶ月後に移植となります。」


美鈴のお母さんの妙子さん、冬ちゃん、私で話を聞く。


母子家庭の丸山家では、相談する家族がいないため、冬ちゃんと私が相談相手となり、正しく情報を伝えるため、カンファレンスに同席することが美鈴のお母さんの希望によりしばしば起きる。



私は顔をしかめる。


舞  :「(骨髄移植…)」


その様子を見て美鈴ちゃんのお母さんが質問する。


妙子 :「あの、それを行えばあの子は助かるのでしょうか?危険はないのでしょうか?」


松井 :「舞ちゃんが顔をしかめたのが如実に実態を表しているかな。舞ちゃん、君の見解は?」


小学3年生に見解求めるか? 私はそう思いながらも話し始めた。


舞  :「先生ずるい。でもしょうがないか。」


舞  :「まず、骨髄移植そのものを説明します。簡単に言えば、健康な骨髄を美鈴ちゃんに移植して、治していきます。」


舞  :「移植が決まれば、まず、抗がん剤と放射線で、一旦美鈴ちゃんの造血機能をストップさせます。そのあとドナーから骨髄をもらい、輸血のように点滴します。その後、点滴した骨髄の中にある造血細胞が定着すればほぼ完治です。」


松井 :「次にリスクを説明します。」


松井 :「第一にドナーが見つかるかどうか。血液型と一緒で骨髄液にも型があります。兄弟で1/4の確率。親子だともっと低くなります。」


松井 :「でも、骨髄バンクなどで登録されていますので、昔と比べればでも見つかり易くなっています。このリスクは低いでしょう。」


松井 :「第二のリスク。GVHDです。他人からの移植ですので、GVHDがおこる可能性があります。その場合移植した造血細胞が体中を攻撃します。そうなると、おなかが痛くなったり、味覚がおかしくなったりすることがあります。最悪多臓器不全で亡くなることもあります。もっとも、免疫抑制剤でそうならないようにします。そして、さらに」


舞 :「そして第3のリスク…。晩期障害が起こりやすく、生長障害や不妊になる可能性が高い。つまり、背が伸びなかったり、赤ちゃんができなくなる。」


最後の私の話を聞いて、冬ちゃんがはっと顔を上げる。美鈴のお母さんが泣き出してしまった。そっと冬ちゃんが肩を抱く。


舞 :「(だから、骨髄移植は嫌なのよ。副作用が大きすぎる。)」


少し落ち着いてから、美鈴のお母さんが聞く。


妙子 :「先生、成功率は」


松井 :「5年生存率で60%くらいです」


妙子 :「そ、そんなに低いんですか。他には方法はないのでしょうか? 例え成功しても子供ができない可能性があるんですよね。」


松井 :「残念ながらこれが最善の策です。ええ、最後の手段と考えていいでしょう。」


妙子 :「そんな。美鈴はこの前の入院と比べて元気じゃないですか。それに白血病の割合だって少ない。なのに、どうしてそんな治療をしないと行けないのですか?」


松井 :「このまま、治療をしなければどんどん悪くなります。あとひと月で前回入院した時と同じくらいに。そして、3か月くらいで命を落とすことになるでしょう。」


妙子 :「余命3カ月ですか…」


松井 :「ですから、治療するのです。しかし、前回の化学療法だけでは美鈴ちゃんのブラスト、つまり白血病細胞は抑えるのは無理でしょう。化学療法に耐性のある白血病細胞が生き残り、再び増殖しているからです。薬が効きにくくなっています。」


松井 :「なので、骨髄移植なのです。」


妙子 :「もし、骨髄移植がうまくいかないときは?」


松井 :「残念ながら。」


妙子 :「そんな。なんであの子ばかり…。少し考えさせてください。」


松井 :「はい、結論は今出なくていいです。ただ、状況を考えるとそう待っていられない状況です。」


----------------------------------


先生と別れて3人で話をする


妙子 :「冬子さんはどう思う。」


冬子 :「難しいです。もっと別な方法はないんでしょうか?」


妙子 :「舞ちゃんは?」


舞  :「私は骨髄移植に反対です。ママじゃないけど、もっと別の方法がないか探してみます。」


冬子 :「ただ、この話はよくよく考えて、周りの信頼置ける人と良く相談して決めたほうがよいと冬子は思います。単純に反対といえばすむものでなく、こうしているうちに少しずつ美鈴ちゃんが弱っていくのも事実です。」


妙子 :「そうですよね。うん。」


お母さんがまた泣き出した。私は美鈴のお母さんを冬ちゃんにまかせて部屋を出て行く。


舞  :「骨髄移植か。それが一番確実。しょうがないか。」


でも第三のリスクを考えるとやはり考えてしまう。


かわりに松井先生が入ってきてお母さんを呼んだ。


先生 :「ちょっと、肉親の方に話しておかなければならないことがありますので。」


妙子 :「あ、はい。今行きます。」


涙をぬぐってお母さんが先生と一緒に別の部屋に向かった。


それを見送りながら舞はため息をつく。


冬子 :「骨髄移植の治療大変なんですね。冬子びっくりしました。」


部屋から出てきた冬子がぼそっという。


舞  :「うん、でも、少しだけ楽にする方法がある。」


冬子 :「あるんですか?」


舞  :「双子の相手から骨髄移植すれば軽くなる。骨髄の型が完全に一致するからね。骨髄バンクも使わなくて済む。」


冬子 :「でも、美鈴ちゃんは双子じゃないです。冬子知ってます。」


舞  :「『対世界』の美鈴ちゃんを探せばいいの。彼女は同じ骨髄の型を持っているはず。」


冬子 :「! 舞ちゃん天才です。やっぱり舞ちゃんは冬子の娘です。オウムが鷹を生むです!」


舞  :「冬ちゃん、それはトンビが鷹を生むでしょ。さらに言うと使い方も間違っててここでは『カエルの子はカエル』だよ。」


冬子 :「そうともいいます。でも、細かいこと気にしてはいけないです。」


相変わらず負けすぎらいの冬ちゃんだった。


今私にできることは、『対世界』の丸山美鈴を探してドナーになってもらうよう説得すること。そうすることで第一のリスクと第二のリスクはなくなる。


骨髄移植は血液型のような骨髄の型を一致させて行う。そうしないと激しい移植片対宿主病つまりGVHDを起こす。GVHDは拒絶反応に似ている。だけど、攻撃が逆方向。輸血した血液や骨髄液が輸血された人を攻撃する。それは、型が同じでも起きてしまう危険な反応。


骨髄移植で死ぬ人の中にはこのGVHDにやられてしまうことがある。そして、このGVHDは一生苦しむことになる。それを回避する方法。それは、自分と完全に同じ血液を持っている人からの骨髄移植。双子とかだ。でも、美鈴は双子どころか兄弟もいない。


だから、骨髄バンクに登録して骨髄が一緒の人を探す。


でも、もう一つ手段が残されている。


「対世界」


エルベと呼ばれる詩音たちの世界の丸山美鈴を探してドナーになってもらえば解決する。


舞  :「土日はポッチに美鈴を任せて私は詩音に協力してもらってエルベの丸山美鈴ちゃんを探そう。」


わたしは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


----------------------------------


詩音 :「骨髄移植?」


舞  :「うん、他の人の造血細胞を移植する。」


詩音 :「造血細胞?」


舞  :「血を作る細胞。美鈴ちゃんはその細胞がうまく機能しないの。」


詩音 :「ふ~ん、それすれば完治するの?」


舞  :「成功すればかなりの確率で治るんだけど。」


詩音 :「失敗すれば?」


舞  :「助からない。だから最後の手段。」


詩音 :「・・・」


舞  :「それで、リスクを避けるためにひとついい方法がある。」


詩音 :「?」


舞  :「そっちの丸山美鈴ちゃんを探したいの。彼女の骨髄を移植できればGVHDも防げる。詩音、協力してくれない?」


詩音 :「いいよ。もちろん。」


舞  :「ありがとう。それで、詩音、丸山美鈴ちゃん知らない?」


詩音 :「もちろん知ってるよ。」


舞  :「本当? 早速紹介して。」


詩音 :「ポッチ。」


舞  :「え?」


詩音 :「名前が一緒。同じ美鈴ちゃん。」


舞  :「あのね。名前が一緒だけじゃダメなの。苗字も一緒じゃないと。」


詩音 :「え~。名前が一緒なんだから大丈夫だよ。きっと。」


舞  :「それじゃダメなの。遺伝子が一緒じゃないと。」


詩音 :「やってみれば何とかなるよ。きっと遺伝子も一緒だよ。」


舞  :「そんなわけないでしょ。」


詩音 :「ふ~ん。ポッチ以外だとしらない。」


舞  :「そう。簡単にはいかないよね。じゃあ、今度一緒に探すの手伝ってくれない?」


詩音 :「いいよ。今度の土曜に一緒に探そ!」



-------------------------------


舞はカンファレンスルームで草薙先生に自分のアイデアを話す。


舞  :「5年生存率60%よね。」


草薙 :「ああ、そうだ大変厳しい。」


舞  :「それはGVHDの可能性が減れば上がるよね。完全一致させれば大丈夫だよね。」


草薙 :「ああ、でも完全一致することなどないぞ。本人か一卵性双生児くらいだ。」


舞  :「もう一人いる。」


草薙 :「え?」


舞  :「エルベの丸山美鈴ちゃん。」


草薙 :「ああ! なるほど。その手がある!」


舞  :「でしょ。先生、私、向こうで丸山美鈴ちゃんを探してくる。美鈴をよろしくね。」


そう言ってカンファレンスルームを飛び出す。

         

草薙 :「舞ちゃん! ちゃんと考えてからでも!」


草薙が舞を追いかけようとするがあっという間に出て行ってしまった。


草薙 :「まあ、いいか。」


ポッチ:「5年生存率60%ね~。」


壁際にもたれかかりながらポッチがつぶやく。


草薙 :「盗み聞きか。あまり褒められないこどだぞ。」


ポッチ:「うそつき!」


草薙 :「なにをいう。」


ポッチ:「AMLのM8の再発時の5年生存率は0%。つまり、治らない。それでも辛い治療をするんですか?」


草薙 :「中に入って話そうか。」


草薙はポッチを中に入れて話をする。


ポッチ:「先生、抗がん剤ってどうやって開発されたか知ってる?」


草薙 :「ああ、医者として当然だ。第一次世界大戦後、ドイツから帰ってきた兵士を診察した医師が発見した。」


ポッチ:「そう。その兵士はがんだった。だけど戦争に行ったら治ってた。その兵士は。」


草薙 :「毒ガス攻撃を受けたからだ。」


ポッチがにっこり笑う。


ポッチ:「そう。人を殺すような猛毒。それが抗がん剤。それを致死量以上に与えて治療するのが骨髄移植。それを美鈴ちゃんにするの?」


草薙 :「治すためだ。」


ポッチ:「治らないでしょ。治ったためしがないの。ファンダルシアでもエルベでも。M8は骨髄移植しても100%再発するの。そんなこと先生知ってるでしょ。」


草薙 :「他に方法がない。治らないからといって見捨てるわけにはいかない。それとも他に治す方法があるとでも言うのかい?」


ポッチ:「TAG療法。」


草薙 :「それは治療法ではない!」


ポッチ:「そう? いい方法だと思うけど。でも、丸山美鈴ちゃんを探してどうするの? 『対世界』のバランスは残酷。かたっぽが白血病なら、必ずもうかたっぽも白血病。方っぽが再発すればもう方っぽも再発する。だから、移植なんてできない。」


草薙 :「向こうの丸山美鈴ちゃんを知ってるのか?」


ポッチ:「名前だけは。でも、会ったことはありません。そして、これ以上はプロジェクト外秘です。先生、美鈴ちゃんと舞ちゃんを苦しめないで。」


そういうとポッチはカンファレンスルームから出て行った。


-------------------------------


詩音 :「ポッチもしょうがないな~。」


草薙先生からポッチとのいきさつを聞いた詩音がぼやく。


詩音 :「先生たちに任せるしかないのに。まあ、美鈴ちゃんのことが心配でのことだから許してやって。私は舞ちゃんと丸山美鈴ちゃんを探しに行くわ。」


草薙 :「そうか。ありがとう。ところで、今回、ポッチは向こうの丸山美鈴探しに反対なのに、詩音ちゃんはなんで賛成なんだ。」


詩音 :「役割分担。」


草薙 :「役割分担?」


詩音 :「ポッチは美鈴ちゃんの心のケア。だから、美鈴ちゃんにべったり。一方私は舞ちゃんの心のケア。美鈴ちゃんのそばにいると舞まで落ち込んでいくわ。だから、別の目的を与えて付き合ってあげてるの。かのんちゃんの時の二の舞は避けたいわ。」


草薙 :「なるほどな。探している時だけが目をそらせる時間か。」


詩音 :「うん。」


草薙 :「それと、もうひとつ。詩音ちゃんは向こうで丸山美鈴ちゃんを知ってるのか?」


詩音 :「それはプロジェクト外秘です。」


草薙 :「プロジェクト外秘?」


詩音 :「はい。言ってはいけないことです。病気の子供や死んでしまった子供が対世界ではどうなっているかは言ってはいけない決まりなんです。」


草薙 :「それはどうしてかな?」


詩音 :「対世界ではバランスをとるためほぼ一緒になります。方っぽで病気になれば、もう方っぽでも病気になります。」


草薙 :「ふむ。それはポッチも言っていた。」


詩音 :「でも、時間的なずれがあるようです。」


草薙 :「時間的なずれ?」


詩音 :「ええ、片っぽが病気になっても。もう方っぽはまだ病気にならない。方っぽは天国に行ってももう方っぽはまだ生きてる。タイムラグがあるってことです。」


詩音 :「事故とかの場合は環境要因なのでそうはならないのですが、病気の場合はほぼ間違いなく二人ともなります。だから、教えられないのです。自分の運命がわかってしまうから。」


草薙 :「そういうことか。」


詩音 :「しかも、この話は番井先生の指示です。だから、先生が例え仲のいい番井先生に教えてもらおうとしても教えてくれません。」


草薙 :「じゃあ、なんで丸山美鈴ちゃん探しを手伝うんだ。」


詩音 :「気づいてしまったらしょうがないから。それがこのプロジェクト外秘の盲点。だから手伝う。」


草薙 :「なるほど。舞ちゃんが探し出してしまえばOKなのか。」


詩音 :「うん。そして、美鈴ちゃんはAMLのM8だっけ。とても治りにくい病気だよね。」


草薙 :「それを治すのが医者だ。」


詩音 :「エルベでもM8が再発した場合の5年生存率は0なんです。」


草薙 :「知っているのか!」


詩音 :「それでも、治そうとするんですか?」


草薙 :「ああ、医者だからな。希望は持つ。」


詩音 :「ですよね。私もそうです。例え見つかる可能性がとても低くても舞ちゃんを手伝う。それが希望だからです。」


草薙 :「そうか。そういうことか。でも、必ずしも真実を知ることがよいとは限らないぞ。」


詩音 :「ええ、わかってます。だから、時間をかけて探してもらいます。ですから、その間に先生たちは美鈴ちゃんと舞ちゃんの希望を見つけてほしいんです。前例のない治療方法を。」


草薙 :「わかった。頑張る。詩音ちゃんも舞ちゃんをよろしくな。」


詩音 :「もちろんです。」


そういって詩音はにっこり笑ってカンファレンスルームを出て行った。


つづく



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