6-2.入院 (急性骨髄性白血病・ハプロ移植編)
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
番井 :「ふう、何度見ても信じられないわね。」
和恵 :「ちゃんと治ってるんですね?」
番井 :「ええ、この前、遺伝子レベルで萌芽が少しあったわ。この萌芽は何もしないと増える一方なんだけど、5%行かない間に自然に減っていっている。もちろん、魔法のではないので、なんらかの理由があるはずだわ。」
和恵 :「つまり、あの子は健康体なんですね。よかったです。」
番井 :「ああ、何も問題ないわ。それどころか、問題が出ても治ってしまう。きっと原因は、あなたたち家族と三条教授が絡んでるんでしょうけど。」
和恵 :「うちの家族を変に言わないでください。」
番井 :「ごめんなさい。悪意はないわ。それよりももう少し協力してくれません? 下手するとノーベル賞ものの大発見かもしれません。」
和恵 :「は、はい、構いませんです。」
番井 :「ありがとう。それと、この話はプロジェクトに申請しておくわ。よって、この話はプロジェクト外秘ね。」
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くしゅん。美鈴がくしゃみをする。
舞 :「大丈夫?」
美鈴 :「うん、大丈夫。再来週の合唱コンクールまでには治さないとね。せっかくソロで歌うから。お母さんも会社休んでくるって言ってるしね。」
舞 :「まあ、2週間あるから大丈夫だね。風邪ならそんなに長引かないしね。」
美鈴 :「うんうん。」
舞 :「そういえば検査結果はいつ出るの?」
美鈴 :「あしたの土曜日。帰りにお母さんとお医者さんに行ってくる。」
舞 :「そう、じゃあ、帰りに妙子さんと一緒に家でご飯食べよう。冬ちゃんが誘え誘えって言ってるし。」
美鈴 :「うん、甘えちゃおうかな~」
舞 :「じゃあ、決まり。冬ちゃんに言っとくね。」
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草薙 :「どうだった?」
丸山美鈴の検査の結果を草薙が尋ねる。
松井 :「血液中のブラストは1%前後でしたので、誤差の範囲と期待していたのですが、マルクの結果、骨髄中のブラストの割合は20%でした。」
草薙 :「再発か…」
松井 :「間違いないでしょう。」
草薙 :「確か、美鈴ちゃんの型はAMLの…」
松井 :「M8です。」
草薙 :「予後不良か。」
松井 :「はい。治る可能性は極めて低いです。」
草薙 :「明日、美鈴ちゃんたち来るんだったな。辛い役目だな。松井先生。」
松井 :「はい、でも、今度の月曜日まで告知は待ちましょう。最後の土日をゆっくり過ごさせてあげたいです。今すぐ入院が必要な状態ではないですし。」
松井先生は天井を見上げながらため息をつく。
松井 :「今度もつらい闘いになりそうだ。」
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舞は丸山美鈴が入院したのを聞いて、慌てて病院に来た。
舞 :「美鈴、どう?」
美鈴 :「あさって、カテーテルの手術。もうやだよ~」
美鈴は泣き出した。
白血病の多くは今では治る病気である。しかし、その治療は大人でも泣きたくなるような、痛くて、つらい治療である。
美鈴は2年間その治療を行った。その戦いに勝利して、治ったはずなのに。
カテーテルの手術とは胸の静脈に点滴や薬を入れる管を通す手術である。手術といっても、検査と治療のための手術であり、手術をすれば治る他の病気とちがい、手術することがつらい治療のスタートになる。
舞 :「がんばろう。美鈴。私も応援する。ってがんばろうっていっちゃいけなかったね。十分頑張ってるよ。」
美鈴 :「うん。でもやだ~。せっかく合唱コンクールにも出られると思ったのにまた病院に逆戻り。なんでなの。」
気丈な美鈴も母親と私の前では甘えてくれる。私ができるのは、彼女を励まし、支えること。そして、甘えさせてあげること。
私がこの病院でボランティアとしていられるのは、私の知識によるものではない。こうやって子供たちの精神的支援ができるからだ。わかっている。詩音とは違うんだ。彼女みたいにその能力を買われて天才科学者の助手をやっているのとは違う。あれ? 私、詩音ちゃんに対抗心抱いてる?
私は私。できることをやる。
しかも、親友の美鈴がこんな状況なんだから、頑張らないと。
美鈴 :「この頃夢を見るの。かのんちゃんとたかしちゃんの夢。二人と遊んでいる夢。」
かのんちゃんとたかしちゃん。二人はもういない。
舞 :「美鈴~。だめだよ、そんなことじゃ。冷静に考えてみようよ。かのんちゃんもたかしちゃんも現代医学ではどうしようもなかった。でも、美鈴の病気は違う。治るんだよ。大変なのはわかるけど大丈夫。」
美鈴 :「うん、でも、なんで私生まれてきちゃったんだろう。」
舞 :「美鈴~。お母さんが聞いたら泣くよ~。」
美鈴 :「ねえ、何か面白い話聞かせて。誰も知らないような話。舞ちゃんがいつも話をしている御伽噺じゃなくて、すごい話。長生きしなくちゃとか思う希望のもてる話。」
舞 :「え~。ないこともないんだけど。その話をすると警察につかまっちゃうくらい危ない話なんだ。」
美鈴 :「教えて~。絶対内緒にするから~」
舞 :「絶対他人に話さない?」
美鈴 :「うん。」
舞 :「じゃあ、話すわ。」
美鈴 :「わくわく。」
舞 :「詩音とポッチのいたずらの話。」
美鈴 :「おもしろそう。でも、それがそうして警察に捕まるの?」
舞 :「プロジェクト。彼女たちを守ってる組織。彼女たちの科学といたずらを保証している組織。その話は決して話してはいけないの。」
美鈴 :「あはは。テレビのドラマ見たい。本当の話じゃないでしょ。」
舞 :「本当の話。その組織のトップは国の役人。」
美鈴 :「そうすると、秘密話しちゃうと舞ちゃん、捕まっちゃうじゃない。」
舞 :「うん、だから、ばれないように少しずつお話しする。まずは二人のいたずらお話。」
美鈴 :「あの二人いたずら好きだもんね。でも、舞ちゃんとは全然違うのね。」
舞 :「そうなの。自分そっくりの外見なんだけど、性格とか興味とかが全然違うの。」
美鈴 :「わかる~。最初話したときすっごくそう思った。好奇心旺盛であとさき考えずやっちゃうタイプ。」
舞 :「でしょ~。例えば『このボタン押すべからず』ってあったら普通押さないじゃない。それを押すタイプなのよね。『わくわく』と『じっけ~ん』かいいながら。」
美鈴 :「そうそう」
舞 :「実際に小学校に入った早々火災報知機押したらしいの。どうなるか知りたかったんだって。すっごく怒られたって。」
美鈴 :「あはは、あたりまえ~」
舞 :「救急車事件とか青信号事件とかいっつもいたずらばっかり。」
美鈴 :「きゃ~、なんか想像できないけどすごそう~。火災報知機並みのいたずらよね。具体的にはなにやったの?」
舞 :「あ、こんな時間。帰らなきゃ。この続きは明日ね。」
美鈴 :「いぢわる~。」
舞 :「また、明日来るから。詩音も来るから。そのときまでのお楽しみ。じゃね^^」
そういって、私は帰っていった。別に帰らなければいけない用事なんかない。こうやって明日の楽しみを作って明日が来ることに対する希望をもたせれるのも大切なことだから。
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次の日、詩音があわてて美鈴の見舞に来る。そして昨日の話の続きをする。
美鈴 :「本当に火災報知機押したの?」
詩音 :「うん、押したの。だって、どうなるか興味あったんだもん。おっこられたけどね~。」
美鈴 :「なんでもやってみないと気がすまないのね。」
詩音 :「科学の発展は好奇心と実験よ。しょうがないの。」
美鈴 :「あは、そういえば、この前、舞ちゃんと詩音ちゃん入れ替わったでしょ。それで舞ちゃんの家で大騒ぎになったでしょう。」
詩音 :「え~、舞ちゃんおしゃべりなんだから。」
美鈴 :「ほんと、思いついたらなんでもやっちゃえ~って感じでしょ。」
詩音 :「えっと、一応、名誉回復のために話しておくわね。私、別に思い立ったら即行動するんじゃないわよ。私だってそれを行ったらどういうことが起きるか慎重に考えて、相談しながらやってるわ。ただ、周りの人には奇想天外な行動に見えるだけよ。」
美鈴 :「ほんとかな~。それで誰と相談するの?」
詩音 :「天才科学者くるみちゃんと相談してやってます。」
美鈴 :「へ~、ちゃんと相談するんだ。ところでくるみちゃんって?」
詩音 :「三条くるみ。パパの幼馴染で天才物理学者。」
美鈴 :「こっちの世界にも居る人?」
詩音 :「いるよ~。でもアメリカのMITっていう大学で先生してるから日本には帰ってこないけどね。ファンダルシアの三条さんもすごい人で日本で一番優秀な物理学者の一人だよ。確かEUで大型加速器の建設に携わってるはず。」
美鈴 :「向こうのくるみちゃんはもっとすごいの?」
詩音 :「うん、正直比較にならないくらいすごい。世界で最も有名どころか史上もっとも天才の物理学者って言われてる。」
美鈴 :「そんなにすごいの?」
詩音 :「うん、ノーベル賞もらってる。」
美鈴 :「うわ~。」
詩音 :「しかも、年はパパやママの一つ上でまだ20代なんだよ。」
美鈴 :「どんだけ~ってかんじ。ちょっとあこがれちゃうな。その人に会ってみたい。」
詩音 :「うん、いいよ。今度連れてきてあげる。秋になったら日本に帰ってくるから。」
美鈴 :「え? 冗談で言ったのにそんな人これるの? 忙しいだろうし、しかもどうやってくるの?」
詩音 :「どうやってくるかは、くるみちゃんの平均律による時間調和理論を実践して。くるみちゃんも好奇心旺盛だからあいたいって言えば来ると思う。」
美鈴 :「ほんと? 楽しみ~。」
詩音 :「うん^^ でね、話はちゃっと変るんだけど、くるみちゃんの前に私の友達に会って欲しいの。美鈴ちゃんが再発したのを聞いて、是非お見まいに来たいって。」
美鈴 :「だ~れ?」
詩音 :「ポッチ。」
美鈴 :「ポッチかあ。でも~、私こんなだし。」
詩音 :「大丈夫、大丈夫。そんなこと気にする子じゃないし、おもしろんだから。ね、ね」
美鈴 :「詩音ちゃん強引なんだから~。じゃあ、三条教授に合わせてくれるて約束したらポッチにもお見舞いに来てもらう。」
詩音 :「そんなのお安い御用。約束する。ポッチもよろこぶぞ~」
やっぱり、舞ちゃんと違うな。舞ちゃんは考えて考えて私のことを思って話すけど、詩音ちゃんは天真爛漫でちょっと強引。そんなところ決して嫌いじゃない。本当におんなじ人なんだろうか?まるで二重人格。もうひとりの私も全然違うのかな~。会ってみたいなあ。美鈴はそう思った。
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美鈴 :「本当に詩音ちゃんて舞ちゃんの『対世界』のもう一人なの?」
舞 :「そうだよ。全然違うでしょ。良くも悪くも天衣無縫。」
美鈴 :「天衣無縫?」
舞 :「天女が着る羽衣は何も縫ってないんだって。つまり、そのまんま。転じて、自分の考えをストレートに出せる性格のこと天衣無縫っていうの。いい意味でも悪い意味でも使う。」
美鈴 :「うん、そのとおりだと思う。見てても面白いし、話しても面白い。」
舞 :「はたから見てる分にはね。でも、あんなのが近くにいると疲れるぞ~。天衣無縫で自信家で行動的でいたずら好き。悩みなんて何もないんじゃないかと疑っちゃう。」
美鈴 :「でも、口ではそういうけど結構すきでしょ。」
舞 :「まあね。見てて楽しいしね。好き勝手言い合えるのもいい。」
美鈴 :「いいなあ。ねえ、私にも『対世界』にもう一人いるんだよね。」
舞 :「いるはずなんだけど。でも、会ったことがない。丸山美鈴って子は詩音の周りにいないんだ。」
美鈴 :「そうなんだ。」
舞 :「ああ、探してるんだけどね。詩音がいうには完全に同じではないらしい。例えば、私のママは冬子ママだけど、詩音ちゃんのママは和恵ママだし。」
舞ちゃんの過去を知っている美鈴としては微笑むくらいしかできなかった。もちろん、冬子ママと舞ちゃんはとっても仲いいけど、生みの親と違うという事実は想像つかないくらい微妙な話のはず。美鈴はそう思った。
美鈴: 「あってみたいな『対世界』のもう一人。元気なのかな? それともこうやって頑張ってるのかな。」
舞 :「きっと、同じように頑張ってるよ。詩音が言うには、向こうの世界とこの世界はちょっとは違うけど基本的に鏡のように同じらしい。だから、きっと向こうも頑張っている。」
美鈴 :「でも、舞ちゃんと詩音ちゃんは鏡のようになってないよ。」
舞 :「まあ、性格は違うね。でも体質は同じだから病気とかは同じようになりやすいんだって。」
美鈴 :「そうなんだ~。じゃあ、向こうも頑張ってるのね。でも、あってみたいな~。そうしたらお互い励ましあっていけるのに。」
舞 :「うん、そうだね。探してみるよ。だから、美鈴も頑張って。」
美鈴 :「ああ、頑張ってっていった~」
舞 :「ごめん、ごめん。十分頑張ってるよ。それはわかってるわ。とってもわかってるよ。」
舞 :「話は変るがポッチがお見舞いに来るのOKしたんだって。」
美鈴 :「うん、まずかった?」
舞 :「まずくはないんだけど、知っての通り『さすが詩音の親友』って感じだぞ。」
美鈴 :「うん、知ってる。最初に会ったときからだまされたもん。」
舞 :「ほんと、話をするだけならと楽しいんだけどね。とんでもないいたずらっ子。詩音がかわいく思えちゃうくらいすごい。」
美鈴 :「どんな感じ?」
舞 :「そうね、例えば先生から『してはいけません』といわれたことはどうする?」
美鈴 :「もちろん、しないよ。危ないからそういってるんだもん。」
舞 :「そうだろう、ところがポッチは『見つかって怒れたら謝ればいいのよ。ごめんなさいって』って感じだ。」
美鈴 :「はあ。」
舞 :「さらに『じっけ~ん』といって実行しちゃう詩音とコンビだ。」
美鈴 :「最凶コンビ。」
舞 :「うん、しかも手先がすごい器用なんだ。なので、いたずらの企画担当は詩音で仕組みを作るのはポッチが担当。すごいわよ~」
美鈴 :「たのしそう。」
舞 :「う~ん、でもまずこの前みたいにターゲットになるから気をつけて。とりあえずびっくり箱は覚悟したほうがいい。」
美鈴 :「うん、楽しみ。」
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美鈴 :「ポッチ~。久しぶり~」
ポッチ:「久しぶり。思ったより元気そう。ちょっとほっとした。これ、お土産。受け取って。」
ポッチから小さな箱が渡された。きれいに包装されたお菓子の箱だ。
どうやら、早速びっくり箱をもってきたらしい。ここは驚いてあげないと。
美鈴 :「うわ~、きれい。あけていい?」
ポッチ:「どうぞどうぞ」
ニヤニヤしている詩音ちゃん。でもわかってるもんね。
小さな箱を開ける。
ポン、ポン、ポン、ポン、ポン・・・・・ポン
10連発で中身が飛び出してきた。
美鈴 :「うそ~」
腹を抱えるふたり。
美鈴 :「びっくり箱ってわかってたのにびっくりした~。」
ポッチ:「でしょ~。普通のびっくり箱は1回だけ飛び出すけど、10連発は想像つかなかったでしょ。だから、このびっくり箱、何度やっても面白いの。こうやってセットするの、また、やってみて。」
もう一回やってみる。
ポン、ポン、ポン、ポン、ポン・・・・・ポン
美鈴 :「ひ~」
ポッチ:「今度、先生とか看護婦さんとか、院内学級の人たちにやってみな~。あっという間に人気者になるよ~。」
美鈴 :「ありがとう。最高のプレゼント!」
ポッチ:「ところで、私もこの病院でボランティアすることにしたんだ。」
美鈴 :「え?」
ポッチ:「もともと、医療に興味あったし、美鈴ちゃんの役に立ちたいし。名前が同じなのも何かの縁だと思うの。それに私、ちょっとした芸とかもできるんだよ。」
そういってポッチは自分のリュックから何かを取り出す。
美鈴 :「お手玉?」
ポッチ:「見てて」
そういうと器用に3つのお手玉を空中で回し出す。
美鈴 :「上手~」
ポッチ:「ありがとう。こうやってみんなを楽しませてあげようと思うんだ。土日とか休みの時だけだけどね。」
美鈴 :「ありがと~。なんか楽しい入院生活になりそう。」
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つかさ:「神崎さん、病院の許可は取りました。ボランティアとして半年間宜しくお願いしますね。日程は自由ですので無理のない範囲でお願いします。」
ポッチ:「はい、舞ちゃんみたいには行かないですが、頑張りたいと思います。」
つかさ:「頑張ってね。」
ポッチ:「つかささん、こっちでも看護師なんですね。」
つかさ:「え?」
ポッチ:「ううん、なんでもないです。」
早速、ポッチは院内学級の中でいそいそと動き出した。楽しそうだ。休みの間でも、院内学級は自主的にやっている。
さっそく、折り紙とか工作とか始めた。子供たちが寄ってくる。
詩音 :「ほんと、ポッチって器用だよね。羨ましい限り。」
美鈴 :「詩音ちゃんは?」
詩音 :「全然ダメ。」
美鈴 :「何か特技とかないの?」
詩音 :「特技ね~。そうそう。タロット占いが得意なんだ。」
美鈴 :「舞ちゃんみたい~。」
詩音 :「それ違う。舞ちゃんが私みたいなの。舞ちゃんが私のタロット勝手に持ってたのよ。」
美鈴 :「あは。たしかそうだった。それで片っぱしから占いとか言って診断してたっけ。いつ退院できるかって。」
詩音 :「舞ちゃんらしい。」
美鈴 :「あ、そうだ。詩音ちゃんも占ってよ。私の退院時期。」
詩音 :「いいよ~。でも私は診断できないからただの占いだよ。」
美鈴 :「もちろん。わくわく」
詩音がタロットカードを取り出し準備を始める。子供たちの相手をしていた舞とポッチや冬子も興味を示しやってきた。
詩音が世界樹をカードで作り9枚目をひいた。太陽のカードの正位置だった。
美鈴 :「どういう意味?」
詩音 :「太陽と月がいくたびも変わりばんこでこの星を見守ったのち、夜空に大きな三角形が現れるでしょう。そして、その中に、赤と青の信号機がちかちかと輝くとき、大きな絶望に包まれます。」
詩音 :「だけど、大丈夫。大きな絶望の中にほんの一筋の小さな光が現れます。美鈴ちゃんがその光を信じて治ると信じたとき、神様の前に天使たちが現れ奇跡が起きるでしょう。」
舞 :「どういう意味?」
詩音 :「う~ん、よくわかんないけど、9月の新学期には治って学校へ行けると思う。」
美鈴 :「本当?」
詩音 :「うん、信じて。詩音の占いはあたるんだよ。」
舞 :「美鈴、あんまり信じちゃだめだよ。なにせ、詩音だからね。」
詩音 :「ううん、そんなことないよ。ちょっと、頑張れる気がした。」
詩音 :「よかった。」
そんなときつかささんが目配せした。そろそろ美鈴は病室の戻る時間だ。
美鈴 :「じゃあ、またね。今日はわざわざお見舞いありがとう」
そういって病室に戻って行った。
舞は、見送った後、何気なく、タロットの他のカードをめくってみた。ほかのカードだったらなんて占うんだろう。舞はそう思ったのだった。
舞 :「!」
詩音 :「し~。」
ポッチ:「し~。」
詩音とポッチは口に手をやりこれ以上何もいうなというしぐさをした。
舞 :「(そっか、これが詩音とポッチのおもいやりなんだね)」
カードはすべて太陽のカードだった。
つづく