5-11.桜祭り
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
おととしの今頃
たかし兄ちゃんが私に質問した。
たかし:「もし、天国のママが戻ってきてたら何をしたい?」
舞 :「そうね~。」
舞 :「まずはママのご飯食べてみたいな。きっと優しくてあったかい味がするはず。」
たかし:「おいしいじゃなくて、優しくてあたたかいなんて面白いね。」
舞 :「だって、おいしいのは冬ちゃんが作るご飯だから。冬ちゃんのご飯は世界一おいしいんだよ。」
たかし:「ご飯のほかには?」
舞 :「えっと、お花見に行きたい。」
たかし:「ああ、今の時期きれいだよね。」
舞 :「私ね、パパともお花見行ったことないんだ。だから、ママとパパとで行きたいんだ。」
舞 :「それでね、綿飴とかあんず飴とか焼きとうもろこし買ってもらって3人で桜並木の下を歩くの。途中にある射撃でパパに景品とってもらうの。それを見てママが『がんばれー』っていうの。」
たかし:「なるほどね~。普通の生活のようでとっても楽しそうだな。そういうのっていいよね。」
舞 :「うん、うん」
二人は病院のロビーから窓の外を見ながらそんな話をしていた。
そして出来上がったのが院内学級の物語「桜祭り」である。
それはお話の中の話。でもまさか本当のお話になるとは思わなかった。
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舞 :「詩音のやつ、しょうがないんだから。...本当にしょうがないんだから。」
私がαベクトル空間にきていたとき、詩音もやってきていた。
そして、突然、冬ちゃんの料理を食べれるのがうらやましいといって、私の世界に行ってしまった。
詩音 :「バランスをとるために舞ちゃんは私の世界に行かなきゃダメよ。二日後の日曜日の夕方まで交代ね。」
そういって、私の世界に通じる部屋の隅から消えていった。
舞 :「まったくもう。」
でも、ここにいてもしょうがない。私の世界に帰ることもできるらしいのだが、バランスが悪くなるらしい。あきらめて、詩音がくれたセコイヤの木箱をもって、部屋の隅に行った。この木箱があれば両方の世界にいける。
風景が変った。おなじみの花の丘公園だった。つながっている場所は同じ。
舞 :「しょうがない、いくとこもないし。」
とぼとぼ歩いていく。
舞 :「詩音の家に行こう。」
周りの風景は皆同じだった。建物、お店、信号、街路樹みんな同じだった。当たり前だけど不思議な光景。
しばらく行くと、自分の家が見えてきた。そこには和恵ママがいる。胸がどきどきしてくる。
舞 :「ちょっと、まだ、心の準備できてないのに。」
私はUターンして、キッチン花の丘に行った。まだこっちのほうがなじみがある。
キッチン花の丘に着き、恐る恐る中を見る。だれもいない。
健一 :「詩音、おまえ何してるんだ?」
後ろから声が聞こえて、飛び上がった。
健一 :「ははー、また悪巧みしてるな。うちにじゃなくてあきらくんのほうにやってやれ。父親って言うのはさびしいもんだ。喜んでくれるぞ~。」
健一さんは健一さんだった。祐美子さんが奥から顔を出した。
祐美子:「あら、詩音ちゃんいらっしゃい。丁度お茶の時間だから食べていって。」
舞 :「うん。」
祐美子さん家に上がらせてもらった。何もかも同じだった。頭ではわかっているけど不思議な光景。
祐美子:「はい、どうぞ」
祐美子さん手作りのケーキと紅茶だ。
舞 :「いただきます^^」
舞 :「おいしい~」
祐美子さんのケーキも向こうと一緒でおいしかった。
祐美子:「ゆっくりしてってね。」
舞 :「うん。」
ケーキを食べて少し落ちついた。ちょっと、家の中を見てみようと思った。一箇所だけ向こうと違うと思った場所に行って見たかった。二階の和恵ママの部屋だ。2階に行く途中でどきどきする。
そ~と、和恵ママの部屋をのぞいてみた。
舞 :「う」
基本的に向こうと同じだった。ただ、向こうのお部屋は時が止まったようにきれいになっているのに、この部屋は物が散らかっている。
祐美子:「詩音ちゃん、たまには片付けなきゃだめよ。」
舞 :「え? うん。」
部屋は詩音の私物が散らばっていた。そうか、詩音がこの部屋遊びに来て使ってるんだ。ちょっと胸が締め付けられる。なんでだろう。
舞 :「しょうがない。」
今日何度目のしょうがないだろう。そう思いつつ片付け始めた。片付けていくと、向こうの和恵ママの部屋に戻っていく。
また、胸が締め付けられた。でも、ちょっと違う感情だ。
女の子:「し~お~ん~」
玄関から呼ぶ声がする。ポッチの声だ。これは転校していった神崎さんと同じ声。
健一 :「詩音~、ポッチが来たぞ~」
舞 :「は~い」
ポッチ。神崎さん。詩音の親友。ものすごく頭が良くて、とっても器用でとってもいたずら好きな女の子。親友というよりも悪友?
二階から一階におりてレストランの店先に出る。
ポッチ:「あそぼ~。さっき公園にいたのに気づかないんだから。って、ああ~、舞ちゃん? 詩音はどうしたの?」
舞 :「え? うん。」
ポッチに今までの事情を話した。
ポッチ:「詩音のやつしょうがないなあ。まあ、そういうことだったら、詩音の家一緒に行ってあげるよ。もともと、今日は詩音ちで宿題する約束だったからね。今から一緒に行こう!」
私はポッチを見てあらためて思った。声は神崎さんなのに姿が違う。背が高くて眼鏡をかけてほっそりしている。私の知っている神崎さんとはイメージが違う。どっちかというと美鈴、丸山美鈴に似ている印象がある。でも、美鈴もぽっちゃりしていてやっぱりイメージが違う。
ポッチはキッチン花の丘に顔を出しあいさつした。
ポッチ:「詩音ちで宿題してくるね~」
祐美子:「は~い。」
健一 :「おう、頑張れ。」
詩音からポッチは家族同然だって聞いてたけど、ほんとにそうだったんだ。
ポッチは私の手を握りずんずん進んでいく。
再び、家の前にきた。ちょっと、まだ心の準備できてないよ。
ポッチ:「こんにちは~」
舞 :「た、ただいま。」
自分の家に入るのになんでこんなに緊張するんだろう。
和恵 :「ポッチちゃん、いらっしゃ~い。詩音ちゃんもお帰りなさいです。」
和恵ママの声だ。初めて聞いた。祐美子さんに似た声。どきどきする。思わず回れ右して逃げようとした。でもポッチに腕をつかまれて、一緒に家に連れてかれた。
和恵 :「ふたりとも、手をちゃんと洗うんですよ~。ふたりは特に普段から気をつけないとね。」
和恵ママが奥の部屋で家事をしながら声をかける。どきどきが増してきた。
ポッチ:「は~い。」
舞 :「うん。」
ふたりで洗面所に行く。
和恵 :「そう、ポッチちゃん、さっきお母さんから電話がありました。来週の土曜日だけど、お母さん会社休めないんで、番井先生のところに連れてってくれって頼まれました。先生も私に用があるので、丁度なので一緒にいきましょう。」
ポッチ:「いつもすいません。和恵ママ。」
和恵 :「気にしなくていいのよ。詩音ちゃんも行く?」
舞 :「え、あ」
和恵 :「そうね。ちょっと遠いもんね。淳典堂病院。じゃあ、今回もお留守番ね。」
舞 :「はい。」
和恵 :「冷蔵庫にアイスあるから二人で食べてください。今ちょっと手が離せないです。」
ポッチ:「は~い。」
ポッチは冷蔵庫を開けてアイスを二つ持ってくる。
舞 :「あ、私はさっき…」
ポッチ:「ほい」
アイスを渡される。
ポッチ:「いただきます。」
舞 :「あ、いただきます。」
同じ部屋で同じ家具。でも、家にいる人が二人とも違う。すごい違和感。同じ風景だけにかえって疎外感を感じる。
ふたりともアイスを食べ終わった。
ポッチ:「早速宿題よ。」
ポッチが言った。
ポッチ:「あれ? 宿題家に忘れちゃった。ちょっととってくるね。和恵ママ、家に忘れ物とってきますね。」
言うが早いか家を飛び出すポッチ。
しかし、ポッチは庭先に出たところでペロって舌を出した。
ポッチ:「宿題なんて明日でもいいわ。まずは和恵ママと二人きりにしないとね。これから面白くなりそう。」
そういって家に帰っていった。
私は和恵ママと二人っきりになった。ますます緊張してくる。
和恵 :「相変わらず、ポッチちゃんはあわただしいです。」
二階から、和恵ママがおりてきた。
舞 :「ママ...」
顔を見て胸がきゅんとなる。写真と同じ顔。とても会いたかった顔。心臓がますますドキドキする。
和恵 :「詩音ちゃん、どうかしましたか?」
にっこり笑って微笑むママ
舞 :「ううん、なんでもない。」
胸のどきどきがおさまらない
和恵 :「へんな詩音ちゃん。」
ママはまた二階の部屋に行った。
今度は洋服を持って戻ってきた。
和恵 :「みてみて、これ詩音ちゃんに似合うんじゃない? お友達からもらったんです。」
薄い黄色のワンピースだった。
和恵 :「ちょっと着てみて。」
少し戸惑ったが、しょうがないので着替えた。
和恵ママ:「やっぱり、思ったとおり。お似合いね。詩音ちゃんは何着せてもかわいいです。でも、この頃は着せようと思うと逃げちゃうから、ママはちょっと寂しかったです。」
詩音だったらやっぱり逃げるよな。
舞 :「ママ寂しい?」
和恵 :「え? 冗談です。」
私はがママにぴたっと抱きついた。
和恵 :「へんな詩音ちゃん。」
その後、ポッチから電話がかかってきた。急に用事ができて来れないとのことだった。
和恵ママと二人。さっきよりは慣れたけど、まだ緊張してる。そして、少し、罪悪感を感じ始めた。このまま、黙ってるのは良くない。
舞 :「ママ、あの、」
和恵 :「あら、もうこんな時間。お夕飯の買い物行かなきゃ。付き合ってくれる?」
舞 :「うん。」
切り出すタイミングを逸してしまった。でも、ママと二人で買い物なんて。わくわくしてきた。ふたり並んで歩いているだけで幸せになってくる。何度もママの顔を見ながら一緒に歩く。
ふたりで駅前のスーパーに行ってあれこれ買い物する。別にお夕飯の買い物なんて冬ちゃんとよく行ってるから、珍しいわけではないけど。冬ちゃんとは何かが違う。何か安心していられる。詩音って毎日こうやって暮らしてるんだよね。ちょっとやきもちを焼いている自分がいる。
和恵 :「詩音ちゃん、何か欲しいものある?」
舞 :「えっと、今は特にないです。」
和恵 :「そう、じゃあ、食後のデザートにイチゴ買っていきましょう。詩音ちゃんも好きでしょ。」
舞 :「うん」
あやうくほしいものを聞かれて「和恵ママ」って言いそうになった。ちょっと予想してなかった。いつもだったら私が冬ちゃんに欲しいものあるかってきいて、イチゴを買うんだけど... 冬ちゃんどうしてるかな。
家に帰って、夕飯の準備をする。私もママのお手伝いをした。テーブルを拭いて、お皿を並べて、お箸をとって。そうしているうちにパパが帰ってきた。
あきら:「ただいま~」
和恵 :「おかえりなさ~い」
舞 :「お、おかえりなさい。パパ。」
ちょっとぎこちない。でも、パパは向こうのパパと一緒だった。
和恵 :「お風呂先?ご飯が先?」
あきら:「今日は色々回って腹ペコだ。ご飯先にしてくれ~」
和恵 :「は~い。」
パパがテーブルに座り、テレビをつけた。プロ野球をやっている。
和恵 :「詩音ちゃ~ん、パパにビール持っていってあげて。」
舞 :「はーい。」
舞は冷蔵庫からビールを出してパパに持っていき、コップについで上げた。これは向こうでも同じ。
あきら:「おお~、やっぱり娘についでもらうビールは格別だな。」
そういうと、舞の頭にてをやりくしゃくしゃになでた。
舞 :「パパ、乱暴。もっと優しくして。」
あきら:「悪い悪い。」
パパは向こうと変らない。顔も同じだし、しぐさや行動パターンも一緒だ。すこし、ホッとした。
もし、私の和恵ママが生きていたらこんなおうちだったのだろうか。
和恵 :「詩音ちゃん、料理できたら持っていってください。」
舞 :「はい。で、でも、少しお話したいことが。」
あきら:「ああ、まずは飯だ。人間食べないと元気が出ない。食べ終わってから聞いてやる。どうせ、またいたずらして先生に怒られたんだろう。きにするな。」
詩音ちゃん一体普段なにしてるの? しょうがない。食べてから話そう。私もおなかがすいてる。あんなにおやつ食べたのに。
今日の料理は和恵ママの手作りハンバーグだ。私もハンバーグ大好きだ。
舞 :「いただきます。」
あきら:「いただきます。」
和恵 :「どうぞ召し上がれ。」
おいしかった。これがママの味なんだ。祐美子さんと同じ味付けだ。祐美子さん家の味付けなんだ。初めてだけどなつかしい味付け。でも、冬ちゃんと比べると.. やめよう。比べてもしょうがないことだ。
食べ終わって和恵ママが片付けている。あの唄をうたいながら。
和恵 :「あかいめだまのさそり。ひろげた鷲のつばさ。」
「星めぐりの歌」。和恵ママの唄。目に涙が溜まってきた。もう、がまんできない。
あきら:「詩音、おまえ今日どうした? なんかへんだぞ?」
和恵ママもテーブルの横に座った。
和恵 :「詩音ちゃんどうかしましたか。」
舞 :「ごめんなさい。ごめんなさい。わたし、詩音ちゃんじゃないです。」
和恵 :「え?」
舞 :「舞です。うそついてごめんなさい。」
あきら:「なにいってるんだ。詩音は詩音だろう。」
舞 :「ちがうんです。私、向こうの詩音ちゃんです。詩音ちゃんと入れ替わりました。」
半べそをかきながら今日の出来事を説明した。
ふたりは驚くとともにため息をついた。
あきら:「また、詩音のいたずらか。」
和恵 :「そして、ポッチちゃんも共犯の可能性大ね。まったくもう。舞ちゃんごめんさいね。つらい思いさせちゃって。」
舞 :「つらいんじゃないんです。うれしいんです。」
あきら:「ん? うれしい? どうして?」
舞 :「だって、今日、初めて会ったんです。私のママは生まれたときに死んだんです。だから、ずっと会いたかったんです。和恵ママに。」
和恵がはっと顔を上げる。
舞 :「それで、こんなに優しいママでうれしいんです。」
舞 :「あのね、あのね。もう我慢しなくていいですか?」
和恵がにっこり微笑んで言った。
和恵 :「こっちへいらっしゃい。」
私はママのの胸に飛び込んだ。
舞 :「ママ、ママ、会いたかった。」
声を上げて泣き続けた。
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舞 :「決して冬ちゃんと仲が悪いとかいうんじゃないです。」
舞 :「むしろ、実の親子以上に仲がいいんです。」
舞 :「でも、生んでくれたお母さんに一度会いたかったんです。それで、色々お話したかったんです。一緒にあそんだりお手伝いしたかったんです。甘えたかったんです。」
舞 :「『どうして舞ちゃんは冬ママと似てないの?』とか友達に言われたり、『和恵さんの小さい頃にそっくり』とか和恵ママを知っている人に言われる度に悲しくなって...」
舞 :「なんで、神様はママを奪ったの? なんで神様は私にこんなに試練を与えるのって思ったり...」
舞 :「だから、一度でいいから会いたかったんです。」
舞は自分の生い立ちを話した。自分が生まれたとき、ママが死んでしまったこと。パパの仕事が忙しく、小さい頃は祐美子さんに預けられていたこと。幼稚園に入ってパパと暮らし始めたら病気になったこと。
一年近く闘病生活をして、入学式にもでられなかったこと...
和恵は泣き出してしまった。あきらも闘病生活の話はショックだった。
あきら:「そうか。そうだよな。がまんしてたんだよな。でも、もう、がまんしなくていいぞ。舞も俺たちの娘だ。な、和恵。」
和恵 :「はい、私の娘です。家族です。」
ぐすぐすと泣いている。
あきら:「ただし、いくつか条件がある。いいかな。」
舞 :「はい。」
舞は身構える。
あきら :「そんなに硬くなる必要はない。簡単な話だ。ひとつ、俺たちふたりに敬語は使わないこと。ふたつ、家族なんだから遠慮しないこと。みっつ、困ったらなんでも相談すること。4っつ、出かけるときは『いってきます』帰ってくるときは『ただいま』っていうこと。いつつ...」
和恵 :「あきらくん、いっぱい出しすぎ。」
あきら:「ああ、そうだな。要は家族として付き合うことってことだ。これさえ守れれば、いつ遊びに来てもいい。」
舞 :「うん。守る。ありがとう。」
やっと笑えるようになった。
和恵 :「じゃあ、舞ちゃん、何かしたいことありますか?」
舞 :「えっと、えっと、でもいいです。子供っぽいから。」
あきら:「ほら、遠慮するなって言ったそばから遠慮している。」
舞 :「あ、でも、うん、じゃあ、3人で銭湯行きたい。それと、ママと一緒に寝たい。詩音ちゃんが帰ってくるのは2日後の日曜日だからそれまで泊めて欲しい。お手伝いいっぱいするから。」
和恵 :「そんなのお安い御用です。」
あきら:「おう、銭湯は俺と一緒に入ろう。」
舞 :「ママがいいです。」
和恵 :「あきらくん!」
あきら:「く~。振られたか。じゃあ、でてきたら3人でフルーツ牛乳腰に手を当てて飲むんだぞ。」
舞 :「うん、約束する。」
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次の日
舞 :「ママ、朝食は私が作るね。洋食でいい?」
和恵 :「え? 舞ちゃんご飯作れるの?」
舞 :「うん、簡単のなら、目玉焼き、カレー、ピラフ、チャーハン、お味噌汁とかならできるよ。」
あきら:「じゃあ、オムライス。」
舞 :「は~い。」
あきら:「ええ? できるのか?」
舞 :「できるよ~。冬ちゃんに鍛えられてるから。」
本当にオムライスがでできた。
あきら:「すげ~。娘に料理作ってもらうなんて、夢みたいだ。」
舞 :「味は保証しないけどね。」
和恵とあきらはスプーンですくって一口食べた。思わず二人で顔を見合す。
和恵 :「おいしい!」
あきら:「すごい、絶品だ。正直期待していなかった。だが、なんだこれ? むちゃくちゃうまいじゃん。」
舞 :「まだまだ、冬ちゃんには勝てないけどね。」
あきら:「冬子がまともな料理をする? 想像できない。」
舞 :「ホテルで鍛えられたから。料理の腕はレストラン開けるくらいすごいんだよ。」
あきら:「とんでもない料理でてこないか? お星様ハンバーグとかお星様カレーとか。」
舞 :「うん、両方ともある。でもおいしいよ~。」
和恵 :「やっぱり、お星様ばかりですか?」
舞 :「うん、お星様パンとかお星様チャーハンとか。料理以外にお星様のぬいぐるみ、お星様のクッション、お星様のバスタオル、家中お星様だらけ。」
あきら:「お星様カレーって何はいってんだ? なんか変なもの入ってたりしないか?」
舞 :「大丈夫だよ。にんじんが星型に切られてるだけ。それでお星様カレー。具は普通だよ。」
和恵 :「ちょっと、安心しました。」
舞 :「詩音ちゃんとも話をするけど、こちらの冬ちゃんとはかなり違ってるみたい。失礼かもしれないけど、冬ママのほうがすごい、しっかりしている。」
あきら:「ほほ~。」
和恵 :「ちょっと、会ってみたい気がします。」
あきら:「だな、おっと、いかんいかん、仕事に行かないと。また今晩聞かせてくれ。じゃあ、行ってくる。」
舞 :「いってらっしゃ~い。」
和恵 :「いってらっしゃい。」
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夕方いよいよ本題に入る。
あきら:「舞、教えてくれ、ラインベルク症候群ってなんなんだ。」
和恵 :「あきらくん。直球すぎ。相手はこの春から小学3年生になる女の子です。そんなことわかんないです。」
にっこり舞が笑う。
舞 :「ラインベルク症候群とはホルモンバランスが崩れることにより、せき、発熱を伴う病気。主に脳下垂体と甲状腺からでるホルモンのバランスが崩れるために発症します。」
あきら:「は?」
和恵 :「えっと、自己免疫疾患じゃないんでしょうか?」
あきら:「おいおい、相手は小学校3年生だぞ。3年生に免疫不全なんていってわかるのか? 俺だってわかんないのに。」
舞 :「たしかに自己免疫疾患に似ています。この病気にかかるとリンパ球の一部が突然変異を起こして、自分の身体を攻撃し始めます。これに対して、普通は従来からあるリンパ球がこの突然変異したリンパ球を異物として認識して攻撃を行います。数が圧倒的に違うから、普通なら突然変異したリンパ球をやっつけられるんだけど、このリンパ球を異物として認識できなくなってしまうのがラインベルク症候群なんです。」
和恵 :「えっと、その話は前に番井先生にきいたことがあります。でも、ここまではっきりとは説明できなかったはずです。」
舞 :「こういう現象をGVHD、移植片対宿主病というんです。でも、実際には移植はしていないんだけど。まるで免疫がきかなくなったように見えるので免疫不全とか、自己免疫疾患のように見えます。それで、症状が進むとこの突然変異したリンパ球が身体を痛めつけ、最後に死んじゃうことがあります。」
舞 :「私のママは私が生まれてすぐこの病気を発症して亡くなりました。」
あきら:「うわ!」
和恵 :「!」
あきら:「わからんが治療方法はないのか?」
舞 :「この病気、なぜか寒くなると起きます。そして暖かくなると治るんです。なので、暖かくなるまでにGVHDを抑えていけば症状は治まります。それで、GVHDの症状を抑えるため、ステロイドとか免疫抑制剤を投与するんです。」
和恵 :「確か、番井先生もそんなこと言っていました。」
舞 :「だけど、免疫そのものが抑制されるので、他の病気にかかりやすくなっちゃう。ちょっとした風邪でも肺炎を起こして死んでしまう可能性があります。わたしもそれで、小学1年生の1学期は感染の危険があるので入院してました。」
和恵 :「まあ」
舞 :「だけど、草薙先生がこの病気の原因は、そもそも突然変異したリンパ球を異物認識できないことにあると考え、その原因が、脳下垂体のホルモン分泌異常と考えたんです。そして、留学していたアメリカの大学とタイアップしてキロニーネという特効薬を開発しました。この薬は、脳下垂体に働きかけ、ホルモン分泌を促すとともに、正常なリンパ球が突然変異したリンパ球を異物と認識させるようにする薬なんです。」
あきら:「ああ、それが、例の薬か。」
舞 :「はい、こっちの世界では草薙先生がいないから開発されてないけど。でも、私が持ってるから万一和恵ママや詩音が発症しても大丈夫です。」
あきら:「なるほど」
舞 :「でも、この薬も欠点があって、効果は半年から1年くらいしかもたないんです。なので次の年になると再発する。だから、毎年飲まないとだめ。」
あきら:「は~」
俺たちはあっけに取られた。小学3年生の知識か?
和恵 :「舞ちゃん、普段どういう生活送ってるんですか? 今のお話半分くらいしかわかりませんでした。」
あきら:「キロなんとかという薬を1年に一回飲まなきゃいけないというのはわかった。」
舞 :「私は普段あの病院の院内学級でボランティアをしてるんです。そこで草薙先生やつかささんに教わりながら勉強してるんです。」
あきら:「院内学級?」
舞 :「ええ、長期療養が必要な子供が学校に行く代わりに、勉強するところです。もっとも、私たちはそこで、勉強しないで、遊んでばかりいたけど。」
和恵 :「私たち?」
舞 :「うん、私は小学校の入学式のときは入院していたので、入学式は院内学級で行いました。そのとき、仲のよかった4人がいて、つらい治療のなかで、お互い励ましあってできることを楽しんでいたんです。」
和恵 :「それで、みんな治って、その経験を活かしてボランティアしてるのね。」
舞 :「それが、ボランティアは私ひとりだけです。4人のうちふたりは天国にいっちゃった。でも、ひとりは退院しています。1年以上の闘病生活の末、病気に勝ちました。」
和恵 :「ごめんなさい、つらいこと聞いちゃったわね。でも、よかったわね、一人は退院してるのね。確か丸山美鈴ちゃんよね。」
舞 :「え? しってるの?」
和恵 :「ええ、詩音ちゃんから聞いています。」
舞 :「なんだあ。それじゃあ、かのんとかたかしにいちゃんのことは?」
和恵 :「残念だけど聞いたことないです。」
舞 :「そうですか。その二人が天国に召されました。とてもつらかった。だから、一生懸命勉強して、一人でも助けたいと考えているんです。」
和恵ママはまたぐずぐず泣き出した。
あきら:「舞、すまん。」
舞 :「?」
あきら:「俺たち、何もできなかった。おまえがこんなに苦労してるなんてちっとも知らなかった。」
舞 :「そんなことないよ。だって、こうやって会えたもん。これって、詩音ちゃんのおかげ。詩音ちゃんが対世界の行き来の方法を考えつかなければ会えていないもん。」
あきら:「そうだな。」
舞 :「やだ、二人とも泣かないで。もう昔の話だから。」
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あきら:「バランス...」
和恵 :「?」
あきら:「詩音は小学3年生なのに統一場の理論を理解している。詩音は小学3年生なのに最新現代医学を理解している。」
和恵 :「そうやって、バランスが取れているのね。」
あきら:「でも、なんか、舞は苦労ばかり背負い込んでるな。」
知識のバランスは取れてるけど幸せのバランスが取れているのだろうか。
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あきら:「明日の日曜は休みなんだがどこかいかないか?」
舞 :「あの、行きたいところがあるんです。」
和恵 :「どこが行きたいですか?」
舞 :「お花見。桜祭り。」
あきら:「いいね~。いくか~。」
和恵 :「そうですね。3人でいきましょう。」
舞 :「詩音ちゃんとか花見に行くんですか?」
和恵 :「いきますよ~。先週も行ったし。」
舞 :「あ、じゃあ、いいです。二週連続は悪いし。」
あきら:「遠慮するな。俺も普通の花見をたまにはしてみたい。」
舞 :「普通の花見?」
詩音ちゃん、普通でない花見って何やってるの? 怖くて聞けない。
日曜日、3人は公園の桜祭りに出かける。大きな公園で屋台もいっぱい出ている。
和恵 :「舞ちゃん、何でもいいです。遠慮せず頼んでいいですよ。」
舞 :「はい、それじゃあ、綿飴食べたい。」
和恵 :「はい、わかりました。ちょうどあそこに屋台があります。」
3人で屋台に行く。
和恵 :「どれがいいですか?」
舞 :「えっと、どれでもいいですけど、そのカエルのかな。」
和恵 :「あら、うさぎ人形があります。」
あきら:「あんまり見かけなくなったが根強い人気があるからな。」
舞 :「あの、そのカエルのでいいです。」
和恵 :「うさぎ人形はすばらしいです。」
舞 :「....そのうさぎ人形ください。」
和恵 :「いえ、その強制したわけではないです。」
舞 :「そのうさぎ人形が欲しいです。」
和恵 :「わかりました。では、うさぎ人形の綿飴一つください。」
もしかして、和恵ママって冬ちゃんに性格似てる?お星様とうさぎが違うだけ? よく考えれば、似てるから結婚したのかも。
あきら:「広島焼き買ってきたぞ。舞好きだろ。」
舞 :「え、はい、好きです。」
あきら:「やっぱりな。詩音も好きなんだよ。」
舞 :「でも、半分でいいです。」
あきら:「遠慮するなって。ここんとこ花見で買い食いするなんてなかったしな。」
舞 :「えっと、花見で買い食いしないで何するの?」
あきら:「舞それ以上聞かないくれ。恥ずかしすぎる。」
ええ~、詩音ちゃん一体何してるの。
舞 :「じゃ、遠慮なくいただきます。」
和恵 :「他に欲しいものありますか?」
舞 :「あんず飴食べたい。」
和恵 :「はい、わかりました。あそこにあんず飴あります。」
あんず飴の屋台にいくと「じゃんけんして勝つと3本、あいこと負けで1本」とかいてあった。
あきら:「舞、ほら、じゃんけんしてみろ。」
舞 :「う、うん。」
あきら:「舞、じゃんけん何出す?」
え?いったらだめじゃん。
あきら:「ほら、言ってみろ。」
舞 :「え~。じゃあ。パー。」
あきら:「親父、パーだすってよ。そら、じゃんけんぽい。」
親父さんはグーを出した。
親父 :「お嬢ちゃんはじゃんけん強いな~」
3本もらった。
あきら:「親父、ありがとう。」
って、3本も食べられない。一本ずつあげようとすると、
あきら:「いや、俺甘いもの苦手だから。」
うけとらない。和恵ママは受け取ったけど、まだ2本ある。しょうがない食べることとした。
あきら:「舞、金魚すくいやろう。」
舞 :「う、うん」
あきら:「やったことあるか?」
舞 :「それくらいあるわよ。でも取れなかった。」
あきら:「よし、俺が見本見せてやる。こうやるんだ。」
舞 :「わ~、上手。」
あきら:「おまえもやってみろ、ただし黒出目金はだめだぞ。あれはすぐ死んじゃう。赤い普通の金魚をねらうんだ。」
舞 :「うん。」
パパの真似してやってみる。なんとか一匹すくえた。でも2匹は無理だった。でも店の人が「今日はお祭りだから」と言って3匹くれた。
和恵 :「舞ちゃん、ベビーカステラ買って来ました。このカステラうさぎさんの顔みたいです。はい、どうぞ。温かいうちに食べてね。」
今度はベビーカステラだった。和恵ママを悲しませないようにすぐに食べた。
和恵 :「今度は何食べたいですか?」
舞 :「えっと、焼きとうもろこし。」
予定では焼きとうもろこしも買わないといけない。
和恵 :「はい、ちょっと待っててね。舞ちゃんは焼いたものが好きですね」
えっと、別に焼いたものが好きってわけでは…。
しばらくして和恵ママが帰ってきた。
和恵 :「はい、焼きとうもろこしと焼きいも。」
舞 :「え?焼きいもも?」
和恵 :「焼きついでです。ここの焼きいもは名物ですからおいしいです。ああ、舞ちゃんも知ってますよね。ごめんなさいです。」
舞 :「う、うん」
嫌な予感がする。焼きがつくものまだあったような。
あきら:「舞、ヨーヨーつりやろう。お祭りの定番はやらないとな。舞、やったことあるか?」
舞 :「ある。でも取れなかった。」
あきら:「そうか、こうやってやるんだ。」
パパが見本を見せる。一個取れた。
あきら:「舞、やってみな。」
舞 :「う、うん」
やってみる。でも取れなかった。お店の人が残念と言って1個くれた。
あきら:「う~ん、ここは一個しかくれないのか。ほら、俺の分もやろう。」
2個になった。
和恵 :「舞ちゃん、焼きそば買って来ました。これも温かいうちにどうぞ。」
舞 :「は、はい」
やっぱり買ってきた。もう限界とっくに越してる。
舞 :「ねえ、食べ物もいいけど、射的やらない?」
和恵ママが焼き鳥とか焼きだんごを買ってくる前に話題をそらさないと。
あきら:「おお~、いいね。いこう。」
昔ながらの射的のところに言った。そこにはガラスの小ビンにきらきらした砂が詰まっているのがあった。
あきら:「何狙う?」
私がガラスの小瓶と言おうとした時だった。
和恵 :「あそこのうさぎ人形の置物。」
あきら:「よし、任せておけ。」
え、え~。ガラスの小ビン...
最後の一発でうさぎ人形が取れた。
和恵 :「あきらくん。さすがです。」
あきら:「ほら、舞、お土産に持って帰れ。」
舞 :「あ、ありがとう」
なんか、予定と大きく違うんだけど。でも、これで一通り目的終了。後は帰るだけ。
女の人:「和恵さ~ん」
女の人が花見の席から声をかける。大分出来上がってるようだ。
和恵 :「あら、こんにちは~」
女の人:「こちらでご一緒にいかがですか?」
和恵 :「でも、悪いですし~」
女の人:「先週、商店街の花見で大分盛り上がったみたいじゃないですか? 商店街だけでなく子供会もよろしくお願いしますよ。」
和恵 :「そうね~。そうよね。商店街だけっていうのも失礼よね。じゃあ、少しだけいただこうかしら。」
あきらパパは茫然としている。
あきら:「やっぱり、今週もか…」
私たち3人分の席を空けてもらい、和恵ママとあきらパパには缶ビールが配られる。少し大きめの缶ビールだ。
和恵ママはビールを軽く飲み干す。すかさず、次のビールが渡される。
舞 :「パパ、もしかして、和恵ママってお酒好き?」
あきら:「ああ」
少し青い顔をしたパパが答える。
あきら:「ああ、大好きだ。かなり強い方でもある。だけど、問題なのは酒癖が悪いことだ。」
舞 :「え? そうは見えないけど。」
そんな話をしているうちにママがすくっと立ち上がり、カラオケセットの前に向かう。周りの人は割れんばかりの拍手で迎える。パパが頭を抱えている。
和恵 :「一番、楠木和恵、『ネコペッタンコ』歌います~」
そういうとママは詩音が踊ってくれたあの「ネコペッタンコ」をみんなの前で歌いだした。しかも、振付ありで。子供会の人だけでなく、周りの人も集まってくる。
観客A:「あの人先週もやってたわよね。」
観客B:「この公園の名物奥さんだよ。毎年パフォーマンスしてるよ。」
観客C:「今年も見れたか~。毎年これが楽しみで花見に来るようなもんだからな。」
あきら:「ああ~」
パパは頭を抱え続け、私は茫然とその姿を見てる。
一曲終わると、拍手が起こり、次を促す。
和恵 :「ノルウエー民謡『ネコペッタンコ』でした。次は『タコイカナイトフィーバー』行きます。」
また盛大な拍手がわく。周りはもう黒山の人だかりになっている。
和恵 :「じゃあ、この曲は娘と一緒に踊ります。娘にも拍手お願いします。」
そういうと和恵ママは私に近づいてくる。
和恵 :「さあ、舞ちゃん。一緒に楽しみましょう。」
舞 :「え? え~~~!」
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元の世界に戻って家に着いた。
冬子 :「舞ちゃん、お帰りなさい。」
舞 :「ただいま~」
冬子 :「どうでした。向こうは?」
舞 :「大変だった。」
家についたとたんぐったりする。
冬子 :「和恵さん、どうでした?」
舞 :「想像していた和恵ママと違ってた。あの親にしてこの子ありって感じのハイパーだった。パパも冬ちゃんも和恵ママのいいところだけ話してたでしょ。まるで強引でお節介な冬ちゃんだった。」
冬子 :「冬子にそんなイメージないのですが。それに冬子普通です。和恵さんみたいな宇宙人とは違います。」
舞 :「やっぱり、宇宙人って知ってるんじゃん。」
座布団に突っ伏しながら舞が嘆く。結局黄色のワンピースも無理やりお土産に着せられたまま帰ってきた。
冬子 :「そろそろ、パパも買い物から帰ってきます。ご飯にしましょう。」
舞 :「もう、おなかいっぱい。」
冬子 :「え? 舞ちゃん、また病気ぶり返しましたか? 冬子のご飯食べれないなんて、病気のとき以外ないです。せっかく、舞ちゃんの大好きなお星様ハンバーグなのに。」
舞 :「ごめんなさい。うそです。おなかペコペコです。」
うう~、やっぱり冬ちゃんと和恵ママ似てる。パパ、もう少し考える余地なかったの?
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次の週
詩音 :「こんにちわ~」
冬子 :「おかえりなさい、詩音ちゃん」
舞 :「こんにちは~、詩音」
詩音 :「舞ちゃん、忘れ物。はい、金魚3匹にヨーヨー。しなびちゃったけど」
舞 :「そんなもん、わざわざ持ってこなくてもいいのに。」
冬子 :「詩音ちゃん、冬子質問があります。実は舞ちゃん、帰ってきた次の日おなか壊したんですが、向こうで何したんですか?」
舞 :「詩音、いうな~」
詩音 :「そりゃそうだよ。向こうでいっぱい食べたもん。綿飴、広島焼き、あんず飴2本、焼きとうもろこし、ベビーカステラ、焼き芋、焼きそば。」
舞 :「内緒にしてたのに~」
冬子 :「舞ちゃん、冬子恥ずかしいです。舞ちゃん遠慮と言うのを覚えましょう。それに、冬子が何も食べさせてないみたいじゃないですか。」
詩音 :「冬子さん、舞ちゃんが悪いんじゃないの。パパとママがここぞとばかりに無理やり勧めたのがいけないんだから。」
冬子 :「でも...」
詩音 :「それに、舞ちゃんは『桜祭り』を実践したかっただけ。そうでしょ。舞ちゃん。」
舞 :「まあ、そうだけど失敗した。ワンピースもらえたまでは良かったんだけど。その後いっぱい食べて、もらったお土産はガラスの小瓶じゃなくてうさぎ人形だし。というか、物語そのものに無理がある。あんだけ食べて、最後に冬ちゃんの料理が待ってるなんて、たかしにいちゃんも少しは考えて欲しかった。」
詩音 :「あの後、まだ冬ちゃんの料理食べたの? それはある意味すごいよ。だったら、もう少し残って私が食べたかったな。ねえ、冬ちゃん、今日は食べてってもいい?」
冬子 :「もちろんです。よりに腕をかけて作りますので期待しててください。」
5章 桜祭り編 完
詩音 :「いかがでしたでしょうか。5章の『桜祭り』でした。」
ポッチ:「1章の『桜祭り』と対になるお話です。」
詩音 :「もともとはひとつ前の団欒と一緒の話でしたが、長いお話になるのと似た世界で混乱しそうだったので分けております。」
ポッチ:「『対世界』ならではの会えなかった人に会えるお話でした。まーしゃさんがこのトリックエンジェルをSF・ファンタジーと位置付けるのはこの話が書きたかったからです。」
詩音 :「さて、次週より6章に入ります。」
ポッチ:「6章こそが本編『トリックエンジェル編』です。私のお話です。そして、どっぷり医療中心の舞ちゃんワールドが展開されます。」
詩音 :「ということで、雰囲気を壊さないようにするため私たちの後説と次回予告も当面お休みです。」
ポッチ:「お楽しみに~」