5-9.木箱
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
舞 :「詩音、ポッチお土産」
ポッチ:「?」
詩音 :「なーに?」
舞が喫茶ファンダルシアで二人にお土産を渡す。英語のラベルが貼られた瓶だった。
ポッチ:「わかった。びっくり箱」
舞 :「あのね~。ポッチじゃないんだから」
ポッチ:「てへへ」
詩音 :「ところでこれは何? 新しいいたずら道具?」
舞 :「違います。ジャムだよ。」
詩音 :「ナッツベリーファーム? 聞いたことない」
詩音が英語のラベルを読む。
舞 :「うそ、詩音英語読めるの?」
詩音 :「まあね。」
ポッチ:「詩音は数学と物理と英語は大学生並み。他はそうでもないけど。」
舞 :「はあ。」
詩音 :「ところで、どこでこれ手に入れたの?」
舞 :「実は去年の秋にアメリカ行ったんだ。それで残ってたの。」
詩音とポッチが顔を見合わせる。
ポッチ:「なるほどね~。」
詩音 :「『対世界の掟』恐るべし。」
舞 :「?」
詩音 :「実は私たちも偶然、舞ちゃんにお土産持ってきたんだ。」
舞 :「え? 何?」
ポッチ:「チョコレート」
詩音 :「ワイン。これは冬ちゃんと舞ちゃんのパパ向けだけどね。」
舞はそのお土産を見て驚いた。
舞 :「これって…」
詩音 :「うん」
そう言って、詩音は去年の8月に舞を初めて見た後の出来事を話した。
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詩音 :「響子先生、おはよう。」
詩音が眠そうにあくびをする。
舞ちゃんがαベクトル空間に現れた次の日の朝早く、再び、響子は、詩音とポッチに招集されて花の丘小学校の音楽室に来た。
今日は冬子まで招集されている。
プロジェクタには三条教授が映っている。今度は寝間着でなくTシャツにジーンズだった。
詩音 :「くるみちゃ~ん、聞こえる?」
くるみ:「うん、きこえるの。バッチシなの。でもちょっと眠いの。」
西海岸は夕方だ。そして、日本は一夜明けてるが、向こうは今日朝早くたたき起こされた日の夕方だ。
詩音 :「くるみちゃん、もう少しだから頑張ってね。さて、共鳴させるの媒体だけど木箱であることはわかったけど、どの木でもいいわけじゃないはず。それで、どの材質かを探し出さないとうまくいけないはず。」
響子 :「でも、どうやってその木の種類を見つけるの? 木にも桜とか檜とか樫とかいろいろあるわよ? 片っぱしから探すの?」
詩音 :「作った本人に聞けばすぐわかる。」
響子 :「あのね、作ったのは向こうの人間よ。どうやって聞くのよ。」
くるみ:「こっちの本人が知っているはずです。」
詩音 :「だから、冬子さん呼んだの。」
響子 :「あのさ、実際に作ったのは向こうよ。こっちの冬子が知ってるわけないじゃない。」
ポッチ:「とりあえず、響子先生、冬子さんに木箱の特徴説明してください。」
響子 :「まあ、無理だと思うけど。」
そう言って響子は冬子説明した。
冬子 :「その木箱、冬子知ってます。ホームセンターで売ってます。冬子も時々買ってお星様の飾り付けてます。」
響子 :「え? なんで、うそでしょ。」
くるみ:「これが対世界のバランスなの。無意識に一緒の行動をとるはずなの。」
詩音 :「冬子さん、それで、木箱なんですけどいくつか作ってくれませんか? 材料費持ちますから。」
冬子 :「お安い御用です。詩音ちゃんのためなら、冬子頑張ります。とりあえず200個作ります。」
詩音 :「ううん、そんなにはいらない。2~3個お願いします。」
冬子 :「冬子、気が利きませんでした。200個も作ったら材料費だけですごくかかってしまいます。詩音ちゃんに迷惑かけちゃいます。」
詩音 :「う~ん、ちょっと違うけど、結果OK!」
くるみ:「それと、そのホームセンターで売ってる木箱の材質を調べてみたいの。詩音ちゃん、ひとつ持ってきてほしいの。」
詩音 :「へ? もっていくってどこに?」
くるみ:「もちろん。パロアルトにあるうちの大学なの。分析したいの。詩音ちゃん、夏休みでしょ。ちょうどいいの。和恵ママと一緒に来てほしいの。ポッチも一緒にね。」
詩音 :「ちょ、ちょっと、パロアルトって西海岸でしょ。そんなこと急に言われても。私、パスポート持ってない。」
くるみ:「大丈夫なの。例の携帯電話だけど、こんなこともあろうかとパスポート機能も付いてるの。すごいでしょ。明後日の夕方の羽田発のサンフランシスコ空港行きのビジネスクラス3枚今確保したから、よろしく。木箱忘れないでなの。」
詩音 :「ちょ、ちょっと、くるみちゃん?」
こうやって、急遽、詩音たち3人のアメリカ行きが決まった。
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舞 :「え~、詩音たちもアメリカ行ったの?」
詩音 :「そだよ。」
ポッチ:「恐るべし、対世界のバランス。」
舞 :「それで、アメリカで何したの?」
詩音 :「じゃあ、続き話すね。」
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和恵 :「もう、まったく、もう。なんで、急にアメリカなんかに行くことになるんですか。ダンスの練習もあるのに。」
和恵が例によってぷんぷん怒る。
あきら:「じゃあ、おれが会社休んでいくよ。」
和恵があわてて言う。
和恵 :「いえ、あきらくんに迷惑かけるのはよくないです。私が連れていきます。」
なんだかんだ言っても行きたいんじゃないか。あきらは心の中でつぶやいた。
響子 :「でも、大丈夫? 和恵英語あんまりしゃべれないでしょ。それで、子供二人連れなんて。」
あきら:「ああ、大丈夫だよ。空港までくるみが迎えに来てくれる。それに英会話なら詩音がいるからバッチシだよ。」
響子 :「まさか、詩音ちゃん英語しゃべれるの?」
あきら:「ああ。よく、くるみの大学の生徒とか助手とかとインターネット電話で話してる。日常会話くらいなら大丈夫だ。」
詩音がVサインをだしてアピールする。
響子がため息をついて首を振る。まあ、信じがたいが事実は事実だ。いちいち詩音の非常識に驚いていたら身が持たない。あきらがこころの中でつぶやく。
響子 :「まさか、ポッチまで?」
あきら:「安心しろポッチはそんなにしゃべれない。」
響子はほっとしたような顔をした。
あきら:「しかし、読むことはできる。英語だけでなく、フランス語もイタリア語もラテン語も読める。ついでにエジプトのヒエログリフも読める。あれもラテン語に近いからな。」
響子がため息をついて首を振る。まあ、気持ちはわかる。
そうやって、どたばたしながら3人は羽田から出国して一路サンフランシスコ国際空港へと向かった。
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くるみ:「長旅、お疲れ様。」
くるみが3人を出迎える。
くるみ:「本当はサンノゼ空港のほうが近いんだけど、羽田からの直行便がないの。ここから大学まで車で30分くらいだから、すぐ着くの。」
和恵 :「くるみさん、ありがとうございます。でも、夏なのに思ったほど暑くないんですね。」
くるみ:「空気が乾いてるの。だから、そんなに暑く感じないの。」
そういって、くるみちゃんの車に3人は向かった。
車は空港を出るとすぐ高速道路に入った。
詩音 :「うわ~。片道6車線!」
くるみ:「うん、この区間は6車線。すごいでしょ。」
ポッチ:「これがアメリカなんだ。」
3人はすっかり感心した。ちょっと走ったところでパロアルトの出口車線に入る。高速をでる車で少し渋滞している。ときどき、真ん中の車線から出口に出るため割り込んでくる車がいるけど、だれも文句を言わずに入れてあげている。
くるみ:「ここの人たちのんびりしてるからこんなことで怒らないの。ニューヨークだとあんなことしたらクラクション鳴らされるの。」
なるほど、くるみちゃんののんびりした性格に合う場所だ。詩音はそう思った。
高速の出口をでて大学に向かう。途中に本屋を見つけた。
和恵 :「紀文書店! なんでこんなところに日本の本屋さんがあるんですか?」
くるみ:「日本人がいっぱいいるから。日本の食材を売ってるスーパーもあるの。」
和恵 :「はあ。すごく暮らしやすそうですね。」
くるみ:「うん、でも、物価がものすごく高いの。ノーベル賞受賞した大学教授の給料でも家を借りられないの。だからサンタクララに住んでるの。」
和恵 :「確かに気候がよくて、のんびりしている学園都市ですものね。」
和恵がちょっと残念そうに言う。
大学に入ると研究室に案内される。そこで、助手のマイケルが出迎えた。
詩音 :「お~す。ボビー、出迎えご苦労。」
マイケル:「ボビー。ちがう。マイケル。」
マイケルが日本語で話す。二人はインターネット電話でしょっちゅう話す旧知の仲だった。
その後、詩音、くるみ、マイケルは3人で英語でなにやら話を始める。詩音が木箱を取り出す。
和恵 :「詩音ちゃん、なんていってるのでしょうか?」
詩音 :「木箱の材質の話。どうやら杉みたいだって。これからちゃんと分析するから、1日まってほしいって。」
ポッチ:「ふ~ん。杉だったんだ。意外とありきたり。」
詩音 :「だよね。」
くるみ:「みんな、お昼まだだよね。一緒に行きましょう。」
そういってボビーと一緒に5人で昼食をとることにした。
詩音 :「どこに行くの?」
和恵 :「そういえば、アメリカ料理ってハンバーガー以外思い浮かばないです。」
ポッチ:「ピザもおいしいってお父さん言ってた。」
くるみ:「焼き肉レストランです。」
和恵 :「ええ!?」
くるみ:「アメリカで日本人の口に合うのは中華か焼肉屋さんなの。日本料理は逆にだめ。ということで焼肉屋さんなの。」
和恵 :「ちょっとびっくりしました。」
しかし、実際に店に着いて食べてみると本当においしかった。
和恵 :「おいしかったです。」
くるみ:「はい、本当に腕のいい料理人は日本でなくアメリカに来るの。」
和恵 :「なるほどね~。」
その後、ボビーに大学を案内してもらい、夕方になってくるみちゃんの家のあるサンタクララに向かった。
詩音は疲れてうとうとし始めた
くるみ:「詩音ちゃん、ねちゃダメ。時差ボケ解消のため、ちょっと我慢して起きてなの。」
そういって、街中の高級レストランに入る。
くるみ:「ここはちょっと高いけど、安全な場所にあるから大丈夫。アメリカでは安全はお金で買うものだから。」
そう言って夕食を食べて、暗くなる前にくるみちゃんの家に着く。
和恵 :「すごい、広いおうちです。日本のくるみさんの家くらいあります。」
くるみ:「アメリカではこれが普通なの。客用寝室は2階にあるの。今日は疲れたでしょう。シャワー浴びたら、早めに寝たほうがいいの。」
詩音 :「は~い。」
そうやって、初日が終わった。
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くるみ:「今日は大学お休みだから、郊外にドライブ行くの。一泊旅行なの。」
アメリカについて数日後、くるみが突然言いだした。でも、和恵ママとポッチは素直に喜んだ。ここ数日間、昼間は研究室でくるみや詩音の真剣な議論をはたから見てるか学内を散歩するくらいしかやることがない。
ポッチ:「どこに行くの?」
くるみ:「ナパなの。」
和恵 :「!」
詩音 :「ナパ? 聞いたことない。ねえ、ママ知ってる?」
詩音が和恵の方を見て聞いた。でも、和恵ママが知っているとはとても思えない。
だけど、予想外の答えが返ってきた。
和恵 :「もちろん知ってます。ソノマと並ぶカリフォルニアワインの産地です。」
そういってにま~と笑ってる。
詩音 :「え~、つまんない。」
くるみ:「大丈夫なの。気球とかにも乗せてもらえるし、温泉もあるの。」
ポッチ:「気球とか面白そう。」
くるみ:「それに途中のフィシャーマンズワーフでご飯食べましょう。クラブ食べ放題なの。」
詩音 :「カニ! いくいく。」
サンタクララからフリーウエイに乗って101号線を北上する。道の横には牛が放牧されている牧場だとか円柱形のビルだとか田舎と近未来都市が同居している不思議な光景が続いている。途中のハーフムーンベイあたりから6車線になる。道は混んでいるが、くるみは一番左の優先道路に入り、スピードを上げていく。
くるみ:「この車線は二人以上のっていないと走れないの。通勤に車を使う人が多いから、同乗してもらうことによって車を減らして、環境に優しくするための方法なの。」
くるみが説明する。
くるみ:「右に見えるのがジャイアンツの本拠地AT&Tパーク。冬は49ERSの本拠地になるの。」
道すがらくるみが紹介する。
そのうち、空港を通り過ぎ、サンフランシスコの高層ビル群が見えてくる。
ポッチ:「あ、三角形のビル!」
くるみ:「トランスアメリカビルなの。あのビル見るとサンフランシスコに来たなって感じがするの。」
詩音 :「へんな、形~」
ポッチと詩音がつぼに入ったのか笑い転げる。
和恵 :「でも、きれいな街ですね。」
くるみ:「うん、私はアメリカでこの街が一番好き。」
フリーウェイは街中のビル群の中に入っていく。途中でサクラメントの標識が出る。
くるみ:「目的地はベイブリッジを渡ったサクラメント方面だけど、フィシャーマンズワーフ寄るから一旦、降りるの。」
フリーウェイを降り、少し走ると海が見えてきてフィシャーマンズワーフが見えてくる。そして、ピア39という看板が見えて、右折する。
くるみ:「この39番埠頭の奥のKドックのお店予約してるの。」
お見せにつき、車を降りる。
店に入り案内される。窓際の席だった。
詩音 :「何あれ?!」
詩音が窓の外を見て声を上げる。
ポッチ:「あざらしがいっぱい!」
くるみ:「うん、ここはカリフォルニア海流という寒流が流れてるから、それに乗ってアザラシが来るの。100頭以上いるの。」
和恵 :「すごいです。」
ポッチと詩音がアザラシの数を数えている。
そんなことをしているうちに料理が運ばれてくる。
くるみ:「さあ、どうぞ」
和恵 :「こんなにいっぱい」
くるみ:「4人分なの。ちょっと多かったかも。」
日本と比べて一人分の量がとても多い皿を前に3人はびっくりする。
和恵 :「アメリカ人もカニ食べるんですね。お肉ばっかりだと思ってました。」
くるみ:「それは偏見なの。アメリカ人は魚はあまり食べないけどカニとエビは大好き。とくにカニは日本と同じで大人気なの。」
和恵 :「意外です。」
ポッチと詩音はそんな会話に参加せず、ひたすらカニを食べている。
食事が終わり、再びナパを目指す。
今度は国道80号に乗って、ベイブリッジをとおり、サンフランシスコ湾の対岸に入る。そのまま、少し行くとクロケットの街を通り、橋を渡って29号線に入る。ナパバレイヨ・ハイウェイだ。しかし、今までの道と違い片道2車線の田舎道になる。しかも、ところどころ片道一車線になっている。
和恵 :「大分郊外に来ましたね。」
くるみ:「そうなの。ここまでくると田園風景なの。」
まるで山梨のワイン産地のような風景を延々と走っていく。
そのまままっすぐ走っていくと、突然途中で道が狭くなり急に左右に分かれ始めた。何かを迂回しているような感じである。その先にあったのは大きな木だった。
詩音 :「すごい」
4人は道が迂回している原因となっている一本の大きな木を見上げる。その木は日本では見られないような高さでまっすぐそびえたっている。
くるみは車を止め、みんな車から降りてその木を見上げる。神々しい。そんな感じである。
和恵 :「神社のクスノキよりも大きいです。」
楠木姓の由来でもある神社に植えられている大きなクスノキ。それよりも大きくまっすぐそびえたっている。
くるみ:「セコイアの木なの。樹齢1000年を超すような木も一杯あるの。大昔から時を超越してまっすぐ育っているの。」
ポッチ:「とっても丈夫。インデアンの集落にたってるトーテムポールにも使われる神聖な木。」
詩音 :「ほんと、よく知ってるわね。ポッチ。」
4人は畏敬の目で持ってその道の真ん中に生えている木を見上げる。
ポッチ:「ついでに言うとスギ科の植物。」
くるみ:「!」
詩音 :「時を超えるスギ科の神聖な木?! もしかして?!」
詩音とくるみは顔を見合わせる。
くるみ:「ビンゴかも。帰ったら調べてみるの。」
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その後、ナパに着き、幾つかのワイナリーを回り、いくつかのワインを買う。子供たちはワイナリーの中には興味を示さず、外の景色をみながらはしゃぎまわる。そうするうちに日が暮れそうだったので宿に向かう。
アメリカでも有名なファミリー向けのホテルでディナーを取った後、部屋に戻る。はしゃいで疲れ切った子供たちが先に寝た後で和恵とくるみがグラスを傾けている。
高校や短大での思い出話やくるみの恋ばなをしながらナパワインを堪能する。すこし話題が尽きた所で、くるみがイエローストーン国立公園の話をする。
和恵 :「できることなら、ヨセミテとかイエローストーンとか自然公園も行ってみたかったです。天然のサファリパークです。」
くるみ:「うん、わたしも、行ってみたいの。でもヨセミテはまだしもイエローストーンは遠いの。」
和恵 :「残念です。イエローストーン自然公園の天然の管理されていない大自然見たかったです。」
くるみ:「でも自然公園といっても管理が必要なの。生物の数とかのバランスを保たないとあっという間に生態系が崩れてしまうの。」
和恵 :「そうなんですか?」
くるみ:「うん、実際に鹿とかが増えて困ったの。そうすると鹿が木々を食べだすから一気にバランスが崩れちゃうの。そうなると自然公園じゃなくなっちゃう。」
和恵 :「どうやって解決したんですか?」
くるみ:「狼を20頭放したの。鹿が増えないように。」
和恵 :「! オオカミさんは危険じゃないでしょうか」
くるみ:「うん、ちゃんと見てないと危ないの。でも、20頭しかいないの。そして、20頭以上増やさないように管理するの。その方が鹿の数をコントロールするより簡単なの。」
和恵 :「へ~、そうなんですか」
くるみ:「うん、生態系の頂点にいる生き物をコントロールすることが自然のバランスを簡単にコントロールする方法なの。他にもアイガモ農法なんかもおんなじ。」
和恵 :「田んぼにアイガモさん放して雑草を食べさせる方法ですね。アイガモさんとってもかわいく仕事します。」
くるみ:「そうなの。その方が草を刈ったり除草剤をまいたりするより手間暇がかからないの。」
和恵 :「やっぱりくるみさん物知りですね。」
くるみはにっこり笑った。
くるみ:「実は、この話を番井先生にしたことがあるの。」
和恵 :「ふむふむ。」
くるみ:「そうしたら、『わかった~~』って言って突然席を立って帰っちゃったの。」
和恵 :「何がわかったんですか?」
くるみ:「どうもがんの治療法みたいなの。」
和恵 :「? どうしてそれががんの治療法になるのでしょうか? オオカミさんと一緒に暮らすと緊張してがんが治るのでしょうか?」
くるみ:「それは、専門外だからわからないの。番井先生の領域なの。」
和恵 :「そうですよね。くるみさん、ごめんなさいです。」
和恵 :「ところで、さっき詩音ちゃんとくるみさんセコイアを見て何がわかったんですか?」
くるみ:「αベクトルに行くために必要な木箱の素材なの。確かに冬子さんの木箱もいいのだけど、安定感に欠けるような気がするの。実際にここに来る前に詩音ちゃんに花の丘公園に持って行ってもらったの。だけどαベクトル空間が見えたけど、飛ばなかった。」
和恵 :「はい、私も一緒に行きました。詩音ちゃんが行っちゃうんじゃないかとはらはらどきどきでした。行かなくてよかったです。」
くるみは苦笑をする。
くるみ:「まあ、お母さんとしては心配なのはわかるの。でも、科学の発展としては残念な結果だったの。」
和恵 :「はい。」
くるみ:「それで、木箱の削り方とか微妙に違うのかもしれないと思ったんだけど、もっと、いい材質ならば簡単に行けるんじゃないかと考えてたの。そこにセコイアを見つけたの。」
和恵 :「セコイアで木箱を作ると行けるんですか?」
くるみ:「多分、いけると思うの。」
和恵 :「すごいです。世紀の大発見です。」
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詩音 :「それで、帰って調べてみたら、やっぱりビンゴ。セコイアでできた物で共鳴させるとαベクトル空間や対世界に簡単に行けちゃ追うのがわかった。」
舞 :「それで、詩音が持ってる木箱はセコイアでできてるのね。」
詩音 :「そういうこと。」
くるみ:「あの。あの。」
舞 :「くるみさん、どうかしました?」
くるみ:「みんなに見てほしいものがあるの。もってきたの。」
舞 :「なになに?」
くるみ:「バイオリンなの。」
詩音 :「ちょちょっと! なんでそんなの持ってきたの?!」
くるみ:「舞ちゃんに聞いてほしかったの。」
舞 :「さすが、くるみさん、バイオリニストの子供ですもんね。カエルの子はカエル。ぜひ聞かせてください。」
ポッチ:「舞ちゃん、なんてこと言うの!」
しかし、遅かった。くるみはバイオリンを弾き出す。
詩音 :「ギャー。」
ポッチ:「天国が見えてくる~。」
舞は茫然としている。
瑠奈 :「くるみ、やめなさい! 営業妨害よ。」
そんな止めるみんなを無視して、くるみは弾き続ける。
ポッチ:「本当に天国が見えてきた!」
詩音 :「ほんとだ。でも、この天国αベクトル空間みたい!」
そして、ようやく一曲終わる。
くるみ:「うっとり。いい音色なの。」
瑠奈 :「くるみ、もうだめ。これは帰るまで没収。」
くるみ:「だめなの。るなちゃん、いぢめっこ。」
バイオリンを取り上げようとするがくるみが背中に隠す。
舞 :「天は二物を与えずってことわざ、今、体でわかったわ。」
ポッチ:「舞ちゃん、これでわかったでしょ。くるみさんに楽器弾かせちゃ絶対だめよ。」
舞 :「う、うん。」
詩音 :「本当に天国が見えるとわ思わなかった。くるみちゃん、悪い方向にパワーアップしてる。」
くるみ:「詩音ちゃん、ひどいの。そんなことないの。実は特別なバイオリンなの。」
詩音 :「特製なら、もう少しいい音が出てもいいんじゃない? 何が特別なの?」
くるみ:「セコイアでできてるの。」
ポッチ:「え?!」
くるみ:「だから、さっき皆が見たのは天国でなくて本当にαベクトル空間。簡単にみんなの固有時間振動数を会わせることができるの。」
くるみ:「そして、これによって作戦TAを実行することができるの。興味あるでしょ。」
詩音 :「う、うん。」
くるみ:「じゃあ、次行くの。」
そう言って、くるみは隠したバイオリンを取り出し2曲目を弾きだした。
目を回している周りのことなど気にせずくるみが恍惚の表情でつぶやく。
くるみ:「うっとり。」
つづく
舞 :「ということで詩音たちの持っている木箱の話でした。あの木箱セコイアって出来てきてたんだ」
ポッチ:「そうなんだよ。時間共鳴させるにはセコイアが一番なんだ。他にも縄文杉なんかもいいんだけど、なかなか手に入らなくてね。」
舞 :「なるほどね~。でも、面白い。お互いアメリカに行ってたんだね。私はSFから南に行って、ポッチたちは北なんだね。」
ポッチ:「でも、正直LAで遊園地行きたかったな。舞ちゃんたちの方が面白そう。」
舞 :「うん、面白かった。」
ポッチ:「いいなあ。くるみさんに頼んでみよう。ところで、そろそろ詩音起こして次回予告しないと。」
舞 :「詩音、起きて。みんなは目を覚ましてるわよ。」
ポッチ:「今日のくるみさんのバイオリン強烈だったからね~」
詩音 :「う~ん。ママもうちょっと寝かせて。」
ポッチ:「寝ぼけてる。」
舞 :「しょうがない、私たちでやりましょう。次回トリックエンジェルは?」
ポッチ:「短編うさぎブリーダーです」
舞 :「しょうもない詩音の悪知恵のお話です。」
ポッチ:「お楽しみに~。」