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5-6.天才少女

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。


まだ、9月の残暑厳しい頃の話。舞がアメリカに行く直前のある日のことである。


舞  :「それじゃ、草薙先生、私たち、今日は帰るね。」


舞が冬子と一緒に帰りのあいさつをしに私のところに来た。


草薙 :「ああ、気をつけて帰れよ。」


舞  :「うん、先生はまだ、帰らないの?」


草薙 :「ああ、もう一人、特別に女の子の患者さんが訪ねてくるんだ。なんでも、ラインベルク症候群らしい。」


舞  :「ええ! それじゃ大変じゃない! 即入院?」


草薙 :「いや、全然軽いらしい。別に熱もないらしい。ただ、東京の淳典堂病院の紹介状を持ってるらしい。そこで、私のうわさを聞いたらしく、念のため、見てほしいということなんだ。」


舞  :「な~んだ。じゃあ、心配しなくてよさそうね。それじゃ、先生、あんまり無理しないでね。」


そういうと二人は帰って行った。その二人を見送りながらつかさが言う。


つかさ:「それにしても、いい子ですよね。舞ちゃん。健気というかなんというか。あんなに不幸な生い立ちなのに。」


草薙 :「ああ」


つかさ:「でも、もし、舞ちゃんのお母さんが元気で、舞ちゃんも病気しなかったらどんな子になってたんでしょうか?ただでさえ頭のいい、いい子なのに、もっと頭のいいいい子になったんでしょうか?」


草薙 :「どうだろうか? 舞ちゃんはあんな環境だからこそいい子に育ったかも知れないね。恵まれた環境だったら、逆に甘えてしまいもっと聞き分けのない悪い子に育ってたかもしれないよ。」


つかさ:「そうですね。きっと、口ばっかり達者で、大人の言うこときかずに、好き勝手に生きるような子で、成績だけはそこそこ良くって、先生たちにとってとても扱いにくい子になってるかもしれませんね。」


草薙 :「大いにあり得そうだな。」


そういって、私とつかさは笑いあった。



私は、患者がくるまでの少しの時間、休憩がてら本を読んで待っていた。患者さんの担任の先生が貸してくれた本で「ザ・良問~数学編~」という本だ。過去の大学入試の問題で良問と呼ばれる問題を集めたものだった。貸してくれた先生は、小学校の先生ながら数学大好きで、児童のお見舞いの時に先生が読んでいたのが気になって、のぞいていたら貸してくれた。


結構、簡単に思えて難しい問題もある。その中のひとつの三角関数の問題にてこずっていた。


つかさ:「川上先生が貸してくれた本ですか?」


草薙 :「ああ、結構難しいんだ。」


私は生返事で答える。


つかさ:「何が面白いのか私にはわかりません。草薙先生、ちょっと周産期センターに届け物してきますね。」


そういって、つかさがナースセンターから出ていく。


草薙 :「ああ。」


しかし、私はこの問題を解くのに夢中になっていた。それほどレベルの高くない大学の問題なのに解けない。半分意地になって解いていた。


女の子:「こんにちは~。あ、川上先生の本。」


オーバーオールを来た見慣れた女の子が入ってきた。そして、私の本を覗き込む。


草薙 :「なんだ、舞ちゃん、忘れものか?」


私はちらっと舞を見て、再び本に目を戻す。


女の子:「6分のπだね。」


舞は私の質問に答えず、そう答えた。


草薙 :「は?」


女の子:「だから、その問題の答え。」


草薙 :「うそだろ。」


私は回答欄を見た。本当に6分のπだった。


女の子:「余剰定理を使えば簡単に解けるよ。」


私はまじまじと舞を見た。どこから見ても舞である。


舞は、私から本を取り、パラパラとめくる。


女の子:「あ、この証明問題も難しいよね。でも、ここに補助線を引けば簡単。」


私が解けずに残しておいた問題をあっさりとく。


女の子:「う~ん、複素平面上の問題かあ。でも、これもXYの二次元に置き換えてこうやって三角形を書けば簡単。後は外接する円を書いて中心点をもとめれば、ほらできた。」


あっけにとられる私を尻目につぎつぎと勝手に解いていく。


女の子:「この回転する立体の問題は難しいよね。暗算じゃ解けない。ちょっとペン貸して。」


女の子は右手にペンを持ち、積分の式を解いていく。うそだろ。小学生が積分をすらすら解くなんてありえない。だが、目の前でありえない光景が繰り広げられている。


女の子:「最初に外側の立体の体積を求めて、後で内側の立体の体積を引けば簡単に解けるわ。24π立方センチメートルね。」


私はそのとき初めて舞のしぐさに違和感を感じた。いつも見ている舞ではない。そして、その違和感の正体に気づいた。


舞は左利きだ! 右手にペンは持たない!


草薙 :「君は誰だ!」


女の子:「あは、やっぱりばれちゃった。」


女の子はにっこりとわらう。


女の子:「楠木詩音です。番井美雪先生の使い魔です。」


草薙 :「はあ?」


彼女が今日の患者だった。


----------------------------------


そのあと彼女から聞いた話は信じられないことばかりだった。


詩音 :「これ、紹介状です。」


その紹介状の紹介者を見てびっくりした。そして私は、彼女をとなりのカンファレンスルームに誘った。周りに聞かれてはまずいと判断したからだ。


紹介状の中には手紙と小さなDVDが入っていた。手紙にはDVDを見ろと書いてあった。


DVDをPCに入れて再生をする。そして、そこには信じられないことに美雪が映っていた。


美雪 :「どうせ、春彦のことだから信じないだろうと思って、このDVDを持って行ってもらったわ。詩音ちゃんは私の患者よ。どうやらラインベルグ症候群のようね。残念だけどこっちでは薬も治療法もなく治せない。だから春彦に見てもらおうと思って、この紹介状を書いた次第。よろしく頼むわね。」


目が点だった。大学入試をあっさりとく小学生。死んだはずの婚約者の美雪。ありえないことだらけだった。


美雪 :「そうそう、彼女が舞ちゃんじゃないことを証明する方法を教えてあげるわ。彼女に大学入試の数学の問題を出してあげるといいわ。すぐといちゃうから。間違っても大学院の数学とか物理とかの問題だしちゃダメよ。春彦のほうが回答理解できないから。稀代の天才少女なんだから大切に扱ってね。あ、あと、詩音ちゃんは口ばっかり達者で、大人の言うこときかずに、好き勝手にいたずらするから気をつけてね。」


詩音 :「番井先生、ひど~い。私初対面の人にはいたずらしないわ。それにちゃんと予告するわよ。」


でも、舞のふりをしてたよな。私は心の中でそう突っ込んだ。


美雪 :「この後は、プライベートの話だからうちに帰って、ゆっくり見てね。」


そう言って、ビデオの中の美雪はバチッとウィンクをした。


あっけにとられながらも、いったん止めて、詩音と名乗る子に向き直った。色々聞きたいことがあった。


草薙 :「ところで、どうやって天国から来たんだ?」


詩音 :「天国じゃないよ~。対世界。時間の十二音階の平均律を使って時空共鳴させてαベクトル空間を抜けてやってきたの。αベクトル空間は、もう一軸の時間しか流れない空間で、くるみちゃんの統一場の理論で判明した空間だよ。」


草薙 :「はあ?」


詩音 :「この世界が10次元の世界だって言うのは知ってるでしょう? そのうちの少なくても二つは直行する時間軸じゃない。 それでアインシュタイン方程式を発展させて、5つのテンソルにして…」


草薙 :「まて、やはり質問内容が悪かったようだ。」


まるでどこか心の病のように支離滅裂なことをしゃべる女の子の口を止めた。相当頭がいいのだけはわかった。そして、頭に浮かんだのは先ほどのつかさとの会話の疑問だった。


草薙 :「お母さんは元気にしてるかい?」


詩音 :「うん、和恵ママ元気にしてるよ。」


草薙 :「詩音ちゃんは、病気で長いこと入院したことあるかい?」


詩音 :「ううん、去年、お熱でて入院したけど、草薙先生の薬で3日で退院した。」


私は首を振った。さっき思ったことが間違いだと気付いた。環境が良くても必ずしも才能が開花しない? とんでもない。舞と同じレベル、あるいはそれ以上の天才少女だ。


ともかく、私は気を取り直して診察した。やはり、ラインベルグ症候群の疑いが濃厚だった。去年キロニーネを飲んでるから重症化しないようだった。しかし、このままでは悪化するかもしれないので薬を渡すことにした。


草薙 :「とりあえず、一錠飲んでおきなさい。急に悪化しないとも限らない。」


詩音 :「は~い。」


草薙 :「今日のところはこんなもんだ。正確な検査結果は来週までに出てくる。また、来週来れるかい?」


詩音 :「うん、またこれる。だけど、明日も来るね。それと私が来たことを舞ちゃんはもちろん、他のみんなに言わないでね。もし、私が来たことが他の看護師さんたちに疑われたら、いとこが来たって言ってね。それで、心配掛けさせたくないから舞ちゃんにだまってるんだって言い訳してね。」


草薙 :「構わないけど。どうしてだい?」


詩音 :「それは、お家に帰ってDVDの続きを見てね。そうしたらわかる。」


そういって詩音ちゃんは帰って行った。


自宅に帰り、DVDの続きを見た。続きは、なぜ手紙を書いたのに返事をくれないのかとか、この間見た映画が面白かったから今度見てみて、感想をDVDに録画して詩音ちゃんに持たせろとか、たしかにプライベートの話だった。


あんまり、くだらないので、途中で切ろうかと思ったが、それもなんなので最後まで付き合うことにした。そして、最後までみてよかったと思った。その内容は衝撃的すぎる内容だった。


----------------------------------


草薙 :「秋本先生、こちらへ。」


秋本がカンファレンスルームに呼ばれる。


草薙 :「かのんちゃんの治療の件で相談したいことが。」


秋本が顔をしかめる。


秋本 :「もう、我々でできることはないでしょう。後は上川こども病院に託すしか。」


草薙 :「ああ。」


秋本 :「それとも、画期的な治療法でも見つかりましたか? 例えば実は舞ちゃんは天使で天国から番井先生が現れて治療方法を提示したとか。あはは。」


私は渋い顔をして秋本先生を睨む。


秋本 :「失礼。悪乗りですな。」


草薙 :「このDVDを見てほしい。」


そう言ってDVDを再生し始める


番井 :「やあ、秋本先生、久しぶりだな。元気にしてるか? それはなによりだ。」


秋本が口をあけて草薙を見る。


秋本 :「番井先生…うそですよね。本当に天国からDVDが送られてきたんですか?」


草薙 :「俺だって信じられない。」


番井 :「春彦は心臓のことはわからないというので、秋本先生に話をしてほしいと聞いてびっくりした。秋本先生は淳典堂病院から花の丘病院に来てるのだな。」


秋本 :「どういうことですか?」


草薙 :「後で話す。でも、今はそのまま聞いてほしい。」


番井 :「私も心臓のことはそれほど詳しくないので、専門医を連れてきた。秋本先生どうぞ。」


秋本 :「???」


DVDには信じられない人物が現れた。


専門医:「秋本です。よろしくお願いいたします。」


秋本 :「あわわわ。」


草薙 :「まさか、天国からご自分が現れるとは思わなかったでしょう。」


専門医:「斎藤かのんの治療法について提言があるので、参考までに聞いてください。彼女は免疫抑制剤についてアレルギーを持っています。多少の免疫抑制剤だったら大丈夫ですが、大量投与というのは危険性があります。そのため、カナダでの心臓移植を我々は検討しましたが、危険性があるので取りやめています。」


専門医:「それで我々は別の治療法を実施を検討しています。『血小板交換法』です。」


秋本 :「血小板交換法! むちゃくちゃな。」


専門医:「そう、びっくりされたと思います。なにせ、血液全取っ換えですからね。しかも、15歳以下でのエビデンスはありません。でも15歳以上なら実績があります。ここからは免疫学の番井先生に話してもらいましょう。」


番井 :「びっくりしただろう。もちろん我々が現れたことでなく、治療法のほうだ。我々は彼女の拡張性心筋症の原因は免疫過剰だと思っている。そのため、いくら心臓を治療しても、根本原因たる免疫過剰を直さない限り解決しない。」


番井 :「多分、効果があると思われるが、残念ながらこちらの世界ではエビデンスがないため実施できていない。しかし、そちらの世界ならと思いDVDにしたためてみた。」


番井 :「質問等があれば、また、DVDに焼いて天才少女に持たせてくれ。」


DVDはそこで終わる。


草薙 :「パラレルワールドの美雪と秋本先生だ。向こうの舞ちゃんがこの世界と向こうの世界をつなぐ方法を見つけたんだ。」


秋本 :「まさか。でも、その話が本当かどうかは別として、この治療法は確かに真実味があります。血小板交換法は私も聞いたことがあります。直ちに淳典堂病院と上川こども病院に相談してみましょう。免疫抑制剤のアレルギーも気になります。」


草薙 :「ああ、できれば、かのんちゃんと両親も呼んで話をしないとな。」


秋本 :「本当に番井先生から連絡来るとは。かのんちゃんのお母さんも大喜びでしょう。」


草薙 :「そのまま、言えるか。こんなむちゃくちゃな話。とりあえず、検査と事実を淡々説明するしかないだろう。」


こうしてかのんは急遽北海道から呼び戻されて検査を受けることとなった。


----------------------------------


次の日曜日の夕方。私の前には女の子がにこにこしながら座っている。


名前は楠木詩音。むこうの世界の舞だと名乗っている。


舞そっくりな風貌。しぐさ。外見で見分ける方法は効き腕だけ。


ただし、中身が違う。舞の頭の良さもすごいが彼女の頭の良さは計り知れない。小学生のくせに大学入試の数学をすらすら解く。ありえない。


そこで、今日は隠れて川上先生と前山先生に来てもらった。川上先生が数学オタクなら、前山先生は物理オタクである。この子が実は「サ・良問~数学編~」を解法毎丸暗記していることを期待したからだった。小学生でも、それくらいはできる子がいるかもしれない。いわゆる意味はわからなくても丸暗記できる子であることを期待した。


それと同時に、本当に天才少女で理解して話をしているのなら、美雪がいうことも本当ととらえられる。そこで、数学と物理の質問をいくつかしてみることにする。


草薙 :「詩音ちゃん、ちょっと教えてくれないかな。実は、知り合いから問題をだされて困ってるんだ。」


詩音 :「どんな問題?」


草薙 :「πが3.14より大きいことを証明せよっていわれてるんだ。」


詩音 :「とても、良問とは思えないひどい問題だわ。エレガントに解けることができない。しょうがない。これで証明するか。」


そう言って詩音ちゃんはΣが入る級数の式で解を導き出す。


詩音 :「この式で、3.14だろうが3.1415だろうが3.1415926だろうが証明できるわ。」


私は茫然とした。なぜ、証明できるのかさっぱり分からなかった。美雪が言っていた「出題者が理解できない」禁断の領域に入ったからか。


草薙 :「じゃあ、次の質問。高度1500kmで地球の周りを回っている人工衛星の時計の針は地球から見て進んでる?遅れてる?」


詩音 :「約1000億分の1秒進み続けてる。」


即答だった。


草薙 :「それはおかしいよ。だって、猛スピードで飛んでいる人工衛星はウラシマ現象を起こすから、遅れなきゃおかしい。」


前山先生もむちゃくちゃだ。いきなりアインシュタインの相対性理論を質問に出している。


詩音 :「それは特殊相対性理論だけで見てるわ。速度だけでなく加速度も考慮しないと。つまり、重力場を無視してる。地球の重力を計算した一般相対理論のことも考えないなきゃ。そう考えると、重力の影響の強い地球では時間が遅れるから、人工衛星のスピードで遅れる時間よりも、重力から解放されることによる時間が進むことのほうが大きいわ。」


何を言っているんだかさっぱりわからなかった。したかがないので、次の質問に進んだ。


草薙 :「じゃあ、なんで時間は遅くなったり早くなったりするんだい? 時間は一定じゃない理由は何だい?」


相対性理論の基本となる光速が一定で空間が曲がるというのが正解だ。


詩音 :「それは時間に向きがあるからよ。」


草薙 :「え?」


詩音 :「誰が時間はスカラーだと決めたの? 時間はスカラーじゃなくてベクトルだよ。だから、絶対値は変わらなくても射影は変わるよ。だから時間は相対的なんだよ。そうしないで空間が曲がるっていう風に解釈すると、ブラックホールのシュバルツシルトの半径内の時間の流れが説明できず、特異点ができちゃうじゃない。」


草薙 :「もう少し、詳しく教えてくれないか?」


詩音 :「これ以上はこの世界では教えられないわ。αベクトル空間のバランスがこわれるから。」


そう言って質問タイムは終わったとばかり席を立とうとする。


前山 :「ちょっと、まって!」


詩音 :「やっぱり、前山先生隠れてたわね。川上先生もいるでしょ。でてきなさい。」


ふたりはしおしおと姿を現した。


詩音 :「質問の内容がいつもの二人の質問とよく似てたから、だいたいわかったわ。まったくもう。」


そう言って詩音は腰に手を当ててぷんぷん怒る。


草薙 :「あの、先生方、質問と回答の解説してくれるかな。」


川上 :「信じがたいのですが、彼女は円周率をフーリエ展開して求めたんです。高校で習うレベルではないので大学入試では出てきません。まさか、フーリエを使うなんて。大学で理系を専攻してる子でも解けないレベルをあっさり解いてます。」


一方、前山先生はまだ茫然としている。


前山 :「そうだったのか。そういうことか」


一人つぶやく。


草薙 :「前山先生?」


茫然としている前山先生の目の前で手を振って気付かせる。


草薙 :「前山先生!」


前山 :「ああ、ごめんなさい。歴史的瞬間を目の前にしたんです。許してやってください。」


草薙 :「歴史的瞬間?」


前山 :「この子、アインシュタインの相対性理論をきれいに否定したんです。」


草薙 :「はあ? でも、この子はアインシュタインの相対性理論で人工衛星の問題を解いたぞ。」


前山 :「天動説と地動説の違いです。どちらも惑星の動きを説明できる。だけど、細部に問題がある。彼女は、それを地動説のように解いたんです。」


詩音 :「さすが。前山先生、話わかる~。こうすればシュレーティンガーの猫の問題も解けるでしょ。時間の向きが一定の方向の時だけ観測可能で、電子の位置は確定するわ。でも、それ以外の時は観測不可能で確率論的に位置を推定するしかない。単純でしょ」


前山先生が目を見開く。


前山 :「うお~!! 現代物理学の矛盾が解けてる!」


草薙 :「前山先生、この子の言ってることのレベルってどれくらいなんですか? 大学院レベルですか?」


前山 :「とんでもない。ノーベル賞級です。しかも、史上最高のレベルです。本当に君が考えたのかい?」


詩音 :「まさか。私じゃないわ。ノーベル賞学者のくるみちゃん。統一場の理論をひもといたの。」


前山 :「統一場の理論。TOEを解いたのか。それならここにいる理由もわかる。でも信じられない。」


草薙 :「そんなにすごいのか?」


前山 :「はい、少なくても、彼女の話していることは、今地球上にいるどの物理学者よりもレベルが上です。アインシュタインとかニュートンとかに比類します。今彼女が説明したことは、現代物理学の最先端である相対性理論と量子力学の矛盾をあっさり解決しています。」


草薙 :「正直さっぱり分からないんだが。」


前山 :「もしかして、プランクでエネルギーがとびとびの値をとるのも!?」


詩音 :「そ、観測可能な時間の時だけエネルギーを計測できるから。」


前山 :「うお~。俺は今猛烈に感動しているぞ!」


私の質問に答えず二人で勝手に盛り上がっている。


詩音 :「でも、これ以上はだめ。」


前山 :「最後に教えてくれ。そのノーベル賞をとったくるみちゃんは今何を研究しているんだ?」


詩音 :「ワープとタイムトラベル」


草薙 :「そりゃいくらなんでもうそだろ。」


詩音 :「ま、そう思っていただいて構いません。」


前山 :「うそだろ、どうやって」


詩音 :「最後の質問に回答しました。だからダメ。じゃあね~」


そうやって詩音ちゃんはカンファレンスルームを出て行った。車いすの女の子がいるロビーの方に向かって行った。


草薙 :「本当に本物なのか?」


川上 :「数学は間違いなく本物ですね。」


前山 :「物理は間違いなくだれも測れません。ニュートンの時代にアインシュタインの話をしているレベルです。」


草薙 :「パラレルワールドも存在しているかもしれないのか。」


前山 :「まさか。科学とおとぎ話は混同してはだめです。」


彼らには美雪のDVDのことは話していない。私の頭を疑われてしまう。


草薙 :「でも、美雪の言っていることは本当ということか。」


私は、かのんと話をしている詩音ちゃんをみて美雪の提案受け入れを真剣に考え始めていた。


しかし、その提案は結局受け入れられることはなかった。


----------------------------------


年が明け、再び天才少女は私の前に座っている。


詩音 :「残念な結果だったけどね。私たちの存在も治療方法も突飛過ぎたからね。聞き入れてもらえなかったの当たり前。」


草薙 :「…」


詩音 :「運命としてあきらめるしかないね。」


草薙 :「天才少女にしては割り切ってるな。俺たちに隠してることあるだろう。かのんちゃんのことだ。不自然すぎる。」


詩音 :「そりゃ、私だってかわいそうだと思う。でも、私は医学のことはわからない。それに準備不足もいいところ。もう少し時間をかけられれば両方のかのんちゃん救えたんだけどね。」


草薙 :「現実はそんなに甘くわないか。」


詩音 :「死者にまどわされ生者にきづかず。」


草薙 :「?」


詩音 :「なんでもない。そろそろ、舞ちゃん、院内学級ボランティアに復帰させていいでしょ。」


草薙 :「ああ、大分元気になったな。さすが自分に任せろいうだけのことはあるな。」


詩音が得意げな顔をする。


詩音 :「でも、まだ夜になると思い出して泣いてるみたい。やっぱり、最後にこの場所と向き合わないと解決にならない。」


草薙 :「でも、ハードル高くないか?」


詩音 :「もちろん、作戦考えてあるわ。」


詩音が草薙に作戦の中身を話す。


草薙 :「なら、許可しよう。お手並み拝見だな。女王様の使い魔さん。」


詩音 :「ありがとう。ちょっと派手にやるけどよろしくね。」


詩音はそういうと舞とおそろいの羽根のついたリュックを背負って帰って行った。



つづく



ポッチ:「もしかして、草薙先生あのこと知らないの?」


詩音 :「うん!」


ポッチ:「うわ~、ばれたら大変だよ。」


詩音 :「詩音悪くないもん。うそ言ってないもん。」


ポッチ:「しかも、ご丁寧にヒントまで出してるから、気がつかない方が悪いってことか。」


詩音 :「そゆこと。」


ポッチ:「ま、いっか。じゃあ、次回のトリックエンジェルは?」


詩音 :「『詩音のミニコンサート』だよ。」


ポッチ:「また、予告の題名が変わったりしないようにね。」

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