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短編ハロウィン

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

「トリック・オア・トリート」


そう言って詩音とポッチは私の前に現れた。今日は魔法使いの黒いマントと黒い帽子をわざわざかぶって現れた。


響子 :「はあ~…」


私は長いため息をつく。


響子 :「確かにね、今日はあなたたちのためのイベントっていうのはよくわかるの。これ以上って無いってくらいはまってるわ。だけどね、どうして、今ここで、私の前なの?」


詩音 :「え~、だって、この日は去年も、その前の年も、その前の前の年も響子先生にこう言ってるよ。『トリック・オア・トリート』ってね。今年だけやらないなんて変じゃない。」


響子 :「確かに、一昨年と先一昨年は幼稚園でハロウィンやりました。去年は幼稚園にせっかく訪ねてきてくれたのでお菓子あげました。でも、今年は違うでしょ。」


詩音 :「継続は力なりだよ。響子先生。」


響子 :「使い方間違ってます。いい? ここは学校の職員室。そして、放課後になったばかり。少しは場所とか気をつけようね。」


詩音 :「でも、さっき校長室に行って校長先生からお菓子もらってきたよ。ほら。」


そう言って詩音はお菓子を見せる。


ポッチ:「教頭先生にもお菓子もらった。」


そういってポッチがお菓子を見せる。


詩音 :「教頭先生、ちょっと震えてたけどね。」


響子 :「はあ。」


校長先生の許可をもらって、教頭先生脅してきたのね。相変わらず用意周到なこと。


響子 :「はいはい。わかりました。しょうがないわね。はい、お菓子。」


そう言って私は二人に用意していたお菓子を渡した。


ポッチ:「ありがとう!」


詩音 :「響子先生、大好き。」


そう言って二人は次なるターゲットとなる先生のところに行った。


実は、ある程度予測していたことである。こんなチャンスの日にふたりが行動しないわけがない。しかも、今回は、対応方法が簡単である。お菓子をあげればいいのである。


「教育上問題だ」


とか


「一部の子供のひいきをしている」


とか言われるかもしれない。だけど、お菓子を上げることで彼女たちのいたずらを未然に防ぐことができる。だから、ここは黙って、大人の対応をするのが一番。


どうせ、「そんなことしちゃダメって」いっても、ポッチあたりが


「これから恵まれない子たちへのプレゼントとイベントにボランティアで行くんです。なんで、先生たちは協力してくれないのですか?」


とかいって言い訳するに決まっている。


だったら、ここはおとなしくお菓子を上げるのが大人の対応だと思う。


案の定、他の先生も、「触らぬ神にたたりなし」と言わんばかりに二人にお菓子を与えている。いつもはこわもての体育教師もびくびくしながら、詩音たちにお菓子をあげている。


響子 :「(そりゃ、入学式事件を目の当たりにしてるからね~)」


入学式に彼女らのいたずらをとがめた教師は全員ここにいない。そんなことしたら国家権力の介入があることを何となく理解して、穏便に済まそうとしている。


しかし、ここに勇気ある先生が現れた。


浅野 :「あなたたち、ここは小学校の職員室ですよ。そんなことする場所じゃありません。そんなのは幼稚園までです。さっさと職員室から出て行きなさい。」


浅野先生は音楽の先生だ。音楽の先生のなかに時折いる芸術肌の先生で、空気を読むとか苦手な方だ。


詩音 :「は~い。」


そういって二人は今までで一番うれしそうな顔をして職員室を出ていく。


ポッチ:「ご協力ありがとうございました。頂いたお菓子は、これから特別支援学校でのハロウィンイベントで配ってきます。また、来年もよろしくお願いします。」


詩音 :「えっと、お預かりした善意はトリート15にトリック1です。ありがとうございました。」


そう言って二人は意気揚々と出ていく


響子 :「(あちゃ~)」


やっぱり。


体育教師:「浅野先生、勇気ありますね~。」


浅野 :「え?」


教頭 :「浅野先生、勘弁してくださいよ~。もう少し、周りの雰囲気読んで頂けると助かるのですが。」


浅野 :「私何か間違ってましたか?」


教頭 :「これで、彼女たちは特別支援学校に行って、『うちの学校の先生は多くは賛同してくれたんですけど、一部ハロウィンのボランティアは好ましくないって言った先生がいて賛同得られませんでした。』といわれるんですよ。」


学年主任:「しかも、教育委員会まで彼女たちなら筒抜けです。」


正確には文科省まで筒抜けだけどね。私はそう思った。


浅野 :「そんな、彼女たちそんなこと一言も言ってないじゃないですか?」


学年主任:「校長と教頭がお菓子をくれたってことを不思議に思わなかったのですか? それに、先生、一方的にあの子たちを非難してましたよね。ちゃんと理由を聞けばいいのに。」


浅野 :「そんな…」


教頭 :「ああ、また、今年の入学式の再来になる。教育委員長になんて謝れば。」


響子 :「大丈夫ですよ。教頭先生。浅野先生。そんなことにはなりません。」


教頭 :「泉先生。何を気楽なことを。どんな根拠があるんですか?」


響子 :「だって、トリック・オア・トリートですよ。お菓子上げなかったんですから、嬉々としていたずらするだけですよ。そっちが本当の目的です。」


「なるほど~」


周りの先生が納得する。


響子 :「彼女たちにとってこんなチャンスないですよ。堂々といたずらができるんです。」


教頭 :「たしかに。浅野先生。すまなかった。ちょっと大げさに言ってしまった。後はよろしく頼むよ。校長先生には私から報告しておく。いや、びっくりした。」


そういって、教頭先生は校長室に向かった。


浅野 :「なんだ~、先生たち脅かさないでくださいよ。まあ、子どものいたずらなんてかわいいものね。」


浅野先生がほっとした顔で話をする。


体育教師:「え?」


学年主任:「知らないんですか?」


確かに浅野先生は2学期からこの学校に来た。だから、知らないのも無理はない。


先生方が今までの二人の武勇伝を話し始める。担任の先生にバケツで水をぶっかけた事件、運動会の綱引きを妨害した事件、入学式を妨害して警察沙汰になった事件、遠足の目的地を変更してしまった事件、テレビ局の取材を強引に自分たちのインタビューに変えてしまった事件。つい最近ではまたもや運動会で私が踊らされた事件。


今までに二人の教師が退職して、二人の教師が配置転換させられている。配置転換された教師は今、コンビニのない街に赴任していると噂では聞いている。


浅野先生の顔が青くなる。


浅野 :「しりませんでした。もしかして、とっても不味い事態では。」


体育教師:「かな~りね」


響子 :「(いやいや、私が受けたいたずらに比べればかわいいもんよ。)」


去年の夏のウシガエル事件や今年の夏の音楽室のお化け事件、さらにはポッチのシマヘビ事件を思い出しながらつぶやいた。


川上 :「大丈夫ですよ。ご安心ください。そんな彼女達のいたずら対策のエキスパートがいます。ね、泉先生」


響子 :「はい?」


学年主任:「そうですね。泉先生はあの子たちの担任でもありますし、浅野先生をサポートしてくださいね。」


浅野先生が、私を祈るようにみつめる。


響子 :「ちょ、ちょっと。」


第三者的に傍観者を決め込んでたのに。結局巻き込まれる羽目になった。


---------------------------------------


響子 :「傾向と対策といっても、奇想天外なことをやってくるから、事前対処のしようがないのよね。」


浅野 :「そんな~。助けてください。」


響子 :「助けてあげたいのだけどね~。」


浅野先生が青い顔をして私を見る。


響子 :「とりあえず、波には注意が必要ね。」


浅野 :「波ですか? あの海の波?」


響子 :「いえ、そっちの波でなく音波とか電波とか光とかです。理科全般に得意だけど、音とか光とか使ったいたずらは猛烈に得意だからね。」


まあ、本当は時空間のコントロールまで得意そうだけどそこまではやらないでしょう。


浅野 :「といわれても」


響子 :「そうよね~。想像つかないのよね~」


浅野 :「はあ。」


響子 :「あ、場所は多分音楽室。もしかしたら視聴覚室。音楽室と視聴覚室は光と音をコントロールするのにいい環境だからね。」


浅野 :「音楽室。私の管理下ですが。」


響子 :「それでも、やられる。それと、時間は放課後。授業中も考えられるけどまずやらない。他の児童を巻き込むことは少ないわ。でも、その裏をかく可能性があるから無いとは言えないけど。」


浅野 :「はあ。」


響子 :「取り合えず、場所と時間を絞って気をつければ見抜けるかも。」


浅野 :「はい。頑張ってみます。」


響子 :「ほかにも、特徴があって、事前警告することがあるわ。」


浅野 :「どんな感じですか」


響子 :「過去には『このボタン押すべからず』『この先立ち入り禁止』こんな感じかな」


浅野 :「え? ならばそれを守ればいいのでは。」


響子 :「その通りなの。でも、その警告を守れない状況をあのこたちは作り出すわ。それで、『警告を無視したのは先生です。私たち悪くありません』っていいのがれするわ。」


浅野 :「あの、こういうと失礼なのですが、もしかして先生、なんどもひっかっかってます?」


響子 :「……」


この先生、ほんと空気読まないわね。そこは気付いてもスルーするところよ。


響子 :「あ、ちょっと、待って。確かにそうかも。うん、きっとそう。」


私はその話題から離れる。


浅野 :「何かわかったんですか?」


響子 :「今回のいたずらの主担当。」


浅野 :「はい?」


響子 :「彼女たちのいたずらはどちらかが発案して担当するの。ここんとこ詩音の科学的ないたずらばかり続いてるわ。だとすると今度はポッチね。」


浅野 :「ポッチはどんないたずらするんですか?」


私は身震いしながら言った。


響子 :「生物的ないたずら。カエルとか先生に見せるとか。ヤモリ捕まえてきて背中に入れるとか。男の子が女の子にやるようないたずらを想定した方がいいかも。」


浅野 :「そ、そんな。で、でも大丈夫です。私生き物強いです。カエルとか平気です。」


響子 :「じゃあ、意外と楽勝かも。あんまり事前に気に病むことないかもしれないわね。」


そう話しつつも私は嫌な予感がした。


--------------------------------------


次の日、浅野先生は放課後音楽室に向かおうとした。しかし、階段の下に「立ち入り禁止」と立て札が立っていた。


浅野 :「早速来たわ。」


浅野先生は職員室に戻り、泉先生や、前山先生たちを呼び音楽室に入って行った。


響子 :「特に何もないわね。」


響子が音楽室の壁に掛けられている肖像画を調べながらつぶやく。


前山 :「音楽室ではないのでは。」


響子 :「わざわざ立て札立ててるのに? 明らかにここよ。」


川上 :「本人たちを締めあげれば早いのでは?」


響子 :「証拠もないのに? 川上先生、コンビニのない街でのんびり暮らす? それも人生としては有意義だけど。」


控えめに警告したつもりだけど川上先生が青くなる。もし、本当に、そんなことしたら、彼女たちならだれも知り合いのいない対世界に送り込んで精神病棟に閉じ込めるくらいしかねないわよ。


響子 :「とりあえず、何もないわ。そもそも、これがいたずらの可能性があるわね。あんまり気にしちゃ駄目よ。」


そう言って、立て看板を撤去してその日はお開きになった。


次の日、やっぱり、立ち入り禁止の立て看板が音楽室に立っていた。再び教師たちが確認する。しかし、何もなかった。


響子 :「心理戦による消耗を狙う気? やっぱり、私たちが大騒ぎしてるの陰でこっそり見てるのね。」


私は和恵に電話をかけた。


和恵 :「どうしました? 響ちゃん? また、詩音ちゃん悪さしました?」


響子 :「いや、二人は今どうしてるかなって?」


和恵 :「おやつ食べてます。ふたりでおいしそうに食べてます。」


響子 :「そう、それならよかった。また、こんどゆっくり電話するわね。ちょっと相談したいことあるの。」


そう言って電話を切る。


響子 :「やっぱり、心理戦のようね。気にしすぎよ。」


そう言って、その日もお開きになった。


----------------------------------------


次の日、やっぱり立て看板が立てられていた。


浅野 :「もう、引っかからないわ。」


そうやって、浅野先生が音楽室に入っていく。詩音とポッチは視聴覚室で泉先生と話をしている。大丈夫だ。


音楽室にはいってもいつもと何も変わらない。普段の光景があるだけである。


浅野 :「ふう」


生徒用の椅子に腰かけて息を吐く。


浅野 :「確かに、小学校の割には設備の整った音楽室よね。」


特にグランドピアノが目を見張る。意味もなく真っ白なグランドピアノ。特注品であることが分かる。


…自動演奏機能が付いているから驚かないように…


泉先生からもアドバイスをいただいている。


ポロン、ポロン


ピアノが鳴りだす。


浅野 :「(きた!)」


だけど自動演奏は想定内。とりあえず無視しておく。


しかし、自動演奏はとても音楽とは言えない音を出している。


浅野 :「聞くに堪えないわ」


そういって、ピアノに向かう。そして鍵盤のふたを開ける。


浅野 :「キャー!」


そこには鍵盤の端から端まで伸びる青く細長いヘビがいた。その青いヘビはゆっくり鍵盤の上を這って、ところどころで音を鳴らしている。


浅野 :「いや~!」


そのまま、音楽室の出口に向かう。扉は内側からカギが閉まってる。あわてて、開けようとするが手が震えて、うまくいかない。


「シュー。シュー。」


近くで嫌な音が聞こえる。


何とか鍵を開けてドアを開いた瞬間、それがおっこってきた。


さっきのヘビよりも太くてグロテスクなヘビだった。大人の腕よりも太くて褐色の色に斑紋が付いている。その蛇が足に絡みつき上ってくる。そして、大きく口をあける。


「シュー。シュー。」


浅野先生はそのまま気を失った。


-------------------------------------


悲鳴を聞いて先生たちが駆けつける


音楽室のドアを開けると浅野先生が気を失って壁によりかかって倒れていた。浅野先生の膝の上には30cmくらいの小さなヘビがかわいらしく這っていた。


前山 :「浅野先生大丈夫ですか?」


壁にもたれかかって伸びている先生の肩をゆすって、起こしにかかる。


浅野先生がゆっくりと目を覚ます。そして、前山先生の顔を見てほっとする。そして、ゆっくりあたりを見回したのち思い出したようにせきを切って話し始める


浅野 :「前山先生、音楽室にこ~んな大きくて太いヘビがとぐろを巻いていたんです。その蛇が上からおっこってきて私を襲ってきたんです。太さが20センチくらいあって、10m位のヘビです。」


川上 :「もしかして、このヘビですか?」


川上先生は浅野先生の膝の上のヘビをさす。


浅野 :「キゃー!」


川上 :「落ち着いてください。大丈夫です。このヘビは毒蛇じゃないです。おとなしいコーンスネークというよくペットで飼われているヘビです。かまないし、おとなしいです。」


浅野 :「え?」


浅野先生があらためて自分の膝の上を見る。


浅野 :「もっと、大きかったです。もっと太かったです。信じてください。」


川上 :「模様は同じですか?」


浅野 :「ええ、たぶんこんな感じです。よく覚えていませんが。」


前山 :「なら、錯覚ですよ。きっと目の前に現れたんですよ。だから、大きく見えた。10mで太さ20cmのヘビだったら今頃食べられてますよ。」


浅野 :「そんなあ。あ、ピアノ鍵盤の上にもすんごい長いヘビがいたんです。」


川上先生が確かめに行く


川上 :「あ、いますね。確かに鍵盤の上に。」


浅野 :「でしょ。信じてもらえますよね。」


川上 :「やっぱり、同じくらいの大きさのコーンスネークですが。」


そういって、川上先生は尻尾を持ってみんなに見せる。


前山 :「いたずら娘のいたずらですね。まったく、先生に対して失礼な。」


教頭 :「でも、昔を思い出しますな~。よく、1mくらいのシマヘビ捕まえて、友達や先生に自慢したもんです。」


前山 :「ほんと、あいつら男の子みたいだな。」


川上 :「今じゃ、野生のヘビなんか捕まえられないですからね。こうやってペットショップで売ってるコーンスネークとかでいたずらするんですね。」


教頭 :「ある意味、さみしくなりましたな。」


浅野 :「いや、本当にこんな太いヘビがいたんです。テレビで出てるコブラなんかよりもっと太かったです。それに、鍵盤の上のヘビは鍵盤の端から端よりも長かったんです。」


前山 :「先生。私たちは悲鳴を聞いてすぐ駆けつけました。でも、いたのはこのヘビ2匹です。」


教頭 :「そうですよ。あまりおおげさに騒ぐのはいかがなものでしょうか? ハロウィンのいたずらということで大目に見てやってはどうですか?」


前山 :「あの二人なりに手加減したんですね。」


川上 :「ええ、泉先生なら今頃ヘビに食べられてましたね。」


あははと男の先生たちが笑う。


そのとき、噂をすればという感じで、泉先生が詩音とポッチを引きつれてくる。


響子 :「ほら、あんたたちごめんなさいは?」


詩音 :「ごめんなさい」


ポッチ:「ごめんなさい」


響子 :「この子たち、浅野先生が爬虫類とか平気と聞いて、大丈夫だろうと思ってやったんです。担任の私からも謝ります。」


3人が頭を下げる。


その姿を茫然と浅野先生が見つめる


教頭 :「ほら、許してあげなさい。ちゃんと謝ってるじゃないですか。」


浅野 :「は、はい。ええ。私も大人げなかったです。たかがハロウィンのイベントを許してあげられなくって。」


教頭 :「じゃあ、仲直りのしるしに3人で握手。」


そうやって、浅野先生は詩音とポッチと握手して一件落着となった。


------------------------------------


響子が視聴覚室にポッチと詩音を連れていく。


ポッチ:「なんで私たち謝らなければいけないんですか?」


詩音 :「そうよ! トリック・オア・トリートって言ったじゃない?」


響子 :「はいはい」


詩音 :「今回は響子先生の顔を立てたけど貸し一だからね。」


ポッチ:「まったくです」


響子 :「はいはい」


詩音 :「全く、大人ってこれだから。ポッチ。帰ろう。もうやんなっちゃう。」


二人が帰る準備をする。


響子 :「ところで、『ツートン君』はどうやって連れて帰るの?」


二人が「ギクッ」として足を止める。


詩音 :「な、なんの話?」


響子 :「だから、ボールニシキヘビの『ツートン君』をどうやって持ち帰るのか興味津津なの。」


ポッチ:「ボールパイソンなんてヘビ知りません。」


響子 :「あら、私はニシキヘビって言ったけどパイソンとは言ってないわよ。」


二人が固まる。


響子 :「はい、ふたりとも、ここに座りなさい。」


二人はランドセル椅子の背中にかけ、スポーツバックを足元に置いて響子と向かい合って座る。


響子 :「話を聞いて、すぐにピンときました。ちょっと大げさだけど、浅野先生が見たのはボールニシキヘビでしょう。」


詩音 :「ニシキヘビなんて持ってこれるわけないじゃない。あんな大きくて凶暴なヘビ。」


響子 :「そうね。普通はそうね。でも、ボールニシキヘビなら簡単じゃない? 全長1.5m 普通のニシキヘビに比べて確かに短いけど太さは十分あるわ。」


詩音 :「でも、かまれたりしたら大変よ。」


響子 :「ポールニシキヘビは、ニシキヘビのくせに性格は臆病。人を噛むなんてめったにしない。しかも毒を持っていない。そして、野生でなく人間の手で繁殖させたものはある意味犬よりも飼いやすい。」


詩音 :「うう」


響子 :「だけど、姿かたちはニシキヘビ。だから見た人はパニックになるわ。」


ポッチ:「なんでそんなに詳しいんですか?」


響子 :「そりゃ。和恵に聞いたのよ。ポッチが『ツートン君』ていうとっても太いボールニシキヘビ飼ってること。それに、今回はポッチが主導権にぎると思ってヘビについては勉強したのよ。」


ポッチ:「あう。」


響子 :「さらに言うと、ピアノの上にいたのは青大将の『あおちゃん』でしょ。去年、ポッチが『身近な動物を持ってきましょう』といって連れてきたヘビ。青大将もおとなしくて飼いやすいヘビよね。」


ポッチ:「うう~。」


詩音 :「でも、悲鳴を聞いてすぐに駆けつけたんでしょ。そしてそこには小さなヘビが2匹しかいなかったんでしょ。どうやってそんな短時間で取り換えたのよ。」


響子 :「簡単よ。本当の悲鳴は瞬間逆位相装置で消せるわ。そして、ゆっくりヘビを小さいのに取り換えたのち、ボカロ7で悲鳴を再生すればいい。」


詩音 :「あう。でも、証拠がないわ。」


響子 :「ええ。ないわ。でも、このトリックには大きな問題があるの。今はもうすぐ冬の季節。青大将なら平気だけど、ボールニシキヘビはこの寒さは耐えられない。だから、青大将は簡単に隠せても、ボールニシキヘビは常に温度の管理下に置かなければいけない。そして、あんな大きいヘビ、簡単には持ち運べないわ。だから、それなりに温度管理のできる大掛かりな隠しておく装置が必要。どこにその装置作ったの?」


ポッチ:「すごい!」


響子 :「さあ、白状しなさい。どこにいるの? 音楽室? それともこの視聴覚室?」


ポッチのスポーツバックから音もなく何かが這いだし、響子の足元にゆっくり近寄る。


詩音 :「さすが響子先生。教えてあげるわ。」


響子 :「観念したわね。」


響子が勝ち誇った顔をする。


ポッチ:「先生の足下。」


響子 :「え?」


足下に太い褐色の色をしたヘビが這っている。そのヘビがゆっくりと足に巻きついてくる。ちろちろと舌を出して響子の足をなめる。そして、大きな口をあける。


「シュー、シュー」


響子 :「ギャー!」


そのまま、響子は意識を失う。


詩音 :「ふう、所詮、座学よね。知識先行型で実際現れたらどうなるか考えなかったのかしら。」


ポッチ:「響子先生、爬虫類大の苦手なのに。」


詩音 :「推理はよかったのにね。」


ポッチ:「ほんと。もうだめかと思った。」


詩音 :「でも、ツートン君、人懐っこいよね。」


ポッチ:「人は危害を加えるって思ってないのよね。だから、すぐ人の足とか手に巻きついて、気持ちよくあくびする。リラックスしすぎ。」


詩音 :「ほんとよね。さて、帰りましょう。」


ポッチ:「うん。こういうときボールパイソンって便利よね。」


詩音 :「うん、先生、なんでボールニシキヘビって言われるかまでは調べなかったのかしら。」


ポッチ:「そうみたい。大きい割にはボールのように丸まって頭をとぐろに突っ込むってこと知らなかったのね。スポーツバックに簡単にはいっちゃうのに。」


詩音 :「きっと、大型のケースが必要と思ったのよね~。温度管理の必要な。」


ポッチ:「まさかくるくるって丸まって手持ちできるとは思わなかったのよね。温度管理も常温過冷却水使えば簡単にできるのに。」


詩音 :「全然学習しないのよね~。これじゃいつまでもプロジェクト見習いだよ。じゃあね、先生。ちゃお~」


二人は響子の膝の上に小さなコーンスネークを置いて視聴覚室を後にした。


-------------------------------------


響子 :「ですから、こ~んな大きくて太いニシキヘビだったんです。」


校長 :「はいはい。それで、その大きなニシキヘビはどこへ行ったんですか?」


響子 :「ポッチと詩音が手持ちで持って帰ったんです。きっと」


校長 :「持ち帰る? 先生? ニシキヘビですぞ。そんな大きいヘビ小学生がどうやって持ち帰るんですか? それにニシキヘビ持って歩いたら街中大騒ぎですよ。」


教頭 :「第一、この季節、ニシキヘビなら温度管理が必要です。そんな大掛かりな装置どこにあるんですか?。それに、先生の上にはこの小さなヘビしかいませんでしたよ。」


響子 :「信じてください。校長先生~。教頭先生~。」


-------------------------------------


詩音 :「そういや、ポッチ、『あおちゃん』は?」


ポッチ:「いっぺんに持って帰れないから、隠しておいた。」


詩音 :「どこに? 他の子に見つかっちゃうとやばいよ。」


ポッチ:「大丈夫、見つからないように教室の響子先生の持ち物がある戸棚にしまっておいた。」


詩音 :「ああ、あそこなら大丈夫ね。ほかの子供たち絶対あけないしね。開けるとすれば響子先生だけか。ちょっとかわいそうだけど、ま、いっか。」


ポッチ:「だね。」


詩音 :「これからどうする?」


ポッチ:「舞ちゃんのふりをして、向こうの響子先生驚かすってのどう?」


詩音 :「すごくいいアイデア。さっそく準備しましょう。」


ポッチ:「おー! ツートンもうちょっと付き合ってね。」


そういって二人は意気揚々と花の丘公園に向かって行った。


おしまい

ポッチ:「やっぱりヘビってかわいいよね。おとなしくて、人になれやすくて、飼いやすいしね。」


詩音 :「いや、あの、それはポッチさんだけが思ってるんじゃないでしょうか?私も今はなれたけど、最初は怖かったよ。」


ポッチ:「そう? でも、これで来年の家庭訪問の楽しみできた。うち中総出で迎えないとね。」


詩音 :「・・・」


ポッチ:「さて、次回のトリックエンジェルは?」


詩音 :「『天国からの手紙』だよ。」


ポッチ:「舞ちゃんが冬ちゃんや向こうのあきらパパにエルベの話をするんだけど、信じてもらえない。そこで証拠の品を探してたらとんでもないものが出てきちゃった。」


詩音 :「ということで、お楽しみに~」

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