5-4.バンパイア先生
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
次の日、ちらちらと雪が降り始めた商店街を舞は急ぎ足で歩いていく。
舞 :「こんにちわ~」
舞が喫茶ファンダルシアの扉をあける。
流美 :「いらっしゃ~い。舞ちゃん」
マスターが声をかける。
舞 :「あれ、マスター、詩音たちいないの?」
流美 :「まだ来てないよ~。でも、そろそろ来るんじゃないかな。ちょっとまっててみて。飲み物はホットココアでいい?」
舞は「うん」と返事をして、カウンター席に座る。カウンターにはお客さんがひとり座っていた。女性のお客さんだ。年は冬ちゃんやくるみさんよりも上って感じの落ち着いた女性だった。サンドイッチを食べながら本を読んでいる。そして、カウンターには薬が置いてあった。きっと食後に飲むんだろう。舞が興味深そうにみていると、視線を感じたのか女性は舞の方を見た。
女性 :「あら、見かけない子ね。こんにちは。ここにはよく来るの?」
舞 :「ううん、この間から。詩音に連れてこられたの。」
女性 :「ああ、詩音ちゃんのお友達ね。」
舞 :「うん」
女性 :「お名前は?」
舞 :「楠木舞です。」
女性 :「舞ちゃんね。いいお名前ね。」
舞 :「ありがとうございます。えっと」
女性 :「ああ、私ね。バンパイア先生。そう呼んでいただいてかまわないわ。」
舞 :「バンパイア先生?」
流美 :「うん、この人はね女医さんなの。近くの花の丘病院に勤めている先生。」
舞 :「へ~。でも、どうしてバンパイアなの?」
女医 :「バンパイアっていうのは吸血鬼って意味なの。私は血の病気を治すのが専門で、それで、血液検査のために採血ばっかりしてるから、血を吸う先生って意味でバンパイヤ先生ってよばれてるの。失礼しちゃうわよね。」
口では失礼といってるけどまんざらではないんじゃないかと舞は思った。
女医 :「それで、花の丘病院に週に一度お勉強を兼ねて応援に来てるの。あの病院には血液専門の先生がいないからね。」
舞 :「へ~。私、いろんなお医者さんにあってるけど、血液専門のお医者さんって初めて。」
女医 :「そうね。あんまりいないわよね。」
そういうとバンパイア先生はにっこり笑った。
流美 :「はい、舞ちゃん、ホットココア。」
舞 :「ありがとう。」
舞は出されたココアをおいしそうに飲む。
舞 :「こんな寒い日はホットココアを飲むのが一番。」
そんな舞をバンパイア先生がじっと見ている。そして、突然、とんでもないことを言った。
女医 :「あなた、ラインベルグ症候群ね。」
舞 :「へ? え? は、はい。でもなんでわかったんですか?」
女医 :「そりゃ、私も医者だもん。それくらいわかるわよ。でも、大丈夫? あの病気はこんな寒い日はあったかくしてないと悪化するわよ。」
舞 :「ええ、でも、今年は大丈夫みたいです。それに、もし再発したら薬がありますから。」
女医 :「そんなはずないわよ。ラインベルグ症候群は難病指定されるほどの病気よ。薬なんかないわ。」
舞 :「ええ、難病指定されています。でも、去年、薬ができたんです。キロニーネって薬なんです。まだ、日本ではちゃんと認可されてないんですけど。」
女医 :「へ~。タイムラグの薬ね。ちょっと興味があるわ。」
舞 :「でも、あんまり、この話言っちゃだめなんです。草薙先生とのお約束。いっちゃだめだって。」
女医 :「あらら、残念。でも、わかったわ。ここだけの話にするわ。」
舞 :「ありがとうございます。じゃあ、私も先生に話があります。」
女医 :「あら、何かしら。舞ちゃん。」
舞 :「先生、潰瘍性大腸炎ですよね。もう寛解されてるようですが。」
女医 :「!」
舞 :「なんでわかったのって顔してます。それは簡単です。そのサンドイッチ、潰瘍性大腸炎にも優しい食材が使われてます。乳製品も控えられています。そして、そのお薬、トリチル酸製剤ですよね。あとステロカイド。この薬ならクローン病か潰瘍性大腸炎です。でも、クローン病なら、過酷なお医者さんを続けるのは難しいです。だから、潰瘍性大腸炎。」
舞 :「そして、今は寛解されているけど、潰瘍性大腸炎はそのまま再発する可能性が高く、寛解維持のためお薬を飲み続けないといけない。それに食事にも気をつけないと行けない。もし、再発すると出血性を伴う下痢や腹痛に苦しめられます。」
女医 :「うそでしょ。正解。信じられない。あなた天才よ。」
舞 :「ありがとうございます。」
舞が照れながらお礼を言う。
女医 :「でも、どうして、そんなにくわしいの?」
舞 :「普段、病院でボランティアをしてるんです。それで詳しくなってきたんです。」
舞はそういって、普段、病院の外来の待合室を回って、もしかしてと思う子を見つけてること、そうやって見つけた白血病の女の子に絵と占いを教えてもらったこと、時々、松井先生の相談を受けてこっそり教えてることを話した。
女医 :「信じられない。病院でボランティアしてるだけどうしてそこまで。」
舞 :「大したことないです。それでなんですが、トリチル酸製剤もステロカイドも対処療法で症状を和らげることはできますが根本治療にはなりません。」
女医 :「まあ、そうね。所詮、対処療法。完全に治すことはできないわね。」
舞 :「はい、潰瘍性大腸炎の原因は免疫過剰にあります。この原因を取り除かないと治らないです。」
女医 :「その、免疫過剰を治す方法はないわ。」
舞 :「そんなことないです。免疫過剰の特効薬があります。それがこのキロニーネ。先生にお近づきのしるしにこのキロニーネ上げます。一錠飲めば、あしたから食事制限も何も要らなくなるはずです。」
女医 :「ちょ、ちょっと」
舞 :「大丈夫です。このキロニーネは本来人間が持つべき免疫のレベルに抑える薬です。それに、ちゃんとエビデンスがあります。アメリカでは実際に潰瘍性大腸炎に効果がてきめんにあるって実証されてます。一錠飲めば大丈夫です。それに私は草薙先生から薬またもらえます。」
バンパイア先生が茫然として薬を受けとる。
カラカラーン
喫茶店の扉が開く。
詩音 :「あ、舞ちゃん。やっぱりいた。お外雪が積もりだしたよ。せっかくだから、花の丘公園で雪だるま作ろう!」
舞 :「うん、いまいく~。マスターココアありがとう。そして、バンパイア先生お大事に。」
そういうと舞は詩音と一緒に喫茶店を出て行った。そして、入れ替わりにエプロン姿で保育園の先生みたいな女性が入ってきた。
つかさ:「ああ、先生、やっぱりここでサボってる。松井先生が話があるそうなので。」
女医 :「ああ。わかった。師長。今行く。」
つかさ:「それはそうと、今の舞ちゃんですよね。どうでした?」
女医 :「とんでもない天才だ。一発で私の持病の潰瘍性大腸炎を見抜いた。」
つかさ:「うそ!」
女医 :「しかも、特効薬まで置いていった。」
つかさ:「え? あの病気に特効薬があったんですか。」
女医 :「ああ。驚きだ。」
つかさ:「やっぱり規格外です。さすが対世界の詩音ちゃんですね。」
女医 :「化け物だ。赤井夢君の白血病も早期に見抜いて化学療法だけであっさり治したらしい。我々は発見が遅れ、あれだけ大変なハプロ移植でなんとか一命を取り留めたのにだ。向こうではもう退院して学校に通っているらしい。」
つかさ:「はああ~。どんだけ~って感じ。でも先生、欲しいんでしょ。」
女医 :「ああ、なにがなんでも欲しい。春彦なんかにはもったいない。私が育てたい。」
つかさ:「ふふ、やっぱり。」
女医 :「うん、我々が目指す病院改革に絶対必要だ。うん、さて、もどるか。師長。マスターごちそうさま。」
そう言ってバンパイア先生とつかさは喫茶店を後にした。
つづく。
詩音 :「ねえ、ポッチ、ハプロ移植ってな~に?」
ポッチ:「三座不一致の骨髄移植。血液型が合わない輸血のようなもの。」
詩音 :「そんなことして大丈夫なの?」
ポッチ:「もちろん、普通にやったら大変になる。だから、番、じゃないバンパイア先生は特別な方法を使って免疫を抑えて治療したのだけど、それでも拒絶反応みたいのものとの戦いが大変な見たい。」
詩音 :「ふ~ん。ポッチ良く知ってるね。」
ポッチ:「まあ、この病気についてはね。でも、だから、夢さんの病気を早期で見ぬいた舞ちゃんってすごいのよ。」
詩音 :「向こうの世界にはバンパイア先生いないから助からなかった。」
ポッチ:「そういうこと。」
詩音 :「舞ちゃんやるなあ。」
ポッチ:「本人は自覚ないみたいだけどね。」
詩音 :「うんうん。」
ポッチ:「さて、次回のトリックエンジェルは?」
詩音 :「『ハロウィン』です。」
ポッチ:「季節がらやっぱり触れないとね。」
詩音 :「私たちのいたずらの物語だよ。お楽しみに~。」