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5-3.スタビライザー

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

ポッチが握っていた鉛筆から手を放す。


すると、カタッて落ちるはずの鉛筆がまるで空間に貼り付けられたように数秒間その姿勢を維持する。そして、ゆっくりとテーブルに近づいていく。


カラカラと鉛筆がテーブルの上で転がり出す。


舞  :「なにこれ? 宙に浮いてた。 どうして?」


ポッチ:「スタビライザー。」


詩音 :「ポッチの発明品。物の姿勢を維持する仕組み。慣性の法則とか角運動量保存の法則とかを使うの。」


舞  :「特別な仕掛けがこの鉛筆にあるの? ずいぶんちっちゃいけど。」


詩音 :「うん、現実世界の仕組みはちっちゃいんだけど、本体はαベクトル空間にあるリニアジャイロ。この3次元ジャイロがαベクトル軸方向にすごい勢いで回転していて、この鉛筆をα軸方向から磁石みたいにくっつけてるの。」


ポッチ:「まだまだ試作品でうまくいかないけどね。」


詩音 :「高温超電導コイルの容量不足? それともリニアジャイロに摩擦が発生してるとか?」


ポッチ:「どっちも考えられる。う~ん。色々試してみないとわからない。」


舞  :「ちょっと、何難しいこと言ってるのよ。わけわかんない。」


詩音 :「そうだよね。高温超電導って言われてもわかんないよね。ちゃんと説明するね。高温といっても、マイナス180度くらいで発生する超電導なんだ。絶対0度と比べて100度近く高温。液体窒素で冷やせるから簡単にできるんだ。さすがに常温超電導は無理。」


詩音 :「超電導コイルは電池の役割をするの。コイルって電池の役目もできるんだけど、実世界では電気抵抗があるからあっという間に電気をたべて電池が無くなってしまう。でも、超電導なら電気抵抗0だから電池として役立つ。」


詩音 :「しかも、時間の流れないαベクトル空間だから、超電導状態がいつまでも続く。」


舞  :「わかんないわよ~。それがどうして鉛筆が宙に浮く説明なのよ。」


詩音 :「だからジャイロによる角運動量保存の…」


ポッチ:「これ、持って見て。」


ポッチが詩音のわけのわからない説明を遮り、丸い金属でできたボールを渡してくれた。


ポッチ:「重い?」


舞  :「それほどでも。」


ポッチ:「じゃあ、そのボールを手のひら包んでぐるぐる回してみて。」


舞はボールを回りて見る。中にもう一つ小さなボールがあるようで、それが外側のボールの中を回っている。


舞  :「重くなったみたいに感じる。動かしにくい!」


ポッチ:「そう、それがジャイロスコープ。回っているものは重く感じて動きが鈍くなる。そのままの姿勢を維持しようとするの。スタビライザーはそれを応用してるの。」


舞  :「へ~」


舞は何となくではあったがわかったような気がした。


舞  :「だけど、これ、なんの役に立つの?」


ポッチ:「いろいろ。」


詩音 :「え~、世紀の大発明だよ。舞ちゃん。例えばね~。うんと、自転車につければ転ばないとか。」


舞  :「!」


ポッチ:「バランスが維持されるからね。」


詩音 :「スタビライザーって安定化装置って意味だよ。」


舞  :「おもしろそ~。」


詩音 :「だけど、まだまだ研究段階だから実用化には時間がかかる。舞ちゃんも色々手伝ってね。」


舞  :「うん!」


舞はこの時安易な約束をしてしまった。この約束のおかげで色々奇想天外な実験に参加させられ、苦労することになる。その話はまた別の機会に。 


---------------------------------


それから、くるみさんが帰ってきた。手には白い天使の羽根のついたリュックサックを持っていた。


くるみ:「これ、舞ちゃんにプレゼントなの。色々大切な大切なものが入ってるの。それと、この世界で過ごすための注意事項を説明するの。」


そういって、くるみはリュックの中から薄いプラスチック製の四角い板をとり出した。


舞  :「なにこれ?」


くるみ:「え? アンドロイド端末なの。」


舞  :「ロボット? 物語なんかででてくるやつ?」


くるみ:「あは、でも、違うの。携帯電話なの。」


舞  :「ええ~、こっちではこれが携帯電話なの?」


くるみ:「うん、そうなの。これを舞ちゃんにあげるの。」


舞  :「え~、こんないいものいらないよ~。それに電話のかけ方しってるよ。電話BOXからかければいいから、大丈夫。」


くるみ:「だめなの。」


舞  :「え?」


詩音 :「舞ちゃん、ちょっと来てみて。」


そう言って、詩音は舞を連れて外に出る。


詩音 :「周りをよく見て。」


私はあたりを見回す。いつもの商店街だ。でもどこか雰囲気が違う。


詩音 :「電話BOXとか公衆電話ってないでしょ。」


舞  :「あ、あれ?」


この道はよく冬ちゃんと通る道。いたるところに公衆電話があったはずなのに。


詩音 :「みんな、携帯電話を持ってるから公衆電話はなくなっちゃったの。」


舞  :「はあ。」


詩音 :「同じようで微妙に違うの。だから、この世界で過ごすにはこの世界のことを知って、あわせないとだめよ。」


再び店に戻る。


くるみ:「このアンドロイドは舞ちゃんの身を守るために必要なものなの。持っててください。舞ちゃんがこちらの世界に来た時に、舞ちゃんのいる場所が自動的にわかる仕組みになってるの。万が一、迷子になっても探し出せるの。」


詩音 :「それに、このアンドロイドは地図を兼ねてるの。こうやると地図がでるでしょ。そして、この真ん中が現在位置。これは、そっちの世界でもでも使えるよ。」


くるみ:「そして、重要なのはこの携帯はお財布を兼ねてるの。この世界では徐々に現金を使わなくなってるの。多くのお店では電子マネーという架空のお金で支払いが可能。こうやって、携帯をかざすと『ピッ』って音がするの。これで、支払完了。」


舞  :「すごい。」


くるみ:「お金は、プロジェクトの方で自動的に補充するの。でも、使いすぎはだめ。といっても、小学生が使いきるには大変なほど補充されるの。」


詩音 :「こうすると、電話帳が表示されるわ。ほらね。そこの詩音というところ押してみて。」


言われたとおりにする。すると電話が詩音にかかる。


詩音 :「こんな感じ。」


舞  :「おもしろーい。これで電話できるんだ。」


くるみ:「うん、一応電話機。」


ポッチ:「くるみさん、あと、生活の注意事項。」


くるみ:「そうそう、ちゃんと話しておかないとね。舞ちゃんが詩音ちゃんと一緒に片方の世界にいられるのは一回に今のところ半日くらい。それ以上は同時にいてはだめ。一度戻ってほしいの。徐々に慣れてきたら時間延ばせるけど、最初のうちはその時間を守ってほしいの。」


舞  :「どうしてですか?」


くるみ:「対世界のバランスが崩れるから。バランスが崩れたら二度といけなくなってしまうかも。」


詩音 :「だけど、二人がお互いの世界に行っていて、一緒にいないのなら何日いても大丈夫。バランスが保たれてるからね。」


くるみ:「それ以外は、向こうの世界と同じはず。でも、細かいところ違うから気をつけてね。私たちも気付かないところがあるから。」


舞  :「エアカーとかどこでもドアとかないんですか?」


ポッチ:「ないない。」


舞  :「学校とかなかったり。」


詩音 :「それが困ったことにあるのよね~。」


舞  :「同じなんだ。」


詩音 :「うん、ほとんどおんなじ。だから困っちゃうの。何が違うかよく見ないとわからないから。一応、生活するうえでの注意事項をまとめたしおりも入れておくね。」


そう言って、「エルベの歩き方」と書かれたコピー用紙に印刷されたしおりも入れられた。


詩音 :「そうそう、重要なの忘れてた。この木箱も入れておくね。この木箱じゃないとこちらの世界にはこれないの。少し、αベクトル空間のバランスが崩れてるみたい。でも、この木箱があれば舞ちゃんの世界にも行けるよ。行く時はαベクトル空間の『詩音の部屋』で舞ちゃんの世界に向かって『ファンダルシア!』って言ってボタンを押せばいけるよ。」


舞  :「ファンダルシアね。」


ポッチ:「気分の問題。別に呪文じゃない。『エルベ!』って言ってもいける。大事なのは木箱を向ける方向とボタンを押すこと。」


舞  :「なんだ~。」


ポッチ:「それと、詩音ばっかりずるい。私も渡すものがある。さっきの鉛筆もいれておく。それと、木箱も。これは詩音の木箱を改良したもの。詩音のはただの箱だけど、私のはオルゴールにもなっている。だから実用的。」


そういって、ポッチはリュックに詰めた。リュックが一杯に膨れ上がる。


舞  :「こんなにいっぱい持っていけるかな。」


詩音 :「大丈夫。これくらいなら。うん。さて、そろそろかな。あんまり遅いと冬ちゃん心配するかも。送ってってあげるね。」


こうして、私の記念すべきエルベの初日が終わった。そのご何度も訪れるエルベだったけどその日の思い出だけは忘れられない。


つづく





ポッチ:「ポッチこと神崎美鈴で~す」


詩音 :「詩音こと楠木詩音で~す」


ポッチ:「別にわざわざ『詩音こと』なんてつけなくても同じじゃない。


詩音 :「何よ、合わせてあげたのに。そういう細かいとこ突っ込まないの」


ポッチ:「はいはい。ところで、この後枠も久しぶりよね」


詩音 :「うん、やっと主導権を舞ちゃんから私たちに持てこれそうだからね」


ポッチ:「5章はこんな感じ?」


詩音 :「前半はね~。今は2年生の3学期の話だけど、こっちの、2年生の2学期の話がないでしょ。そのあいだ結構重要な話がぼこぼこ抜けてるから、それを埋めないとね。」


ポッチ:「なるほどでね」


詩音 :「それに、舞ちゃんの世界にはいない人いるでしょ。ママとか番井先生とか。そういう人も紹介しないとね。」


ポッチ:「師長とかね」


詩音 :「師長は生きてるよ。舞ちゃんの世界でも。でも、同一人物とは思えないけどね。」


ポッチ:「うんうん。あそこまで常識外れだとね」


詩音 :「ということで次回、『看護師長』は第5話『課題展開』です。」


ポッチ:「みなさんお楽しみに~。って、違う小説紹介してどうするのよ」


詩音 :「だって、話の流れでその方が自然だと思ったし。」


ポッチ:「はあ、まったく。次回は5章第4話『バンパイア先生』です。」


詩音 :「お楽しみに~」





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